IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第二巻
【第四十九話】
――廊下――
デュノアの手を引き、俺と織斑は廊下を走っていた。
「デュノア、これから男子は空いてるアリーナ更衣室で着替える。それを実習の度に移動するからキツいかもしれないが、早めに慣れろよ?」
「う、うん……」
……?
何故か妙に落ち着かなそうに見えるデュノアに織斑が――。
「トイレか?」
「トイ……っ違うよ!」
「なら俺が手を握ってるのが原因か?――悪いが我慢してくれ、織斑と違ってデュノア小さいだろ?これから起こることではぐれたらクラス代表としてデュノアに悪いからな」
「う、うん……」
デュノアの顔が赤く見えるのは気のせいだろうか?
――まさかな、男に手を握られて顔を赤くなんて――まさかな。
三人は勢いを落とさず階段を下って一階へ。
一階へと着くや直ぐ様――。
「ああっ!転校生発見!」
「しかも織斑君とついでに有坂君と一緒!」
またついでかよっ!
何ていう悲しい突っ込みを心のなかで――。
HRが終わったのか、早速各学年各クラスから情報先取のための斥候が駆け出して来ている。
波に飲まれたら最後、質問攻めの挙げ句に授業に遅刻、織斑先生の特別カリキュラムが待っているのだ。
――一度受けたが、かなりキツかった。
「いたっ!こっちよ!」
「者共、出会え出会えい!」
何か、障子から雑魚いやられ役が出てきそうだな。
「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」
――俺の銀髪は?
「しかも瞳はエメラルド!」
デュノアの目を見たが、どう見てもアメジストにしか見えん。
「あー!何で有坂君が手繋いでるのよっ!織斑君と代わりなさいよ!」
――何故俺だけだめなんだよ。
「な、なに?何でみんな騒いでるの?」
状況が飲み込めないのか、デュノアは困惑したように此方に訊いてきた。
「ん?簡単な事だ、男子が三人しかいないからな」
「……?」
何故か意味がわからないという顔をするデュノアに、俺は当たり前の意味を言う。
「あのさ、普通に珍しくないか?ISを扱える男子って、今現在は俺と織斑、デュノアの三人しかいないんだし」
「あっ!――ああ、うん。そうだね」
思い出したかのように頷いたデュノア。
そして、織斑が突拍子もないことを言い始める。
「それとアレだ。この学園の女子って男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」
ウーパールーパーって…。
「おい織斑、何でそんな突拍子もないことを言うんだ?バカか?」
「ば、バカじゃねぇって!」
「悪いがバカにしか見えん。ウーパールーパー状態ってなんだよ。珍しいのは確かだが、明らかに女子はお前やデュノアと親しくなりたいってしか見えないぞ」
「な、何で有坂君は入ってないの?」
「――落ちこぼれだからだよ、俺は」
そんなやり取りを続け、女子の包囲網を一気に抜けた。
途中、デュノアが捕まりかけたが、そこは一気に引いて難を逃れたのだが……俺への文句が更に増えた。
校舎を抜ける道中――。
「しかしまあ助かったよ」
突然織斑がそう口を開いた。
まあ何が助かったかはわかるが。
「だな。少数派の俺たちにすれば大助かりだよ」
「何が?」
デュノア本人は、何故助かったのかはよくわからないらしい。
まあ仕方ない、今来たばかりだろうしな。
「ああ、学園には用務員さん含めたとしてもこれまで三人しかいなかったからな。少なくとも男子が増えてくれたのは心強いものさ、これが」
「そうなの?」
そう目をぱちくりさせ、首を傾けるデュノア。
――彼のいた所には男性の人がよくいたのか?
「まあ、これから大変だろうが同じ釜の飯を食う仲間だ、よろしくな。俺は有坂緋琉人だ。よくヒルトって呼ばれてるからそう呼んで構わないさ」
「俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」
「うん。よろしくヒルト、一夏。僕の事もシャルルでいいよ」
――織斑と違って、色々気遣いが出来そうな感じだ。
「わかった、シャルル」
「なら俺も気軽に呼ぶよ、シャルル」
「――なぁヒルト、俺のことは――」
「『織斑』だろ?」
「いい加減『一夏』って呼んでくれないか?」
「あー、検討しとくよ」
織斑と出会って約二ヶ月だが、どうもな…。
まあ俺の関わった友達とは違いすぎるから拒絶反応出してるのかもだが。
気さくな奴は多いが、何か変にカッコつけてるし、ワケわからんギャグ?洒落?を訊かせてくるし。
しかも案外口だけのビッグマウスってのもなぁ…。
悪くは言いたくないが、悪いところしか見えないのが……もう少し様子見だな。
校舎を出、第二アリーナ前へとたどり着いた。
「よーし、到着!」
「いや、わざわざ言うことじゃないだろ――と、ここまで来れば大丈夫だ。悪かったな、男同士で手を握るの嫌だっただろ?」
「ふぇ!?ぼ、僕なら大丈夫だよ、あははは…」
――普通なら嫌がるのに変わった奴だな。
まあいいか、そんな奴もいてるだろうしな。
いつも通り、ドアからは外に圧縮空気が抜ける音が響かせた。
ドアが斜めにスライドし、完全に開くと俺たちは第二アリーナ更衣室に向かい、無事に到着した。
「うわ!時間ヤバイな!すぐに着替えちまおうぜ」
「わかってるから、黙って早く着替えればいいだろ織斑」
実際、着替えとグラウンドに向かうだけの時間を考えたら本当にギリギリだった。
予め、来る途中で制服のボタンを外していた俺は一気に脱ぎ捨て、上半身裸に――。
「わあっ!?」
「な、なんだ?」
「?」
突然、シャルルの叫び声が聞こえ、俺も織斑もシャルルの方を向く。
「どうしたシャルル?――って、早く着替えろよ?」
「そうだぜ、シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で――」
「う、うんっ?き、着替えるよ?でも、その、二人ともあっち向いてて……?」
「???いやまあ、別に着替えをジロジロ見る気はないが――」
「男の着替え何かジロジロ見ないから安心しろよシャルル――だが、シャルルは此方をジロジロ見てるのは何でだ?」
「み、見てない!別に見てないよ!?」
両手を前に突き出し、慌てて顔を床に向けたシャルル。
――うーん、外人男子は皆こんな感じなのか?
「何にしてもシャルル、急ぎな。初日から遅刻したからって織斑先生は許してくれないからな」
そう言うと、着替えに戻る。
制服のズボンを脱ぎ、トランクスも一気に脱ぐと、産まれたままの姿――全裸状態に。
「…………」
とりあえずISスーツを腰まで通して穿いた所で背中に視線を感じた。
織斑ではなく、明らかにシャルルの視線を――。
「なんだシャルル?」
「ふぇ!?な、何かな!?」
視線が気になった俺は、顔だけ振り向くと此方に向けていた顔を慌てて壁の方に向き直し、ISスーツのジッパーを手早く上げた。
織斑も見ていたのか、感心したように――。
「うわ、着替えるの超早いな。なんかコツでもあんのか?」
「確かに早いな。俺なんかまだ腰までなのに」
「い、いや、別に……って二人ともまだ着てないの?」
「うーん、全裸になるのは気にならないが、着替えるのが面倒だし、正直引っ掛かって穿きにくいし…改善を求めたいな」
「ひ、引っ掛かって?」
何故か、シャルルは『引っ掛かって』の部分に食いつく。
男子は引っ掛かるのは仕方ないような気もしないが、シャルルは引っ掛からないのか?
――考えるのをやめよう、男のそんなのを想像したら気持ち悪くなる。
「あぁ。ISスーツ男性用のをちゃんと作ってほしいな」
「…………」
みるみるうちに赤くなるシャルルに違和感を覚えつつ、一気に上のスーツを着る
。
「よっ、と。――よし、二人とも行こうぜ」
「あぁ、急がないとな」
「う、うん」
俺達三人は着替えを終え、第二アリーナ更衣室を後にする。
グラウンドに向かう途中、織斑が――。
「そのスーツ、何か着やすそうだな。どこのやつ?」
「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、殆どフルオーダー品」
ふーん…オリジナルカスタムモデルの俺のより着やすそう。
「シャルル、デュノア社っていうことは――」
「うん。僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思う」
説明が終わると間髪いれずに織斑が――。
「へぇ!じゃあシャルルって社長の息子なのか。道理でなぁ」
「うん?一夏、道理でって?」
「いや、なんつうか気品っていうか、いいところの育ち!って感じがするじゃん。納得したわ」
「いいところ……ね」
シャルルの視線が逸らされる。
織斑、地雷踏んだな……。
「織斑、そこまでにしな。シャルルも、言いたくないことは言わなくていいぞ?織斑や俺が訊いたからって全部は答えなくていいんだ。時間ならいっぱいあるんだしな」
「ヒルト…。う、うん。ありがとう」
――仲良くなりたいと思うのはわかるのだが…織斑には自粛してもらわないとな。
――第二グラウンド――
「遅い!」
第二グラウンドに無事に到着とはいかず、織斑先生が腕を組んで待っていた。
「下らんことを考えている暇があったらとっとと列に並べ!」
そう告げ、織斑の頭に出席簿が叩き込まれ、心地のいい音がグラウンドに虚しく鳴り響いた。
俺とシャルル、織斑は一組が整列している一番端に加わった。
「ヒルトさん、随分ゆっくりでしたわね」
「悪い、色々手間取っててな――未来は?」
「未来さんでしたら――」
「セシリアの隣だよ。ふふっ」
――気づかなかった。
しかし、まさか未来まで転校してくるとはな。
「こほん。――それで、スーツを着るだけで、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」
――女性用のISスーツは、主にワンピース水着型、レオタード型が主流で、部分的に肌の露出があるのは動きやすさを考慮してのこと。
男子のは女子とは違い、スキューバダイビングで使うような全身水着タイプ。
理由はデータを取るためらしい。
仮に此方も普通の水着型だと、上半身のみ裸になるため、色々な配慮をしたらしい。
「悪い悪い、織斑の下らんギャグを聞かされててな」
「そうなのですか?――織斑さん、ヒルトさんに下らないギャグを言うのはやめてくださいな」
「お、俺は何も言ってねぇし」
「いやいや、いつもつまらんギャグを言ってるだろ?――と、いつまでも言ってても仕方ないな」
「ねぇ、ヒルトはあの子と知り合いなの?」
――唐突に未来から出た言葉。
「おいおい未来、『あの子』だけじゃわからんぞ?」
「ご、ごめん。――今日、私と一緒に転校してきたあの子よ」
――ラウラ・ボーデヴィッヒの事ね。
「いや、初めて会ったが――」
「なにヒルト?アンタ何かやったの?」
後ろから声が聞こえる。
二組で知り合いといえば――。
「後ろにいるわよ、ヒルト」
「あぁ、後ろに居たか鈴音。別に何もしてないし――」
「そんなことないでしょ?もぅ…ヒルトって相変わらずね」
そう未来が言ってくる。
あまりこの話題を広げたいと思わないがな、俺は。
――と、セシリアが口を開く。
「此方のヒルトさん、織斑さんが今日来た転校生の女子に叩かれそうになったところを助けましたの」
「そうなの?――てか一夏、アンタ何でそうバカなの!?」
「――安心しろ。バカは私の目の前にも二名いる」
――背後に殺気を感じる気がする。
ゆっくり振り向いたセシリアと鈴音の視線の先には、織斑先生が立っていた――。
刹那、蒼天の下で本日二度目、三度目の出席簿による一撃が二人の女子の頭に叩き込まれた――。
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