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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第一巻
  【第十八話】

 目の前にある自立機動兵器、ブルー・ティアーズの砲口から放たれるビーム射撃――。

 咄嗟に頭に過ったのは――土曜日の特訓の反復横跳び。

 瞬間、自然に身体が動き、横へとステップ――。

 ワンテンポ遅れて身体の横をブルー・ティアーズから放たれた光の粒子が横切っていった――。


「はぁっ、はぁっ…何とか避けたぞっ!」

「ま、まさかあれを避けるなんて……っ!」


 セシリアにとっては、あれは必中の一撃だったのだろうか……?

 その射撃を避けられ、いまだに信じられないといった表情をするセシリア。

 そして、キッと此方へ眼光鋭く睨み付けてくる――。

「今のは……今のはただのまぐれ!そうに決まってますわッ!」


 バッ――と手を左から右へと振りかざすセシリア。

 その動きに合わせ、再度ブルー・ティアーズが此方の周囲へと展開、その砲口から閃光が放たれ、その衝撃がバリアを貫通し、装甲に当たると飛散――。

 ダメージが全身の痛覚へと伝わっていく。


「ぐぅっ…、がはっ…!?」


 反応の鈍い後方、及び頭上からの射撃に、じわりじわりとシールドエネルギーを削られ、その衝撃に表情を歪めながらも俺は何とか回避を続けていった――。


――二十分後――


「――二十七分。持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」

「はぁっ…はぁっ……」


 息も絶え絶えに、俺はセシリアの言葉を訊いていた。

 空を飛べる彼女は、体力の消費も最小限だろう……。

 だが、俺は既に体力的にも精神的にも参っていた。

 たかだが三十分程だが、丸一日走って精神を磨り減らしたような感じがする。

 何度か…弓で攻撃をしたが、空を自由に動き回る彼女には当たらず、既に矢は射ちつくしていた…。


「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのは貴方が初めてですわね」


 そう言い、セシリアさんは自分の周囲に浮いている四基の自立機動兵器を、優しく――それも自分のペットの犬や猫を褒めるかのように撫でている。


 フィン状のパーツに直接、ビームの砲口が開いている。

 兵器の名は『ブルー・ティアーズ』、機体と同一名称だ。

 ISの名前の由来も、その特殊装備の自立機動兵器『ブルー・ティアーズ』を積んだ実戦投入一号機ということもあり、同じ名前がついたそうだ。

 対戦中に、セシリアさんが語っていたのを俺はうる覚えで聞いていた。


「では、名残惜しいですが、そろそろ閉幕と参りましょう」


 言いきるや、セシリアはその表情に笑みを浮かべ、右腕を奮って横にかざした。

 そして、それに呼応するかのように――二機のブルー・ティアーズが多角的な直線機動で接近してきた。


「……っ…!」


 此方の頭上及び背後に回ったブルー・ティアーズ、その先端についた砲口が発光し、ビームを放ってきた。

 頭上から放たれたビームを前方へステップし、それを避けて直ぐ様屈み、後方から放たれたビームが頭上を通りすぎていく。

 そしてその動きの隙をつき、セシリアのライフルによる射撃が此方を正確に当ててくる。

 パターンとしてはこれが一番多く、俺も徐々に反応に慣れてきた。


「左腕、いただきますわ」


 装甲が堅牢なのか、まだ破損はしていないが、熱によるシールドエネルギーの消耗が激しい。

 それにこれ以上は当たるわけにはいかない、だが防ぐ手段は――。

 考えも纏まらず、セシリアの手に持ったライフルの銃口が光り、そこから閃光が放たれて――。


「くっ…!?」


 俺は何を思ったか、まだ展開していなかった近接刀『天狼』を呼び出し、迫り来る閃光の前に構えた――。

パァンッ、と四散する粒子の閃光。

 構えた天狼が、セシリアの射撃したビーム射撃を防いだ――。


「なっ……!?あの刀にはビームコーティング処理がなされてますの!?――ですが、ただの無駄な足掻きですわっ!!」


 セシリアは空いた左手を横に振った。

 すると、セシリアの周囲に待機していたビットが此方へと向かって飛んできた。


 見えた、ビットの軌跡が――。


 まるでスローモーションの様にビットが描く軌跡を読むや、ビットの方へと向かって走り、その砲口から放たれたビームを先読みするように少し身体をずらし、装甲を掠めるように避け、手に持った刀を横に一閃――切り抜く。

 金属を切り裂き、そのままの勢いでビットを真っ二つに切り裂いた――。

 そして断面に青い稲妻が走り、地面に落ちると同時に爆散し、爆発音がアリーナ中に鳴り響いた。


「なんですって!?」


 驚愕するセシリア、それを見た俺はすかさず全身のスラスター及び、ブースターのスイッチをハイパーセンサーに表示された項目を目で選択、空中へと跳躍すると同時に、スラスター及び背中のブースターが起動した。


 ゴオォォォッ――跳躍し、空中へと躍り出た俺を加速させ、一気にセシリアへと間合いを詰める。

 空は飛べないが、これなら少しだけ飛べる――何故だが解らないが、頭の中にそんな情報が脳を駆け抜けていった。


「くっ…!?」

「このまま当てるっ!!」


ブォンッ――セシリアは後方へと回避し、振るった刀は空を切り、そのまま俺は地面へと着地した、それを見たのか直ぐ様右腕を振り、待機していたビット二機が此方に飛んできた。

 俺は直ぐ様立ち上がり、ビットから放たれる射撃を上空へジャンプし、避けて、そのビットの軌跡を先読みし、ちょうどビットの上へと着地――重さに耐えきれず墜落するビットから素早く跳躍、更に直線的に来たビットを足場にして俺は空中に居てるセシリアへと肉薄していく。

 口には出さないが、どうもビットの制御をしながら射撃は出来ない――、そんな感じがする。

 そして、徐々にだが、ISの動作が軽く、重い筈なのだが機動性が上がってきている。


 再度全身のスラスター及びブースターを起動し、セシリアの頭上をとると、手に持つ刀を構え一気に振り下ろし―――。


「――かかりましたわ」

 にやり、と。

セシリアの表情が変化し、笑うのが見えた。

 まだ隠し玉持っていたのか!?

 既に重力に引かれていく俺にはどうすることも出来ない――。


ヴンッ――。


 セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー、そこにあった突起が外れて、ガコンッと音を立てて動いた。


「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」


 もう回避は出来ない、そして先程までのビット型ではなく、ミサイル型だ。

 放たれたミサイルが眼前に近づき、頭の中を過るのは――敗北、そして死という言葉だ。

 もちろん、死なないように絶対防御で守られているのだが、その時の俺には死という言葉しか過らなかった。

 ミサイルがシールドバリアーを突破し、装甲に触れると目の前に閃光が広がっていく――。

ドガアァァァンッ!!

 赤を超えて白い、爆発と光に俺は包まれた。 
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