IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第一巻
【第三十三話】
――一組教室――
「あ、有坂くん、美冬ちゃん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」
「「転校生?」」
俺と美冬は互いに顔を見合わせ、席につき、聞いてきた女子に聞き返した。
「今の時期に転校生か?」
現在四月の下旬、入学ではなく転入なのは何故だろうか?
確か、この学園の転入条件はかなり厳しかった筈だが……。
筆記も実施試験もトップクラス、更に国の推薦がないと出来ない筈だ。
あくまでも転校生が女の子って仮定した話だが。
無論転校生が男子なら、そういったのも免除されるだろうが――。
「そう。何でも中国の代表候補生なんだってさ」
「中国の……代表候補生?」
中国の代表候補生……何も問題ないといいのだが。
「へぇ…中国の代表候補生か。どんなやつだろうな?」
――と、いつの間にか教室に入って側に居た織斑。
そして、代表候補生といえば一組だと――。
「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」
イギリス代表候補生、セシリア・オルコット。
いつも通り、腰に手を当て、手で髪を靡かせながら此方にやって来た。
「代表候補生か、どんな人なんだろうね、お兄ちゃん?」
隣の席の美冬が脚を組ながら俺に聞いてくる。
「さぁな。まあ何にしても問題さえ起こさなければいいさ、これがな」
「このクラスに転入してくる訳ではないのだろう? 騒ぐほどの事でもあるまい」
――そう頭上から声が聞こえたので見上げると、篠ノ之が俺の背後に立っていた。
そして、俺が見てるのに気づくと――やはり此方を睨んできた。
「……おいおい。いい加減篠ノ之も俺を睨むなよ、同じクラスメイトだろ?」
「ふん……。睨まれたくないのなら、私を見なければいいだろう?」
いやいや、流石に背後に居たら嫌でも見てしまうぞ――と内心突っ込んでおく。
「はいはい、可能な限りは見ないようにしますよ」
「ふん……」
見た目は可愛いが、どうも性格がなぁ……。
いい加減打ち解けてもいいだろうに――。
「しかし、どんな奴なんだろうな」
織斑が話題を転入してくる中国の代表候補生に戻した。
まあ代表候補生だからIS操縦に関してはトップクラスなんだろう。
そんな織斑の言葉が気になったのか、篠ノ之が――。
「む……気になるのか?」
「ん?ああ、少しは」
「ふん……」
その織斑の答えが気にくわないのか、篠ノ之の機嫌が悪くなった。
頼むから周りを巻き込むのはやめてほしい。
気を使わないといけないし――まあ使ったら余計なお世話だと言われたので俺はもう何も言わないが。
「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?」
「ん? 織斑なら気にしても大丈夫なんじゃねぇのか?」
俺がそう篠ノ之に言うと、目付き鋭く睨まれた。
「貴様に聞いているのではないっ! 来月にはクラス対抗戦があるだろう、そっちを気にしていろ!」
もうやだこの人、何か毛嫌いされまくりで泣きたくなる。
「クラス対抗戦……ヒルトさん。クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしましょう」
提案を出したのはセシリアだ。
現状の訓練だと、セシリアに頼むのが一番いい。
美冬も居るが、訓練機の申請には時間が掛かる。
クラス対抗戦、その名の通りクラス代表同士によるリーグマッチ戦だ。
本格的なIS学習が始まる前の、スタート時点での実力指標を作るためにやるのが目的らしいが……。
とはいえ、生徒にやる気を出させるために、一位クラスには優勝商品として学食デザートの半年フリーパスが配られるという景品が付くのだ。
「とにかく、やれるだけやるしかないようだな」
「やれるだけでは困りますわ! ヒルトさんには勝っていただきませんと!」
「そうだよお兄ちゃん。頑張ってよ!」
「有坂くんが勝てば、クラス皆が幸せになれるんだよー」
「そうだぜ、ヒルト頑張って勝てよ」
皆が好きに色々言ってくれている、戦うのは俺だからだろう。
空の飛べない俺にはなかなかキツいが、弱音も吐けない。
今でも代表を織斑と替わったら?と、一部の女子には言われる始末だし――。
考え事をしている間に、俺の周りはあっという間に女子で埋め尽くされた。
慣れたようでなかなか馴染めない女子の集団。
「有坂くん、頑張ってねー」
「フリーパスのためにもね!」
「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」
でも確か、訓練機と差別しないために、同等の性能に制限されると年上の先輩に聞いたが……。
聞いたのは、更識先輩に訓練のお礼を言うため探したのだが忙しいらしく会えなかった時だ。
一部の先輩に色々教えてもらったが、今年から変わったのだろうか?
やいやいとクラスの女子が騒ぐ中、教室の入り口から声が聞こえてきた。
「――その情報、古いよ」
そんな聞き慣れない声と共に、教室の入り口から入ってくる一人の女の子。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。 そう簡単には優勝出来ないから」
そして入ってきた子はそのまま教室の入り口のドアにもたれ掛かる、その子は腕を組み、片膝を立てていた。
そして、その子に真っ先に反応したのは――。
「鈴……?お前、鈴か?」
織斑だった――織斑の知り合いの子なのだろうか?
フッと小さく笑みを溢し、八重歯を見せた女の子。
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
――わざわざ宣戦布告って、あまり拗らせないようにしてほしいものだ。
そんな彼女は、また小さく笑みを漏らした。
そのトレードマークのツインテールが軽く左右に揺れ動く。
「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!? 何てこと言うのよ、アンタは!」
織斑の言葉に反応する二組の代表候補生の後ろには織斑先生が表情を強張らせて立っていた。
「おい」
「なによ!?」
そう聞き返した二組の代表候補生に、強烈な一撃の出席簿打撃が入る。
乾いた音が教室に、外の廊下にと鳴り響くのだった。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません……」
すごすごと、涙目で言われるままドアから離れる二組の代表候補生。
態度から見れば、明らかに織斑先生にびびっているようだ。
「また後で来るからね! 逃げないでよ、一夏!」
逃げようにも隣なんだし、捕まえられるだろうに。
そう思っているといつまでも戻らない二組代表凰鈴音に――。
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
脱兎の如く、二組へと帰る彼女。
まあ織斑の知り合いのようだから後々わかるだろう。
「……一夏、今のは誰だ知り合いか? 結構親しそうだったが、どういう関係だ?」
織斑に詰め寄るクラスの女子たち、一部の女子は既に席についているから問題ないが――。
そして、織斑の周りにいた女子の脳天に出席簿が直撃し、先ほどよりも乾いた音が何度も鳴り響いた。
――またまた波乱ありそうだな、これが……。
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