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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第一巻
  【第四十二話】

――保健室――


「………っ。いてて…」


全身――特に足の痛みに呼び起こされ、目を冷ます俺。

――保健室か、ここは?


「有坂、気がついたようだな」


カーテンが引かれ、現れたのは織斑先生だった。


「体に致命的な損傷はないが、全身に軽い打撲と、左足の骨に少しひびが入ってる」

「……おぉぅ、それはまた痛いはずだ」


何て軽口を叩くと、軽く笑みを溢す織斑先生を見て、目をぱちくりさせる。


「こほんっ――まあ、何にせよ無事でよかった。生徒に死なれては目覚めが悪いからな」

「ははっ、親父曰く、俺は不死身だから死なないってよく言われてましたよ」

「ふっ、そうか。――では、私は後片付けがあるので仕事に戻る。有坂、休んだら部屋に戻るといい。必要なら松葉づえも使って構わない」


そう告げるや、織斑先生は保健室を出ていき、急に広く感じた保健室を見ながら、軽く眠りについた――。


――どれだけ時間がたったのかはわからないが、気づくと手を握られているのに気づいた。


「ん……」

「お兄ちゃん…?」

「お?美冬だったか…どうした?」

「ううん。――お兄ちゃん、無事でよかった…」


そう美冬が言う、見ると、その目にはうっすら涙を浮かべていた。


「ははっ、心配かけたようだな」

「そ、そうだよっ!――でもよかった…本当に…」


美冬はそういうと、更にきゅっと両手で俺の左手を包むように握り返した。


「――そういや、あんな事あったから試合は中止だよな?」

「え?――うん。でも仕方ないよ、誰にもあんな事態になるなんて思わないもん」

「だな。――せっかく美冬にも訓練見てもらったのに――」


不意に保健室のドアが開く音が聞こえ、話を中断してそちらに顔を俺たちは向けた。



「ヒルトさん、具合はいかがですか?」

「おぅセシリア、基本的に元気だぜ」


現れたのはセシリアだった。

心配して来てくれたのだろう、ありがたい話だ。


「――じゃあ私は部屋に戻ってようかな?」

「え?美冬さん、お戻りになるのですか?」

「うん。お兄ちゃんが少しでも無理なく休められるようにしないとね?」

「――悪いな美冬、迷惑かけて」

「ううん、兄妹なんだから遠慮しないで?――じゃあまたね、お兄ちゃん、セシリア」


そう告げた美冬は保健室を後にし、俺とセシリア二人だけになった。


「で、ではヒルトさん。早速ですが今日の戦闘の分析でも――」

「げっ…。マジですか、セシリア」

「え?――で、では他にどんな事がよろしいのですか?」


――どんなことか……と聞かれてエロい事考えた俺はバカだな。

仮にそんなこと言った日には――恐ろしや、複雑骨折しそうだ。


「ははっ。心配して来てくれた同級生と二人っきりで保健室のイベントって言ったらキスとかだろ。――何てな」

「え――えぇっ!?…………」


冗談なのに、キスと聞いてセシリアの顔は真っ赤に染まる。

もしかしたら夕方の夕日が照らされてるだけかもというオチがあるかもしれないが。


「ははっ、冗談だから気に――」

「ひ、ヒルトさん……」


遮るように、セシリアが俺の名をか細く呼んだのを聞いて――。


「…どうしたセシリア?」

「……ヒルトさんがお望みなら、わたくしは……――いいですわよ……?」


そう告げるセシリアの瞳は微かに潤んでいた――。

そしてゆっくりと此方に顔を近づけ、目を閉じ、唇を上向きに突き出した――。


「……っ!?」


咄嗟の出来事に、俺の頭の中が混乱する。


冗談だと…セシリアもそう受け止めると思っていたのに、現実は――頬が紅潮し、キスされるのを待っているセシリアの唇がそこに――。


「ぁ……ぅ……えと……」

「……ヒルトさん」

「は、はい…」

「女性に恥をかかせないでくださいな……ん……」


そう告げると、もう一度目を閉じたセシリア――。

それを見、覚悟を決めた俺はセシリアの両肩に手を置く――置いた瞬間、ピクンっと震えるセシリア。


そして、ゆっくりと――――唇ではなく、セシリアの額にそっとキスをした。

驚いたような表情のセシリアを見て、心臓が早鐘を打つのを抑えるように軽く呼吸をし、口を開く。


「……わ、悪い…。セシリアに恥をかかせるつもりは無かったんだが…その、む、ムードに流されてするっていうのは……セシリアにも悪いと思って…な」

「……いえ。――ですが、いつか……いつかは重ねてくださいな…」

「……えっ?」


顔を赤くし、俺にそう告げたセシリアはそのまま立ち上がると保健室を後にした――。


不意に訪れた静寂。


「…重ねるって……」


そう呟く俺の独り言は、虚しく保健室に響いただけだった――。 
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