IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第一巻
【第三十二話】
――寮の食堂――
本日の授業も終わり、現在は夕食後の自由時間。
「というわけでっ! 織斑くん転入おめでとう! ついでに、有坂くんクラス代表おめでとう!」
「おめでと~!」
皆が後ろ手に持っていたであろうクラッカーが乱射され、鳴り響く。
舞い散る紙テープを頭から払うと、壁にかけてある『織斑一夏、一組へようこそ!ついでに有坂緋琉人クラス代表就任パーティー』と書かれている紙を見た。
――俺はついでかよ。
内心そう思ってると一部女子生徒が会話を始めていた。
「いやー、これで一年間もっと楽しくなるよねぇ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。 織斑くんと同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
――俺がここに居る意味は果たしてあるのだろうか?
明らかに今回の内容は織斑歓迎会にしか見えないのだが。
そう思っていると隣に居た美冬が俺の顔を覗き込む。
「ん~、何だかお兄ちゃんのクラス代表就任パーティーじゃない感じだね?」
「……あぁ」
織斑は篠ノ之の隣へと座っていて、何か談笑してるようだが――と。
「はいはーい、新聞部でーす。 話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」
『オーッ』と、寮に居るクラスの女子一同は盛り上がりは最高潮であった。
もう織斑がクラスの代表でよくないか?
何かこの場に居る意味を見出だせない。
そう思いつつ美冬の側を離れ、近くの椅子に座ると、目の前に飲み物を差し出された。
相手は同じクラスの女子だ――。
「有坂くん、クラス代表おめでとう」
「ひーくん、おめでと~」
確か……鷹月さんと布仏さんだったかな?
差し出してくれたのは、鷹月さんで、布仏さんはニコニコと笑顔で――。
「あぁ、ありがとう二人とも。 ――てか二人はあっちに行かないのか?」
「えぇ。 ……私たちは先に有坂くんにお祝いしたくて」
「うんうん、ひーくんには期待してるからね~」
期待…?
何の期待かはわからんが、ありがたい話だな。
そう思っていると、他の場所から鷹月さんと布仏さんを呼ぶ女子の声が聞こえてきた。
「じゃあ私たち、皆の所へ戻るわね?」
「あぁ、祝ってくれてありがとうな?」
「え? ……ぅ、ぅぅん、クラスメイトだし、祝うのは当然でしょ?」
お礼を言われたのが意外だったのか、僅かに頬を紅潮させた鷹月さん、それを隣の布仏さんはにんまりした含みのある笑顔で鷹月さんを見た後――。
「へへ、ひーくんまたね~」
だぼだぼの服で手をひらひらさせる布仏さん、そして二人は呼ばれた女子生徒の一団の元へと移動した。
美冬も飲み物を手に持ちながら正面にやって来た。
「ふふ、ちゃんとお兄ちゃんの事を見てる人も居るってことね」
「……だな」
美冬の言葉に相づちをうち、インタビューを受けている織斑の方へと俺は意識を向けた。
「ではではずばり織斑君! 学園へ転入した感想を、どうぞ!」
新聞部の――確か自己紹介してたな、黛薫子先輩だ。
そんな彼女はボイスレコーダーを織斑に向けて言葉を待っていた。
「えーと……まあ、なんというか、頑張ります」
――何を頑張るんだよ、学園へ来た感想をって言われてるのに。
「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触ると火傷するぜ、とか!」
学園へ来た感想がそれだとドン引きだな、俺なら。
そう思いながら織斑の言葉を待っていると出た言葉は――。
「自分、不器用ですから」
「うわ、前時代的!」
……確か昔の名優の言葉だったか?
まあどちらにせよドン引きだな、コメントとしては――。
内心でため息をつきつつ、俺は飲み物を一口飲む――果汁の入った甘いジュースで、口一杯に広がった。
「じゃあまあ、適当に捏造しておくからいいとして――」
そう織斑に告げると、くるりと此方の方へ向く黛先輩、何歩か歩いて俺の前まで来ると――。
「次は有坂君! クラス代表になった感想をどうぞ!」
先ほどの織斑と同じく、ボイスレコーダーを此方に向ける先輩、その瞳は無邪気な子供のように輝かせていた。
「……あまりクラスメイトには期待されてはいないけど、選ばれたからには代表を一年つとめます」
「えー。同じく無難なコメント~。 お前たち皆、俺のハーレムに加えてやるぜ、とかそんなコメント期待してたのに~!」
――そんなコメント出したら、学園女子生徒一同から総すかん食らうし。
「あー、じゃあ俺の発言も捏造しておいてください」
「うん。その方が楽だし、適当に捏造しておくから」
――大丈夫なのだろうか、この新聞部は色々な意味で。
俺の元を離れるや、今度はセシリアの元へと向かった黛先輩。
「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」
黛先輩がセシリアに声をかけると、セシリアは一旦飲みかけの飲み物を此方の机のスペースへ置き――。
「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」
――そう言いつつも、満更でもない様子のセシリア。
僅かに表情が綻んでいた。
「コホン。 ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかと言うと、それはつまり――」
「あぁ、長そうだからやっぱりいいや。 写真だけちょうだい」
やっぱり面倒になったのかカメラだけ向けた黛先輩、そんな黛先輩にセシリアは少し声を荒らくした。
「さ、最後まで聞いてくださいな!」
「いいよ、適当に捏造しておくから。 ……よし、織斑君に惚れたからって事にしよう」
「そ、それは困ります! わ、わたくしには……」
そう黛先輩に告げると、セシリアは顔を赤くして此方を見てきた。
何故此方を見るのかはわからないので俺は疑問符を浮かべていると――。
「……ふふーん。 なら有坂君に惚れたからで修正修正」
「なっ、な、ななっ……!?」
そう黛先輩に指摘されると、さっきより顔が赤くなり、耳までも真っ赤に染まっていた。
「セシリアが俺に? ははっ、まさか」
黛先輩の言葉に一笑する俺、出会ったばかりで俺に好意を抱く要素はないように思えるのだが黛先輩は――。
「え、そうかなー?」
――と、言いセシリアも。
「そ、そうですわ! ――あっ…!」
ハッとした顔になり、セシリアは恥ずかしさのあまり顔を手で覆い隠した。
そんなセシリアを何気なく見ていると黛先輩が――。
「じゃあ、とりあえず有坂君、セシリアちゃんの隣に並んでね。 写真撮るから」
「えっ――えっ?」
セシリアの意外そうな声、だがどこか喜色を含んでいるように聞こえた。
「注目の専用機持ちだからねー。 先に有坂君とセシリアちゃん二人のツーショットもらうよ。 あ、握手とかしてるといいかもね」
「そ、そうですか……。 そう、ですわね」
自身の制服の袖口を掴み、もじもじし始めたセシリア。
時折此方をちらちらと見、指で自分のカールした髪を弄び始めた。
「あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」
「そりゃもちろん、セシリアちゃんが望むならね~」
「でしたら、今すぐ着替えて――」
「時間かかるからダメ。 はい、さっさと並ぶ」
そう一蹴する黛先輩は俺とセシリアの手を引き、そのまま握手まで持っていく。
「……………」
「ん? どうしたセシリア?」
「い、いえ。 何でもありませんわ」
此方を見ていたから何かあるのかと思ったのだが違うようだ。
「ふふ、お兄ちゃん。 かっこよく撮ってもらわないとねー」
「ははっ、んなかっこよくない俺に無理な注文だぜ、美冬」
美冬にそう告げると僅かに頬を膨らませていた。
「それじゃあ撮るよー。 35×51÷24は~?」
「はあっ?――き、9」
「ぶー、74.375でしたー」
――わかるかぁっ!!
そんな内心の全力突っ込みの中パシャリ――デジカメのシャッターが切られた。
「はい、有坂君お疲れ様ー。 じゃあ次は織斑君とセシリアちゃんのツーショットね」
そう黛先輩が言うと、俺は端へと追い出された。
ここからがメインと言わんばかりに、写真を取り始めた。
――まあ明らかに織斑の歓迎会だし、何だか精神的に疲れたので部屋で休もう。
そう思い、俺はワイワイ騒がしい食堂を気付かれずに出て、一人自室へと戻っていった――。
――1025室――
時間は流れて、既に十時過ぎ、部屋の扉が開く音が聞こえた。
「お兄ちゃん、ただいまー」
「ん~……、おぅ~……」
横になっていた俺は、気だるそうに返事をする。
それを聞いた不満な表情を浮かべながら美冬は――。
「もうっ! 可愛い妹が部屋に帰って来たんだからちゃんと見てよっ!!」
頬を膨らませた美冬は、何を思ったか俺が横になっているベッドへ――というより俺に目掛けてダイブしてきた。
「どーんっ!」
言葉と共に衝撃が伝わる、思わず俺は――。
「ぐぇっ。 ――み、美冬、いきなりなんだよ」
ダイブした後、ちょうど俺の腹の上に跨がるように座り直す美冬。
――妹がはしたないことするなと言いたいが、まあ他の人にはしてないようだし、何も言わない。
「お兄ちゃん、お疲れ様ー」
「んー? 別に疲れるほどの事はなかったような気がするが?」
とは言いつつ、精神的な疲れはあったのだが――。
「あははっ、それもそうだね。 ――どちらかと言えば織斑君が疲れた感じだったかな?」
「ふぅん、まああいつが主役だったんだし。 いい思いをしたからいいんじゃない?」
「ふふ、お兄ちゃん。 織斑君が羨ましい? モテるから」
突拍子もない美冬の言葉に、俺は目を見開いたが、直ぐに否定の言葉を口にした。
「いいや、別に羨ましいとは思わないな。 俺は俺であいつはあいつだ」
「ふふ、お兄ちゃんならそういうと思った」
そういうと、美冬は身を委ねるように体を此方に預けてきた。
こういう時はだいたい美冬は俺に甘えたがる。
「ん~、お兄ちゃんにこうやって甘えるの久しぶり……」
「そうだな、まあしかし――流石に兄妹だからこういうのもそろそろやめないとな?」
「え~?いいじゃん。別に兄妹でえっちな事するわけじゃないし」
「ぶっ!?」
突然の発言に、思わず吹いてしまう。
じ、冗談でも心臓に悪いこと言わないでほしいが。
「ん、冗談だよお兄ちゃん。 ……兄妹じゃ、問題あるもんね……」
何処か美冬の声色が落ちていた、取り敢えず照れ隠しをしつつ俺は――。
「あ、当たり前だろ。 全く……まあ甘えるのは構わないが、あまり変な発言するなよ?」
「はぁい……。 何だか美冬、眠くなってきちゃった……」
そう告げる美冬、うとうとしている美冬をお姫様抱っこして隣のベッドへ――元々服装は、ラフな寝間着用の服を着ていたため、そのまま寝ても問題はないだろう。
「ん~……。 お兄ちゃん……おでこにチューしてくれたらちゃんと寝れそうかも……」
そう俺を見ながら、自分で髪を手で掻き分ける美冬。
「ん……。 仕方ないな」
そんな妹の頭を優しく撫でると、そっと額に口づけを落とす。
「……えへへ。 ありがとう、お兄ちゃん……」
そのまま美冬は寝息をたて、深い眠りへとついた。
「……たまにめちゃくちゃ甘えん坊になるよな、美冬は」
既に寝息をたてている美冬の頭を撫でたあと、俺もベッドに寝転がり、そのまま眠りについた――。
そんな俺には明日、一波乱があるとはまだこの時気づいていなかった――。
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