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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第一巻
  【第十七話】

 ピットゲートに入り、俺は脚部装甲をカタパルトに接続した。

 射出してから空へと待機するのがISなのだが…飛べない俺は上手く着地出来るかの方が心配だ。

 そんな事を考えている間に、右前方に見えるシグナルが緑へと変わり、勢いよくアリーナへと射出される――。

 カタパルトから勢いよく射出され、空を放物線を描くように飛び――。

 否、正確には落ちてるという表現の方が正しいだろう。

 眼前に広がっているのは、青い空ではなく――気づいたら物凄い音を立て、アリーナの地面へと着地――墜落していた。

 それを見た観戦客からどっと笑い声が――。

 失笑というべきか、そんな声が聞こえてきた。


「あ、有坂くんっ、受けを狙いすぎだよー」

「あははっ♪IS使ってる人で墜落した人って初めて見たぁ♪」

「戦う前からこれだと、セシリアの勝ちは決まったも同然ね」


 物凄く恥ずかしい。

 意識をセシリアの方へと向けると、こめかみを押さえていた。

 心情としては、何故こんなド素人の相手を私がしないといけないんだって所だろう。

 そして、俺が立ち上がるのを見るや、上空から見下ろすように此方へと視線を定めた。


「逃げずに来ましたのね」

「逃げてもどうにもならないだろ?」

 ふふんと鼻を鳴らし、腰に手を当てたポーズで此方を見下ろしている。

 改めて俺はセシリアの方へ意識を向ける。

 鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。
 特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従えている。

 そして手に持つ二メートルを超す長大な銃器。

 検索をかけると出てきたのは六七口径特殊ビームライフル《スターライトmkⅢ》と表示されている。

 その長大な特殊ライフルが握られていた。

 ISは元々宇宙空間での活動を前提に作られている――ほぼ形骸化してはいるが。

 だから普通は原則的に空中に浮いている。

 その為自分より大きな武器を扱うのは珍しくないそうだ。

 アリーナの直径はおよそ200メートル。

 重粒子ビームとはいえ発射から此方への到達時間は計算上〇.四秒ほど――ISの演算が確かならだが。

 そして、俺がアリーナに立った時点で既に試合開始の鐘は鳴っている。

 つまり、いつ此方へその銃口を向け、撃ってきてもおかしくはない。


「最後のチャンスをあげますわ」


 腰に当てた手を俺の方へ、びっと人差し指を突き出した状態で向けてくる。

 左手に構えている銃は、余裕なのか銃口が下がったままだ。


「チャンス……?」

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」


 そう言ってセシリアさんは目を笑みに細める――。

 だがそれは、明らかに此方を馬鹿にしたような笑みであるのがわかる。

 頭の中に響き渡る機械音声――。

――警戒、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行。

 セーフティのロック解除を確認。


 つまり、撃とうと思えば撃たれる状態ってわけだな、これが。

 そう思うと、手が少し震え始める。

 冷静に考えても、銃を向けられてるのだから仕方ないのかもしれない…。


「あら?震えてますの…?怖いのなら今のうちに謝る方が―――」

「怖い?――怖いのは当たり前だ、どんな時でも武器を持ってる人と対峙して怖くないって方がおかしいだろ」

「ふふん、なら早く謝れば――」

「悪いが断る、妹にも勝つと約束しているんでな、これが」


そう伝えるや否、持っている銃を構え始めるセシリア。


「そう?残念ですわそれなら――お別れですわね!」


キュインッ…!!

 独特の音が鳴り、銃口から重粒子ビームが俺を目掛けて空を切った。


「くっ…!?」



 咄嗟に両手で防御する様に構える。

 パアンッと目の前でビームが弾け、展開しているシールドバリアーを突破して左肩の装甲に当たった。

 その受けた衝撃に、俺は身体を吹き飛ばされ、きりもみしながら地面へと倒れていった。

 それと同時に、痛みとして神経を伝わってくる。


「……っ!?…これが実戦……っ!!」


 まだ手や足が震えている…。

 恐怖を感じているのか…?


 そんな事を考えながらも、左側にある数字が減少しているのが確認出来た。

 この項目は確か…シールドエネルギーだったはずだ。

 ISバトル戦闘は基本的に相手のシールドエネルギーを0にすると勝ちというものらしい。

 そして操縦者が死なないように、ISには『絶対防御』という能力が必ず備わっている。

 あらゆる攻撃を受け止めるが、シールドエネルギーを極端に消耗するって教科書に書いていた。

 今のは『絶対防御』が使用されなかったからそこまでのダメージではないようだ。

 左肩の装甲を見てみると、どうやら吹き飛んではいないようだ。

 ただ、ビームによる熱がIS内部に伝わってる…。

 排熱しないといけない訳ではないが…今は後回しだ。


「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」


 銃口が光る度、その閃光が此方のシールドバリアーや装甲へと当たり、ガンガンとエネルギーが削られていく。

 その都度、アラームが鳴り響いていた。


「っ……、動かないとただの的になってしまう……!」


 いつの間にか震えは止まり、俺はアリーナを駆け巡る様に走り抜けていく――。

その間も降り注ぐビームの弾雨が此方のシールドバリアーに当たり、アリーナの地面に当たって、その地面をえぐりとる様に弾けたりした――。


「くっ……武器を!このままじゃ、なぶり殺し状態だ……!!」


 言うや、呼応するように村雲の展開可能な装備一覧が現れる。

 その間も降り注ぐビーム射撃、周りに浮いている西洋の槍状の物が盾となり、代わりに当たって破壊されていく。


「デコイが第三世代装備とは、お笑いですわね!」

ビシュゥッ――!!

 ドォンッと俺の代わりに当たる槍状の兵器、名前は『八式・天乃御柱』というらしいが、武器項目には載っているものの、使えないようであった。

 いつまでも武器項目欄を眺めてても仕方ない…選ばないと…!

 選ぶと言っても刀と弓の二択だが…。


「…やるしかないっ!」


 俺はISの武装、弓《疾風》を呼び出し、展開した。

キィンッ…!

 高周波の音と共に、左腕から粒子が放出され、弓の形へと形成されていく。

 刃がついた弓…?

 いや、今は考えても仕方ない、矢も用意しないと!


「ふふん、かろうじて射撃武器があっても弓で銃に挑もうだなんて……笑止ですわ!」


 その言葉を吐き、直ぐ様セシリアの射撃が俺を襲う、だが残っている八式・天乃御柱が盾として俺の代わりにビーム射撃を受け、破壊されていく。

 その間、矢をつがえ…俺は弦を引き――矢を放つ。


ビュォッ……!


 矢が空気を切り裂き、勢いを失わないままオルコットさんのシールドバリアーに直撃した。


「あ、当たった…?」

「わ、わたくしに当てましたの……?」


互いが当てた当てられたという状況に驚き、そのまま立ち尽くす――。


「……ッ!今が好機!」


 そう思うや直ぐ様新たな矢をつがえ――。


「…!やらせませんわっ!!」


 セシリアは銃のトリガーを引き、左右に身体を振り、此方に狙いを付けさせないように避けつつも射撃を行ってきた。


「くっ…動きながら射てるか…!?」


 右方向へと走りながら、弓を構えて――だが。


「もう当たるわけにはいきませんわっ!行って、ブルー・ティアーズ!!」


 そう叫ぶセシリアの機体から四基の自立機動兵器が射出される。


「なっ…!?よくロボット物で見るような稼働兵器なのか…!?」


 迫るブルー・ティアーズと呼ばれる自立機動兵器、その砲口が光り、ビーム射撃が此方へと襲う。


「くっ…、跳ぶしかない…!」


 その場で垂直にジャンブをし、初弾は何とか当たらずに済む――が。


「甘いですわ!このまま肩の装甲を吹き飛ばしてあげますわ!!」


 両手に構えた特殊ライフルの連続射撃が、空中で身動きの取れない俺に迫る。

 刹那、咄嗟に体勢を崩し、身を捻らせてビーム射撃をシールドバリアーで受け止めた。


「っ…体勢が崩れてる…このままだと墜落してしまう……――そうだ、まだブースターとスラスター使ってなかった…!」


 項目を開き、ブースター及びスラスターのスイッチを入れ、上手く体勢を整えて着地をした。


「……甘いですわね」


「……!!」


 着地した周りには、包囲するかの様にブルー・ティアーズがそのまま待機していた。


「……っ!?」


 慌てた俺は直ぐ様立ち上がるが――目の前のブルー・ティアーズの砲口が光を放つ。


 くっ…このままじゃ、何も出来ないままやられてしまう……!


 そうこうしている内に、砲口から閃光が走った――。 
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