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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第一巻
  【第五話】

――1組教室――


「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」


 一、二時間目とは違い、山田先生ではなく織斑先生が教壇に立っている。

 大事な授業なのか、山田先生もノートを手に持っていた。


「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」


 織斑先生がふと思い出したように言った。

 クラス対抗戦?

 何の事だかわからない俺には、頭に疑問符を浮かべるしか出来なかった。


「クラス代表者とはそのままの意味だ。因みにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」


 その織斑先生の言葉に、クラス中がざわざわと教室が色めき立つ。

 いまいち解らないが、クラス長を決めるって事だと思う。

 面倒な事が多そうだな、これが。


「はいっ。有坂くんを推薦します!」

「はい?」


 有坂さんなら妹だが……聞き間違えてないなら有坂『くん』と聞こえたような……。


「私もそれが良いと思いますー」


 明らかに女子は俺を見て言ってやがる。


「では候補者は有坂緋琉人……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください!?」

ガタタッと慌てて立ち上がると、クラスメイト全員の視線を感じる。


「有坂。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」

「り、理不尽すぎます!自分はやら――」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

「横暴すぎますっ!俺は――」


そう言葉を続けようとした俺を、突然甲高い声が遮った。


「待ってください!わたくしは納得がいきませんわ!」


バンッ!――と机を叩いて立ち上がったのは先ほどの外人さん、セシリア・オルコットさんだ。


「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットに、そのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」


助かったのか?

いや、何気に俺を馬鹿にしてる気がするが…。

気にしたら負けだな。


「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!――」


思わず耳を疑う。

極東の猿とは口が悪いな、だがここは我慢だ…心頭滅却すれば火もまた涼しって言うし。

流石に日本人を極東の猿呼ばわりしたせいか、一部女子がセシリアさんを見ていたが――肝心のセシリアさんには周りが見えていないように思えた。


「――わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」


 日本を島国というなら、イギリスも島国だろ。

 だがここは我慢だ―――我慢すればこのセシリアさんがクラス代表をかわってくれる……。


「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」


 セシリアさんは怒濤の剣幕で言葉を荒げる。

 我慢さえすれば…代表にならなくてすむんだ…。

 だが……幾らなんでも日本人が多数居る前でこれは……!!


「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」


 その言葉を訊くと同時に、俺の頭の中の線が切れる音がした。

 そして気づいたときには俺は机を手で叩き、立ち上がっていた。

 その音が教室中に響き、驚いたクラスの女子一同とセシリアさんは俺に視線を移す。


「いい加減にしろよっ!?……日本の事、好き放題言いやがって!イギリスだって大した国自慢ないだろうがっ!?どんだけまずい料理で世界覇者取ってんだよっ!?クソ不味い料理ばっか作ってんじゃねーぞ、バーカッ!!」


 思わず出てしまった言葉は取り消す事は出来ず……。


「なっ……!?」


 後ろを振り向くと、怒髪天をつくと言わんばかりのセシリアさんが顔を真っ赤にして怒りを示していた。

 こうなったからには後には引けない――。


「あっ、あっ、貴方ねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「あっ!?先に侮辱したのはそっちだろうがっ!?何が極東の猿だ?何が後進的な国だっ!?嫌なら国へ帰れよっ!!その後進的な国がISを開発したって事を忘れんなよっ!!バーカッ!」

「なっ……な、なっ!?」


 プルプル震えて怒りマークが見える。

 何気に俺の言葉遣いも悪いためか、若干涙目になりながらセシリアは机をバンッと叩き――。


「け、決闘ですわ!!」

「上等じゃねえかっ!!男を馬鹿にするのは勝手だが、わざわざお世話になる国を侮辱する女にはなぁ。世間ってものを教えてやるさっ!!これがなっ!!」


怒濤の剣幕に、更に瞳が潤むセシリアだったが。


「い、言っておきますけど!わ、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ!!奴隷にしますわよ!!」

「あ!?…勝負に手を抜くわけないだろ!?」

「そ、そう?……何にせよ、ちょうどいいですわっ!!イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」


――頭に血がのぼったとはいえ、面倒な事になったな。


「特別にわたくしにハンデを付けさせてあげますわ。貴方、初心者でしょ?」

「あ?そこまで耄碌してないっての、逆に俺がハンデつけてやるよっ!!」


 そう言うや否や、妹を除いたクラス中の女子からドッと爆笑が巻き起こった。


「あ、有坂くん、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「有坂くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

「……っ!!」


 クラスの女子一同に馬鹿にされてるのがわかる。

 今の世の中、男の立場が圧倒的に弱い。

 そして男にはISを動かせないから、仮に男女間で戦争が起きれば、万能なISを所有する女性陣に瞬く間に制圧されるだろう。

 陸、海、空と自在にいける万能な兵器なのだから、勿論……何もせずにいたらという話だが。


「皆、お兄ちゃんを馬鹿にし過ぎだよ?」

「……美冬?」


スッ…と静かに立ち上がったのは妹の美冬だ。


「……妹の私がお兄ちゃんにISの使い方教えるから、お兄ちゃんにも、勿論オルコットさんにもハンデはいらないわ」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくら――――」


そう自信満々に告げるセシリアさんを他所に、美冬は言葉を続けていく。


「オルコットさん、皆もお兄ちゃんを馬鹿にして、後で後悔しないことね?――お兄ちゃん、強いから」

「ふふっ、有坂さん。貴方のお兄さんが強いだなんて、日本の代表候補生候補はジョークセンスがあるのですわね?」

「えぇ、イギリスの不味い料理ほどジョークセンスはないけどね?ふふっ」


 美冬がそういうと、キッと睨み付けるセシリア――美冬も負けじと、睨み付ける――その迫力に、若干セシリアの表情が変わる。

 そして、場の空気が一気に張り詰めていく――。

 美冬は家族を馬鹿にされるのが我慢できなかったのかもな、兄の俺が馬鹿にされるのが――。


「美冬、大丈夫だから座ってろって」

「……うん」


 俺がたしなめるように言うと大人しく座り、その後ろの女子が話しかけてきた。


「ねー、有坂くん。今からでも遅くないよ?セシリアに言って、ハンデを付けてもらったら?」


 その表情を見ると苦笑と失笑の混じったものだった。


「悪いが、一度言った事を曲げるのは俺の信念に反する…ハンデは無しで構わない」

「えー?それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも知らないの?」

「正直知らないな。エリート?上等じゃねぇか。その鼻っ柱叩き折ってやるチャンス何だし。例え女子から見たら無謀で無様に俺が見えたとしても――家族や、これから世話になる日本を馬鹿にするアイツにはお仕置きが必要そうだしな…!」

「さて、話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。有坂とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」


 ぱんっと手を打って織斑先生が話を締めた。

 正直、女相手にここまで怒りを感じたのは生まれて初めてだな……。

 代表になるのは面倒だが、だからといって簡単にやられる訳にはいかない……。

 妹も協力してくれるんだ、とにかく――やれることをやり、万全を尽くす――そして、ちゃんと自分の発言を訂正させてやる…。 
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