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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第二巻
  【第五十六話】

――屋上――


俺達が見てる前で、織斑は篠ノ之に唐揚げを食べさせようとしていた。


「な、なに?」

「ほら。食ってみろって」

「い、いや、その、だな……」

「……織斑、そういう事するなら自分の部屋でやってくれないか?」

「え?何でだ?」


いや、明らかにおかしいだろ。

バカップルってやつか?
――カップルではなかったはずだがな。


そんな俺の指摘も何のその、織斑はそのまま篠ノ之の口元へと箸を近づけ、そんな篠ノ之は困ったように眉を八の字に下げ、自分の弁当と箸を交互に見ている。


「………………」


篠ノ之の隣から、織斑に対してじとーっとした目線を送っている。


「ほら。箒、食べてみろって」

「い、いや、その……だな。ううむ……ごほんごほん」


表情が緩みかけると、篠ノ之は咳払いして直ぐに表情を戻す。

そして、突然シャルルが――。


「あ、これってもしかして日本ではカップルがするっていう『はい、あーん』っていうやつなのかな?仲睦まじいね」


――そんなことを言って納得したように微笑む。

その一言に、鈴音の表情が一変し――。


「だ、誰がっ!何でこいつらが仲いいのよ!?」


そうシャルルに食ってかかる鈴音。

そんな状況でも笑顔を絶やさないシャルルはスゴいのか――。


「うん。それならこうしよう。皆、一つずつおかずを交換しようよ。食べさせあいっこならいいでしょう?」


――食べさせあいっこって、男が言う言葉か?


「ん?まあ、俺はいいぞ」

「ま、まあ、一夏がいいって言うんならね。付き合ってあげてもいいけど」

「悪いが俺はパス、コッペパン誰が欲しいって言うんだ?」

「お兄ちゃんが参加しないなら私もいいかな?」

「私もパンだから…交換するのも悪いし、私もパスで。ごめんね?」


「わたくしも、テーブルマナーを損ねる行為は良しとはいたしませんので、遠慮いたしますわ」


――と、見事な分かれ方。

皆が弁当ならいけるが、流石にパンは交換しにくいし。


「じゃ、アタシらだけで交換ね。早速もーらいっ!」


鈴音がそう言うや、織斑の箸から唐揚げを奪い――。


「あ、こら!」

「もぐもぐ……。う!な、なかなかやるわね。なかなか」

「ふっ。和の伝統を重んじればこそだ」


自分の唐揚げが奪われたのに、何故か余裕の表情になる篠ノ之。

残りの唐揚げを見ると、織斑が口つけた唐揚げしか残っていないが――というより、食べきれよ。


「あー……わりい箒。今ので唐揚げ、俺が口を付けたのしか無くなったわ」

「そ、そうなのか?」

「ああ。幾らなんでも男が口を付けた食べ物って嫌だろ?――」


……未来は結構俺が口を付けたのを食べるのも飲むのも気にしないが――。


「――って、でもそうなると他出せるおかずないんだよな。唐揚げ以外は一緒だし」

「――でも、いいぞ……」

「箒?」

「べ、別に、口がついていてもいいぞ。私は気にしない」

「うん?そうなのか。じゃ、はいあーん」


――出来ればそういうことは本当に二人っきりの時にしてほしいものだ。

コッペパンを頬張り、出来る限り見ないようにし、視線を美冬の方へと向ける。


「ん?お兄ちゃん、食べる?」


そう言って箸でタコさんウインナーを取り、口元へ運んでくる。


「や、やめろって美冬」

「ふふっ。冗談よお兄ちゃん♪」


口元へ運んだタコさんウインナーを、自分の口元に運んで、そのまま食べる美冬。


――兄妹だからって…流石に皆の前では恥ずかしいからな。


「ではヒルトさん、わたくしが食べさせてあげますわ」

「ちょ、ちょっとセシリア…!?」


バスケットから取り出したサンドイッチを、セシリアも俺の口元へ――。


「あら?では未来さんもヒルトさんに食べさせればどうかしら?」

「あ――ひ、ヒルト、黙って私のパンを食べてよねっ!」


未来も何故か対抗意識を燃やしたのか、同じようにパンを口元へ運んでくる。


「……ひ、一人で食べれるから――」

「「…………」」


二人の無言の圧力と、食べないといつまでもこの状況が続くような気がした俺は――。


「わ、わかったから!食べるから……ったく…」

「で、ではまずはわたくしからで…」


そうはにかむセシリアから差し出されたサンドイッチを頬張り――。


「…………」


噛むのをそこそこに、無言のまま一気にフルーツミックスで流し込む。

――甘いフルーツミックスと味がめちゃくちゃ甘くなってるサンドイッチ?が口の中で混ざって若干気持ち悪くなりながらも、差し出されたサンドイッチを完食する。


「う……ご、ごちそうさま…」

「うふふ、どうかしら?」


――どうと聞いてくるとは。

正直に答えるのも…二人の時ならいいが、ここでは無理だな…。


「わ、悪くない。……でも…精進しないとな…」

「そ、そうですか…。わかりましたわ…」


――明らかに少し表情が沈んだセシリアを見て、慌てて――。


「あー、そんなに沈むな。全部食ってやるから!」


そう言ってバスケットからサンドイッチを取り出し、がむしゃらに食べつつ――完食。


「……ご、ごちそうさまでした」

「ヒルトさん、お粗末さまでした」

「もぅ…これじゃあ私のパン食べれないでしょヒルト?」

「――まだいけるから食う!あむっ」


差し出されたパンを口にくわえ、そのまま無理やり食べ――。


「……ふぅ…ごちそうさま」



――まだ食べれるが、これ以上は食い合わせ的にまずいからやめておこう。


そんなやり取りしてると、篠ノ之が――。


「い、一夏。何か食べたいものはあるか?――し、仕方がないので私も食べさせてやろう」

「い、いいって。大体、唐揚げ以外はおかずが同じなんだから、箒の分が無くなるだろ」

「むっ……。それはそうだが……」

「ていうか食べようぜ。食べてすぐダッシュは避けたい。俺とシャルルとヒルトはまたアリーナ更衣室まで行かないといけないんだからな」


――グラウンドより、格納庫の方が近いが、午後から使える更衣室が今度は第一アリーナで、格納庫が第四だ。

それなりに移動しないといけないのがキツいが――。


「ん?一夏やヒルトってもしかして実習で毎回スーツ脱いでんの?」

「え?脱がないとダメだろ?」

「俺は織斑と違って着てるぞ。午後からISの授業無くても特訓で着替えないといけないからな」


――確か美冬も着っぱなしだったはず。


「女子は半分くらいの子が着たままよ?だって面倒じゃん」

「ていうことは」


そんな事を言いながら織斑はまじまじと箒や鈴音、セシリア、美冬、未来の身体を見て――。


「だ、だからっ、女子の体をジロジロ見ないでよ!スケベ!」

「え?いや、別にそういう意味で――」

「い、意味がどうであれ、紳士的ではないと言っているのですわ!」

「だから眺めていただけ――」

「お、女の体を凝視しておいて眺めていただけとはなんだ!不埒だぞ!」

「……織斑君、流石に凝視は引いちゃうかな…」

「で、出来れば見ないでほしいな。お兄ちゃんなら兄妹だからいいけど」


――いや、兄妹でも流石に妹の体を凝視はしないな。

――てか妹相手には不味いだろ…。



女子全員から攻められ、軽くため息をつく織斑をおいといて、一気に残ったコッペパンを平らげた。


「…………」

「どうかしたの、一夏?」

「なんだ織斑?」


俺やシャルルをじろじろと見てくる織斑を不思議に思っていると、織斑の口から出た言葉が――――。




「男同士っていいなと思ってな」




――オトコドウシッテイイナ?

――まさか……。


「シャルル、こっちに来た方がいい。織斑の近くは危なすぎる」

「う、うん」


織斑の隣にいたシャルルを、俺と美冬の間に座らせて。


「え?何でだ?何で二人とも俺から離れるんだ?」

「お前が俺たち二人にとっての危険人物と認識したからだ。悪いが男と付き合うつもりなどない。てかあり得ん」

「さ、流石に今のはドン引きだよ…。お兄ちゃんの貞操の危機だよ……!」

「……織斑君、出来れば女の子と付き合う方がいいと思うけど……?」


美冬は俺の身を案じ、未来は織斑に対してまっとうな事を小声で言っている。


「……男同士がいいって何よ……」

「……織斑さん、不健全だと思いますわ……」

「……灯台もと暗しに気づかぬ愚か者め……」


三人とも小声で喋っているが、俺にはまる聞こえ――当の織斑は、何でだかわからないといった表情だが……明らかに自分は男が好きですよ発言に近い内容。

――とにかく、俺は最悪殴って逃げるがシャルルが危ないからな…部屋割りも俺と一緒になる方が彼も余計な心配しなくてもよくなるだろう――。 
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