IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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第二巻
【第六十六話】
――第三アリーナ――
「「あ」」
「セシリア、鈴。二人も特訓?」
放課後の第三アリーナ、ヒルトの妹である美冬が先に自主訓練しているところにセシリア、鈴の二人がやって来た。
「美冬もセシリアも奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」
「あら、奇遇ですわね。わたくしもまったく同じですわ。美冬さんは?」
「私も特訓だよ。次の学年別トーナメントでいいところまで行ったら代表候補生に昇格って、昼に連絡があったの。でもどうせなら優勝したいしね」
にこりと微笑む美冬を他所に、セシリア、鈴の間に見えない火花が散る。
「ちょうどいい機会だし、この前の実習の事も含めてどっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」
「あら、珍しく意見が一致しましたわ。どちらの方がより強くより優雅であるか、この場ではっきりとさせましょうではありませんか」
「ま、まあまあ二人とも。どうせなら三人で一緒に訓練しない?互いの実力差を見せるよりは一緒に腕を磨こうよっ?」
メインウェポンを構えた二人の間に割って入り、なだめようとする美冬を見て二人は――。
「――そうですわね。戦って実力差を見せあうよりも、ライバルと切磋琢磨した方が建設的ですわね」
「……うん。トーナメントで当たった時に決着つければいいんだし。今は休戦って事で。それでいいわよね、美冬?」
「うん――」
美冬が喋ろうとすると、それを遮るように砲弾が飛来する。
「「「!?」」」
緊急回避の後、美冬と鈴とセシリアは揃って砲弾が飛んできた方向を見ると、そこには漆黒の機体が佇んでいた。
機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』、登録操縦者――。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
セシリアの表情が苦く強ばる。
その表情には欧州連合のトライアル相手以上のものが含まれていた。
「……どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」
連結した《双天牙月》を肩に預けながら、鈴は衝撃砲を準戦闘状態へとシフトさせた。
「ふ、二人とも落ち着いて?確かにいきなり砲弾が飛んできたのはびっくりしたけど…」
美冬は先程と同じく、二人をなだめようとしている。
美冬自身も、兄のヒルトと同じく友達やクラスの仲間を大事にする傾向があるから、無用な争いは出来るだけ避けようとしている。
「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』、それと日本の量産型の『打鉄』か。……ふん、中国とイギリスの第三世代型はデータで見たときの方がまだ強そうではあったな」
いきなりの挑発的な物言いに、鈴とセシリアの両方が口元を引きつらせ、美冬は二人を落ち着かせようとはしているものの、二人には届いていなかった。
「何?やるの?わざわざドイツきんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」
「あらあら鈴さん、此方の方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ?犬だってまだワンと言いますのに」
「鈴もセシリアも落ち着いてってば。同じ学年で仲間なんだし…ね?ボーデヴィッヒさんも、そんな物言いはやめよう?」
何とか三人を落ち着かせようとしている美冬だが、既にセシリア、鈴はラウラの見下すかのような目付きに不快感を抱いていた。
「はっ……。二人がかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はな」
そのラウラの挑発とも言える言葉に、鈴とセシリアは装備の最終安全装置を外す――が。
「ちょっとボーデヴィッヒさんっ!!今のは酷いんじゃないっ!?誰もやられたくてやられた訳じゃないんだしっ!!」
仁王立ちで割って入る美冬、その表情は明らかに怒っていた。
「ふん。貴様…あの男の妹だったな。――あの男も甘かったが、貴様も相当甘いようだな。仲良く友情ごっこか?」
「なっ……!?――わかったわ。流石の私も今の発言は許せない!友情ごっこなんかじゃないんだからっ!!二人とも大事な友達なんだからっ!!――セシリア、鈴、誰が先にやるかじゃんけんよ」
「…いいわよ。どっちでもアタシはいいわよ」
「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが――」
「はっ!三人がかりで来たらどうだ?一をいくら足しても一ずつしか増えん。下らん種馬を取り合うようなメス達にその種馬の妹相手に、この私が負けるものか」
明らかな挑発で、堪忍袋の緒が切れた二人にはどうでもよく、美冬もその発言に完全に怒っていた。
「――今なんて言った?あたしの耳には『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど?」
「場にいない人間の侮辱までするとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。その軽口、二度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」
「私の悪口はいくら言っても構わないよ?――でもさ、友達や兄を悪く言われて黙ってられるほど…私は心が広くないんだ」
得物を握りしめる手にきつく力を込める三人、それを冷ややかな視線で流したラウラ。
――そしてラウラは僅かに両手を広げると、自分側に向けて振った。
「とっとと来い」
「「上等!!」」
「友達や兄を悪く言った事――後悔させてあげるからっ!!」
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