IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第六十九話】
――保健室――
あれから一時間程時間が経過し、現在場所は保健室。
ベッドの上では打撲の治療を受けて頭部や腕、脚に包帯が巻かれた美冬、セシリア、鈴音の三人が居てる。
――ただ、美冬は若干表情が暗く、セシリアと鈴音は若干膨れっ面になりながら視線を別方向へと向けていた。
「……別に助けてくれなくてよかったのに」
――と、鈴音は此方に視線を向けず壁側に顔を背けていた。
「……あのまま続けていれば勝っていましたわ…」
――セシリアも、鈴音とは反対側の壁の方へと顔を背けている。
「……お兄ちゃん…助けてくれてありがとう…」
素直にお礼を言うのは美冬、だがその表情は暗いままだった。
「気にするなよ美冬――セシリア、鈴音、確かに続けていれば勝てたかもしれないが……負けを認めるのも人としては必要だぞ」
まだ明後日の方向を向いているセシリアと鈴音を見ながら――。
「……ったく、セシリア、此方向きな」
「……………」
無言のまま、此方に顔を向け直すセシリア。
セシリアの前髪を掻き分けると――。
「……!ひ、ヒルトさん…!?」
「静かにしな。……うん、顔にアザとか出来てないな。でも全身に痛みがあるから無理するなよ?」
「……わ、わかりましたわ」
「さ、次は鈴音の番だ。此方向きなよ」
「な、何で向かなきゃいけないのよ」
「念のためだよ、アザが残らないかどうか見てみたいだけだ」
「………………」
そう告げると、渋々此方に顔を向けた鈴音の前髪を掻き分け――。
「……うん、これなら大丈夫そうだな」
「あ、当たり前でしょ!――いたたたっ…!」
「無理するな、痛みはまだあるんだから安静にしてなよ――さて、美冬」
美冬のベッドまで移動すると、素直に此方に顔を向け――。
「そういえば……お兄ちゃん、いつの間に飛べるようになったの?」
「あ、それは俺も思ってたな。ヒルト、いつからだ?」
今まで黙っていた一夏までその話題に食いついたと同時に、セシリアも鈴音も気になったのか此方に視線送ってきた――。
「……よくわからないが…何て言うか、声が聞こえたんだよ」
「「「「声?」」」」
「あぁ、女の子の声が聞こえて……それから足りなかったパズルのピースが埋まるように――自然と空が飛べるようになってたんだよ」
言葉を続けつつも、美冬の怪我が酷くないことに安堵し――。
「――うん、美冬も問題なさそうだな。嫁入り前なんだし、傷物になったら大変だからな」
「も、もぅ!まだ付き合ってる人もいないのに嫁もないよっ!」
――っと、若干怒り気味に答えた美冬を眺めつつも。
「何にしてもさ、アザも残らなそうだし、怪我も大したことなさそうだし良かったよ」
「……こんなの、怪我のうちに入らな―――いっ…たた…っ!」
「そもそもわたくしと致しましてはこのように横になっていること自体無意味――つぅぅっ…!」
「セシリア、鈴、動いちゃ――いててっ…!」
「だ、だからお前ら無理するなって、安静にしてろよな」
そう告げると、不意に何となく一夏を見るとその表情が――明らかにバカだって顔をしていた。
それに反応したのが――。
「バカって何よバカって!バカ一夏!」
「織斑さんこそ大バカですわ!」
「織斑君ひどーいっ!!」
――っと、順に鈴音、セシリア、美冬が声を荒げた。
そして、保健室のドアが開き――。
「好きな人達に格好悪い所を見られたから、恥ずかしいんだよ?」
「ん?なんだって?」
「好きな人達に…?」
――入ってきたのはシャルルだ、因みに未来は美冬の分の打鉄返却に行っているため、今この場には居ない――。
まあそれは置いといて、どうも一夏はシャルルが言ってた言葉が聞き取れない――というか、突発性難聴症でも発症してるのだろう。
一回耳鼻科を本気でオススメしなければ。
――てか鈴音の好きな奴はまあわかるが、美冬とセシリアに好きな人が居てるのは初耳だな。
「なななな何を言ってるのか、全っ然わかんないわね!こここここれだからヨーロッパ人って困るのよねぇっ!」
「べべっ、別にわたくしはっ!そ、そういう邪推をされると些か気分を害しますわねっ!」
「わ、私は…うぅ、お兄ちゃんにカッコ悪い所見せたから……」
「別に美冬はカッコ悪い所なんか見せてないだろ?――てかセシリア、好きな奴居たんだな」
「えっ!?……ヒルトさん、耳がよすぎますわ……」
その何気無い一言で、何故か顔が赤くなるセシリア――そして俺は…。
「まあ、誰かを好きになるのは悪いことじゃないしな」
そう告げ、セシリアの頭を軽く撫でるとその表情が嬉しいようでまた微妙そうな表情に変化した。
――おかしい事は言ったつもりはないのだが…。
撫で終えて、何となくシャルルの顔を見ると何故か少し表情が暗かった――が、俺が見ているのに気づくと少し頬を桜色に紅潮させながら手に持った飲み物を――。
「はい、ウーロン茶と紅茶に麦茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」
「ふ、ふんっ!」
「……デュノアさん、いただきますわね」
「ありがとう、デュノア君」
三人は渡された飲み物を受けとると、そのまま一気に飲み干していく。
――余程喉が乾いていたのだろう、あっという間に空になっていた。
「ま、先生も落ち着いたら帰っていいって言ってるし、暫く休んだら――」
――と、シャルルの言葉を遮るように地鳴りみたいな音が聞こえてきた。
「な、なんだ?何の音だ?」
「わからんが様子見てみるか、これが」
――この時の俺は、ただ単に安易に様子を見ればいいとだけ思っていた。
廊下から響いてくる地鳴り――しかも徐々に近づいてきている。
意を決して、保健室のドアを開けるその瞬間――。
「……なっ!?」
――一瞬の事で、何が起きたのかわからなかったが、気づいた時には眼前に迫るドア――そして、そのドアがもろに直撃し、保健室の床に倒れたと同時に思いっきり俺の体を踏みつけていく脚、脚、脚――。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「有坂――君はいないのか…」
「……わ、悪いが、皆俺を踏んでてその台詞は無いだろ…」
「「「きゃあっ!?」」」
そう叫ぶ女子一同は、一斉にスカートの裾を下げて下着が見えないようにするが――そもそも、踏まれていて見る余裕もなかった俺。
「あ、有坂君……み、見た…?」
「いてて……――何をだ?」
「う、ううん!?何でもないよ!?あはは…」
パンパンと制服を払いつつ立ち上がると俺は口を開き――。
「――んで、女子一同が何で慌てて保健室来たんだ?」
「「「これ!」」」
そう告げるや、目の前の女子一同が出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申込書だった――とそこに。
「……?何でドアが吹き飛んでるの??」
「ん?未来、戻ってきたか」
「うん。ねぇねぇ、これって何が――」
「ちょい待ってくれ未来、今はこの緊急告知文読むから」
何が何だかわからないという表情をする未来。
「んと……。『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。なお、締め切りは』――」
「ああ、有坂くん。そこまででいいから!とにかくっ!」
全てを読み終える前に告知文を没収され、一斉に一夏やシャルルに向かって伸びていく女子の手――と思ったら、俺にも手が伸びてきていた。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「私と組もうよ、有坂君!!」
――何故かいつもと違う女子の態度に疑問を懐きつつも、急な学年別トーナメントの仕様変更にも悩まされそうな…。
……学内ので三人しか居ない男子と組むために必死なのだろうか?
――それよりも、だ。
「え、えっと……」
――シャルルが女の子だという事実を知るのは俺だけなので、他の女の子と組むというのは色々な意味で不味い。
バレたら本国強制帰国後牢屋とか、下手したら性の捌け口にされる可能性まであるのだから誰であろうとバレる訳にはいかない――。
そう思い、シャルルの方を見ると、困ったように眉を八の字に下げて俺を見ているのがわかった。
そんな俺と視線が合うと、すぐにシャルルは視線を逸らしてしまった――。
――困ったとき頼るなり甘えるなりって言ったのに、遠慮深いなシャルルは。
「シャルル!」
「え――わあっ!?」
わあわあと騒ぎ、シャルルに群がる女子達から、シャルルの腕を掴み、ぐいっと一気に引き寄せ――ちょうど抱き止める体勢でシャルルを引き寄せると俺は――。
「悪いがシャルルは俺と組むって今俺が決めた!だからシャルルの事は諦めてくれないか?」
「「「えええーっ!?」」」
――と一部女子から非難を受ける羽目に…。
「デュノア君!有坂君よりも私と組んだ方がずっといいよ!」
「そうだよ!?有坂君空も飛べないし足手まといじゃん」
……さっきの模擬戦を見ていない一部の女子がなかなか引き下がらない――と、抱き止めた体勢のままシャルルは女子たちの方へと顔を向けると――。
「え…えっと……。ご、ごめんなさい、僕…ヒルトと組むよ」
そのシャルルの言葉に、先ほどまでざわざわしていた保健室は沈黙に包まれた――。
「まあ、デュノア君がそういうなら……」
「うん、それに他の女子と組まれるなら有坂君と組んでくれるほうがいいし……」
「有坂君×デュノア君って構図は無かった…今度の――ごほんごほん」
「悪いな、代わりに一夏が空いたんだし。そっちはどうしようが構わないから」
「お、おいヒルト――」
――と、俺の名を呼ぶが…女子たちの目の色が変わった事に気づいた一夏は……。
「え、えっと……」
「「「織斑君!私と組もう!!」」」
「……!?」
脱兎の如く、一夏は保健室のドア(吹き飛んだが)から逃げ出し、そのままグラウンドへ――。
「「「織斑君!待ってーっ!」」」
――と、また地鳴りを鳴らしながら保健室を出、一夏を追いかける一部の女子。
残っていた女子たちも、仕方ないかと口々にしながら保健室を去っていった――。
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