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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第二巻
  【第六十四話】

――1025室――


夕食を食べ終え、俺は若干前屈みで部屋に戻ってきた――。

理由は未来とセシリアの胸のせいだ。

おかげで帰り道は皆に変な目で見られてしまった…いや、まあ俺がエロガキなのが悪いだけかもしれんが。


――それはそうと、食堂では篠ノ之が帯刀していたのに軽く引きつつ、ここが法律上でも国際上でも『どこの国でもない土地』という事を思い出した。

でも――やはりそこはモラルを持って行動してほしいものだ、篠ノ之にも。


「ふぅ、ただいま…」

「あ、ヒルトおかえり。――ってどうしたの?お腹痛いの…?」

「……な、何でもない。何でもないんだ…。気にしないでくれ――それよりもさ、焼き魚定食貰ってきたが食べられるか?」

「うん、ありがとう。いただくよ」


そうにっこり笑って俺からトレイを受け取ったシャルル。

ところがそれをテーブルに置いたところで表情が固まった。


「……?どうしたシャルル?」

「え、えーと……」

「もしかして焼き魚嫌いだったか?」

「う、ううん!違うよ?――いただきます」


誰が見てもぎこちない笑みを浮かべるシャルルを不思議に思っていたら、すぐにその表情の訳はわかった。


「あっ……」


そう小さく声をあげると、上手くつまめずに魚の身が箸から落ちて――。


「あっ、あっ……」


更に箸でつまむが、直ぐに皿の上に落としてしまい、表情もみるみるうちに暗くなっていった。


「わ、悪い。シャルル…箸が苦手だったんだな」

「う、うん。練習してはいるんだけどね。あっ……」


そう言いながら再度箸でつまむが、先ほどと同じく魚の身を落とす。


「……配慮が足りなかったな、今からフォークとスプーン貰ってくるよ」

「ええっ?い、いいよ、そんな。何とかこれで食べてみるから――あぁっ…」



またチャレンジし、箸でつまむがやはり落としてしまうシャルル。


「や、やっぱり貰ってくるよ。流石に難儀だろ?気にするなって」

「で、でも……」


眉を八の字に下げ困った表情になるシャルルを見て――。


「……さっきも言ったけどさ。俺はシャルルの友人なんだ、だから頼ってもいいし、甘えてもいいんだ。な?」

「うぅ……」


少し伏し目がちになり、表情を見せないように顔を下げ始めるシャルル。



「……まあ確かにいきなりは難しいかもしれないが、ゆっくり頼ることに慣れたらいいんだ。まずは事情を知ってる俺から頼ればいいしな。友人なんだし、俺も頼られるの嫌じゃないからな。――ちょい話がずれるが、シャルルの家庭の事情も含めて味方だし、例え世界がシャルルの敵に回っても、俺だけは少なくとも君の味方だからさ。だから頼ってくれないか?」

「ヒルト……」


暫くシャルルは迷っていたようだが、どうやら食事が進まない事に気をもんだのか、観念したように口を開いた。


「じゃ、じゃあ、あの……」

「うん。スプーンか?フォークか?または両方か?」

「え、えっと、ね。その……ヒルトが食べさせて」

「……え?」


モジモジとして言いにくそうにしているシャルルを見て、その口から出た言葉が予想の斜め上をいく言葉だったので一瞬何を言ったのかがわからなかったが――そこにシャルルが顎を引き、そのまま此方の目を見つめるように上目遣いで見ながら言葉を重ねてきた。


「あ、甘えてもいいって言ったから……」

「た、確かに言ったけどさ…。まさか食べさせてって言うとは思わなくて」

「だ、ダメ…かな…?」

「……わ、わかったからそんな顔するなって。――美冬にもしたことないんだからな?誰にも言うなよ…?」

「う、うん。ありがとう、ヒルト」


――正直、今の上目遣いにやられそうになった。

それほどまでシャルルが俺には魅力的な女の子に見えたからだ――もちろんシャルル以外にもこの学園には魅力的な女の子は多数いるのだが。

――シャルルが彼女ってのも何だか悪くなさそうだな…まあシャルルと俺が付き合うは無理だとは思うが。

俺自身、そこまで男子として好かれるような魅力もないと思うし。


そんな風に勝手に結論づけ、シャルルから箸を受けとると先ほど落としていた分と合わせて鰆の身をつまみ、口元へと運ぶ。


「……っ。――ほ、ほら、あーん」

「あ、あーん」



……女の子にこういう事をする日がまさか来るとは思わず、少しずつ心臓の鼓動が高まるのを感じつつもぐもぐと咀嚼するシャルルを見る。

心なしか、シャルルの頬は紅潮しているように見えた。


「ど、どうだ…?」

「う、うん。美味しいね」

「なら良かったよ、これが」


頬は紅潮したまま、笑顔で応えるシャルルに安堵し――。


「じゃ、じゃあ、その、次はご飯がいいな……」

「うっ?――わ、わかった…」


流石に断るわけにもいかず、俺自身顔に熱を帯びるのを感じながら箸でご飯を女子一口分の量をつまむと、受け皿の手を添えてシャルルの口へと運んでいく。


「ほ、ほら。あーん…」

「ん……」


シャルルの食べる一連の動作に、妙にドキドキし、気持ちが落ち着かなくなる。

女の子に食べさせているという環境のせいなのか…俺には今はよくわからないが、いつかわかる日が来るのだろうか。


「つ、次は和え物がいいな」

「あぁ。――ここまで来たら最後まで食べさせるよ、シャルル」

「う、うん。えへへ」


――シャルルに最後まで俺が食べさせていたが、徐々にお互い気恥ずかしさからか言葉が少なくなり、食事を終えると少しだけ話をした後に俺もシャルルもベッドに入った。


――今日一日、色々な事がありすぎたが……寝れるかどうかが心配だ。

女の子が隣のベッドで寝ている――それだけでそわそわしてなかなか眠りにつけなかった。 
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