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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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第二巻
  【第六十話】

――第三アリーナ――


視線の先にいたのは転校生のラウラ・ボーデヴィッヒ。

転校初日以来、クラスの誰ともつるまなく、美冬や未来も気にして話しかけたりしてるが一蹴され、俺にたいしても会話さえしない孤高の女子。

出会いはあんな感じで良くはなかったが、せっかくクラスの仲間になったのだから何度か会話を試みているのだが――。


「おい」


ISのオープン・チャネルで声が飛んでくる。

勿論、ISに乗っていない生徒にも届いてるが――明らかに彼女の鋭い視線は織斑に向けられていた。


「……なんだよ」


織斑が返事をすると、言葉を続けながらボーデヴィッヒがふわりと飛翔し、此方へゆっくり飛んできた。


「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」


――戦闘民族か、彼女は?

てか密集空間だから無理だろ、やる場合は皆客席に移動しないといけないし。

俺や織斑がシャルルと手合わせするときも観客席に移ってたんだし…。


「イヤだ。理由がねえよ」

「貴様にはなくても私にはある。――貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成し得ただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」


――確かニュースでやってたな、第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の決勝戦の話だったか。

俺はあの頃ISに興味も特に無かったからそんなニュースがあったぐらいにしか覚えてないが、確か織斑先生の不戦敗で大会二連覇を果たせなかったんだったかな?

一時期世間に大きな騒動をもたらしてニュースもほぼモンド・グロッソ不戦敗の話ばかりになってたはずだ。


そんな風に考えていると、会話は続き――。


「また今度な」

「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」



言うが早いか、ボーデヴィッヒは自身のISを戦闘状態へとシフトさせ、刹那――左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。


「!」


驚きへと変わる織斑の表情――気づくと俺は自然と体が動き、その射線上へと割って入り―――。


「ぐ…は…っ!?」


実弾砲を受けた衝撃により、俺の体は宙を舞う――。


「お兄ちゃんっ!?」

「ヒルト!大丈夫っ!?」

「ヒルトさんっ!!」


背中から地面へと落ち、その衝撃に顔を歪めさせながらも――立ち上がり。


「……大丈夫だ。少し痛かっただけだから心配するなよな?」


よく見ると、美冬も未来も…そしてセシリアも若干涙目になっていた。

――心配させたかな、三人には。

よく見たらシャルルも心配そうに此方を見ているのに気づいた。


「ふぅ…。ボーデヴィッヒ、こんな密集空間でいきなり戦闘何てダメだろ?やるならせめて皆を客席に移動させてからじゃないとな?沸点が低いと、ビールだけじゃなく頭もホットになるぞ?」

「貴様……」


立ち上がった俺は歩を進め、そのまま織斑とボーデヴィッヒの間に割って入る。


「満足に第三世代装備も動かせない貴様が私の前に立ちふさがるとはな」

「『ははっ。そこは痛いところをつかれたな』。まあクラス代表としては仲間として皆仲良くしてもらいたいんだがな、これが」

「……っ!貴様の言葉…いちいち苛立たせる…!――……何で、貴様とあの人の姿が重なって見えるんだ……」


最後の方の言葉が小声過ぎて、ほとんど聞き取れなかったが――あの人だけは聞き取れた。

一体誰の事なんだ…?


『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』


突然アリーナにスピーカーからの声が響く。

騒ぎを聞きつけてやって来た担当の教師だろう。


「……ふん。今日は引こう」



横やりを二度も入れられて興が削がれたのか、ボーデヴィッヒはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートへと去っていった――。


「ヒルト、大丈夫?」

「ヒルト、わりぃ…怪我はないか?」

「大丈夫だし、怪我はないさ。何てったって俺は不死身だからな」


そう言うと二人ともきょとんとした表情になるが、直ぐ様笑顔になって笑っていた。


「今日はもうあがろっか。四時を過ぎたし、どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」

「おう。そうだな」

「だな。たまには早めに切り上げますかね――シャルル、銃ありがとうな?参考になったよ」

「それなら良かった」



シャルルの無防備な笑顔に、何故かいつもドキッとさせられる。

――ホモじゃ無いんだけどなぁ…だが、シャルルに女装させると似合いそうで正直困る。


「えっと……じゃあ二人とも、先に着替えて戻ってて」


――今さらどうも思わないが、シャルルは俺たちと着替えたがらない。

まあ理由は色々あるだろうから詮索するつもりはないのだが、そういえば部屋でこんな出来事が――。


『ふぅ、やっぱりシャワー浴びてすっきりするのは最高だな』

『わあっ!?ひ、ヒルトっ!何で全裸なの!?』

『はあ?風呂上がりに全裸でベッドにダイブが基本だろ?――って美冬に言ったらそんなことないって言われたな、前に』

『い、いいからせめてタオルで下隠してよっ!そ、それと髪もちゃんと乾かさないとダメだってば!』

『髪は乾かしてるぞ?てかシャルルは俺の母さんかよ。――って俺の母さん、何にも言わないが。――あまり気にせず言うなって』

『い、言うよ!ヒルトはもうちょっとちゃんとしないとダメだよ!』

『ちゃんとしてるんだがな…。てか何で俺こんなに言われなきゃいけないんだ?全裸で男にここまで文句言われたの初めてだ…。シャルル、あんまり気を遣うとパンクするぞ?』

『ひ、ヒルトがもっと気を遣わないとダメなんだよ!ああもぅっ!ヒルト何か知らないっ!』


――というやり取りがあった。

なんじゃこりゃ。

しかし――フランス男子は皆こんな感じなのかな?


そんな風に思っていると、また織斑がシャルルに――。


「たまには一緒に着替えようぜ」

「い、イヤ」


――このやり取りを、いつも続けている。

シャルルが嫌がってるのに何で着替えたがるかな。


「織斑、いい加減嫌がってるシャルルを無理矢理誘うのやめないか?一緒に着替えたくなったら本人もそう言うだろうし」

「え?ヒルトはシャルルと一緒に着替えたくないのか?」


「……男と何で嬉しそうに着替え合わないといけないんだ?てか少なくとも俺の男友達に織斑みたいな強引なのいないし。てか織斑、引き際見極められないバカは皆から嫌われるぞ?少なくとも、俺は今の織斑はバカだから嫌いだが」

「な、何でだよ。俺、嫌われるような――」

「自覚してないのか?てか少なくともシャルルは嫌がってるんだから諦めろよ。じゃあシャルル、俺たちは先に着替えてるよ。皆、また後でな?」

「ぐえ。首根っこ掴むなよヒルト!!」


強引に俺は織斑の首根っこを掴み、ゲートへと放り投げると跳躍して俺もゲートへと入っていった――。




――第三アリーナ更衣室――


「しかしまあ、贅沢っちゃあ贅沢だな」

「更衣室か?仕方ないだろ、男子は三人しかいないんだし」


そう言って見渡すと、ロッカーの数がおよそ五十ちょっとあり、室内もそれに見合って広い造りになっている。


「はー、風呂に入りてえ……」

「わがまま言うなよ。IS学園は女子校みたいなもんなんだし…。まあでも、男子が三人になったから山田先生がタイムテーブル見直して組み直してるらしいが……。――ふう、着替え終わったし飯食ってシャワーかな」

「あのー、有坂君と織斑君、デュノア君はいますかー?」

「?――有坂と織斑の二人だけですが?」


声の主は山田先生で、ドア越しに俺たちを呼んでいた。


「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますかー?」


……何故人は遠くに呼び掛ける時に語尾が延びるのだろう?

普通に言えばいいのだが。


「大丈夫ですよ。俺も織斑も着替え終えてますから」

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」


ドアが開き、山田先生が入ってくる。

相変わらず、ゆったりとした服装が似合う人だな。


こんな人を彼女にするのも実に楽しそうかもしれない。


「デュノア君は一緒ではないんですか?今日は有坂君や織斑君と実習しているって聞いていましたけど」


辺りをキョロキョロ見渡し、シャルルを探している山田先生だが、あいにくと居ないのだ。


「あ、まだアリーナの方にいます。もうピットまで戻ってきたかもしれませんけど、どうかしました?大事な話なら呼んできますけど」

「――てか大事な話なら記憶して俺が伝えるって」


「ああ、いえ、そんなに大事な話でもないですから、有坂君か織斑君から伝えておいてください。ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に二回の使用日を設けることにしました」

「本当ですか!」


何を思ったか、織斑は山田先生の手を取り、言葉を続けていく――。


「嬉しいです。助かります。ありがとうございます、山田先生!」

「い、いえ、仕事ですから……」

「てか織斑、いい加減山田先生の手を離せよ、困ってるだろ?」

「あ、あぁ。つい嬉しくてな」


――わからん、もしかしたらバイセクシャルなのか?

それはそれでたちが悪いが――。


「……ヒルト、一夏?何してるの?」


その声がする方へ振り向くと、少し表情が険しいシャルルがそこにいた。


「まだ更衣室にいたんだ。――二人とも先に戻ってって言ったよね」

「お、おう。すまん」

「悪い。山田先生の要件聞いてたら――言い訳にしかならないな、ごめんシャルル」


シャルルの言葉の端々に刺を感じ、まだ表情も少し怒っているようにも感じた。


「喜べシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」

「そう」

「……バカが、空気読めよ……」


興奮ぎみな織斑を横目で見ながら、ISを解除したシャルルはタオルで頭を拭き始めた。

……やはり機嫌悪いよな――同室の俺が一番気まずくなるじゃないか…。


「ああ、そういえば有坂君と織斑君にはもう一件用事があるんです。ちょっと書いてほしい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか?村雲・弍式と白式の正式な登録に関する書類なのでちょっと枚数が多いんですけど。――特に有坂君のは財団に関する書類もあるので…」

「了解です。――シャルル、そういう事だから、今日は先にシャワー使っていいぞ?後、ボディーソープ無くなりそうだから予備を入れといてくれないか?」

「うん。わかった」

「じゃ山田先生、ヒルト行こうぜ」

「あぁ…。――シャルル、本当にごめんな?」

「…………」


俺はそれだけをシャルルに告げ、職員室へと向かった――。
 
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