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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第260話】

――第三アリーナロッカールーム――


「何でさっきは助けてくれなかったんだよヒルト?」


 隣でISスーツに着替えている一夏は、不満そうな口調で俺に言い放つ。

 既に着替えを終えた俺は、ロッカーに凭れながら村雲のコンソールと各種機体のステータス表を呼び出し、見比べていた。


「……悪いが夫婦喧嘩は犬も食わないって言うだろ? 助けても篠ノ之に睨まれるだけだしな」

「別に夫婦とかじゃねぇって。 箒は俺のファースト幼なじみだ。 ……よっ……と」


 ピチピチのISスーツを着終えた一夏も、俺と同じ様にコンソールを開き始める。


「……お前ってさ、篠ノ之と鈴音の事どう思ってるんだ?」

「え? ……何だよ、藪から棒に。 変なやつだな」


 俺の唐突な質問に、驚きの表情を浮かべる一夏。

 どうやら今回は難聴ではなさそうだ。


「藪から棒でもないさ。 ……あの二人の事、どう思ってるのかって聞いてるんだよ」

「どうって言われてもなぁ……。 二人ともファースト幼なじみとセカンド幼なじみだぜ?」


 一瞬考え事をする一夏だが、直ぐに二人をファーストセカンドと数字つきの幼なじみと言い放つ。


「……ふぅん。 ……なら女としてどう思ってるんだ?」


 若干核心めいた質問だったかもしれないが、俺としては鈴音が不憫でならない。

 確かにあいつは中国人だが、俺の知ってる中国人ではなく、尊敬の出来る人物だと言っても過言ではない。

 時折大陸気質が出るものの、基本思いやりを持ってる辺りは半分日本人の血が流れてるのもわかる。


「……二人とも、幼なじみだよ。 それ以上でもそれ以下でもないさ。 ……変なやつだな、唐突にこんな事を訊いてくるなんて」


 そうぶつくさ言い、またコンソール画面に視線を落とす一夏。


「……変なやつでも構わないが、せめて鈴音にもう少し構ってやれよ。 篠ノ之ばかりに構うんじゃなくてさ、な?」


 俺なりの鈴音への気遣い――勿論、端から見たらただのお節介だし、エゴにしか見えないだろう。

 ……だが、それでもあいつの一途に思ってきた想いを思えば……。

 ……昼食時に言った言葉が、もし俺だったとしても応えられるかは解らないから。


「ん? ……あいつなら大丈夫だ。 性格的にも友達作りやすいし、第一美冬や未来とも仲良いだろ? 逆に箒は俺以外とはあんまり話しないからさ。 ……でも、最近箒にも友達が出来たみたいで俺としては嬉しいけどな」


 まさに期待を裏切るとはこの事だろう。

 一夏にとって、鈴音は放置しても寂しく無く、友達も作りやすいから大丈夫だと思われている所。

 ……たまにアイツも、寂しそうに一夏を見ていたのに気付いてすらないとは。

 ついでに言えば、篠ノ之に友達が出来て良かったって――あれはただの取り巻きじゃないか……。

 株価が最安値を付けた辺りで、俺はもうこの話を止めようと思った。


「そっか。 悪かったな唐突に変な事訊いて」

「ん? 別に構わないさ。 学園には俺とヒルトしか男が居ないんだしな」


 ……やっぱりホモなのかもしれない。

 今日一番の笑顔を俺に見せてる辺り、マジで貞操を狙われてそうで背筋が凍り付く思いだった。

 一応本人はホモを否定してるのだが、どうしても六月のシャルに行った行動を見るとな……。


「なあヒルト。 雪羅に割いてるエネルギーが多すぎるんだけどどうにかして抑えられないか?」

「ん? ……てか俺に訊いてどうするんだよ。 ……とりあえず、多用し過ぎずに扱えば良いんじゃないか?」


 正直、俺に訊いても俺がエネルギーを抑える方法を知ってる訳ではない。

 俺自身も、手探りで手引き書を見ながら整備してるんだから……。

 ……てか、よくよく考えるとこいつって白式受け取ってからコンソールでの調整以外で弄ってるのを見たこと無いんだが……まさか、今までデータ状のステータスのみの調整しか行わなかったのだろうか?

 そう考えていると、不意に一夏の後ろに女子が居るのが見えた――それも、あの人は……。


「だーれだ?」

「!?」


 一夏の視界を塞ぐ彼女は一学年上の先輩、【更識楯無】その人だった。

 此方に視線を移すと、軽くウインクして黙っててねというアイサイン付き。

 ……そういえば、前に二学期に会いましょうって言ってたな……夏に模擬戦したけど。

 そうこうしてる間に、楽しげな表情の楯無さんは――。


「はい、時間切れ。 残念でしたー」


 そう言い、視界を塞いだ手を離す楯無さんに、一夏は身体事振り向き、確認するが――。


「……誰? ヒルト、知ってるか?」


 確認した一夏には、初めて出会う女性だが、俺は知ってるので――。


「あぁ、俺は知ってるぞ? その人は――」


 そう言いかけるのだが、楯無さんは口元に人差し指を立て、黙ってるようにとサインを送ってくる。


「――多分、後々その人から皆に挨拶があるさ、これがな」


 そう言葉を濁し、一夏に言うと頭に疑問符を浮かべていた。


「んふふ、そういう事よ。 ……それじゃあね。 そろそろキミもヒルト君も、急がないと織斑先生に怒られるよ」


 そう言って、ロッカールームの壁にある時計を扇子で指す楯無さんに促され、時計を見ると何と既に授業が始まっているではないか。


「だあああっ!? や、やばい! まずいぞヒルト!」


 そんな慌てふためく一夏を他所に、楯無さんは手を振ってその場を後にする。

 遅刻は確定なのだから、慌てても仕方ないし、もう懲罰受けるものと思って向かうしかない。


「ここで慌てても仕方ないだろ? 素直に謝って懲罰受けようぜ?」


 そう言ってベンチから立ち上がると、俺はロッカールームを後にする。

 一夏もそれに続き、慌てて俺より先にグラウンドへ向かうのだった――。 
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