大魔王からは逃げられない
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第七話
前書き
ハァハァ……うっ……ふぅ……。
なんかノクターンの小説を読んでいたら創作意欲が湧いてきました。
近いうちにもう一話更新します。
クロたちを配下に加えてから三週間が経過した。
あれからゴブリンやブラックドッグの他に、オーク、オーガ、コボルトといった魔物も傘下に加わり、我が家は一気に大所帯となった。
彼らにもクロたちと同様に生活空間を与え、侵入者は見つけ次第排除するように言いつけている。
現在の手下の総員は二五三匹。それに合わせて魔術でダンジョンも少し改築して、迷路のように入り組んだ構造となった。
しかし、これはまだ仮の姿でしかない。ゆくゆくは【アリアード】以上の大迷宮に育て上げるつもりだ。そのためには多くの敵対者を撃退して、ダンジョンポイントを稼がなければならない。
そうそう、ダンジョンの構造も段々様になってきた。
ダンジョンというのはただそこにあるだけではダメだ。明確な目的を持たさないといずれ侵入者に攻略されてしまう。それが今まで様々な支配者が消えていったのを見てきた俺の持論だ。
無論、俺のダンジョンにはある。最終目標は【アリアード】に匹敵する大迷宮に育て上げること。そのためには多くの経験値とDPを稼がないといけない。
しかしここで難しいのが、侵入者全員を迎撃してしまうと、以降の侵入頻度が少なくなってしまうということだ。
侵入者が全滅するということは地上にはなんの情報も行かない。多くの侵入者が迎撃されれば、その分危険度は跳ね上がる。
危険を承知で攻略に挑むのがダンジョンだが、超危険を冒してまでの価値があるのかという話に繋がってしまうのだ。しかも帰還者が皆無ということは、そのダンジョンがどんな構造になっていてどこにどんな罠が仕掛けられているのか、そういった攻略情報が一切ないということ。
ダンジョンへ侵入者を誘うにはそれに見合った報酬が必要だ。それは金銀財産だったり、貴重な魔道具だったり、または希少価値の魔鉱石だったりと色々あるが、なんらかの餌を与える必要がある。
そのため、効率よくダンジョンを育てるには、冒険者の何割かを帰還させることを前提に作り上げなければならない。
そう結論付けた俺は悩みに悩んだ。結果――。
「各種コース分けとか、どんなRPGですかという話ですな」
ダンジョンを少し進むと三つの分かれ道がある。この分かれ道が侵入者に優しい設定になっているのだ。
一番左が初級コース。ちょっと怖い目に遭うかもだけど生きて帰れるよ☆
真ん中が中級コース。運が良ければ生きて帰れるかもだけど、かなり絶望的だよ☆
一番右が上級コース。自殺志願者にはおススメだよ☆
うん。各種コースの特徴を端的に表せている。ちなみにこれらは紹介分としてコース脇に立札を置いてあるから、どこがどのコースか一目瞭然の親切設定。
初級コースは生存目的の迷路。中級上級は殲滅目的の迷路となっており、ほどよく殲滅できてかつ帰還者もいるという一石二鳥のナイスプランだ。
ちなみにこれらのコースは最後一本道に合流する仕組みになっている。その先がラスボスのステージだ。
まあ、各種コースの説明は追々していくとしよう。
俺は広間に据えられた玉座に腰深く掛けながら瞑目していた。斥候として街に向かわせたシオンの話によると、もう間もなく冒険者たちがこのダンジョンにやって来るらしい。予想していた刻限より一週間も遅い到着とは僥倖だ。
「どのくらいの規模でやって来る?」
「討伐隊は冒険者で構成されています。規模は三十人。ほとんどがCランクとのことでした」
隣に佇むシオンが真っ直ぐ前を見据えたまま答える。微動だにしない彼女の足元には寝そべったダーシュが欠伸を洩らしていた。
「ランクCが三十ね。そのくらいなら問題ないかな。配下も増えたし、罠もいたるところに張ったことだし」
準備は万端。人事は尽くしたため、あとは獲物が餌に食いつくのを待つだけだ。
【ビーッ、ビーッ!】
その時、警報とともに指輪が震えた。独りでにマップが虚空に写し出される。
待ちに待った瞬間だ。椅子から立ち上がり、その場で身体を回して凝った筋肉を解すと、パキパキッと小気味良い音が響いた。
「お出ましだな」
「そのようですね」
「ワウ?」
マップには無数の赤い光点が表示されていた。入り口から次々と光点が湧いて出てくる。
自然と唇の端が吊り上がった。
「さてさて、女の子は……って、たったの三人しかいないのか。しかも……うわぁ、シオンのいう通り雑魚ばっかだし」
素早く画面を操作して侵入者のデータを写し出し、片っ端から目を通していく。ほとんどがレベル三十前後で取るに足らない有象無象の連中だった。
「結局、使えそうなのはこの三人か……」
〈ルセリア・ラインハート〉
性別:女
レベル:一五九
〈オルレアン〉
性別:女
レベル:一七〇
〈セラフィール・シュトーレン〉
性別:女
レベル:一六三
どれもレベル百超えだ。おそらくギルドランクはBかな。何故こんな人たちがこの中に居るのかは疑問に思うが、今はこの巡り合わせに感謝しよう。
ダンジョン内のすべてのモンスターたちと精神のパスを繋ぐ。
『皆、侵入者だ。数は三十。事前に説明した通り俺の指示に従ってね。女以外は見つけ次第殺っちゃっていいから』
了承の意を確認した俺は念話を切り、新たにスクリーンを展開した。
スクリーンには目立たないようにダンジョンの各所に設置した魔道具からの映像が映し出されている。魔道具による監視カメラだ。これでリアルタイムで冒険者たちの動向を把握することができる。
まだカメラのある場所まで辿り着いていないため人影はない。
「さぁて、記念すべき初の侵入者だちだ。丁重に迎えないとな」
魔王らしく玉座にふん反り返り、偉そうに足を組む。
「精々、〈ラビリンス〉の糧になってくれたまえよ。冒険者諸君」
† † †
「異常ないか、セラ?」
「こっちは大丈夫よ。それにしても静かなダンジョンね。魔物もあまり見ないし」
「まだ所有して間もないからだろう。だからといって油断するなよ」
「わかってるわよ。私たちにとって油断がなにより死を招くものね」
オルレアンとともに周囲を警戒しながら狭い回廊を歩く。
このダンジョンの入り口には、どこから迷い込んだのか知らないがケルベロスが陣取っていて探索ができず放置されていた。
そのダンジョンが攻略されたとの情報が冒険者ギルドに舞い込んできたのがつい最近の話。いつの間にかケルベロスはいなくなっており、間を置くことなくダンジョンを攻略した人が居るのだという。
それだけなら話はここで終わる。ダンジョンを攻略できれば一攫千金を狙うチャンスだけど、そんな機会は滅多にない。
しかも、最近妙な噂が流れている。
なんでもダンジョンの奥には希少な鉱石が眠っているとのことだ。
攻略されたばかりのダンジョンの危険性はそんなに高くない。経験地が足りないため設備は整っていないし、侵入者迎撃用の罠や配下も高が知れている。それが一般的だ。
今回のダンジョンの危険度はクラスC-。ギルドパーティランクBの私たち【悠久の風】だけで十分攻略可能だ。
しかし、例の噂が流れて攻略を希望する冒険者たちが続出。あまりの多さにギルドは人数制限を掛けて集団攻略を命じた。
基本的にダンジョンの攻略は早い者勝ちとはいえ、こうも多いと支配者がコロコロ変わることになるだろうからこの処置も致し方ないと思う。
結果、攻略に挑む人数は三十人。先に支配者を倒した人が攻略者となる、とギルドから認知されるため誰が倒しても文句は言わない。これに抗えばギルドに――国に睨まれることになるからそんな馬鹿もいないだろう。
ざっと見た感じならず者が多く、総じてレベルは低いみたい。統率なんて取れるわけもなく、暫定的に頭の悪そうな大柄な男がリーダーになったけれど、恐らく個人行動になるだろう。
幸い、私たちはダンジョンの攻略が目的ではない。あくまで噂の希少鉱石に用がある。
希少ならギルドに高く買い取ってもらえるだろうし、魔術師のルセリアは魔術的な用途に使えるかもしれない。あまりそっち方面には詳しくないけど。
さっさと鉱石だけ手に入れよう。
「やっぱり罠は今のところないみたいね」
一本道を慎重に進む。ダンジョンに入ってから十分が経過したけれど、未だ長い道が続いていた。
他の連中は我先にと突っ込んでいったけど、私たちはそんな愚を冒さない。ランクC-とはいえダンジョンはダンジョン。なにが待ち受けているかわからないのだから。
「分かれ道だな」
オルレアンの言葉通り、道が左右に分かれていた。
「どっちに進む?」
「攻略図もなにもないんだから、取りあえず左でいいんじゃない?」
「それもそうね」
私の言葉に二人が頷き、左へ進む。
攻略図というのは現時点まで進んだ道を自動的に記録してくれる魔道具のことだ。ダンジョン攻略には欠かせないアイテムである。
当然、今も持ち合わせているけれど、このダンジョンは今回が初攻略のためマップを見ても意味がない。
それから五分ほど薄暗い道を歩き続ける。明かりはダンジョン内の各地に設置されされている【不滅の松明】のみ。魔術師のルセリアがいるから万一の明かりにも困らない。
「……変ね。こうも同じ道が続くなんて」
「ああ。見てみろ、この壁の亀裂、先ほど目にした覚えがある」
オルレアンの示した土壁には斜めに走っている小さな亀裂があった。
「同じところを回ってるというの?」
「その可能性が高いな。試しに目印をつけておこう」
オルレアンはナイフで壁に×印を刻んだ。
再び道を行くけれど、数分経つと目印のところに戻る。
「間違いないな。ループしてる」
「罠かしら」
「魔術の形跡は?」
「今のところ感じないわ」
どうしようかと顔を見合わせる。
リーダーであるオルレアンが口を開いた。
「近辺を調べてみよう。なにかしらの形跡があるかもしれん」
「そうね」
壁を叩いたり、足場や天井を注意深く観察しながら歩く。
先頭を歩いていたオルレアンが足を止めた。
彼女が注視する先にはぽっかりと開いた穴があった。
「脇道だと……? 先ほどまではなかったはずだが……」
確かに今まで歩いてきた中で脇道なんてなかった。一体いつの間に……。
「……見て。この土壁、他のと比べて滑らかよ。人工的に作られたものかもしれないわね」
ルセリアの言葉通り、脇道の壁は滑らかで亀裂の一つもない。
「なんにせよ、先に進むしかないだろう。気を抜くなよ二人とも」
「ええ、わかってる」
気を引き締めて一歩進めようとしたその時。
「ぎぃやあああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!」
やけに甲高い悲鳴が迷宮内を木霊した。
顔を見合わせた私たちは警戒レベルを高めて武器を構え直し、慎重に歩を進めた。
「うぅ……」
「俺の、う、腕が……ッ!」
そこには二人の男たちが通路に蹲っていた。
一人は身の丈はある魔法の杖を支えにぶつぶつと意味のない言葉をつぶやき。
もう一人は半狂乱になりながら欠損した腕をばたつかせ。
「これはいったい……」
彼らの姿には見覚えがあった。ここ最近飛躍的な成長を見せる期待のルーキーたちだ。
魔法の杖を持っている男は魔法国家ルギオン出身で、アルトハイム魔法学院の主席卒業生。魔法使いの腕は二十代という若さにしてランクB+で優れた火の魔法使いとのこと。
左腕の肘から先が欠損している男は昨年にファイン国で行われた武道大会の準優勝者。その大剣は岩をも砕くらしい。
そんな彼らが、まるで小鹿のように震えていた。
「あなたたち、一体なにがあったの?」
問いかけてもまともな反応を返さない。
薄暗い土の道の先を私たちは固唾を呑んで見つめた。
後書き
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