BloodTeaHOUSE
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ゆいちゃん
前書き
なんだかんだでイベントからまだ引きずってます。
あんまり無計画に小説なんか書こうとするとこうなるよってお手本みたいで、
ちょっと情けないですが、もうちょっとだけ引きずりますので許してください。
授業中に友だちからノート切れ端の手紙をもらうのは、女の子の些細な楽しみ。
休み時間に話せばいいような「リップクリーム貸して」とか「放課後みんなで遊ぼうね」
なんてことも、手紙でこっそり読むほうがずっと楽しいと思う。
いつものようにこっそり回ってきた手紙は少し違った。
―――かすみちゃんへ―――
相談したいことがあるの
お昼休みに屋上前の踊り場で待ってる
ゆい
ゆいちゃんからの相談の手紙。きっと、鈴木くんのことだよね。
前はお昼を食べてから行ったら、ゆいちゃんてばお弁当抱えたまま待ってたから、
今日こそちゃんと急いでいかなくちゃね。そう思いながらお返事を書く。
―――ゆいちゃんへ―――
お弁当、持って行くから
待っててね。 かすみ
屋上前の踊り場は、屋上へのドアに鍵がかかってるから、普段は誰も来ない。
だから、みんなの秘密の場所になってるのだ。
こっそり持ち込んだお菓子でお茶会をしたり、こういう相談事に使ったりする、
先生の知らない場所。
ゆいちゃんの相談って何かな?告白…するとか?
普段から男子とほとんど喋らないのに?うーん…あ、鈴木くんの好きな子の話?
あれから少しは、ゆいちゃんの好きな相手ってことで、
鈴木くんのことは気にするようになったけど、
そもそも、クラスが違うから相変わらずよくわかんない。
言われてみれば、たまにうちのクラスに来てるけど、
それだって男子同士のふざけあいをしに来てるように見えるしなぁ。
あれで特定の誰かを見に来てるなら、
ほかの男子全員がそうだと思わなくちゃいけない…気がする。
でもついこの前に、私はすごく人の気持ちに鈍感だって、思い知ったばっかりだから、
油断はできないよね………ちょっと思い出しちゃって、ヘコむ。
飛白とのあれこれは、一応解決したけど、
あんなことがあったせいで、けっきょく飛白に全面譲歩させちゃったし、
実は‥‥まだ少し心配なんだよね。無理させてないかなって‥‥
私も、飛白がほかの誰かの血を吸うのは嫌だっていうのは譲れないから、
無理してないかなんて、怖くって聞けないんだけど‥‥
もうしばらく、このことはそっとしておきたい。せめて、次の次の土曜日くらいまで。
お昼休みのチャイムが鳴るまで、ゆいちゃんのことを、あれこれ考えてたんだけど、
けっきょくなんにもわかんないままだった。
教科書とかを片付けて、そっと教室を抜け出す。
お弁当を持ってるから、先生に見つかると怒られるんだよね。
みんなお昼を食べてる時間だからか、廊下はがらんとしてて、いつもと違って見える。
なるべくこっそり移動して、屋上前の踊り場まで来たら、
やっぱりゆいちゃんはもう待っていた。
チャイムが鳴るのと同時くらいに教室を出て行っちゃったもんねぇ。
「ごめんね、待った?」
「ううん、いーの…」
ゆいちゃんは思いつめたような顔をして、踊り場の床を見つめてる。
隣に座ったけど、お弁当を食べながらって雰囲気じゃないよね。
「ゆいちゃん?」
黙ったままのゆいちゃんに声をかけてみる。
「…………鈴木くんに……」
「うん」
「……こ、こくは、く…された……の……」
え? そ、相談って‥‥それ? うれしくないの!?
「…あたし……泣いちゃって……」
あー…なんかわかった…ゆいちゃんてば、そういう不意打ちには弱いんだよねぇ。
前に1回だけ廊下の角に隠れて驚かしたら、その時もびっくりして泣いちゃったっけ。
「……電話でだったから…鈴木くん…電話…切られちゃって……」
うわぁ‥‥鈴木くんもどうしてそこで、電話切っちゃうかなぁ‥‥
私に相談されても、そんなの、どうしたらいいのかなんて、わかんないよー‥‥
「……どう、したら…いいのか……わかんなくって……」
私も頭抱え込みそうになるけど、そんな場合じゃないよね‥‥‥
「気持ち、伝えなきゃダメだよ。ゆいちゃん」
「……むり……さけられてる…もん…でんわ…ひっく…でて…ひっく…くれなかった…」
既に努力した後だったみたいで、ゆいちゃんは泣き出しちゃった。
「わかった……放課後、鈴木くん連れてくるよ」
「で、でもっ」
ゆいちゃんは泣きながらオロオロするけど、もう怒った。
自分の気持ちだけ言い逃げして、ゆいちゃんの気持ちから逃げ出すなんて、
友だちとして許せるわけがない。
「悪いけど、譲らないよ」
「……」
「ゆいちゃんは何を言うかだけ考えておいて」
「……わ、かった」
こういう時に私が絶対、人の意見を聞き入れないことくらいは、
長い付き合いだけあって、ゆいちゃんはよく知ってる。
「前にも、こーゆー事、あったよね」
「うん…」
「あの時はケンカだったけど…かすみちゃん、頼もしかった」
私は、4年生の時に運動会の練習中に無理をさせて、バレエに夢中だったゆいちゃんの
足首を捻挫させた男子を、家まで引っ張って行って
ゆいちゃんちの玄関でさんざんケンカして、土下座させた前科があるのだ。
「だって、ゆいちゃんがバレエできるようになるまで、3ヶ月もかかったんだよ?」
なかなかちゃんと謝ろうとしなかったあの男子に怒ったのは、しょうがないと思う。
「ふふっ、あのあとしばらく、かすみちゃんもケンカの怪我で大変だったくせにー」
玄関先で掴み合いのケンカしたせいで、頭をぶつけてしばらく包帯生活させられたっけ。
「あんなのはどうだっていいのっ。指さえ無事ならわたしは平気なんだから‥‥」
「うん、指怪我しなくてよかったよ。あたし、あそこまでできないと思うし」
ホントは少しだけうそ。家に帰ったら指も擦りむいてたんだけど、ナイショにしてたの。
「かすみちゃんは、好きな人、どうしてるの?」
「‥‥えっと、その‥‥ちょっと…近づいた‥‥かもしんない‥‥」
今の関係を説明するのはむつかしくて、あやふやな答えになってしまう。
「そーゆーの、ぜんぜん相談してくれないんだもんねー」
「う‥‥うぅ~‥‥その、こないだの発表会‥‥見に来てくれた‥‥」
「えっ!あたしのバレエの発表会と重なった時の!?うそー!」
そして多大な迷惑をかけちゃったんだよね‥‥思い出すと恥ずかしくて隠れたくなる。
「あーもうっ、見たかったな~その人! ねー、どんなひと!?」
「えと、背が高い‥‥」
そゆの聞かれるの、すごく恥ずかしいのに、ゆいちゃんてば目を輝かせてる‥‥
これはダメだ。こういう時のゆいちゃんは全部聞くまで、許してくれないんだよね。
「何センチくらい?」
「わ、わかんない‥‥顔が…このへん‥‥くらい‥‥」
立ってる時の差を手で教える。私が小さいから、頭一つ分くらいは余裕で差がある。
「うわっ、それ絶対180センチ以上だよね!?」
「うぅ‥‥たぶん‥‥」
もう逃げ出したいくらい恥ずかしいのに、ゆいちゃんは許してくれない。
「ほかには?かっこいい?どんな性格?趣味は?誕生日いつ?血液型は?特徴は?」
「許してよぅ‥‥」
「だめだめ!相談されても相手のこと知らないとアドバイスできないもん!」
「見た目とか、関係ないと思う‥‥」
「モテそうかどうかは重要だよーぅ!」
「ぅう‥‥たぶん、すごくモテそう‥‥」
見た目はびっくりするくらい美形だし、背も高い。
ゆいちゃんの想像してるのより、たぶんずっとモテそうだよね‥‥
「で?で?性格は?」
「わかんない‥‥けど‥‥やさしい…わたしには」
でも、人の好き嫌いは激しそうかも‥‥
「わかんないってどーゆーことなのよー?」
「う‥‥だって、本音とかあんまり言わないし‥‥」
外側は気まぐれだし、色々過激で問題ありすぎるし‥‥詳しく言えないよ~‥‥
私だって、外側だけだったら反対するもん‥‥
「あんまりってことは、かすみちゃんに本音ゆーんだ?」
「いちおう‥‥?」
「なーんで疑問形なのっ!」
「だって‥‥知られたくない…みたいだし‥‥」
そもそも事情もアレだから、説明できないし‥‥実は人間じゃないとか、お店も変だとか、
ゆいちゃんには、口が裂けても言えない事だらけ過ぎ‥‥
「ふ~ん?知られたくないよーなこと、話してくれたの?」
「えと、粘り勝ち‥‥みたいな‥‥」
最初に好きって言わなかったら、そもそも話してくれなかったわけで、
しかも、向こうは断る気マンマンだったし‥‥今ちょっと距離がよくわかんないし‥‥
いっつも最終的に私がワガママ通してるし‥‥
その辺もろもろ含めて、今はちょっと考えたくない事もあるし‥‥
「…なーんか…悩んでる?」
「…………………ごめん…言えないの……」
「そー言うと思ったよー…はぁ~…」
深々とため息をつくゆいちゃんは、それ以上何も聞かなくなった。
「今年の次の日だったよね。…誕生日のこと話してくれたの」
「うん…」
「どーせ…今回もそーゆー感じなんでしょ」
「……」
「ヘコんでる時は、気晴らしに付き合うからね」
「…ありがと」
毎年誕生日に学校を休む私を、次の日になんにも言わないでお祝いしてくれてた。
今年の誕生日が過ぎるまではゆいちゃんが心配だったの、と言えるまで、待っててくれた。
そして「知ってても何もできなかったんだから」って笑ってくれたゆいちゃん。
なんにも言わないのが、やさしい。
「泣かないでよーっ!こんなことくらいでっ!」
「えへ…ごめん」
こんなことくらいじゃないのに、そう言えちゃうところが強いよね…。
「それよりさー、鈴木くんに‥‥なんて言えばいいと思う?」
「…そのまま言えばいいんじゃないかな?」
「その、そのままーが、むずかしーから聞いてんのっ」
「えーと、鈴木くんが好き!‥‥とか?」
「ぅ、うまく言えないかもしんない‥‥」
「ゆいちゃんが言えるまで、逃がさないから大丈夫だよ?」
「かすみちゃんって、どーしてそーゆーとこだけ強気なのぉ~っ」
「情けないこと言わないで、頑張って考えてよね」
そう言いつつ、鈴木くん拉致計画を考える。
ゆいちゃんとこに連れてく前に、一言くらいは文句も言いたいからね!
後書き
こういう話を書くと実体験?と聞かれることがあるのですが、当たらずとも遠からず‥‥
という感じです。香澄ちゃんの性格からすると、友人のために怒るタイプかな?
どんな風に怒るかな?意外と過激かも?と思ってるうちにこうなったとも言えるし、
友人に友だちのために怒って、”凶器準備集合罪”で補導された子がいるのも事実です。
普段は温厚なその友人の優しさは、ゆいちゃんの優しさに似てたりするかも?と思ったり。
なかなか100%の作り話ってむつかしいですねってことかも知れないし、
実はのこあとがきが嘘の作り話かも知れないですw
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