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黒魔術師松本沙耶香  銀怪篇

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18部分:第十八章


第十八章

「当たれば貴女達の勝ちよ」
「そして私は貴女達のものよ」
 沙耶香の声は確かにする。
「どうかしら」
「来ないの?なら私から」
「くっ」
「待って、理子」
 前に出ようとする理子を紀津音が止めた。今度は立場が逆であった。
「多分あれは全部影でしかないわ」
「影なの」
「そうよ。だから仕掛けても無駄」
 彼女はそう述べた。
「だから今は」
「そうなの。じゃあどうするの?」
「それは」
 どうしていいかまでは紀津音はわからなかった。だがここで理子の頭の中にあることが閃いた。
「そうよ」
 そしてすぐに紀津音に対して言った。
「紀津音、火を出して」
「火を」
「影は闇、火は光」
 彼女はそう語る。
「それでわかるわ」
「そうね。火は光を出す」
 それを聞いてようやく理子が何を言いたいのかわかった。
「それなら」
「そう、そしてこの霧もね」
「消せるわね」
「ええ」
 霧は水である。火の熱気で消えてしまう。それもまた理子の狙いであったのだ。
「それじゃあ」
 紀津音は早速またあの青い狐火を出してきた。そして自身の身体に纏う。
「目くらましにしては中々やるけれどこれで終わりね」
「今度こそ。仕留めてあげるわ」
 理子も身体を縮めて攻撃態勢に入る。正体が見えた途端に襲い掛かるつもりであったのだ。
「受けなさいっ」
 紀津音は己の火を辺りに放った。
「これで私達の勝ちよ」
 炎が放たれると忽ちのうちに霧が消えていった。
 影に当たると影も消えていく。理子の読み通りであった。
「最後の一つ、それが貴女」
 理子は影達が消えていく中で呟いた。
「それの命は今、貰ったわよ」
 これは直感でそう見ていた。声は確かにする。ならば沙耶香は間違いなくここにいる。それを読んだうえで攻撃を仕掛けるつもりであったのだ。
 影達はさらに消えていく。遂に最後の一つになった。
「あれね」
 狙いを定めた。すぐに攻撃に向かう。
 風の様に跳びその爪で切り裂く。しかし。切り裂いたのは虚空であった。
「なっ!?」
「ふふふ、残念だったわね」
 また沙耶香の声がした。今度は上からであった。
「そこには私はいなかったのよ」
「なっ」
「それじゃあ」
「迂闊ね。私はずっと上にいたのよ」
 見れば宙に沙耶香が浮いていた。ズボンのポケットに両手を入れて悠然と笑っていた。
「そして貴女達を見ていたのよ」
「くっ、あの声は」
「私の影達はね、話せるのよ」
 沙耶香は言う。
「私と同じようにね。だからよ」
「そうだったの」
「だからああして」
「そういうこと。そしてね」
「むっ」
「私はここからでも魔術を使えるのよ。これはわかるわね」
 身構えた二人に対して言った。
「ここからでもね。これで決めるわ」
 右手をポケットから出して悠然と顔の前で動かしはじめた。
「受けなさい、私の魔術」
 爪が紅に変わった。そこに雷が宿っていく。紅の雷が。
「行きなさい、雷達」
 下に手を向ける。まるで剣を突くように。
 するとそこからその紅の雷が放たれた。まるで生き物の様に地面に舞い降りる。
 雷達は無数に分かれて地面を這う。その動きは二人といえどかわしきれるものではなかった。
「うっ!」
「これは・・・・・・!」
「魔力によって意識を持った雷よ」
 沙耶香は言った。
「これをかわせるのは難しいわよね。貴女達でも」
「まさかこんなものを」
「使えるなんて」
「言った筈よ、私は魔術師」
 二人を見下ろして悠然と語る。その下では二人が紅い雷に襲われ次々と傷を負っていた。闇の中に紅い光が無尽に動き回り妖しい光を放っていた。

 
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