BloodTeaHOUSE
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んごーのいない日
森では雨が降っていた。
家の近くでも降ってたから折りたたみ傘を持ってきていて正解だった。
「こんばんわ」
「おっす、香澄!」
「君を待っていたよ。さあ、熱い夜を過ごそうじゃないか」
「黙れ、変態。仕事しろよ」
「嫌だね」
「あれ?んごーは?」
カウンターにいつもいるんごーの姿が今日はない。
「オーナーなら、競馬で万馬券当てたとかいって、飲みに行ったらしいよ」
「そうやって、調子に乗ってるから、店の経営がアブナイんだよ…」
いい加減なんごーのせいで、本日は店員二人だけらしい。
まあ、んごーはいつもそこにいるだけで、何もしてないけど。
いなければいないでちょっとさみしい気がしないわけでもない。
っていうかあんな姿で飲み屋に行っても大丈夫なんだね。
「梅シロップのソーダ割りだよ」
コトリと出されたのは半分に割られた梅の果肉が入ったソーダ水。
「ちょうど季節にピッタリだね」
そう言って一口。甘酸っぱい梅と炭酸がすごく美味しい。
美味しくてにこにこしてると、お客さんがやってきた。
二人連れだけど、二人ともうさ耳だ!……うさぎの妖精?
このお店に来てるってことはコスプレとかじゃないよね?
ふわふわの柔らかそうな髪の毛のスレンダーな女の子と
銀色の髪の毛にメガネ、蝶ネクタイに懐中時計のお兄さんだ。
……時計とうさぎってアリスだったよね。3月うさぎ?
「おーっす、飛白。久しぶりやなー」
「こんばんわー裏子」
どうやら飛白たちと知り合いらしい。
「やあ、うさぎの夫婦さん」
「おっす、美耳、ダミアン。久しぶりだな!」
「飛白と裏子のお友だち?」
飛白を見上げると
「香澄は初めてだったな」
「友だちというより腐れ縁だね」
「はじめまして、美しい耳と書いて美耳。美耳って気軽に呼んでね」
にっこり笑うとふわりと髪が揺れてすごく可愛い。
いかにも女の子って感じがいいなって思う。
私の髪の毛は真っ直ぐだからこんな揺れ方はしないよね。
「俺の事も、気軽にダミアン様って呼んでエエで」
関西弁だ。今日んごーがいない理由が一瞬なんとなく理解できたような気がしたけど、
気のせいだろうと思う。
「はじめまして、澄んだ香りと書いて香澄っていいます」
ペコリとお辞儀してると、
「あそっか。今日は6月6日だからダミアンの誕生日なんだな」
裏子がカレンダーを見て、ダミアン様の誕生日を思い出したみたいだ。
ダミアン…古い映画の悪魔の名前だっけ?だから666で6月6日?
「そうなの♪」
「だからというわけやないけど、まあちょっとデートしてみよかってことになってな」
ちょっと照れくさそうにダミアン様はそう言う。仲良さそうでなんだか羨ましいなー。
デートってことは恋人同士?夫婦でもデートってするの?
私もいつか恋人とかできたら………うーん。想像できないや。
やっぱり2人は飛白たちと親しいらしく、カウンターのわたしの隣の席にすわった。
「お誕生日おめでとう、ダミアン様っ」
「おめでとう、ダミアン」
「おめとう、なのかな?ダミアンくん」
「おめでとう。ダミアン、様?」
耳美とダミアン様はニンジンジュース、私は梅のソーダで乾杯をする。
「まあ、この歳になると、美耳に祝われる意外は、どうでもよくなってくるってのは、そうやけど」
大人になるとそうなるのかな?
まあ、去年までは私誕生日嫌いだったし、普通の感覚ってよくわかんないかも。
でも、今年はスペシャルにいい誕生日だったと思う。
あ、でもこのお店にくるってことは見た目と違う年齢なのかもしれないよね?
「ダミアン様っていくつになったの?」
なんとなく興味が沸いて聞いてみた。
「人間で言うと24くらいやな」
なんともアバウトな答えだ。一応寿命があって年を取って死ぬってことなのかな?
不老不死じゃなくて、長寿で丈夫ってこと?
「美耳はもしかして3月3日が誕生日?」
なんとなく名前から想像してみた。ミミミ…333、3月3日。
「そう!ぴったりでしょ?」
誕生日を当てたら、ふわふわの髪の毛を揺らしてうれしそうに笑う顔は、
裏子とくらべて少し大人っぽいはずなのに、なぜかお姉さんに見えない。どうしてだろう?
「そういえば飛白たちの誕生日っていつ?」
「ん?アタシは1月9日。わかんないから自分で決めちゃった」
「僕は2月13日。オーナー3月24日はだったずだよ」
「全員冬生まれなんだね。えっと、裏子が山羊座で飛白が水瓶座、んごーは牡羊座だね」
しかも飛白はバレンタインデー前日かぁ。できればお祝いは別にした……
なっ、何考えてるんだよ!! 私!
「そういうお前はいつなんだ?」
頭をぷるぷる振ってたらそう聞かれて、ちょっとためらってから
「…えっと、このお店に初めて来た日。5月10日だよ」
「えぇ~~~~~っ!言ってくれればお祝いしたのに!」
「え、でもあの日は、そんな雰囲気じゃなかったし……
それに、このお店のこられた事が1番のプレゼントだったんだから、いいの!」
そう、今こんな楽しい時間を過ごせるのも、誕生日に届いた
このコウモリのペンダントのおかげだから、今年の誕生日はホントにスペシャルだった。
「なら、来年は盛大に祝ってあげよう」
「そうだな!」
腕にぐっと力こぶを作る真似をして裏子は笑いかけてくれた。
「ねえ、美耳。さっき夫婦って飛白が言ってたけど、恋人じゃないの?」
となりでニンジンジュースを飲んでる美耳にきいてみた。
「えっとね、お散歩してたらダミアン様に声かけられて、
焼きトウモロコシおごってもらって、お嫁さんになる約束したのっ」
「えーっと…よくわかんないんだけど、現在婚約中ってことなの?」
焼きトウモロコシで結婚の約束………
お菓子あげるよ~って言われて釣られちゃって、誘拐されちゃう子どもの話みたいだね。
「美耳はまだ9歳やからな、光源氏計画中やねん」
「えっ!わたしより年下!?」
どう見ても、わたしより見た目はずっと大人っぽい。
けど、そう言われてみれば、やっぱりお姉さんって感じはしないな。
「俺が魔法で、ちょっと見た目だけ成長させたんや。
こんな時間に、子供連れ歩いたら、あやしいヤツにしか見えへんしな。
ホンマの姿はほれ、こんなんや」
ぽんっと急に美耳が小さくなった。私よりずっと小さい。
ぷにぷにのほっぺにエプロンドレス、耳とお揃いの色の手袋と靴。
ダミアン様と並んだらホントに不思議の国のアリスみたい。
「わー小さくて可愛い~っ!」
思わずギュッと抱っこしたら「せっかく大きくなったのに!もどして~!」
とジタバタされてしまって、あっという間に元のお姉さんの姿に戻ってしまった。
「なるほどーこれが魔法かーって、魔法っ!? ダミアン様は魔法使いなの?」
当たり前みたいに魔法って言葉が出てきて、びっくりして思わず身を乗り出した。
「俺は魔族やから魔力使うけど、飛白かて力の強いヴァンパイアやし魔力持ってるやん」
へー。ダミアン様ってうさ耳なのに魔族なんだー。…そういう種族なのかな?
ヴァンパイアもコウモリになったりするって物語で読んだことがあったかも。
「飛白も魔法、使えるの?」
「魔法というほど万能じゃないけど、空を飛んだり、霧になったり、
狼や蝙蝠に姿を変えるくらいならできるよ」
蝙蝠かぁ・・・飛白って背が高いから小っちゃい蝙蝠は想像しにくいなー。
あ、でも狼なら想像しやすい。うん、毛並みとかよさそう。
寒いとこにいる白い狼とかだったら綺麗だろうな~。
「巨大化とか合体はできないの?」
ぶっ! …他意はないんだろうけど耳美の言葉に思わず吹き出す。
中学生にそういう意味深な言葉は禁句ですよっ!
「当然できるよ」
9歳の子どもに何言ってるのよ…飛白
「ホント!? 見せて見せて~!」
イヤイヤイヤイヤ!! 何言ってるのっ!耳美ちゃん?
見ちゃいけないよ!?ダメだよーっ!!
「耳美はまだちっこいから早いな。もうちょい大きなったらな」
…ダミアン様まで……こういうノリが普通なの?
「香澄の前で変な話するなぁ!!」
あ、裏子は通常運転だね。うん、ツッコミができる人って重要なんだってよくわかった。
「裏子はなにかできる?」
「アタシはたぶん、やろうと思えば何かできるかもしれないけど、
記憶がないからやり方がわかんないんだよね」
「そうなんだー。なんだか、いろんなことがびっくりだよ。
うさ耳なのに魔族だとか、美耳のホントの姿とか、飛白が空を飛べるとか」
両手で頬杖をついて、ほぅっと息をついたら、
飛白がグラスから梅の果肉を掬ってくれたので、もぐもぐと食べる。
「そんなに驚いたのかい?
なら僕のことをもっと知ってもらうためにも、一夜をともにしようじゃないか」
飛白に触られたらなんか恥ずかしいから、やだ 心の中で答えると
「おいおい、飛白。口説くんやったら時と場所を選ばんと成功せえへんで」
「焼きトウモロコシで許嫁を手懐けたダミアンくんには言われたくないね」
「その前に香澄を口説くことをヤメロ!」
「なら耳美ちゃんを口説こうか」
「……」
地獄のような顔で怒る裏子に、
―――本当に怒った裏子は地獄の鬼ではなく地獄そのもののような顔をするのだ―――
爽やかな笑顔で神経を逆なでするような事を言う飛白の神経は相当太いと思う。
「ダミアンくんを口説いて耳美ちゃんと三角関係になるというのも面白そうだね」
「飛白×ダミアン様だね!」
え、耳美…なんでそこで目を輝かすの?婚約者なんでしょ?アレですか?
今流行りの発酵系女子ってやつなの? アニメキャラとかの架空の人で
騒ぐ子はクラスにもいるけど、現実にいる人でも対象になるなんて
9歳にして中々の強者だよね‥‥っていうか自分の婚約者なのに右側なんですね。
「耳美……」
あ~ぁ。ダミアン様げんなりしちゃってるよ。
「面白いかどうかで選ぶな!」
ん~。飛白ってエロ発言は多いけど、裏子のこと怒らせるために言ってるだけーって
感じがするのは気のせいなのかな?
女子をからかって遊ぶ小学生男子…みたいに時々見えるんだけど。
裏子がああいう反応しなかったら……うん、裏子じゃないね。別人だわ。
裏子の反応はおもしろいから、飛白の言うことは嫌いじゃないな。
私に被害が来なければね。
後書き
記念すべきクロスオーバー第一弾です。
どうやら親しいらしいので、使わせていただきました。
耳美とダミアン様に合うなら、こちらからどうぞ。http://pink.rgr.jp/cp2/
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