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BloodTeaHOUSE

作者:
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記念日

 
前書き
イベントネタバレがやってきました。
こちらを読む前に是非本体で遊んでください!お願いします((。´・ω・)。´_ _))ペコリ









   

 
「100回目のご来店、ありがとうございまーす!」
「おおきにやでー!」

裏子とんごーの手にはクラッカー。パーンと派手にテープと紙吹雪が舞い散る。
え、100回目? 数えててくれたの……?

「「なんとっ!」」
「今日でお前がアタシらに会うのは100回目なんだ」
「全くヒマ人やなあー」

わ、なんか、すごく嬉しい。そっか、もう100回もお店に来てたんだ……。

「ま、冗談はさておき、根気よく付き合ってくれてアリガトな」
「これでワイらも成仏することができるわー…」
「そうだね…もう思い残すことは何もないね」

え? 成、仏? 思い、残すことが、な、い? 急にしんみりした空気に変わって焦る。

「裏子? んごー?」
「ちょい寂しい気もするが、今日でお別れやね」
「じゃあ次会う時は天国で!」
「ワイらがおらんくなっても元気でな!」

すぅっと裏子たちの姿が薄れていく。待って!いかないで!
手を伸ばしても裏子たちの姿を捉えられない。どうしよう……ほんとに消えちゃうの?
そんなのやだよ!もっとみんなと一緒にいたいよっ!!目から涙が溢れてくる。

「やだ……待って!待っ……」

 消え、ちゃ、った………。
ぼろぼろ溢れてくる涙をどうしようもなくて、うつむいて立ちすくんで動けないでいると、
ふっとお店の明かりが陰る。

「か、すり………?」

まだ、飛白は消えてないの?やだよ。消えないで!消えちゃやだ!
思わずギュッとしがみついたら余計に涙出てくる。

「やだ…消えない、で……ふぇっ…」
「………以上、100回記念ドッキリでした」

………………………え?

「あ―――――――――っ!ちょっと飛白!何勝手にバラしてるんだよっ!」
「オイシイとこ持っていくなやー!」

飛白の言葉に裏子たちが飛び出してきた。目の前の展開に、頭がついていってくれない。
ドッキリ?裏子たちは消えないの?

「ふぇっ……ふぇ~~~~~ん」

あんまりびっくりしすぎて、飛白にしがみついたまま、私はわんわん大泣きしてしまった。


「落ち着いた?」

ハチミツ入りのホットミルクの入ったマグカップを両手で持ってるとじんわりあったかくって、安心する。
涙もようやく止まってくれた。コクンとうなずくと

「あぁーあ。盛大に”ドッキリひっかかりバツゲーム大会”を開催しようと思ったのにな」

裏子はいかにも残念だというふうにグチる。でも、わたしが泣いてた時は大慌てしてた。

「また悪趣味なことを考えるね、君も」

ホントだよ。消えていく裏子とんごーを見たときすごく心細かったんだからっ!

「ちぇー、失敗かあ。次は200回記念だな!」
「……少しはこりたまえよ」

次はぜったいに騙されたりしないもんっ!とぷぅっとほっぺたを膨れさせてると、

「スネてる顔もかわいいけど、これにこりずに店に通ってくれたまえ」

くしゃくしゃと頭を撫でられる。

「…うん」

あったかいミルクとおんなじくらい、やさしい手。

「まさか嬢ちゃんがあんなに大泣きするとは思わんかったなぁ」
「香澄ちゃんの感受性か強いのはわかっていただろう?」
「でも、そないにこの店 好いてくれてるっちゅうんは、なんや嬉しかったなあ」

あらためてそう言われるとちょっと照れる。
なんて言えばいいのかわかんなくって、黙ってミルクを飲む。あったかい。


あのとき、裏子か消えちゃって、どうしようって思ってとき、飛白が出てきてくれて、すごくホッとした。
思いっきりしがみついて泣いてしまったな。
飛白だけでも消えて欲しくなくって、手の中のシャツが消えないようにって思いっきり掴んでしまった。
おかげで、いつもぴしっとしてる飛白のシャツにはシワがついちゃったし、涙の跡だらけだ。

「えと、シャツ……ごめんね」

とりあえず謝ってみる。とたんに涙がまたこぼれた。
やだなぁ。これじゃ情緒不安定みたいじゃない。

ゴシゴシと目元を拭いながら、抱きついた時の飛白のことを思い出す。
夢中だったけど、恥ずかしいことしちゃったなぁ。

「気にしなくていいよ、裏子ちゃんたちが悪いんだから」
「なんだよーちょっとしたイタズラだろ?」
「まあまあ、泣かしたんはワイらやねんから」

わいわいと言い合いしてるの見て、今いてくれてることを実感したら涙がまたこぼれる。

「こーら、いつまで泣いてんだよ」

裏子にぽんと頭を叩かれる。

「あはは、そだよね。でも、みんながいるんだなーって思ったらうれしくって」

照れくさいけど、正直に言う。

もう誰かとのお別れなんてしたくないな。
そんなの無理だけど、せめてこのお店の人たち、飛白たちとだけはずっと一緒にいたい。

「今度は嬉し泣きかいな」
「忙しいやつだなー」
「どうせ君を泣かせるなら、僕はベッドの上がいいね」
「ダマレ」


通常運転に戻ったのに安心したのか、いっぱい泣いて疲れたのか、あったかいミルクのせいか、
いつの間にか香澄は眠り込んでしまった。


「あちゃー、嬢ちゃん寝てしもたみたいやなー」

カウンターに突っ伏してすぅすぅと小さい寝息を立てる、目元は擦りすぎたせいか、少し赤い。

「どーすんだよ、コイツ明日も学校だろ?」
「その前に朝になって家におらんかったら親が心配するやろ」
「じゃあ起こすか?」
「それもかわいそーやなー」
「こんな時間だしね」

ちらりと時間を確認すると壁の時計はとっくに日付を越えた時間を指している。午前2時15分だ。

「とりあえずこんな格好のまま寝かせとくんはアカンやろ」
「なら僕がソファの方の運ぶから、何か彼女に掛けるものを持ってきてくれないかな」
「アタシの毛布でいいか?んごーのはオヤジくさそうだし」
「いらんこと言うてんと早よ行ってこい!」
「「 シーッ! 」」
「す、すまん…」


ソファに下ろし、毛布を掛けると密かに身じろぎし小さな声を出す。

「……ん…」

起きたのかと3人で覗き込んでみるが、そのまままたすぅすぅと静かに寝息をたてはじめてしまう。

「アカンな、熟睡しとるわ」
「起きそうにないなー」
「それはいいんだけど…」

珍しく飛白が困惑した顔をしている。
見るといつの間に掴まれたのか、飛白のエプロンの端が握られている。

「ぷっ」

裏子が思わずといったふうに吹き出す。

「笑い事じゃないよ、これじゃ動けないんだけど」

腕を組んで苦笑いするけど、振りほどく気はないようだ。

「お前いつも仕事してへんやん」

んごーは何を今更言ってるのだ、といったふうである。

「ここじゃ香澄に不埒なことできないもんなー。いい薬だよ」

ニヤニヤ笑ってざまみろとばかりに裏子は言う。

「……やれやれ」

諦めたのか、手近なところにあった椅子を引いて腰を掛ける。

「で、どうするんだい?」

起こすか、寝かせておくか、ではなく、
このままここに寝かせておくわけにはいかないだろうといったニュアンスの言葉である。

「もうちょい様子みて、起きそうになかったら2階に泊めたるか?」
「そうだな。早めに起こせば家の方も大丈夫だろ」

幸いなことに居住部分である2階には部屋が余っている。

「なら僕は付き添いかな」
「んなわけないだろ!エプロン外せばすむことだ。バカ!」

笑顔で不穏な発言をする飛白を裏子白い目で見ながらが釘を刺す。

「寝てるところを襲うのも楽しそうだったのに、残念だね」

そう言いながら、香澄の長い髪の毛を梳いてやる。
黒くてまっすぐな髪の毛はしっとりとしていて質のいい絹糸を思わせる。

「そんなこと この裏子サマが許すワケ無いだろ!」

座ってるせいで目線の下がった飛白を見下ろし腰に手を当てビシッと指をさす。

「騒ぎなや、嬢ちゃん起きてまうで」
「わ、悪い…」

3人とも彼女を起こす気はないようである。

「じゃ、使ってない部屋片付けないとだな」
「裏子の部屋はアカンのか?」
「んー。アタシのベッド狭いんだよネー」

ごまかすように笑う裏子。

「寝相が悪いから香澄ちゃんを蹴り落としてしまうかもしれないしね」
「なっ、なんでお前が知ってんだよ!」
「おや、図星かい?」

くすっと飛白が笑う。どうやらカマをかけたのに引っかかったらしい。

「うるさいっ!部屋片付けてくる!」

ぷいっとそっぽ向いて、2階へ行ってしまった。

「裏子ちゃんに任せておいて大丈夫かい?」

裏子はよく働くが性格が大雑把なせいで、細かいところに気がつかない。
任せておけば、”とりあえず寝られる部屋”になってしまうは間違いないだろう。

「かとゆうて、ここにお前だけ置いてくわけにもいかんやろ」
「まあ、そうだね」

飛白とて、さすがに店の中でどうこうするつもりはないが、裏子が許さないだろう。

「……ゃだ……死んじゃ……ゃ…」
小さなつぶやきとともに閉じた目から涙が一粒こぼれる。
「香澄ちゃん?」
「……ぉとぉさ……ぉか…さ……ゅ…ゃ……」
呼びかけても目を覚まさないところをみると、寝言らしい。


「寝言かいな?」
「みたいだね」
「そんなにショックやったんかなー」
「それだけじゃないと思うよ」

黒い髪に指を絡めながら飛白は言う。

「どういうことや?」

んごーは眉を寄せる。
毛は生えてないけど、わざわざそこだけ色を変えて表情をわかりやすくしているのだ。

「この前、裏子ちゃんが死んだことがあるって言ったことがあったよね」
「あぁ、あんときも嬢ちゃんえらい泣いて難儀したなぁ」

目を細めてんごーは思い出す。何の予兆もなくボロボロ泣き出したから随分驚いた。

「それに今、両親のこと呼んでたしね」

人の死や別れに敏感で……
彼女が初めて店に来た日、喪服のように真っ黒なワンピースを着てたっけ。

「ただの夢やったらええな」
「そう、だね」

ただ夢ならいい、そう願いながら、長い髪を梳く。


「おーい、一応片付けたぞー」

裏子が顔を出したので、抱き抱えて部屋へ連れて行く。
手にはエプロンが握られたままなので、めくれ上がって不格好だがこの際仕方がない。
部屋に入ると、案の定”とりあえず寝られるようにした”といったふうで、
ベッドのシーツやカバーは変えてあるが、掃除機のかけかたはいい加減だ。
四角い部屋を丸く掃除したといえばわかりやすいだろうか。まさに”一応片付けた”だ。

「一晩だけならこれでも仕方ないか」

そう言って、香澄をベッドに寝かせ上掛けをかけてやる。
制服のエプロンを外し、枕元に置く。


夢を見た。

夢の中の私は妹と一緒にお昼寝していた。
お昼寝から覚め、いつもなら自分より先に起きてグズる妹がやけに静かで、
抱き上げたら息をしてない。おかあさんおかあさんと喉が潰れるかと思うくらい叫んだ。
場面がかわった。機械だらけの部屋にベッドがひとつ。
ガリガリに痩せて、あちこちをチューブで繋がれたお父さんが寝てる。
喉にも呼吸用の管が繋がってるからお父さんはもう話すことができない。
お母さんに押されて近寄ってみるけど、皮と骨だけになったみたいな手とか足が怖くて、
名前を呼ぶのが精一杯だった。
お父さんはゆっくり頷いてそのまま目を閉じて動かなくなった。
病室に集まった人達はみんなすすり泣いてた。
苦しそうなままのお父さんの顔を見てると視界がぼやけてきた。
ぼやけた視界からまた場面が変わった。
薄暗い霊安室。警察の人に連れられてその部屋に入ると、一台の台車が置かれていた。
台車の上にはビニールシートが被せてある。
誰かが「ご確認お願いします」そう言ってシートがめくられた。
頭をぶつけたのか轢かれたのか、右側の部分がが赤黒く染まっていて潰れていて、
その場で胃の中身を戻した。
口の中のすっぱい味と気持ち悪さに蹲ってるとまた場面が変わる。
何度も何度も変わる場面はどれも人が死ぬところ。
見た訳でもないはずの場面まで出てくる。
川から引き上げられるオジサンや、首を吊ってる従兄弟なんか見なかったのに。
そのうち、知らない人の死ぬところまで流れていくようになる。
助けて!こんなのもう見たくない!叫んで目を閉じても映像が直接脳に流れ込んでくる。

「…ん……ゃん……みちゃん……」
揺すられる体と呼びかけられる声に意識が浮上していく。

「香澄ちゃん?」
「………………ぁ」

目を開くとぼやけた飛白の顔と知らない天井があった。

「…か…す、…り?」

状況がよくわからなくて名前を呼ぶ。
そうだ、ドッキリに引っかかってたくさん泣いたんだっけ。
瞬きしたら涙がこぼれて、また泣いていたことがわかった。

「家の人が心配するだろうから、そろそろ帰ったほうがいいと思って起こしに来たんだ。
 ちょうど良かったみたいだね。うなされていたよ」

目元を拭きながら体を起こすと、こじんまりとした部屋が目に入る。

「ここ…は……?」
「店の2階だよ。昨日君が寝てしまったから、余ってる部屋で寝てもらうことにしたのさ」

えっと、ここはお店の2階、昨日たぶんいっぱい泣いたから寝ちゃったんだ。

「んごーと裏子は?」
「眠気に負けて休憩室で寝てるよ。夜中に何度も君の様子見に行ってたからね」

迷惑かけちゃったな。

「あの、迷惑かけてごめんなさい。それと、泊めてくれてありがとう」

ぺこりと頭を下げる。

「迷惑ではなかったし、お礼を言うなら涙を止めてからだね」

そう、私の涙腺は壊れてしまったみたいにポロポロと涙をこぼす。

「ご、ごめんなさぃ…」

そう言って何度も目をこするけど、涙は止まってくれない。
こんなことは初めてでどうすればいいのかもわからない。

「そんなに夢が怖かったのかい?」

頷きかけて途中でやめて、首を振る。怖かったんじゃない。

「かなしい夢、だった…」

毎年当たり前のように誰かが死んで、お葬式に出た。
お葬式に慣れて泣くことがなくなったのはいつ頃からだっただろう。
柩に取りすがって泣き叫ぶ人を、何処か遠くから見るようになったのは、いつからだっただろうか。

「両親の夢?」

飛白の言葉に顔を上げる。そしてゆっくり頷く。
そうしたら涙がまたこぼれてベッドカバーにふたつシミを作った。


徐々に明るくなっていく窓の外に、
帰らなきゃという思いと今日はお休みしてしまいたいという思いがまぜこぜになる。

「おいで、ホットミルクを入れてあげる」

そう手を差し伸べられたので、その手を取ってベッドから出る。
階下に下りるといつもの賑やかさはなくて、窓からは薄明るい朝日が差し込んでいる。
まるで違う場所みたいだ。
いつもの席に座ってぼんやり店内を眺めていると、

「どうぞ、はちみつとブランデー入りのホットミルクだよ」

ふわりと香ばしくて甘い香りのホットミルク。
火傷しないようにそうっと飲むと胸のあたりがほわんとあったかくなる。

「……おいしい」

私がミルクを飲んでる間、飛白は何も言わなかった。
甘いハチミツとブランデーの香りが優しいホットミルクで心を包んでくれる。
一口ごとに心が柔らかくなっていって、少しずつこぼれる涙も少なくなっていく。
ミルクを飲み終える頃には涙もすっかり乾いてた。
最後の一口を飲み干して、ほうっと息をついた。

「少しは元気になれたかい?」
「うん…ありがとう」

ゆっくり顔を上げて笑う。飛白も笑う。その顔が優しく見えて胸のあたりがきゅっとなる。
この顔、好きだな。いつもの人をからかう時の顔と違う、優しい顔……

「だぁぁあああああっ!寝過ごしたーっ!!おいっ!なんで起こさないんだよ!!」

焦った様子で大声を上げて裏子が出てきた。ちょっと髪の毛に寝グセが付いてる。

「ってあれっ!? 起きてたのかっお前!」

私を見た裏子は驚きの声を上げる。そして、じーっと私の顔を覗き込んで。

「おい、飛白になにかされたのか!されたんだろっ!」

キッと飛白を睨みつける。
あー…そういえば泣いたあと顔も洗ってなかった。ひどい顔してそうだなー…

「されてないよ?ちょっと夢見が悪くってうなされたの!」

わたわたと説明するけど、

「じゃあなんで泣きはらした顔してんだよ!」

どうやら飛白が私を泣かせたと思い込んでるみたいだ。

「夢が怖くって泣いちゃったの、えっと、そう!昨日の夢見て怖くて!」

昨日のドッキリの夢を見た。うん、言い訳としては出来が良さそう。

「えっ!夢に見るくらいショックだったのかっ!? ゴ、ゴメンな」

あ、ちょっと罪悪感。でも、こうでも言わないと飛白が責められちゃうよね?
裏子が騒いでるとその声につられてんごーも出てきた。

「おー嬢ちゃん早起きやなー」

んごーはまぁ、変わりようがないよね。いつもどおりだ。

「えっと、途中で寝ちゃったんだよね。泊めてくれてありがとう」

ぺこりと改めてお礼する。

「元はといえば裏子ちゃんたちのイタズラのせいだからね」
「それより家はええんか?」

時間を見ると午前5時45分。7時少し前に人が来る。

「ここって携帯…あ、使えるんだ」

ポケットから取り出して携帯は意外にも電波の線が3本立っていた。
メールで友達の家に泊まってそのまま学校に行くってハウスキーパーのふみさんに連絡を入れる。

「これで大丈夫!っていうか午前中は帰れなくなっちゃった♪」
「そんなんでええんか?」
「サボリかい?悪い子だね。お仕置きが必要…」
「なわけないだろっ!でも‥‥学校はいいのか?」
「うん。普段は真面目だから大丈夫」

授業もちゃんと受けてるし、ノートもちゃんととってるし、提出物もちゃんと出してる。
成績もまあまあ良い方。普段はズル休みもしない、真面目で目立たない生徒だと思う。
今はとにかく朝からいっぱい泣いたし、とりあえず顔を洗いたい。

「裏子、顔洗いたいんだけど、洗面所借りれる?」

タオルを借りて休憩室の横にある洗面所で顔を洗って髪を梳かす。
それだけで随分さっぱりした。
お店に戻ってくると、あったかいおしぼりを渡された。

「朝食ができるまで、乗せて目を温めたほうがいいよ」

乗せてみるとたしかに気持ちいい。じんわり温まる目元にほっとする。
目を閉じてると、飛白の顔が思い浮かんで胸がまたきゅっとなる。
 なんだろ、これ……?
よくわからない自分の気持ちに知恵を絞ってると、

「どうぞ、胡桃のスコーンとダージリンのミルクティー、それとベーコンエッグだよ」

スコーンには杏のジャムとクロテッドクリームが添えられていて、卵はちょうどいい半熟。
紅茶は香りが強めで、朝食によく合う。

このお店に来るようになってから、紅茶に砂糖を入れなくなったのは
こいう絶妙な取り合わせのおかげだと思う。

「うわぁ、クルミってこんなにおいしいものだったんだね」

スコーンの中のクルミはジャムと合わせてもクロテッドクリームと合わせても
負けない自己主張をするのに優しい味がする。

「おしゃべりしながら朝ごはん食べるのも久しぶり。すごく楽しい」

思わずポロっと言ってしまって、あっと口を塞ぐ。

「ん?ここで朝ごはん食べたいなら休みの日に来ればいいだろ?」
「そだね。えへへ」

裏子が普通の反応だったのでほっとする。

「次の機会があったら、みんなで食べるのもええなー」
「それ!すごく楽しそうっ!」

んごーの提案にぱっと顔が明るくなる。うん、それすごく楽しそう!

「機会があればね」

んー。作るのは飛白になるだろうし、あんまりしょっちゅうじゃ悪いかな?
でも、時々でいいからみんなでご飯食べたいな。









 
 

 
後書き
なんか途中から香澄ちゃんが寝てしまったので、外泊&サボリをさせてしまいました。
基本的にあんまり考えて話を書いてないので、思わぬ横道にそれることが良くあって、
最終的な話の筋を変更することが結構あります。

ん?このセリフのせいで流れ変わった?ってのは諦めてその流れに乗ったほうが楽な方が
多いのですが、次の話に関わる部分だとちょっと頭抱えたくなります。
そんな話はまだ出てきてませんので、今後はちょっとだけそういう視点も入れて読むと
おもしろいかもしれない?と思ったりw
適当に書いてたのでまとまらなくなってwで誤魔化しました。 
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