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BloodTeaHOUSE

作者:
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伴奏

私はすごくバイオリンが好き。どのくらい好きかっていうと、
許されるなら一日中弾いていたいくらい。って言えばわかるかな?

部屋にはエアコンも除湿機だって置いてるし、ケースにもシリカゲルを入れてるくらい
今のバイオリンはすごく大切にしてる。離れるのが怖くて、学校にも持っていってる。

もちろん学校を休んで弾いたり、友達との約束を断ったりなんてしないけど、
お昼休みでヒマなときは音楽室で弾いたりしてるし、
学校から帰ると着替えてすぐにお夕食まで弾いちゃうくらいは好きなのだ。

お夕食は6時にふみさんが作り置きしてくれてるのを温めて食べる。
それから課題をやったり、お風呂に入るので、お店に行くのは9時くらいになる。

お店でもお客様がいない時は店内で、いるときは休憩室で弾かせてもらってる。
今日もそんなわけで、お店でバイオリンを練習してたら、

「香澄ちゃん、たまには遊んでみないかい」

声をかけてきた飛白の手にはバイオリンケースと楽譜。楽譜を見てみると‥‥‥

「わ、モーツァルトの二重奏!これ好きなんだぁ~」

あれ?と顔をあげる。だってこれ、ヴィオラとのデュオの曲だよね?

「ヴィオラは僕が担当するよ。たまにはこういう遊びも楽しいじゃないか」
「うん!‥‥でも、間違えても笑ったりしないでね?」

それだけは念を押しておく。大好きな曲だからもちろん楽譜は持ってるし、
一応は弾けるんだけど、デュオは初めてなんだから緊張しちゃうんだもん。
それにしても、新しい楽譜ってどうしてこんなにワクワクするのかな?
席について楽譜を読み込んでいると、甘くてちょっとスパイシーな香りがする。

「どうぞ、今日はチャイを入れてみたよ」
「いつもの紅茶とちょっと違うね?」
「ジンジャーやシナモンなんかの色々なスパイスが入っているんだよ」
「わっあま~い!」
「香澄ちゃんが緊張しないように、おまじないをかけておいたからね」
「うふっ、これなら効果ありそう♪」

いつも出されたものを、そのまま口にしてるから、甘い紅茶はすごく久しぶり。
あったかくて、あまくて、ちょっとスパイシーな、チャイは元気が出てくる。

「この曲の1楽章がすごく好きなんだ、モーツァルトらしいっていう感じで」
「音と戯れるような曲調は、そう感じさせるね」

チャイを飲みながら、楽譜に合わせて指の動きをイメージしてみる。
モーツァルトは時々びっくりするような発想で音楽を投げかけてくるから、
音のつながりに振り回されないようにしなくちゃ。どんな音になるのか楽しみだな。

「ふぅ~」

楽譜をおさらいして、チャイも飲んで、息をゆっくと吐く。
うん、いけそうかな?

「じゃ、やってみようか」
「うん」

飛白がかかとで合図してくれるのに合わせて、2人で弾き始める。
音がはずんだり ころがったり ゆれたり 春の満開の桜の下にいるような曲。

舞い散る白い花びらが、そよぐ風が揺らす草原が、透き通った音になっていく。
それに合わせて、飛白のヴィオラパートがピクニックを思わせる音を奏でてくれる。

バスケットの中のお弁当はサンドイッチかな?
赤いレジャーシートなんか敷いて、お弁当にするの。

雲の形をいろんなものに喩えて、意見が食い違ってちょっと言い合いしたり、
笑い合ったり、静かに桜を見つめたり、頬を撫でる風が心地いい
最後は、日がかたむく前に店に帰ろうかなんて、笑い合いながら終わる。

途中あやしい部分があったけど、なんとか間違えないで弾くことができてホッとする。

「楽しげな曲やなー」
「上手だったぞ!」

んごーと裏子はしきりに褒めてくれるけど、それは飛白の腕のおかげ、だと思うな。
だって、完全に私に合わせてくれてたんだもん。これじゃただの伴奏だよね。

「うん。飛白が上手にフォローしてくれたからね」
「香澄ちゃんの感性こそ、素敵だったよ」
「じゃあ、もう一回いい、かな?」
「もちろん」

それから何度も弾いたけど、飛白はいつも完璧に合わせてくれた。
いつか、もっともっとちゃんと練習して、飛白に合わせてもらうんじゃなくて、
ちゃんとしたデュオができるようになりたいな。



 
 

 
後書き
今回は少し短めです。
曲の気になる方はこちらを聞いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=mdWA7lAuWPw
個人的に、このお店によく似合うと思うんです。 
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