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BloodTeaHOUSE

作者:
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カクテル

「飛白ってさ、バーテンさんなんだよね?」
お店に入っての開口一番はいつもの挨拶じゃなくて、飛白に質問だった。
「そうだけど、それがどうかしたのかい」
あぁ、やっぱり驚かれてる。ふふふっそうだよねー。
「バーテンさんってカクテル作る人だよね?」

飛白の後ろにずらっと並ぶ、お酒の瓶を眺めながらずっと気になってた事を聞く。
だって、いつも私に出してくれるものは、ジュースや紅茶、ケーキやパイなんだもん。
まるで喫茶店のウェイターさんみたいで、ちっともバーテンらしくない。

「もしかして、お酒に興味があるのかな?」
むぅ苦笑なんかしないでよぉ~。いろいろ気になるお年頃なんだから。
「ちょっとだけ……興味ある、かな。…どんなの、作るのかなーって……」

お酒が飲みたいってわけじゃないんだけど、飛白が作るカクテルには興味ある。
お酒っていうと、私の経験じゃビールしか知らないから、苦いってイメージなんだよね。
でもカクテルは甘いのもあるっていうし、色が綺麗だってきいたこともある。

「お!嬢ちゃんカクテルに挑戦するんか?」
会話を聞いていたんごーがニヤリとする。若いってええなーって感じだ。
「おいおい、お前まだ未成年だろ?大丈夫なのか!」
反対に裏子は大慌てだ。そりゃあ確かにまだ未成年だけどさ。
「だ、大丈夫だよぉ~っお酒くらいなら飲んだことくらいあるし!」

裏子に大丈夫だと胸を張ってみるけど、どうも信用されてないみたい。
ここはひとつ、裏子を挑発してみよう!

「そういう裏子こそ実はお酒、弱いんじゃないのぉ~?」
なんて言いながら、ちらっと裏子を見る。どうかな?引っかかってくれるかな?
「なんだとー!アタシだって普通くらいには飲めるんだからなっ!」
案の定というか、裏子は簡単に挑発に乗ってきて、プンスカ怒ってる。
「ほな今日は看板にして飲み会やな!」

裏子の言葉に便乗して、ヒャッホーとんごーがはしゃぎだす。
ふっふっふ~、ここで名言を借りるなら「全て、計画通り!」かな。

「絶~っ対!お前は飲み過ぎるなよ?いいか?ぜったいだぞ!」
乗せられたのが気に食わないのか、心配症なのか、裏子はずっとお小言ばっかりだ。
「わかってるって、大丈夫だよ~」

そりゃあ、しょっちゅう飲んで、お酒慣れしてるわけじゃないけど、お通夜にお葬式、
初七日、四十九日と、葬儀や法要やなんかで人が集まると、どうしても酒宴になるから、
お付き合い程度には飲めるのくらい、自分でも知ってるもんね。

「飛白!ついでやしツマミ作ってぇや!」
んごーはとにかくいつも以上にハイテンションで、大はしゃぎだ。
「やれやれ。ツマミが出来るまで、2人はこれでも飲んでいてくれたまえ」

どこから出してきたのか、一升瓶をどんとカウンターの上に置いて、
飛白は厨房に行ってしまった。んごーはさっそく自前の猪口を出してきて、飲み始める。
隣に座った裏子にえへっと笑いながら、話しかける。

「カクテルは初めてだから、たのしみなんだよね」
「飲みやすいからって、調子に乗って飲んだりしちゃダメだからな!」
「う~。わたしそんなにバカじゃないよ~ぅ」

飛白だって、いきなりとんでもなくキツイお酒を飲まそうとなんてしないだろうし。
これ以上は危ないと思ったら、止めてくれると思うんだよね。

「おまたせ。あり合わせだから適当になったけど、お酒に慣れてないなら、
 何か食べてからのほうがいいからね」

戻ってきた飛白の両手には、たくさんのおつまみ。
揚げ物にチーズにハムにお野菜と、種類も豊富で彩りもきれい。

「なんだかパーティみたいだね」
こんなの見たら、だんだんわくわくしてきちゃった。
「飲み会ゆうたら宴やからな、パーティみたいなもんやで!」
「浮かれて飲み過ぎんなよ~」

もう~裏子ったら、心配しすぎなんだからぁ。なんて思いながら、
エビのフリッターを食べる。衣はサクサクでエビはぷりぷり、すごくおいしい。

「なるべく弱いのがいいよね、チャイナブルーをどうぞ」
「わっ!きれいな色だね~♪」

小さめのグラスに注がれた透明な水色のそれはキラキラ光ってるようにきれい。
そっと飲んでみると、甘酸っぱい、ライチ…かな?それと…グレープフルーツ?

「おいしいっすっごくおいしいよ、飛白!」
「だからってジュースみたいに飲んじゃ、酔っ払うぞ」
「わかってるよ~」

「ロングカクテルは急いで飲まなくてもいいから、ゆっくり楽しめばいいよ」
「ロングカクテル?」

首をかしげる。カクテルの種類かな?名前はチャイナブルーだもんね。
裏子は白いワインを飲んでる。ワイングラスがなんだか大人っぽくて、うらやましい。

「氷を入れるのがロングカクテルの特等だよ」
「じゃあ、氷を入れないのもあるの?」
「ホットカクテルやショートカクテルには入れないね」

アボガドのディップをクラッカーにのせてポリポリしながら考える。
ロングカクテルは氷が入ってるから、いそいで飲まなくても大丈夫……ということは、

ショートカクテルの冷たいのだったら、ぼーっとしてたらぬるくなっちゃう!?
……それはすごくもったいないような気がする。
こんなにおいしいのに、ぬるくなっちゃたら台無しだよね?なんてグラスを傾ける。

「ショートカクテルだと、どんなのがあるの?」
「星の数ほど種類があるよ」
「そんなにいっぱいあるの!?」
「店によってオリジナルのカクテルを出してるところもあるからね
 それはロングやホットも一緒だよ」
「ふわぁ~なんだかすごいねっ!」

思わず目をキラキラさせて感心してしまう。
いろんな人が、たくさんのカクテルを考えてきたんだと思うと、とってもすごい。
大根スティックを食べながら、グラスを傾ける。うん、やっぱりとってもおいしい。

「それに、作る人の好みによって、レシピも変わるから、同じ名前でも味が違う。
 なんてこともあるんだよ」
「そーなんだー奥が深い感じがするなぁ」
「要は楽しめればそれが一番、だよ」
「うん……」

いつの間にか飛白の手にも琥珀色の液体のグラスが握られている。
飛白はお酒、強いのかな? なんて、ぼぅっと考えながらグラスを傾ける姿を眺める。
骨ばった男の人っぽい大きな手、グラスを傾けると動く白い喉……

だめっ、み、見蕩れちゃ変だよね……っ 顔をそらしてんごーの方を見ると、
新しかったはずの一升瓶がほとんどなくなりかけてるし、ワインも半分ほどになってる。

「ねぇ飛白あっちの方、大丈夫?」
「オーナーなら場所知ってるから放っておいてもいいよ」
「そうじゃなく…」
「くおらぁ!かすりぃっお前ぜんっっぜん飲んでないじゃんかぁ!」
私の言葉を遮って、身を乗り出してきた裏子が、飛白に絡みだしちゃった。
「ぎゃははははっ!そやでぇ酒はたのしゅう飲まんとな!」

私がゆっくり飲んでる間にえらく楽しいことになっているようで、なによりです。
じゃなくて!思ったとおり酔っ払っちゃってるじゃん!2人ともっ!!
何のためにセーブしてたんだかわかんないよね!?これ!

「飛白、おかわりはワインが飲んでみたいな♪」

カクテルを空けて、かわいく首をかしげておねだりしてみる。
1人だけ我慢して、チビチビ飲んでるのが、バカらしくなったのだ。

「僕はかまわないけど…」
「ええやんええやん!今日は無礼講といこうやぁ!」
「そうだぞ!お前だけ飲まないなんて許さないからなっ!」
「やれやれ……」

苦笑しながらも飛白は新しいボトルを出してくれた。
裏子の飲んでるのより小さいサイズだ。半分くらいの量かな?

「これなら裏子ちゃんの飲んでるものより甘いから、飲みやすいと思うよ」
「やったー!」

バンザイして喜ぶ私に、ワインを注ぐと、残りをガラスのバケツに入れてくれる。
バケツの中には氷がいっぱい。ワインがぬるくならないようにしてくれてるんだね。
グラスに鼻を近づけると、甘くて花みたいないい香りがする。

「いい香り~いろんな花が咲いてるお花畑にいる気分」
「その香りが分かるなら、大丈夫そうだね」
「ふふっ、だってあれだけ我慢してゆっくり飲んだんだもん」

笑いながらそう言う。
普段なら好きでもないビールを5,6杯は飲まされてるくらいの時間で
弱いカクテル1杯じゃ、酔ったりなんかしないよね。

なんて思いながらワインを口に含む。とたん、口の中がお花畑と果樹園に………っ
何百という種類の花と果物の香りと蜜の味が織り混ざった楽園のような味がする。

「ほぁ……す、ごい……」
「おいしい?」
「…ごめん、…うまく…言えない、くらい」
「それは良かった」

飛白はにっこり笑って、何でもないことのように言うけど、
ワインって、こんなにおいしい物だったんだね。感動だよ!!

目を真ん丸に見開いて、薄金色の液体をじっと見つめる。
この透明な金色が口の中であんなふうに広がるなんて思いもしなかった。
急いで飲んじゃうのはもったいないけど、でももう一口とグラスをかたむける。

「こういうのを、甘露っていうのかも」
なんてつぶやいて、ほぅっと息を吐く。

美味しいものは大好きだし、飛白の用意してくれるものは
いつもすごくおいしいけど、これはその中でもとびきりの1つだと思う♪

なんて、うっとりしてたのに、とつぜん裏子が横から大声で怒りだす。

「おいっ!なんであんただけ飲んでないんだよっ!ずるいぞ!」
「飲んでるじゃないか、ホラ」
「酒の量がさっきから変わってな~~~いっ!香澄もそう思うよなっ!」
「えぇ~?だ、だって、わたしの相手、してくれてたんだし‥‥」
「うるさいうるさいうるさ~~~い!いいから飛白はさっさと飲めっ!」
裏子の剣幕に押されて、というか、半分のしかかられて、お、重いんだけど。

「わかったから、香澄ちゃんを押しつぶさないようにね、ホラこれでいいだろ?」
なんて、手の中のグラスに半分ほど入ってるお酒をくいッと空けてしまった。
「まだまだぁ!」
裏子が酒瓶を掴んでドボドボと飛白のグラスに注いでいく。
匂いからしてキツそうなお酒なんだけど、そんな飲み方して大丈夫なのかな?

けっきょく裏子が寝ちゃうまで、のしかかられっぱなしで、別の意味で潰れそうだった。
裏子とんごーにはソファで寝てもらうと、ようやく落ち着いた状態になった。

「う~…重かったよぉ…」
飛白に助けてもらって、やっとまっすぐ座れるようになったよ。
「こらこら、女の子相手に言う言葉じゃないだろう」
そういう飛白だって苦笑してるじゃないの~。

私は席で、飛白はカウンターの向こう側でグラスをかたむける。静かだけど心地いい時間。
2杯目のワインが空いた頃、なんだかふわふわしてきた。

「飛白は座って飲まないの?」
そう、いっつも飛白はカウンターの向こう側なんだよねぇ。座って飲めばいいのに。
「君が構わないなら、僕は座るけど」
けっこう飲んでるはずなのに、ぜんぜん飛白は酔ってるふうには見えない。
「となりに座ってほしいな~」
ぽんぽんと席を叩いて、甘えるようにねだってみる。
「ならお言葉に甘えて」
いつものキザなお辞儀をしてるのが、なぜだかちょっとおかしく思えちゃう。

裏子が座っていた席に腰を下ろすと、グラスの氷がカランと音を立てる。
カウンター越しより少し近い飛白に、ちょっとドキドキしちゃうな。
それになんだかふわふわぽわぽわしてたのしいかも‥‥‥

「ふふっうふふっなんだかおもしろいね。ふふっ」
グラスを傾けながら、たのしくてくすくすと笑ってしまう。
「僕がこの席にいることが、そんなに面白いのかい?」
「だってぇ、普段はずっと向こうにいるんだもん。ふふっ」
飛白を斜めに見上げてみる。うん、こんな角度で見るのって新鮮でたのしい。

「こらこら、少し酔ってるだろう」
「ふふっそうかも~うふふっ」
だって、すごくたのしいんだもん。くすくす笑いながら、ぽすんと飛白に頭を預ける。
すりっと頭をすり寄せると、どきどきふわふわする。

「…少し、水を飲んだほうがよさそうだね」
飛白が立とうとしたので、私も慌てて頭を起こして、

「ふぁ?あぅ~。わたしもお手洗い、行ってkわっ!」
お酒のせいか、慌てたせいか、つまづいてしまって前のめりに転びそうに…

ぽすんと受け止めてくれたのは、飛白の胸だった。
広くて、服の感触が気持ちいい。思わずスリスリしてしまう。

「ふふっきもちいい~」
「こらこら、いけない子だね」

なんて言いながらも飛白も私を引き剥がそうとしない。
だから腕にぎゅうっと力を込める。 なんだんだかずっとこうしてたいかも‥‥‥

「飛白~、ぜんぜん酔っ払ってないの~?」
「あの程度じゃ僕は酔ったりなんかしないよ」
「じゃあ~、わたしの血、吸う?」

顔を上げて聞いてみる。たしかそろそろ血をあげててもおかしくない日だったし、
血を飲んだ飛白は、普段とちょっと違うんだもん。

「だめだよ……」
「どーしてー?ちょっと酔ってるけど、わたしは元気だよー?」
体調は悪くないよ?と首をかしげる。

「その、今はだめなんだ……」
「むぅ~っど~して今はだめなのよ~ぅ!」
ゆさゆさと飛白をゆすって駄々をこねる。

お会計するって言ってるだけなのに、お店がお会計拒否するって変だよね?
こ~うなったら意地でも会計させるんだからっ!
髪の毛を払って、服を少しずらして首元を晒す。いつも飛白が噛むところ、ここだよね。

「飛白、血 吸って?」
見上げながら、首がよく見えるように顔をかたむける。
「か、香澄ちゃんっ!?」
ふふっ飛白が慌ててる。でもやめないも~ん。

背伸びして飛白の首に腕をまわして、顔を引き寄せる。なんだか抱きしめてるみたい。
ふわふわしてどきどきして、飛白の髪の毛がくすぐったくて、うれしい気持ち。
ゆっくり私の背中に回る飛白の手にも、胸がきゅっとなる。

「君の血は…その、魅力的すぎて…今は…自制する、自信が…だから、今日は…っ」
そう言って私をぎゅっと抱きしめてくれた。……首に触れてる飛白の頬が熱い。
それだけで、胸がいっぱいになる。

「飛白、だ~い好きっ♪」






 
 

 
後書き
飛白だって少しくらいは酔っ払ってもいいじゃん!なんて思って書きました。
裏子の暴挙で、ブランデーを滅茶苦茶飲んでいたんです。
だから飛白もちょっとだけ酔ってます。

こういう甘い話って書いてると楽しいので、
既に砂吐きそうですが‥‥ここからちょとづつ糖度を上げていこうと思っています。 
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