BloodTeaHOUSE
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葛藤
前書き
イベントネタバレのための前振りがやってきました。
こちらを読む前に是非本体で遊んでください!お願いします((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
いつものように、お店でバイオリンのお稽古をしてから、カウンターで休憩する。
最近練習してるのは、バッハのシャコンヌ。
宗教音楽の巨匠と言われるだけあって、大バッハの曲は、祈りを捧げるようなものや、
殉教を感じさせるものが多くて、綺麗なんだけど少し厳しさを感じる。
その上、必要なことは全部楽譜に書いてあるっていうところも、厳しさを感じるんだよね。
遊びがないっていうのかな、違うな。別の解釈の余地なんか入り込む隙間がない。
そんな厳格さがあるから、弾くときは真っ白のジグゾーパズルを組み上げていく感じ。
先生にそれを話したら「組みあがったときは、途端に素晴らしい世界が描かれるのよ」
なんて言われて、それを感じたくて一生懸命練習してるんだけど、
まだまだ五里霧中って感じで、ぜんぜん音が上手く繋がってないの。
ため息が思わず出ちゃうと、ことんと甘い匂いのホットミルクが出される。
なんだかすごくホッとする匂いに、自然と肩の力が抜けていく。
「ここ、寄せてたね」
とんとんと飛白は自分の眉間を指さして、笑う。
「え、ほんと?」
慌てて自分の眉毛を手で押さえる。そんなにむつかしい顔してたのかな?
「今は大丈夫だよ、バニラのおかげかな」
「あ、そっか。いつもより甘い匂いだと思ったら、バニラ入れてくれてたんだ」
すうっと甘いニオイを吸い込んでみる。こういうのもアロマテラピーっていうのかも。
心がほどけていくような気分にしてくれるのが、心地いい。
「バッハ先生は苦手かい?」
「だってぇ、いつもすごく不機嫌なんだもん」
「そんなに不機嫌かな?」
「うん。音が繋がらないと、睨まれて怖いよ」
口を尖らせながら、不満を言ってみる。
出来てないところだと、あの顔でじろりと睨まれるイメージ。
そんな私のマンガ的発想に、飛白はくすくすと笑う。
「さいきん暗譜が終わったばかりなんだから、焦らない方がいいよ」
「そうは言うけど、怒られるのは頭の中からなんだもん~」
思わずカウンターと仲良ししちゃうくらい、気難しいバッハ先生には困ってるのだ。
「モーツァルト先生の方はどうだい?」
「‥‥モツァルトは怒んないけど、馬鹿にされるのが悔しい」
ふざけ屋さんだったモーツァルトは、私が上手く弾けないとあの手この手で
馬鹿にしてくるのだ。吹き出して笑い転げたりされたら、悔しくってたまらないの。
「確かに彼なら怒るよりも、大笑いしそうだ」
ぷっと吹き出す飛白を、恨みがましく見上げてしまう。
「うぅう~~」
「君があまりにも本質を突いてるから、僕まで想像してしまったじゃないか」
「でも最近はモツァルト、ふふんって感じだもん」
そう、ようやくバイオリンとヴィオラのデュオを
モーツァルトから音楽としてまぁまぁだと認めてもらえるようになった。
「ならぜひ僕と合わせてみてほしいね」
「まだ、ふふんって鼻で笑われてるから‥‥」
「彼はいつも、自分が1番だと思ってるからね」
飛白は楽しげに笑ってそう答える。
そのとおりなんだけど、私としてはぎゃふんと言わせてみたい。
昔の人だから「ぎゃふん」ってホントに言いそうなんだもん‥‥
言わせられたら、ぜったい気分爽快なはずだよね。
「ふふっ、かならずモツァルトをぎゃふんと言わせるんだ」
「それは楽しみだね。その時はぜひお相手してください」
「うん、約束ね」
バッハ先生に睨まれて縮こまってた心がすっかりほぐれたところで、
ふと、思い出した。そういえば今日は土曜日だ。
別にちゃんと決めたわけじゃないんだけど、
飛白に血を支払う日を、私は勝手になんとなく土曜日にしてるのだ。
体調とか悪くしたことはないんだけど、いちおう、お休みの前の日だし‥‥
「ぁのっ。…今日、支払い…したい…」
これを言うのはいつも緊張する。
吸血鬼にわざわざ血を吸われたいなんて、ちょっと間抜けな気がして、
恥ずかしかったりもするんだけど、
できれば……その、いつも、飛白には…元気で、いて…欲しい、から。
熱くなる頬をなるべく見せないようにしてると、
「……あ、ああ…………」
飛白からの短い返事が返ってくる。 …――ここのところ、飛白は少し変だ――…
前は喜んで私から血を吸ってたのに、そういう反応はしなくなった。
血の味が変わるようなことはしてないつもりなんだけど、
味が変わって、美味しくなくなったのかなって、考えてしまうくらいに。
洋服の首元を緩め、髪の毛をかき上げて、首筋をさらす。
そっと近づいてくる飛白の顔に、初めての時とは違う、
きゅうっと苦しくなるようなドキドキを感じるようになったのは好きだと自覚してから。
飛白が私に触れるんだって思うと、それだけで嬉しい。
「……んっ…………」
尖った牙が首筋に突き刺さる時も、痛いけど嫌じゃない。
普段は見た目と同じように少しひんやりしてる飛白の、
肩を掴む手や頬が、私の血を嚥下する度に熱を孕んでゆく。
その変化に心が震えてしまう自分が、少し後ろめたい。
唇が離れて、傷口から流れる血で洋服を汚さないようにと、
首筋を優しく舐め上げられると、
体がどうしても震えて、甘えた声が漏れてしまうのが、恥ずかしい。
飛白のことだけで心がいっぱいになってしまう。
何も考えられなくなりそうで怖いから、きゅっと手に力を込める。
飛白がゆっくりと離れていくまで、
そうしていつも、じっと動かないようにしている。
でも、今日はいつもと違った。
いつもは血が止まったら顔を離して、飛白はゆっくり離れていくのに、
顔が離れたと思ったら、ギュッと肩を掴む手に力が入り、額を肩口に押し付けられた。
小刻みに震える手と荒い息、その様子から苦しそうなのが伝わって来る。
どうしていいのか分からなくて、ただそっと目を開いて様子を見守った。
私は何もできないまま、声すらかけられないで、じっとしていると、
ようやく飛白の手から力が抜けて、体が離れていく。
「す、まない…………」
掠れた声でそれだけを言い、帰る時になっても飛白はずっと背中を向けたままだった。
後書き
イベント前の前振り話です。この辺りからちょっとだけ本体と比べてアレンジ激しいです。
このアレンジ成分がいつまで続くのかわかりませんが、少々お付き合いください。
そして、ついに12月になってしまったので焦ってます。
ここからまたちょっと更新速度アップするのは、クリスマスをなんとかしたいからです。
24日にはたして間に合うのか?
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