| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

BloodTeaHOUSE

作者:
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

眼鏡と鬼

んごーのリクエストで”北酒場”を演奏していたら、お客様が二人やってきた。
私がいつも座ってる席に、男の子が座ろうとしているけど、どうしようか迷っていたら、

「申し訳ありません。その席は空けてもらえませんか?リザーブなんです」

飛白がそう言ってくれて、うれしくなる。私がいつもその席に座るの、わかってたんだね。

「カエン、こちらに座りなさい」
「なんだと! イタっ!本の角で殴るのヤメロ!」

ブツブツ文句を言いながらカエンと呼ばれた男の子は席を譲ってくれた。
小学6年生くらいかな。私よりは年下だよね?

「譲ってくれてありがとう。えっと、カエンくん?」

席で本を読んでるメガネのお兄さんの、向こう側に座った男の子にお礼を言ったら、

「オレサマは男でも女でもない」

? よくわかんないけど”くん”は付けないほうがいいのかな?

「カエン、でいいですよ。私はシヅキ、姿に月と書きます」
「は、はじめまして。わたしは香りが澄むと書いて香澄といいます」

本から顔を上げて自己紹介してくれたので、ぺこりと挨拶してみる。
名前のとおり夜に浮かぶ白い月のような髪の毛を束ね、銀縁メガネの優しそうなお兄さん。

「オマエは人間なんだろ。エサで十分だ」
「こらカエン、失礼ですよ。香澄さん、ですね。はじめまして」
「えっと、姿月さん‥‥ですね。よろしくお願いします」
「カエンに呼び捨てされ慣れているので、さん付けはよしてください。
 どうぞ姿月と呼んでいただけますか?こちらこそよろしくお願いします」

すごく、普通だ。 男の子、カエンはちょっと偉そうで、生意気そうだけど、
お兄さん、姿月は、やさしそうで柔らかい物腰しで、まるで人間みたいだ。

見た目も姿月は白髪だという以外、どこにも変わったところがない。
カエンはちょっと変わった‥‥着物より古い時代のものっぽい服を着てるけど、
姿月は普通のラフな洋服を着ている。もしかして、人間、なのかな。

「えっと、姿月も人間じゃないの?」

ちょっと遠慮がちにきいてみる。あやかしか人間か、なんて、
どっちだったとしても、いきなりこんな質問は失礼だろうけど、気になるんだもん。

「私ですか?私はカエンと違い人間ですよ」
「”元人間”、のまちがいじゃないか?」
「……人間です」

メガネをあげてそう言い切る姿月。
なんだろう?ちょっと引っかかる言い方だよね。

「お待ちどうさま!裏子スペシャルです!」
「おーうまそうだな!」

カエンはいそいそと裏子の大盛り料理を口に運ぶ。
見た目はやっぱりモザイク処理必須だけど、ここにも裏子料理ファンが……。
意外とファンが多いのは知ってるけど、理解はできない。

「じゃあ、カエンは人間じゃないの?」
「ふふん。聞いて驚け。オレサマは鬼だ」
「鬼?」

どうだ、驚いたか!と言わんばかりに胸を張ってるけど、
カエンには角もないし、姿も私とそう変わらないのに、鬼?

「いいか?よおく聞けよ?コホン、あ、あー。
 ‥‥昔々あるところに、火焔童子というとても強い鬼がいました。火焔童子は酒池肉林の
 毎日を送っていましたが、ある日彼を倒そうと一人の男がやってきたのです。
 しかし火焔童子はとても強かったので、男には倒す事が出来ず、やむなく
 術で封印することにしました。しかし男の術力では完全には封印できず、己の命と共に
 封印することでなんとか中途半端に封印しましたとさ。それがオレサマと姿月だ」

昔話風に語られたふたりの話は少し悲しい物語に思えた。
自由を奪われた鬼と封印の楔になった人。相容れない存在なのに共にいなければならない。
 ―――――世界で一番相容れない人と永遠に一緒―――――……

「…………なんだかツライ話だね」
うつむいてそうつぶやくと、ポロっと涙がこぼれた。

「カエン、彼女は感受性が強いから、そういう楽しくない話題はいただけないね」
くしゃくしゃと私の頭を撫でながら飛白はそう言ってくれた。

「ご、ごめんなさい!わたしなんかが、関係ないのに……泣いちゃって…」
あわてて謝って涙をふくけど、真っ白い姿月の髪の毛が長い年月を思わせて、
大切な人たちとの別れを哀しんだんじゃないかと思うと、なかなか止まってくれない。

「いいんですよ、香澄さんはやさしい子ですね」
姿月はやさしく笑う。ほんとにいい人だ。

そのやさしい顔が切なくて、また涙がこぼれる。
やだなぁ、ここに来るようになってから、私は泣き虫になっていくばかりだ。

「それにしたって久しぶりだな!カエン」
「もーちょい店に顔出したってーや、姿月」

私の涙が吹き飛ぶような、明るい声で裏子が話す。カエンが裏子料理のファンだからか、
裏子はすごくうれしそうで、そんな裏子を見てると、こっちまで元気が出てくる。

「そうですねぇ、今月は忙しいようですし、実入りもそれなりに良さそうなので、
 夕餉が遅くなりそうな時は、通わせてもらうことにしましょうか」

んごーと裏子がその言葉に「やったー!」と喜ぶ。
普段お客様少ないもんねぇ、このお店。しかも裏子の料理のファンは貴重だし。
2人を見てると可笑しくて、くすくす笑ってるうちに、涙は止んでくれた。

「姿月、どんなお仕事してるのか、聞いてもいい?」

今月は忙しい、ということは忙しくない時もあるのかな?

「いいですよ。 私たちは退魔、調伏という仕事をしているので、依頼を得て、
 それが成功すると報酬が貰える。簡単にいうと拝み屋のようなものなんですよ」
「じゃあ、今日はお仕事成功したんだね」
「はい。その代わりに遅くなってしまったので、晩ご飯を頂きに来たというわけです」

ナルホドーとうなずいてると

「どうぞ、姿月にはタラコパスタだよ」

ホワホワと湯気を立てていい匂いのタラコパスタ。
カイワレ大根と刻み海苔がたっぷり乗っかってて、彩りもきれい。
おなかはすいてないけど、飛白の料理はやっぱりおいしそうだ。

「花澄ちゃんは、ラフランスとウヴァをどうぞ」

まるで心を読んだように、飛白は紅茶に果物を付けて出してくれる。

「わ!いただきまーすっ」

器が白磁じゃなくて土っぽいのもセンスがいいよね。
ラフランスは繊細な器よりも、こういうちょっと無骨な器の方がよく似合うと思う。

よく熟したラフランスはそれだけでとっても美味しいのに、
紅茶と一緒っていうのがとっても贅沢だ。 独特だけど、この香りの紅茶も素敵。
紅茶とカップの境目あたりに金色の輪っかが出来てて、とってもきれい。

キザだし、時々(しょっちゅう?)裏子がいうところの”変態”なこと言うけど、
このさりげない優しさが、私の飛白を好きな理由の一つなのだ。

「ふふっ、香澄さんは幸せそうに物を食べますねぇ」
「たしかに、嬢ちゃんはおいしそうな顔させたら、お客の中で1番やな」
「この顔みたさに、僕もつい色々作ってしまうからね」

褒めてくれるのは嬉しいけど、食べてる時の顔ってのが、女の子としては複雑だよ。むぅ

「困った顔もかわいいよ、君の今夜の予定は?」
「香澄の門限は11時半だっ!」
「おや、それは知らなかったよ」
「今日こそ……コロス!」

ナイフが飛んできても普通にご飯食べてるのは、さすが Blood Tea HOUSE のお客様だ。
んごーが「店壊すなー!」って泣きながら叫ぶ中、
わたしは、ちょっとだけ頭を下げながら平然としているお客様に改めて感心した。

 やっぱりこのお店ってすごい―――…








 
 

 
後書き
香澄ちゃんは11時半に帰ると決めてますが、規則正しい生活のためです。
真面目な子なんです。基本的には。まあ、時々門限に遅れたりしますがw

切り替え反応でカエンが裏子の料理を褒めていたので登場いたしました。
二人に会いたい方はこちらからどうぞ
http://kenoglasses.nobody.jp/index.html
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧