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BloodTeaHOUSE

作者:
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君がいる夏

「こんばんわー」「よ」「まいど~」「浴衣なんて珍しいね」

猩々緋の金魚に白藍の泡と紺の縞の淡藤色の浴衣に赤模様の帯、赤い花緒の黒塗り下駄。
今日は夏祭りだったので、浴衣を着たのだ。

「えへへ、お祭りだったから自分で着付けたんだよ。すごいでしょ?」

くるりと回って自慢する。背中には韓紅と花色の朝顔の切り絵のうちわを挿してある。
扇風機が苦手な私は、家でお風呂上がりにうちわを使ってる。

どうせなら可愛いのが欲しくて、見つけるたびに買っちゃうから常に5,6コは家にある。
キャラ物のプラスチックのやつは安っぽいから嫌いで、竹細工の伝統的な柄が好き。
切り絵に透かし絵、ちぎり絵。金魚に朝顔、達磨に花火、蝶々や彼岸花そんなのが好き。

「器用やなー」
「へー、自分で着たのか、すごいな!」
「よく似合っているよ、上手に着られたね」

みんなに褒められてうれしくなる。

「これ、お祭りのお土産だよ」

そういって大きな紙袋を差し出す。

「なんだ、これ?」
「花火だよ、屋台で売ってたの。みんなでやろうと思って」

がさがさと紙袋の中をのぞく裏子に教える。
屋台の花火屋さんは、セットじゃなくて1本いくらで自分でセレクトできるのだ。
みんなでやってみたかったから、たくさん買ってきてしまった。

「夏やもんなー」
「じゃあ、店の前でやろうか」
「裏子、バケツに水張ってくれ、ワイは蚊取り線香とロウソク用意するわ」

準備してさっそくみんなで花火を始める。
裏子と飛白はんごーに向けて花火を向けて追い掛け回す。
んごーは逃げ回るのに必死で、あれじゃ花火どころじゃないよね。
私は店の前のベンチに座って、ねずみ花火に火をつける。

「あ」

くるくる回って、あちこち走り回ってたねずみ花火が、
ちょうどんごーが逃げてきたところで破裂した。 ‥‥焦げてるけど大丈夫かな?

「嬢ちゃんまでワイをいじめるなんて…」

「わざとじゃないよー、ごめーん」

そうはいうものの、どのねずみ花火も狙ったようにんごーに向かってくから、
飛白は楽しそうに声を上げて笑うし、裏子は爆竹を投げつけて追い打ちをかけてる。

牛乳瓶にロケット花火を挿して飛ばすと、気持ちいい音が夜の空に響く。

「アタシも飛ばしてみたい!」

と裏子が火をつけたら、カタンと瓶がかたむいて、んごーに飛んでった。

「なんでワイばっかり狙うんや!」

裏子と飛白は狙い合いになって、
二人でお互いを狙ってのロケット花火勝負になってしまった。あぶないなぁ、もうっ。

ちょっと可哀想になってきたから、んごーを呼んで、
へび花火がにょろにょろと伸びてくるのを眺めたり、花火の色が変わるのを楽しんだ。

3千円の予算を全部使ったから、りんご飴もわたあめも買えなかったし、
金魚すくいもヨーヨー釣りもできなかったけど、たくさん買ってよかった。

「はいどうぞ」

飛白の声に振り返ると、差し出されたのは棒つきのべっこうあめ。
飾り気も何もないけど、それがいかにもお祭りって感じがする。

「ありがとう……」

…甘い。なんだか懐かしい味がする。

「こういうのは雰囲気が大切だからね」

飛白のこういうところ、キザだと思うけど、悔しいけど似合ってる。

裏子とんごーに残ってる普通の花火を渡して、
多めに買っておいた一番好きな線香花火に火をつける。

火をつけると、小さいけどぱあっとまぁるく火花が散って、
それがだんだんパチパチと火花が散り始めて紫陽花みたいに光る。
しばらくすると、それがだんだん小さくなって密やかになって、
最後はポトンと火の玉が落ちるか、火が小さくなって消える。

色が変わったり大きな火花が出たりする派手さはないけど、
とっても小さな、何種類もの打ち上げ花火を見てる気持ちになる。

その小ささが、はかなげでかわいいから、大好き。

花火をぶんぶん振り回して走り回る裏子とんごーを放っておいて、
手を動かさないように、じっとして、ちいさな変化を眺める。

「この花火はひとつでいろんな姿になるんだね」

隣に座ってみていた飛白がそんな感想をいう。

「うん、それが好きなの。線香花火っていうんだよ」

シュウっと小さくなって消えたから、新しいのに火をつける。
飛白も火をつけて、二人並んで花火を眺める。

「丸く火花が散るのは、打ち上げ花火に似てるね」
「うん、かわいいでしょ?」

今度はポトンと火薬が落ちて消えた。

「あーしっぱい」
「失敗?」

また二人で火をつけて眺める。

「うん、消えるまで落とさないようにがんばるの」
「おもしろい楽しみ方だね」
「あとはね、どのくらい短くなるまで、花火ががんばるかも楽しみだよ」
「なるほど」
「火が消えたあとに長さを比べっこするの」
「へえ」

今度は最後まで落とさなかったので、長さを比べる。わたしのほうが少し短い。

「わたしの勝ち」

にっこり笑って自慢する。

「なるほど、おもしろいね」

飛白も笑う。

「でしょ?」

また火をつけて眺める。今度は飛白の勝ちだった。

「僕の勝ち」
「ふふっ、負けちゃった」

火をつけてちらっと飛白を見たら、
じっと線香花火を見つめてる。実は飛白ってすごく負けず嫌いなのかも。
って思ったらおかしくて、つい笑ってしまった。

そしたら手が揺れて 火薬が 足に落ちた。

「!!」

熱いっていうか痛い!ギュッと目をつむったら、ぱっと足を払われて抱き上げられた。
あっという間にお店に連れて行かれて、気がついたらジャーっとお水をかけられてた。
水をかけてる足をそっと持たれて、なにかされてる。

「これはちょっとひどいね、痛いだろう?」

火傷の状態を見てたみたい。よくわかんないけど。

「…」

なんとか頷くけど、なにも答えられないくらい痛い。
眉根をよせちゃうくらい痛い、口をぎゅっとするくらい痛い。体が硬くなるくらい痛い。
目もギュってしたまま開けられないくらい痛い。冷やしてても、そこだけ冷たく感じない。
もし、もっと小さかったらきっと泣いちゃってたと思うけど、じっと我慢する。

私たちがいないのに気がついた裏子とんごーも来て、いろいろきいたり「だいじょうぶか?」って言われるけど答えられない。

しばらくして、ようやく少し痛みが引いてきたから、ゆっくり息を吐いて、目をあけた。

(……ここ、おフロ場?)

私は飛白のひざに座ってるから濡れてないけど、飛白の靴とかズボンが濡れちゃってる…
飛白は少し眉根を寄せて、口もぎゅっとしてて、じっと足の火傷見てて。

いつの間にか飛白のシャツを握ってたから手を離そうとしたけど、
力が入りすぎてて指がうまく動いてくれない。

「握ってていいから」

やっぱりこっち見ないでそう言われたから、大人しく力が抜けるまでそのままにしておく。

(そういえば素足で下駄はいてない。いつのまに脱いだのかな?)

体から力が抜けて、シャツを手離すまで、時間がすごくかかったけど、
痛みはマシになったし、ようやくしゃべれるようになった。

「だいぶマシになってきたよ」
「痛みが取れるまで冷やさないとダメだよ」

火傷だけ見つめる飛白に怒られた。
その顔みてたら心臓がきゅっとして、私もおんなじ顔になる。

肩を抱かれて背中を支えてる手に気がついて、
足を上げて座ってるという不自然な体勢でも倒れなかった理由がわかった。
体に力を入れてたせいで、痛みが引く頃にはくたくたになってた。

「もう痛くなくなったよ」
「立つのは手当が終わってからだよ」

なんてまた抱き上げられた。どうやら私はお店の2階にいたらしい。
階段を下りてお店に戻ると、ソファに座わって、手当をしてもらう。
と、思ったら火傷を飛白に舌でぺろっと舐められた。

「!!」

突然のできごとに、びっくりして飛び上がると、

「痕が残らないように、おまじないだよ」

と、くすくす笑いながらこっちを見た。
私だってちょっとした怪我なら舐めて放っておくけど、火傷には無効だと思う。
傷の治りは普通の人よりもずっと早いから、痕にはならないだろうけど‥‥

「手当にかこつけて変態行為すんな!」

なんて裏子も怒ってるし‥‥ でも、ちゃんとこっち見て、
いつもみたいに冗談言いながら笑ってくれて、なんだかホッとする。

薬をつけてもらって、銀色の放熱シート貼って、もう一回氷で冷やす。
私の足は、飛白のひざに乗せっぱなしだし、ちょっと恥ずかしいんだけど、
薬つけてる時に、ちょっと痛くなってきたから、氷がきもちいい。

「まだ痛い?」
「ううん、氷のせてるから大丈夫」

「じゃあ、もうしばらくはじっとしてて」
「‥‥手当してくれてありがとう。それとごめんなさい。ズボンと靴、濡れてるよね?」

ペコッと頭を下げてお礼を言う。‥‥心配、かけちゃったよね。
裏子やんごーも心配してくれたし。

「いや、僕も不注意だったよ。すまない」
「? 飛白は悪くないよ」

んん?と首をかしげる。どうして飛白が謝るの?

「僕が気をつけてれば、花火くらい受け止められたからね」
「それじゃ飛白が火傷するよ!」

慌ててそう言う。飛白が火傷するのはやだ!

「僕はあの程度なら火傷なんてしないよ。口もきけないくらい痛かったんだろう?」
「そう、だけど……わたしの不注意なのは変わんないから、飛白は悪くない…」

ちょっとだけムキになってそう言う。
もし、そのせいであんな顔こわい顔してたんだったら……やだ。

「いーんだよ花澄!お前が怪我する方がアタシはイヤだ!」
「そやで、ワイらは丈夫やねんからな」

裏子とんごーにまでそう言われては、言い返す言葉がなくなって、
「でも」とか「だって」とかもごもご言ってたら

「それにしてもワイはさんざんな目にあったわ~」
「香澄が火ぃつけた花火があんなに命中するとは思わなかったな」
「顔芸が増えたんだから、オーナーは感謝するべきだね」
「なんでやねん!爆発オチなんかしたないわ」

「あ、あれはワザとじゃないもん!それにもーっ!2人ともやっちゃいけない遊び方ばっかりするんだもん」
「そうか?楽しかったぞ?」
「良い子は花火を人に向けてはいけません!」

ぷんぷんと私が怒ってみせると、

「ワイら丈夫やしいいんちゃうか?」
「楽しみ方はそれぞれだよ」

なーんて、全然反省してくれない。もうっ!
今度はちゃんと気をつけてたくさん線香花火しよう。んごーも裏子もいっしょに!


 
 

 
後書き
花火を人に向けて遊んだりしちゃダメですよ?w 
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