BloodTeaHOUSE
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
星祭り
お店に入ると、大きな笹が立てかけられていた。
「わ、すごい。そっか今日七夕だぁ~」
カウンターの上には折り紙の本とたくさんの折り紙、ハサミとノリに紙ヨリ。
私もさっそく座って飾り作りの仲間に入る。
あ、両面の折り紙だ。これなら裏側の見える飾りでもきれいだよね。
裏子は小さい折り紙を三角に折って三角つづりを作ってる。
ちょっと歪んでるところが裏子らしいな。
んごーは折り鶴職人にでもなったみたいに折り鶴ばっかり折ってる。
飛白はさすがに器用であれこれむつかしそうな折り紙を折ってる。
「わ、これ一枚から折ったの?」
黄色い星はどうやって折ったのか片面はつるんとしている。
裏側もちゃんとぜんぶ黄色で折り目が2本だけ。
「いくつか折ってみるとコツが分かってね」
サラっと万能なことを言ってくれる。ほんと、何やっても器用だなぁ。
私は簡単で見た目が派手な網かざりを作る。2回折ってハサミで交互に切るだけ。
「裏子 裏子っ、見てみて、ビローンっ!」
両面折り紙を広げて見せる。外は水色で中は青のそれはきれいに広がって、
自分でも楽しくなる。ふふっ、細かく切ったから広げるのがちょっと大変だったけど。
「なんだそれっ!すごいな!アタシでも作れるのか?」
「うん。これはねー、編みかざりって言うんだよ。簡単なのにキレイなの。」
目を輝かせる裏子にさっそく作り方を教える。
三角に折ってそれをもう半分の三角にする。折り目のところを交互に切って・・・
ちょきん
「わぁっ! ダメダメっ、ちょんぎっちゃったらバラバラになって広がらないからっ!」
「こ、こうか?」
「ちがうちがうっ!交互にこうやって切らないと!」
てっぺんのところをちょん切ったり、同じ方向からばかり切ろうとするのを止めたり、
大騒ぎになった。どうして教えたことと違うことしようとするのかなぁ・・・
刃物の扱いは得意だって言ってたと思うんだけど。
でも、裏子の料理がとんでもないのは、このよく分からないアレンジのせいかもせれない。
だって、この前失敗したって言ってた卵焼きから目玉っぽいものとかが出てたんだもん。
「できたっ! って、あれ?広がらないぞ?」
「裏子・・・それ、折り目じゃなくて紙の端っこ切ってる。
折り目のところ切らないと広がらないの。えーと、ほらココ。こっちとこっちだよ」
2回の失敗を経て、ようやく正しい切り方をマスターした裏子が、
真剣な顔で折り紙を切ってる。私も横でじっと見守ってる・・・失敗しないように。
「できた!できたぞ!ほら見てみろ、広がったぞ!!」
「やったー!わーきれいだねーっ!」
外が赤で内側が紫というのが、裏子らしい。ついでに切り目が大雑把なところも。
私のと二つ並べて、笑い合う。お揃いだねって。
「次はみんなで提灯作ろうよ!ノリ使うけど、網かざりより簡単だよ!」
「みんなで作んのか、ええなぁ」
「あれより簡単なら大丈夫だぞ!!」
「いいよ、作ろうか」
半分に折って、長方形になった折り目にハサミを入れていく。
それを開いて端っこ同士をノリ付けする。裏子の分はノリ付けするの手伝った。
私は桃、飛白は水色、裏子は赤、んごーは青。おそろいの提灯の出来上がり。
「ふふっ、おそろいってなんかうれしいね♪」
「こういう行事ならでは、やもんなー」
「飛白ともってのは気に入らないけどな!」
「照れてるのかい?裏子ちゃんは可愛いな」
「ダマレ」
それからは輪っかつづりを作ったんだけど、途中で分岐したり、変なところで繋げたりで
迷路みたいな、なかなかカオスな輪っかつづりになってしまった。
細く切った折り紙を輪っかにしてノリで留めるだけなのに、みんなしてふざけるんだもん。
おり姫とひこ星を量産して、あそんだり、本に載ってるのを作ったり、
折り紙がなくなる頃にはカウンターの上に飾りが山のようにできあがった。
ちょうちん、あみかざり、わっかつづり、さんかくつづり、ほし、つる、おりひめ、
ひこぼし、ふきながし、にまいぼし、ささつづり、かいかざり、ほしつづり、じゅうじぼし
ほしかざり、やっこつづり、わっかかざり、ちょうちんかざり、ひしがたかいだん、
ひしがたつづり、おうぎつづり、じゅうじわっかつづり、はさみぼし、あまのがわ・・・
たくさんの飾りをみんなで笹に飾り付けていく。
背の高い飛白や、手がゴムみたいに伸びるんごーは高いところから飾りつけていく。
裏子はせっかくノリでくっつけた紙よりをちぎったり、笹の枝を折りながらも、
一生懸命飾り付ける。私は下の方から順番に飾っていく。
全部飾り付けたら、すごく豪華な七夕飾りになった。
「色とりどりですごくきれいだねぇ」
「今日は晴れやし星もよう見えるからな」
「輪っかつづりがどうなるかと思ったけどこうして見るといい感じだね」
「なあ、ところでこれはどうするんだ?」
裏子の手には紙よりのついた4枚の長方形の千代紙。ぴらぴらと振って眺めてる。
「それはね、短冊っていってお星様に願うお願い事を書くんだよ」
「願い事か、願い事だったらなんでもいいのか?」
「うん。昔は和歌を書いたりもしたらしいけど、なんでもいいよ」
「そっか」といって、店の奥からペンを持ってきた。
4人でカウンターに向かって願いごとを書く。
・・・私は何を願おうかな? う~んと、考える。成績アップ?バイオリン上達?
何を一番お願いしたい? こういう時ってわりと迷ってしまう。
クリスマスのサンタに欲しいプレゼントもよく思いつかなかったっけ・・・
「書けた!」
みんなでそれぞれ短冊を飾る。
んごー「商売繁盛!ギャンブル大勝ち!」
裏子は「給料上げろ!ちゃんと払え!」
飛白は「香澄ちゃんと裏子ちゃんと3P」
「星に願うことが3Pってどんだけお前の脳は腐ってるんだよ!」
裏子が怒ってるってことは、”3P”っていうのも変態なことみたいだ。
まあ、飛白らしいというばそうなんだけど・・・・
裏子を怒らせるためにわざわざそんなこと書かなくてもいいのになぁ。
「そういう裏子ちゃんだって、オーナーに言えばいいだろう?」
「うるさい!んごーに言ってどうにかなるなら星になんか願掛けしないよっ!」
うん。そうだよねー、この店お客さん少ないし・・・
でも、裏子たちが毎日忙しくなったらちょっとさみしいかも。
「嬢ちゃんは何を願いごとにしたんや?」
「わたし? わたしはねー・・・これ!」
そう言って自分の短冊をみんなに見せる。
――はからずも いつしかめづる ところなり ちよにやちよに ここにありたれ――
「なんやこれ和歌か?」
「モドキだけどね。言ったでしょ、昔はこいうふうに書いてたの」
言葉自体は現代語とそう変わらないような物を使ったからわかりやすいと思う。
でも、ほんとは文法とかの勉強不足で、意味が間違ってないかちょっと不安なのだ。
特に悩んだのが、最後の”たれ”。私のニュアンスで云うなら希望なんだけど、
文法的には命令形なんだよね。”ける”で終止形にすればいいのか”けり”で已然形なのか、
かなり迷ったんだけど、お願いだからってことで、命令形を採用しちゃった。
「どういう意味なんだ?」
「ふふっ、ナイショだよ~」
「えー、教えろよー!」
「・・・・ふうん」
「なんだよ! お前意味わかったのか?」
「さあね」
「ムッキーっ!」
「そんなことより外に笹、飾ろうよ~!」
「そやな、お星さんに短冊見せんとな」
大きな笹飾りを店の外に飾り付けて、星を見上げる。
周りに明かりがないせいで、ここではすごくたくさんの星が見えるのだ。
4人で並んでラムネを飲みなだらおしゃべりする。
「どれが七夕の星なんだ?」
「織姫は琴座のベガ、彦星は鷲座のアルタイルだよ」
「どれがそうなんや?」
「あそこの明るい星がベガ、天の川を挟んだ下の方の明るい星がアルタイル。
ベガもアルタイルも1等星だから分かりやすいでしょ?」
指をさして説明するけど、視点がそれぞれ違うからなかなか伝わらない。
顔を寄せて視線を合わせながら説明してようやくわかってもらえた。
裏子のほっぺはぷにって感じだったけど、んごーのはぶみょんって感じ。
「おー、アレとアレかーって遠くない?恋人なんだろ?」
「七夕の話、しらんのかいな」
「昔々、着物のための布を作る機織りをしてた神様の娘のとても美しい織姫と
天の川の岸で牛飼いをしてたすごく真面目な男の彦星がいました。
2人はひと目で恋に落ち、毎日毎日逢瀬を重ね、一緒に遊んでばかりで
2人とも仕事を全然しなくなってしまったのです。」
「どこかの誰かみたいだな」
「それは誰のことだい?」
「まあまあ、嬢ちゃんが話してくれてんやから」
「ふたりが仕事をしなくなったせいで、人々の着物はボロになり、
牛は痩せて病気になってしまいます。困った人たちは神様に文句を言いました。
それを聞いて怒った神様は2人を天の川の東西に引き離してしまいました。
ところが、織姫は彦星が恋しくて悲しみのあまり泣いてばかりいます。」
「自業自得だよなー」
「後悔先に立たずやな」
「そう思うならギャンブルやめろよ・・・」
「娘を可哀想に思った神様は年に一度、7月7日だけ会うことを許し、
その日だけは天の川に橋を架けることを約束しました。
今でも織姫と彦星は年に一度の逢瀬のために頑張って働いているんだとさ。おしまい」
「よーするに仕事は真面目にしろってことだろ?」
「この話から、手習いの上達なんかを祈願したって話もあるから間違いじゃないかも」
「なら裏子は料理の上達を…ぐへっ!」
あー、思いっきり裏子にラムネの瓶で叩かれちゃったよ。
相変わらずんごーの扱いはひどいけど、なんか慣れてきた気がする‥‥‥。
ラムネのビー玉がコロンと音を立て、ビンの中のお星サマみたい。
ページ上へ戻る