BloodTeaHOUSE
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好き嫌い
ぽすん
ジェイクに挨拶してお店に入ろうと扉を開けたら、上から何かが落ちてきた。
私の肩に乗っかったそれはヘビ。
「キャ―――――――――っ!イヤァ――――――――――――っ!!!」
絶叫する私に誰かが大慌てで駆け寄って来るけど、それどころじゃない。
ボロボロ泣きながら必死にしがみついて、パニックになってしなった。
「取ってぇ―――――――――っ!取~~~ってぇ~~~~~~~~~っ!!」
「何事かと思ったら、白蛇じゃないか。はい、もう取れたよ」
取れたと言われても、近くにいると思ったら怖くて体がガタガタ震える。
実は私、ヘビが物凄く苦手。写真で見ただけで泣きそうになるくらい苦手なの。
「おっ蛇か?料理に使えそうだな!」
その言葉にザッと全身から血の気が引く。ヘビの料理なんか見たくない想像したくない。
こ、怖い。怖くて動けない。まだガタガタ震えてる体をギュッと抱きしめられた。
「もう大丈夫、蛇はいないよ」
その声にようやく自分がしがみついてるのが飛白だと気がついた。
けど、抱きしめられてて離れられないし、体も強ばってて動かない。まだすごく怖い。
「どさくさに紛れて何やってるんだよ!」
裏子の声とともに包丁が飛んできた。当てるつもりが無かったのか、包丁は壁に刺さる。
そのせいでまた体が竦む。慣れてきたとはいえ、自分に向かって投げられるのは怖い。
「こらこら裏子。嬢ちゃん怯えさせてどうすんねん」
「その前にコイツのセクハラをやめさせろよ!」
「まずはこの子を落ち着かせないと。そんなに怖かった?」
震える体で小さく頷く。だって、肩に乗っかったんだよ!?
もっとほかの、害のなさそうな‥‥ハンカチとかでも急に落ちてきたらびっくりするのに。
よりによってヘビだなんて、しかも肩を見たときにヘビと目が合ったんだもん!
「落ち着かせればいいんだろ?それなら、こっちに来いよ!」
ぐいっと体を引かれてよろけると、ぽすんと裏子が抱きしめてくれた。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、裏子にすがりつく。
「ぅう、ぅっく、ふぇっ、うらこぉ~ふぇっ」
「あーよしよし、怖かったなー。もう大丈夫だぞ?」
頭を撫でられ、背中を叩かれ、なんとかなだめようとしてくれる。
しばらくして、ようやく落ち着いたから涙を拭いていつもの席に座った。
「どうぞ、ロシアンティーだよ。ジャムを口に入れてから飲んむんだよ」
出されたものは小さなジャムの入った器と紅茶とティスプーン。
ジャムの器にも細かい花の模様が施されていてとても可愛い。
苺ジャムを掬って口に入れると、甘いだけじゃなくて少しお酒の香りがする。
そのまま紅茶を飲んでみると、口の中でふわっと香りが混ざってすごくおいしい。
「おいしい…」
ほっぺを緩めて、ほうっとため息とともに静かにそう言った。
大騒ぎしたあとだからか、なんだかホッとするような味だ。
「それは良かった。落ち着くように少しだけジャムにウォッカを振ったけど、大丈夫?」
「うん。お酒の香りとジャムの味と紅茶が混ざってすごくおいしいよ!」
今後はにっこり笑ってそう言う。そしてもう一口。
うん、なんだか元気が出てきたみたい。
「お、ようやく笑ったな。嬢ちゃんはやっぱり笑ってるんがええわ」
「そうだぞ、ヘビくらいで泣いてちゃゲテモノは料理できないからな!」
「香澄ちゃんはそんな料理しないよ。なんにせよ、元気が出てよかったよ」
「うん、ありがと。おいしいものって元気が出るね」
ゲテモノ料理はしないから、苦手でもいいんだもん!
両生類も魚類も平気なんだよね。爬虫類でもトカゲとかイグアナとかは平気なのにな。
「みんなは苦手なものってある?」
「苦手なもの?」
「嫌いなものとかでもいいよ?」
醜態を見せてしまった私としては聞いておきたいのだ。
主に、からかわれた時のために、だけど。
「ワイの苦手なんは水やなぁ」
「オーナー、泳げないんだよね」
「そやねん。だから海にもプールにも遊びに行けへんねん……」
‥‥その前にその見た目で人前に出ることのほうが問題があると思うよ?
ああでも、プールに浮いてたらオモチャと間違えそうだよね。
「アタシはカズノコとかレバーが苦手だなー」
「えぇっ!?ゲテモノ好きなのに!?」
「なんかあの食感がやだ」
意外だ‥‥裏子は食べ物の好き嫌いなんかないと思ってたのに。
「飛白は?」
「チョコレート」
「お菓子の?」
「そう、あの匂いがどうも苦手なんだよ」
「小さい上にピンポイントな弱点だよなー」
そういえばチョコって溶かすと甘い匂いがするけど、あれが苦手?
お菓子とかケーキ作るのすごく上手そうなのに。
「そういえば日光とかは大丈夫なの?」
魔物の弱点って言えば日光だよね?
「全然平気だぞ?」
「僕も平気だね」
日中出歩ける吸血鬼’S・・・なんだかお話に出てくるのとは随分違うんだね。
あれかな、ニンニクとか流れる水とかも平気なのかな?
「嬢ちゃんはもうないんか?」
「私?」
「嫌いな食べ物があるなら参考にするよ」
そういうことなら言ってもいいかな。ちょっと変わってるって言われるんだけど。
私の苦手な食べ物‥‥
「コンニャク。食べられないってわけじゃないけど」
「しらたきもダメなのか?」
「糸コンニャクとかしらたきとかは全然平気。あの黒い粒つぶが入ってるのが苦手なの」
「またピンポイントだなー。じゃあ、おでんのは」
「あれが1番ダメ。次が筑前煮に入ってるやつ」
裏子同様に、あの食感が苦手なのだ。
食物繊維がいっぱいだとか、カロリーゼロだとかいわれても、食べようと思わない。
もしも世界に嫌いな食べ物しかなかったらって例えがあるけど、
コンニャクは栄養自体がほどんどないから食べても飢え死にするので食べない。
「じゃあさ、逆に得意なことは?」
「アタシはやっぱ刃物の扱いだな!」
「刃物が扱えても料理の腕がアレじゃあね」
「そういうお前はどうなんだよ!」
「僕はほとんどのものが得意に入るね」
「ムッキ―――――――――!!」
「ワイの特技ゆうたらこの体やな。変形させたり伸ばしたり自由やで!」
んごーは存在自体が自由すぎる気がするんだけど。
ビョンビョーンと手や足を伸ばしたり、顔を変形させたりしてるのを見てると
生物として間違ってる気がする。あやかしだから仕方ないのかもだけど。
「嬢ちゃんはなんか得意なもんあるか?」
「え?えーと‥‥‥思いつかないなー」
特別頭がいいってわけでもないし、何かが上手ってわけでもない。
なんだろ?何かあったかな?得意なこと。
「香澄ちゃんは可愛いさが特別だよね」
「そうか?おいしい顔が特別やろ」
「それはそうだね」
「えぇ~~~?おいしい顔ってうれしくないかも~」
なんだかすごく食いしん坊みたいでやだな。
「でも、僕が出すものを食べて、おいしいって言ってくれる時はすごく幸せそうだよ?」
「それは飛白の作ってくれるのがおいしいからだし‥‥‥」
「なら、アタシの料理でもおいしい顔してくれよ!」
う、裏子の料理ではちょっとむつかしいかも。
「無理難題を ”嬢ちゃん”香澄ちゃん” に言うのはやめ ”へん”ない” か」
困った子してる私を見かねてか、飛白とんごーが、口を揃えていった。
後書き
0と5の付く日に更新することに変更しました。
ぶっちゃけ、1話書くのにそんなに時間かけてないので、
話のほうが溜まってきてるんですよね。
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