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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第477話】

 
前書き
ちょっと話の道外れまする 

 
 日付は変わり、深夜一時回った頃――。


「んん……っ! 何とか完成したわねぇ~」


 整備室に響くふわふわとした声、髪をサイドポニーに纏めた有坂真理亜が軽く腕を天井へと伸ばした、夕方からずっと作業をし、空腹すら忘れて目の前の機体を仕上げていた。

 機体名【イザナギ】。

 本来なら天照よりも先に完成しなければいけない機体なのだが、自身が手に入れたコアが三個であるのがネックだったため、フレームや外装のみだけで放置していた。

 無論自身が造り上げた【PPS】の技術と【永久機関】を使えば問題ないのだが、要らぬ争いの種を生むのは有坂真理亜自身も望んではいない。


 とはいえ、世に発表すれば世界を混乱に陥れる技術――特に【永久機関】の方はエネルギー不足の問題を一気に解決させるこの技術だけは世に出せなかった。

 アインシュタインが提唱した相対性理論を悪用した核兵器同様、この永久機関を悪用されては世界は簡単に第三次世界大戦へと発展するだろう。

 真理亜はイザナギを眺める、まだファーストシフトを終えていない為何処か無骨な格好に見えるそれの大空を舞う姿を軽く想像した。


「うふふ……やっぱり、良いわねぇ……パワードスーツが空を飛ぶ姿って」


 僅かに笑みを溢しつつ、くぅ……っと情けないお腹の音がなった。


「……流石にお腹が空いたわねぇ~。 ……最後の下準備を終えてから、夜食にしましょうかぁ~」


 誰に言うでもないのだが、独り言でそう呟く有坂真理亜――だが、整備室の外、誰かが待っているのには気付いていた。

 イザナギに対していつでもヒルトに渡せるように設定を行うと、真理亜は整備室の明かりを消し、ドアから出ると――。


「よぉ、真理亜。 今作業終わったのか? 俺は今巡回中だぜ、わははははっ!」


 出てすぐに自分の夫である有坂陽人に声をかけられた、口元に手を当てクスッと微笑むと――。


「あらぁ? あなた、巡回中って割には随分狭い範囲を巡回していたのねぇ~」


 真理亜の言葉に、ギクッとした表情になる陽人、何故真理亜がそう言ったのかと言えば、自分の夫は学生の居る時間帯が主な仕事の時間だからだ、こんな深夜に男性警備員が巡回するのはIS学園としても規律の問題があるからだ。


「ば、バレてたのかよ」

「うふふ」


 頭を掻く陽人に、真理亜は嬉しい気持ちでいっぱいになった、悲しい事件が多々ある中、こうして陽人が側に居てくれるのは非常に有り難かったからだ。

 今でも時折思い出す亡国機業の襲撃、あの時居たボディーガードの若い子はまだ未来ある青年だった、仕事の為とはいえこんな私を庇って死んだのだから真理亜自身心に深い闇が訪れていた。

 そんな時でも陽人は気遣ってくれて、励ましの言葉も掛けてくれた。


「……あなた」

「ん?」

「ありがとうぉ~」

「な、何だよ、照れるって真理亜」

「うふふ。 ……夜食、一緒に食べましょうかぁ」


 真理亜の言葉に頷く陽人、久しぶりに彼の腕を取るとそのまま闇の中へと消えていった。

 一方、IS学園上空約二万メートル地点。


「あぎゃ、もう二時か……」


 ハイパーセンサーに表示された時計を確認するカーマイン、軽く欠伸をすると軍用レーションを食べ始める。

 予め機体には戦闘糧食をインストールしている、いつ孤立しても食事だけは摂れるようにと。

 味は良くないが、カロリーも摂れ、日持ちのするレーションはカーマインにとっては有り難かった。

 塩味の濃いスパムを一口食べる。


「……せめて火を通したい所だが、下手に使えばばれちまうからな、あぎゃ」


 まるごとかぶり付き、それを一気に平らげると今度は乾パンを貪り食べる、合間に水で流し込み、食べ終えるとカーマインは上空を眺める。


「……宇宙まで後少し、か。 ……あぎゃ、まあ俺様には関係無いがな」


 IS――インフィニット・ストラトスの【ストラトス】の意味を思うと、カーマインは苦笑が漏れ出そうになる。

 未だに世界はこれをスポーツとは名ばかりの代理戦争に使い、尚且つ自国の防衛力に加えようとするのだから。

 いつになったら宇宙開発にISを使うのやら……そう思った所でテロリストである自分には関係無い話だが。

 欠伸をしたその時、カーマインの後方から飛行音が聞こえてきた、ハイパーセンサーで確認すると漆黒の機体が自分へと迫っていた。

 敵――脳裏にそう過るのだが、光信号が送られてくる。


「……ボス?」

「ああ、すまないなカーマイン、敵だと思ったか?」

「……あぎゃ」


 隣へとやって来た漆黒の機体、頭部フルフェイスを部分展開で解除すると、見知った仮面の男が現れた。

 助けてもらって以来、ずっとボスの仮面の下を見たことがないカーマイン、気にはなるものの人には言いたくない事や見られたくないものがあるのだと言い聞かせた。


「カーマイン、少し眠っておくんだ。 明日は激戦になるかもしれないしな、これが」

「…………」


 まるでこれから起こることがわかってるかのような口調――というか事実、起こること全てを言い当てている。

 それこそ、どうでも良さそうな日本の長寿の婆さんが死ぬ日まで、明らかに異常なぐらいの的中率だ、予知能力とも思ったのだがその考えは直ぐに頭から消える。

 ならば未来からやって来た誰か――そうとも思ったのだが、ナンセンスだと思い、そんな安直な考えを捨てた。

 タイムマシン何てものは空想の産物だ、時間移動にかかる膨大なエネルギー量何て何処にも存在なんかしていないからだ。


「あぎゃ、ボスの言葉に甘えさせてもらおうかな……」


 そう言って瞼を閉じたカーマイン、月明かりに照らされた彼を眺めながら仮面の男は呟く。


「……細かい歴史の流れに差違はあれど、本流は変わらず……って所か、これが。 ……我々【イルミナーティ】の存在も、この世界ではイレギュラーみたいなものだが……」


 そんな呟きが夜空へと消えていった。

 一方、IS学園から離れた場所にあるホテルの一室。


「セバスチャン、深夜に飲む紅茶というのも乙なものだな」

「左様でございます、お坊っちゃま」

「ふふん☆」


 用意された紅茶を飲む金髪のお坊っちゃん――身形はまさに貴族の出で立ちであり、隣に居る執事も、正に昔ながらの執事そのものだった。

 紅茶を一口飲み、窓から外を眺める金髪のお坊っちゃんは――。


「セバスチャン、一体いつになったらこの僕にISを触らせてくれるんだい、IS学園は?」

「はい、それにつきましては未だに返事がもらえないようで――」

「ああっ! なんということだっ! あんなに書類を大量に書いたというのに……」


 わざとらしく大きな声をあげ、膝から崩れ落ちる金髪のお坊っちゃんに、執事のセバスチャンは困ったような表情を浮かべていた。


「お坊っちゃま、もう少し御待ちください。 IS学園は明日、専用機を用いたタッグ大会が開催されるとあの警備員様が言っていたではありませんか」

「警備員……」


 警備員と聞き、以前その警備員に食らったコブラツイストを思い出すお坊っちゃん――。


「ぱ、パパにも殴られた事のないこの僕に、あの様な野蛮な技を――……とはいえ、淑女達が生活する場に、ずかずかと上がった僕も悪いのだが」


 そう言い、表情に反省の色を見せたがそれも束の間、話題を直ぐに切り替えた。



「時にセバスチャン、【アレ】はどうなっている?」

「【アレ】……と申しますと?」


 聞き返すセバスチャンに、金髪のお坊っちゃんは前髪を手でかきあげた。


「ふふん★ かの有名な設計者、『ユミィ・ズールィ・ズール』が自身で開発した最新作の【EOS】の事じゃないかっ!」


 オーバーリアクション気味でそう告げるお坊っちゃん。


「……アレでございますな。 アレは旦那様がもう少しで空輸が終わると連絡を頂きました 」


 折り目正しく、頭を下げてそう告げるセバスチャンに、満足そうに頷くお坊っちゃん。


「成る程。 ……ふふん、あれがあれば、僕もIS学園に入学する際、前以て訓練が出来るというものだ。 僕の華麗な活躍に、学園の女子生徒どころか、僕のハニーだって改めて惚れ直すに違いないさっ☆ そしてゆくゆくは――」

 ――と、これからの自分が辿るであろう妄想を語り始めるお坊っちゃんに、セバスチャンは内心休ませてほしいと願っていた。


「――聞いているのかぃ、セバスチャン?」

「はい、お坊っちゃまのお話はちゃんと一字一句逃さずに聞いています」

「うむ、この僕――【ゴードン・ラッセル】の話は必ず一字一句逃さずに聞くようにな! ハッハッハッハッハッー!」


 深夜、皆が寝静まる最中での大きな笑い声に、翌日クレームが届いた事はいうまでもない。

 そんな高笑いの中、セバスチャンは気付かれない様に溜め息を溢したのだった。 
 

 
後書き
最後の方で腹筋崩壊させにかかったが……

とりあえず次回は本編に 
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