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BloodTeaHOUSE

作者:
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嫌いだった誕生日が好きになった日

 
前書き
一話目なので、長めです。二話目以降はさっくり読める短いの書きます。 

 
 もしかしかしたら生まれた時からそうだったのかもしれない。
 誕生日は毎年決まってお葬式だった。一番古い記憶は四つ下の妹がSIDS・・・・・乳幼児突然死症候群で生まれてから2ヶ月で死んだお葬式が誕生日だったこと。それから毎年、血のつながった誰かが死んで、誕生日はいつも真っ黒な喪服を着て過ごした。父方の祖母が死んだのもわたしが生まれた日だったと大きくなってから聞かされた。
 中学に上がってから父が癌で死に、次の年は母が交通事故で死んだ。
 父が死んだ時、母はこうなることが分かっていたのだろう。まるで自身の身の回りの整理をするかのように、広かった家を売り払い、平屋の小さな家に引っ越した。家の名義は私の名前になっていたし、遺言に施設へ行かせるなとも書いてあった。たぶん私と誰かが生活しないことで、まわりに良くないことが起こらないようにと願ったんだろう。
 そうして私は天涯孤独の身の上となったけど、周りで死んだ沢山の人達が残してくれた遺産のおかげで、学費に困ることも生活に困ることもなく、施設に入る代わりにハウスキーパーを雇うことになった。
 午前中に来て、掃除や洗濯に朝食とお弁当といった基本的なことをやってもらうだけで、他人は他人でしかないけれど、それでも家に誰かがいることは私の心を随分慰めてくれたように思う。
 まるで周囲の人から生命の力を吸い取っているみたいに、私だけ健康で、怪我の治りも異様に早い。発育は・・・まぁ、そこそこ、なんだけど、ね。

 今年からはひとりきりの誕生日だけど、もう喪服は着なくていいってだけで気が楽だ。

 誕生日の朝、目が覚めたら部屋の机の上に黒い小箱が置いてあった。赤いリボンのかけられた小箱にはカードが一枚添えられてある。

    ~招待状~
    夜になったら
箱の中身を身につけてごらんあれ

 書いてあるのはたったそれだけ。差出人の名前書いてないし、そもそも誕生日に誰かがお祝いしてくれたこともない。箱を開けてみるとペンダントが入っている。片翼の蝙蝠の翼のペンダントトップ・・・
(なんだろ、これ・・・?)
 とにかくよくわからないものなんだし、書いてあるとおり夜にならないと何もわからないだろうと結論づけ、パコンと蓋を閉めて、学校に行った。
 誕生日に初めて登校した。少しドキドキしたけど、特に変わったこともなくて普通の一日だった。部活は参加してなかったけど、5歳から週に3回習いにいってるバイオリンの稽古に行って帰ってきたら、すっかり日が暮れていた。
 冷蔵庫に作り置きされている物を温め直して食べてお風呂に入って、部屋に戻ってきたら机の上の小箱が目にとまる。
 もう一度箱を開けて中身を取り出す。ユニセックスなデザインの片翼の翼。銀色のそれはリアルだけど綺麗で、パジャマのままで身につけるのはもったいない気がして、似合いそうな服を探す。
 クローゼットを開くと、もう必要のなくなった喪服が目に入った。小学6年生で身長が止まってから毎年着ていたやつだ。両親もお祝いしてくれるかも知れない、なんて、少し感傷的な気分でそれを選ぶ。
 うん、黒だと銀色がよく映えそうかも。姿見でくるりと全身チェックしてから、ペンダントを身につけた

 とたんに視界がぐにゃりと歪んで「あっ」と驚くまもなく私は森の中にいた。森、と言うよりは森の中の少し開けた部分だ。駐車場だとすれば車3台くらいは止められそう。奥に道があるということは人が立ち入るのかもしれない。ベンチもある・・・けど、何よりビックリなのは建物が立っていること。
 2階建ての建物はそんなに新しくなさそうだけど、看板がかかってる。…なにかのお店?

「こんばんは」

文字を読み取ろうと顔を上げてると、急に声が聞こえて飛び上がりそうに驚く。
慌てて周りを見回すけれど、誰もいない。あれ?声の主を探しキョロキョロしていると、

何方(どなた)をお探しですか。わたくしなら貴女(あなた)の目の前ですぞ」

扉から声が聞こえていることが信じられなくて、まじまじと見つめる。

「あの、声の主はあなた?」

 一応問いかけてみる。

「はい。この店のドアボーイ、ジェイキッドと申します。JK、ジェイクなどお気軽にお呼びください」

 丁寧な物腰には害意は見られない。居住まいを正してこちらも挨拶をする。

「はじめまして、楠木香澄といいます。ここはお店なんですか?」

 ドアにお辞儀するなんて傍から見れは滑稽かもせれないけど、ここがどこかもわからないし、家に帰るためにはこのドアの力を借りなければいけないかもしれないと思うと、不躾な真似はできない。

「おや?あまり驚かれていないようですな。貴女は人間、わたくしのような人あらざる者に慣れておられるのでしょうか」

驚いてはいるんです。かなり、とても、物凄く、驚いてます。
ただ驚き過ぎて感情のメーターが一周まわってしまっただけで。

「慣れてなんかないわ。こんな不思議なこと初めてで、どうすればいいのかわかんないだけ。だってここが何処かも分からないんだもの」

肩をすくめてそう言う。
家で待ってる人が居るわけじゃないから、そんなに焦らなくてもいいけど、まさかこんなことになるなんて思ってなかったから書置き一つ残してない。明日の朝、人が来るまでには帰れればいいんだけど。

「そうでございますか。ではいかがいたしますか?お用命とあらば、このままお宅までお送りいたしますが」

う~ん‥‥‥と考える。このまま帰ってしまうのは少しもったいない気がする。
送り主はわからないけど招待状も貰っちゃったしなぁ~。

「もしよければお店の中を見せてもらえないかな? あ、お金、持ってきてないから買い物はできないけど……」

うん、お財布持ってないから欲しい物があっても買えないんだよね。

「では、一名様ご案内いたします」

その言葉とともに音もなく扉が開いた。

 店内は幾つか置かれているランプのみで、薄暗くて少し不気味だ。石造りの壁には暖炉があるけど今は使われてない。外観より随分狭く感じるのは、カウンターの酒瓶が並んだ棚より奥が、キッチンとかに使われているんだろう。
 骨董品と呼んで差し支えがなさそうなレジスター、飴色に変色したテーブルと椅子。喫茶店なのかな?バーかも知れない。
いつか雑誌で見たことがあるような洋風の内装は店主の趣味だとしたらいいセンスしてるけど、どうしよう……
これはお金持ってないとまずいかも知れない・・・

「お?おぉおおっ?? おーい!客っ客だぞっ!!」

 店内を掃除でもしていたのかモップを持った少女が振り返って私に気がつくと大声をあげた。
その声を聞きつけたのか奥からもう一人出てきた。でてきたのは金髪碧眼の青年で、ちょっとびっくりするくらいの美形だ。

「イラッシャイマセ!!お客様、お席にどうぞっ!」

人懐こい笑顔をで発せられは言葉は、ほんの少しだけ外国の訛りを感じる。
 ともかく、お金がないからなんとか言い訳しようとまごまごしているうちに、カウンターの席へ案内されてしまった。
「あの~」
「紅茶ですか?コーヒーですか?」

 なんとか持ち合わせがないことを説明しようとする言葉を遮って、いきなり2択を迫られる。せめてメニューを渡されたら説明も出来るのに・・・

「えっと」
「紅茶ですね!少々お待ちください」

 頼んでない!頼んでないよお姉さんっ!!
 お姉さんは注文を受けるとペコリとお辞儀して奥に引っ込んでしまったので、どうしようか…と
カウンターを見るとの向こう側にいるお兄さんと目が合った。

「やあ、初めて見る顔だね」

やわらかく言われてちょっとホッとする。
この人になら話が通じそうだ。日本語すごく上手だし、ちゃんと説明して許してもらわないと。

「おや、君、そのペンダント・・・・・」

 お兄さんの目がペンダントにとまる。そして顔を近づけて匂いを嗅がれる。
汗臭く、は、ないと思う。お風呂には入ったし。なんてちょっともじもじしてると、

「やはりそうだ、人間だね」

ということはあなたは人間ではないんですか?あやかしとか幽霊とかそんな感じの存在だったりするんでしょうか。人間の私は頭から食べられちゃったりするのかな。それもこれもみんなこのペンダントのせいだよね?これをつけたとたんにこんなところに来ちゃったんだし。毎年誕生日はお葬式だったから、私の順番がついに回ってきちゃったのかな。せめてもう少し説明してほしかったなぁ。お財布は持っていきましょうとか・・・
 なんて、ぐるぐるといろんなことが頭を駆け巡ってると、

「ふふ、そう警戒しないで。かわいいなぁ、そんな顔しちゃダメだよ?」

 人の悪そうな笑みを浮かべたお兄さんが私の顔を覗き込む。なんだか事情の説明をするような雰囲気じゃない感じだ。

「ほら、君から視線がそらせなくなる」
「ぁ、ぁの‥‥」

 するりと頬を撫でられて焦る。男の人の顔がこんなに近くにあるなんて初めてで、恥ずかしくて顔が赤く染まる。

「っだあぁああ!お前なにやってんだ!」

 奥から少女が勢いよく飛び出してきて。お姉さんの手の上のトレイに乗った紅茶も勢いよく飛んでいった。
ガシャーンパリーンッなんて見事見砕けた。

「何って、退屈そうなお客様の話し相手さ、ね?」

 片目をつむって私を見ながら笑いかけるけど、ね?って言われても困る。潔く天寿を全うしたカップとソーサーに心の中で合唱していると

「その色目をやめろ、この変態!」

 カウンターをドンッと叩くと少女はお兄さんにビシッと指をさす。お兄さんは「変態」なんて言われたのに柳に風とばかりに受け流し、

「色欲は生物に必要なものだよ」
 なんてにっこり笑って、さらにお姉さんを挑発し始める。

「アタシには少なくともお前は不要だ!」

 お姉さんはどこからともなく2本の包丁を取り出して構える。

「店内で暴力はいけないな。どうしても、というなら応戦するけど」

 お兄さんはちょっと怖い笑顔で、なんと銃を取り出した!えぇ―――――っ!どうなるのこれっ!?わたしの安全大丈夫? と焦っていると。

「ええ加減にせえ!お客はんの前やぞ!」

 それまでカウンターの上の変わったぬいぐるみだと思っていた青い物体が大声を上げたので、びっくりして椅子から落ちそうになる。ぐらついた体をすんでのところでお兄さんが受け止めてくれた。
あれ?いつの間にカウンターから出てきたんだろう??

「あの、えっと、あなたも店員さん?」

おそるおそる青い物体に聞いてみる。

「ワイか?ワイは小粋で素敵なこの店のオーナー、んごーやで!」

 句読点の場所間違えてませんか?小粋で素敵なという言葉は店に対する形容詞なのですよね?それよりあの割れた食器、放っておいていいんですか?
またもやぐるぐると混乱しかける私は、視線を泳がせて砕けたカップとソーサーを眺めてしまう。
思わず現実逃避したくなるくらい、あれこれいろいろわけわかんないんだもの、し、仕方ないよね?

「あー・・・悪い。入れ直してくるから水でも飲んでおいてくれ。
 それから、そいつには気をつけろよ?男だろうと子供だろうとじーさんだろうとお構いなしの変態だからなっ!」

 私の視線の先に気がついたのか、少女が少しバツが悪そうにしながら言う。
 そう言う少女の耳のあたりにある蝙蝠の翼のようなものが言葉に合わせて器用に動く。下がったり閉じたり開いたり、少女の表情も豊かだけど、それ以上雄弁に感情を表している。
面白くなってつついてみると、

「ぴゃあっ!!」

と素っ頓狂な声を上げたので、彼女の一部、しかも敏感な器官だとわかった。

「ごめんなさい。珍しかったのでつい触ってしまいました」

 そんなに驚かれるとは思ってなかったので、頭を下げて謝ると、

「・・・次から触らないでくれるならそれでいいよ。いいからそいつには気をつけろよ!!」

珍しがられること自体には慣れているようで、少しぶっきらぼうに突然触られたことは許してくれたけど、青年に対する態度は(かたく)なだった。
曖昧な笑顔で誤魔化して水の入ったグラスを持ち上げたら、

 パリン 

手の中で割れてしまった。

「うわっ!」
「あわわっ すんまへん!おい、ホウキとチリトリ取ってこいっ。ワイは救急箱持ってくる」

食器に限らず、古いものは経年劣化で、ある時ちょっとしたきっかけで壊れることがある。
誰が悪いわけでもないから、謝られるようなことではないけど、ザックリいったらしく指から血が出てきた。

「こ、れは・・・・・」

向かいにいた青年がなにか呟くと水と血に濡れる手を持ち上げた。どこか熱に浮かされたような目は青いはずなのに赤い色が時々見え隠れして、色の変わる瞳に見蕩れていると何か引き寄せられるように手へと口元を寄せる。
手を這う舌が血を舐めとるごとに熱を帯びてゆく。口元から覗く発達しすぎた犬歯とその行動からようやく彼が何者か理解した。

 ぴちゃ…ちゅっ……れ…

 流れる血に舌を這わす顔から目が離せない。

「……んっ………こんな血は……………………初めてだ」

 流れた血を舐め尽くし、青年が傷口に吸い付く。

「っ!」

 痛みに思わず顔をしかめると、

「客に手を出すなってゆうたやろがぁぁあああっ!!」

大声で怒鳴りながら戻ってきたんごーが、ポンと跳ねてカウンターの上に着地すると、頭の上には器用に救急箱が乗っている。

「あの、気にしないでください。傷もたいしたことないし平気ですよ」

大丈夫だと手をパタパタ振ってみせる。そこに少女も戻ってきて、

「なんだ?またコイツが何かやらかしたのか?」

とか言いながらジト目で睨んでくる。

「えと、ほんと、たいしたことないから」

なんとか誤魔化そうとしてみるけど、んごーにまでズイっと迫られてしまう。

「そういうわけにはいかんで、傷見せてみ」

もうほとんど塞がってるので見せろと言われても困るけど、大丈夫だという証明に傷があった方の手を見せる。

「? 切ったのはこっちの手やんな」
「…はい」
「「「・・・・・・・・」」」

気持ちはわかるけどそう怪訝な顔しないで欲しいなぁ…。できれば説明したくない。自分でもよくわかってないから。と、いう訳にもいかなそうに三人ともこちらを凝視している。やだなぁ…

「自分でもよくわからないんですけど・・・」

前置きにそう言ってこのヘンテコな体質のことを説明する。私の治癒力は、ちょっと常人離れしているのだ。切り傷も擦り傷もやたら治りが早い。別に病気にならないわけでもないし、傷つけばもちろん痛い。ただ、治りが早いだけ。この傷も多分、明日になれば完全に治ってると思う。
 親族の生命を取り込んだのかもしれないと思うと、いい気分はしないし、ちょっとどころじゃない回復力のせいで、誤魔化すために怪我してるフリしたりと、あんまりいいことないんだよね。

「・・・確かに嬢ちゃんからは人間の気配しかせんな」
「血の味も人間のものだったしね」

一通り話すとなんだか随分くたびれた。誰かにこんな話をしたのは初めてだ。怪我をするたびに治ってもしばらくはガーゼや包帯でで隠したりしてたから。

「人間だけど丈夫で回復も早い」
「その上、血の味も極上だとくれば・・・」

 ゆらりと二人が立ち上がり迫ってくる。

「「思う存分頂いても良さそうだね」」
「おいおい!!せっかくの客に何するつもりや!」
「邪魔する気なら相手になるよ」

 庇ってくれるのは嬉しいけど、クナイを構えた少女も銃を構える青年も目が座ってる。どう見てもこんなちっこいオーナーでは勝負にならなさそうだ。

「嬢ちゃん、とりあえず逃げっ!」

 そう言ってあたしを庇う姿は中々に正義の味方チックだ。巻き添えを食らって痛い思いするのは嫌なので、しかたなくお店の外に避難する。
 お店の前の低い石段に座って、ジェイクに声をかける。

(いさか)いが始まっちゃったけどこういうことってよくあるの?」
「賑やかなのはお嫌いですかな?」

 悠然とした問い返しに、なんとなくよくあることだということが分かる。

「嫌いじゃないよ。誕生日をに賑やかに過ごせるなんて初めてだし、ちょっと嬉しい‥‥かな」

しばらくがたがたと騒がしかったけど静かになったので、中を覗くとんごーは頭にクナイを突き刺してベソをかいている。最初から勝つと思ってなかったけど、なんか背中に哀愁が漂っていて少々哀れだ。

「もう入っても大丈夫?」

 顔だけ出して聞いてみると、

「よろこべ!支払いが血液でできるようになったぞっ」

 それは喜んでいいのかどうかわからないけど、なかなか面白いお店だし面白い人たちだから通うのは楽しいかも知れない。

「うううぅぅううう~~~っ!嬢ちゃんの意思が絶対やで!そこは譲れんからなっ!」

そう言い切ったあと「売上が~~」とか嘆いているんごー。

「アタシは裏子、この店のウェイトレスやってる。あ、そうだ紅茶って言ってたよな」

手短な自己紹介を済ませるとさっさと奥へと引っ込んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まともな飲みのもがくればいいね」

 なんでそんな不安になるようなこと言うんですか?出がらしの紅茶とかが出てきたりするんですか?

「・・・・いや、飲めばわかるよ、心配しなくていい」

 私の不安がお兄さんに伝わったのか、いたわるような笑顔でそう言われた。

「はーい、お待たせ。紅茶だぞー」

 コトリと前に置かれたそれは普通だったので、ちょっと冷ましてから口に運ぶ、とたん目の前が真っ暗になった。



 はっと気が付くと、金髪碧眼の王子様が覗き込んでて思わず目をパチパチと瞬く。

「あ、気がついたかい?」

 その声に今までを思い出す。ああ、そうだ。出された紅茶を飲んだら急に目の前が真っ暗になったんだっけ。見回してお店のソファに寝かされてたのに気がついた。

「おーい、嬢ちゃん気ぃついたで!」

 んごーが裏子に声をかけている。

「え、ホントか!?」

 裏子がパタパタと走ってきて、心配そうにしながら、

「なんだよお前!急に倒れるからビックリしたんだぞ!貧血気味なんじゃないのか?」

 貧血なんか一回も起こしたことのないわたしは「?」と首をかしげると。

「・・・・・・いや、あきらかに君の出した紅茶が原因だろ?」

 お兄さんはやれやれといった様子でため息をつく。

「なんでだよ!」

 裏子は意義有りと顔にでかでかと書きながら抗議するけど、

「ワイらこそ、なんでただの紅茶が毒になるんか疑問やねんけど」

 んごーの証言でお姉さんの出すものが危険だということが十二分に理解できた。


「君はもう少し休んだほうがいいよ」

 というお兄さんのお言葉に甘えて、ソファに横になる。今気がついたけど、お兄さんに膝枕されてる。

「あの、お兄さんのお名前をきいてもいいですか?」

 どこかの王子様みたいにかっこいいお兄さんに気後れしつつ問いかけると、

「僕に興味をもってくれるなんて嬉しいね」

にっこり笑うので、ドキドキしてしまう。

「でも僕のことより、君のことが知りたいな」
「わたしのこと、ですか?」
「お互いを知るには、まず肌の付き合いが必要だと思うんだよね」

 肌の付き合いと言われて慌てる。そ、そういうのは私にはまだ早いし、恋人でもないし、結婚もしてないし・・・はわわわっ!

「やめんか色ボケ!」

ブンっと勢いよく包丁を振り回しながら、お姉さんが乱入してきた。ブンブンとお兄さんに向かって包丁を振り回しているので、当たったらどうするのかとハラハラして気が気じゃないけど、お兄さんは何でもないように躱してる。

「お前、気をつけろ。コイツは男だろうが年寄りだろうが来る者拒まずの変態なんだからな!」

 当たらないことに腹が立ったのか、ビシッとお兄さんを指さして裏子はそう忠告してくれた。この位置からだと、パンツ丸見えでちょっと困る。女同士だし、別にいいんだけどね?

「えっと、お兄さん?」
「僕を独占したいがための戯言だよ。かわいいなあ、裏子ちゃんは」

 「変態」がウソかホントかわかんない笑顔でお兄さんがそう言うと、裏子は心底嫌そうな顔で、

「あー、もう面倒くさい……」

そう言って引っ込んでしまった。

「えっと、あの、私は澄んだ香りって書いてカスミって言います。」

 さっき私のこと知りたいって言ったし、自己紹介してみる。私の名前を聞いたお兄さんは、一瞬、変なものでも飲み込んだような顔をしたけど、すぐに優しく笑って、

「僕は飛白。飛ぶに白い、と書いてカスリと読むよ」

そう教えてくてた。

「飛白……。わたしと一字違いだね。このペンダントは飛白からのプレゼント?」

首にかかっているコウモリをつまんでみせる。

「さあ、どうだろう?この店に来るような人間はこの店に縁があるってことは確かだけどね」

 その言葉からは送り主が飛白なのかわからない。送り主が飛白じゃないのなら、これは誰がくれたんだろう?


 もう大丈夫だと起き上がってソファから足を下ろすとスリッパが揃えてあった。

「裸足だったからとりあえずどうぞ」

 履いてみたらんごーの顔が足に2つ。キモカワイイっていうのかな?これ。

「次に来るときは靴もちゃんと履いてくるよ」

 私がそう言うと、

「どーせ売れないんだからあげるよ」

と裏子はあっさり言った。カウンターの上でオーナーが「ヒドイっ!」とか言ってまた泣いてる。飛白は追い討ちとばかりに

「せっかく可愛いのに台無しになるから、次までにピッタリの靴を用意しておくよ」

笑顔で意地悪を言ってさらにオーナーを泣かせた。


 お別れを言ってドアを開けると自分の部屋に戻ってきてペンダントは手に持ってた。いろいろ全部がペンダントを付ける前に見た夢だったんじゃないかと思ったけど、夢じゃない証拠に足にはんごーのスリッパを履いてる。なんか凄い誕生日プレゼントだったな。



 その日から私はお店に通いだし、自分の誕生日が少し好きになった 
 

 
後書き
BTH本家様のブログにて宣伝していただいたので感謝です!!
久しぶりに読み返すと、誤字が多くてびっくり!w 
読みやすいように、誤字も含めてちょこっと手直しました。9月12日 
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