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BloodTeaHOUSE

作者:
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吸血の関係

 
前書き
恒例のイベントネタバレがやってきました。
こちらを読む前に是非本体で遊んでください!お願いします((。´・ω・)。´_ _))ペコリ









   

 
月の綺麗な夜は、お店の前で飛白と会うことが、たまにある。
やっぱり、ヴァンパイアだからか、飛白は月光浴が好きらしい。

今夜もとても綺麗な月夜で、飛白は静かに月を見ていた。
青白い月の光の中の飛白はどこか幻想的で、綺麗って言葉しっくりくる。

「こんばんは、飛白」
「やあ。ってその傷、どうしたんだい!?」

目を丸くする飛白の視線の方を見ると、いつの間にか指がスッパリと切れていた。

「ほんとだ、いつ切っちゃったのかな?」
怪我の治りが普通の人より早い私は、割とこういうことに対して無頓着な方で、
つい流れる血を服に付けないようにする方へ、気を回してしまう。

「はぁ‥‥‥そのくらいなら、消毒すれば大丈夫そうだね‥‥」
溜め息とともにそう言う飛白は、やれやれって感じ。

そりゃあたしかに、ここは山奥だから破傷風菌とかはちょっと怖いけど、
飛白だって、私の傷の治りの速さはよく知ってるはず。

夏にした花火の時の火傷の痕も、もう消えちゃったし、その‥‥噛み痕だって、
3日もしたらきれいに治ってるんだもん。‥‥‥これもたぶん明日には治ってる。

その事実は、人間としての規格から外れてて、なのに普通であろうと振舞ってしまう。
そんな自分が、実はあまり好きじゃない。というか、嫌いだ。
このお店じゃ、わざとらしく振舞わなくても、私は十分人間で、だから安心する。

なんて、ぽたぽた血の流れる指を見てたら、ふと思いついて、

「流れちゃうの、勿体ないから、血、あげる」
そう言って指を差し出してみる。
あの日の、血を支払った時の、飛白の姿を思い出してしまったから。

言っちゃってから、不味いからいらない。って言われたらって思うと、すごく怖くなって、
顔を伏せてしまった。胸の奥で鳴ってる心臓の音しか聞こえないような静寂。
ぽたりと指から血が、地面に……落ちる。

いくら待っても、飛白は動かない。
初めて、私の血を見たときは、あんなに強引だったのに……
今は、微動だにしてくれない。

喉の奥が引き攣れて、息が苦しい。胸が痛い。でも、手は下げることができない。
指から、また血の雫が、無意味に地面へ落ちる。

「僕は……」

あの時と同じ掠れた声音で

「僕は、もう君から…血を、貰うのを……やめたい………」

その言葉に、力を失った腕が手を下げてしまった。
胸が痛い。息が出来ない。全身の肌が悪寒で粟立つ。膝も震える。

「ど、して……?」

それだけ問うのが精一杯だった。その答えがどんなのでも。
聞かなきゃ絶対諦められない。うなずけない。

寒くもないはずなのに、悪寒が止まらない体を、震える膝でなんとか支える。

「君から…血を貰う限り…僕は…捕食者で、在り続ける……君とは…対等で、いられない」

その声は掠れて、少し震えていた。

「君から…血を受ける度に、僕は、君と…違う種族だと、思い知らされ…突きつけられる」

まるで、血を吐くように綴られる言葉の連なりには、真剣な想いが詰まっている。
飛白がどんな思いをしていたかに、気がつかなかった…私は、馬鹿だ。
馬鹿みたいに、血を求められることを、自分が求められてる。だなんて思ってた……

「…………だから、君から…血は貰えない」

でも、飛白には必要、な物……だよ、ね。

「こ、れから、……血…どう…する、の?」

私からは…貰わない………だったら……決まってる、よね………

「…………………。」

沈黙が…その、答え…だった。
考え…たくない、答えに、吐き気が、してくる……誰かに、飛白が…誰かを……っ

「ゃ、ィャ……ゃだ……」

も、う…限界だった……立ってられ、なくて…その場に、ヘタり込んでしまう……
頭の芯まで夜の森の闇に塗り潰されたかと思った……でも、違う。
もっと汚くて暗い何かが…渦巻いて、襲ってくる。

ただ必死に身を縮こめて、荒れ狂うドス黒い闇から耐えることしか考えられない。

「香澄ちゃん…?」

飛白の声が、遠くで、聞こえる……。でも、今は 無理。 へんじ でき な い
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ


ぎりぎりぎりぎりっ

急に押しつぶされそうな力が加わって、意識が外へ向く。
私は飛白の腕の中で、押しつぶされそうになっていた。

「けホッ、こフッ」

肺の中の空気が押し出されて、咳き込んだら、新しい空気が急に肺の中に入ってきて
また咳き込む。何度もそうしてると、少しずつ音が耳に戻ってくる。

「香澄っ香澄ちゃんっ!」

飛白が…呼んでる…返事…しなきゃ…

「こほっ」

咳しか…出ないよ…なんで…?…咳…ぃや…くるし……

「………」
「香澄っ、息してくれっ!」

………息…?

「けふっ…ひぅ…」

こう…だっけ…?…あって…る…?…息…しなきゃ…返事…しなきゃ…飛白…呼んで…

「…ひ…ぅ…く…ふ…」

息…むつかしい…な…でも…しなきゃ…へんじ…しなきゃ…か…すり……

「…、…」
「香澄ちゃ!息をしてくれっ!!」
「けほっ…ふ…は…ぅ…か…は…ひ…ぅ…」
「香澄っ!香澄ちゃんっ!」

……返事…息…しなきゃ…飛白…息…しなきゃ…飛白…返事…飛白…呼ばれ…

「か…ぅ…ぃ…こふっ…は…っふ…けふっ…ふ…は…」

声…出ない…返事…出来ない…息…できな……

「…」
「香澄っ!!香澄 香澄っ香澄!!」

悲鳴…みたい…声…飛白…返事…声…飛白…返事…声…飛白…返事…声…飛白…返事…

「か…けふっ…こふっ…ひぅ…ふ…は…ふ…は…ぅ…ふ…は…ふ…は…」

息…できてる…?…こう…だっけ…?わ…かん…ない…か…すり…いき…へんじ…

「ふ…は…ふ…は…ぁ…ぅ…ぃ…けふっ…こほっ…は…ふ…は…ふ…」

声…飛白…返事…息…飛白…返事…声…飛白…返事…息…飛白…返事…息…飛白…

「はぁ…ふぅ…けほっ…は…ふぅ…はぁ…ふぅ…かはっ…は…ふぅ…っく…」

飛白…返事…息…飛白…返事…息…飛白…返事…息…飛白…返事…息…飛白…息…返事…

「はー…ふー…はー…ふー…はー…ふー…はー…ふー…はー…ふー…はー…ふー…」
「きこ、えるか…?」
「はー…う…ふー…はー…ふー……けほっ…こほ…う…かふっ…は…ふ…」
「香澄ちゃ…」
「はー…か…ふー…はー…ぅ…ふー…はー…ぃ…けふっ…はー…ふー…」
「香澄…」
「か…ふー…い…はー…ふー…はー…はー…か…ふー…はー…ふー…はー…ふー…」

声…でた…息…声…飛白…飛白…息…声…飛白…息…声…飛白…息…声…飛白…飛白…

「か…ふー…り…はー…ふー…はー…か…はー…ふー…」
「うん…」
「か…しゅ…ふー…はー…り…ふー…はー…ふー…はー…ふー…」
「うん…うん…」

…飛白…泣い…て…?…飛白…ど…して…?…飛白…息…する…よ…飛白…

「か…す…はー…ふー…ぃ…はー…ふー…はー…ふー…」

息をして…名前を…呼ぶのに…どのくらい…時間をかけたか…分からない…
何度も何度も飛白の名前をただ呼び続けたことしか思い出せない…

「…や…だ………か…しゅ…り…」
「……やだ…?……な‥に……が……………っ!!
 ………………………君は………そんな…ことの…ために…?」
「か…す…ぃ…?」
「っ、………………いい…今は…いいから…」
「か…す…り…」
「うん…」
「か…しゅ……ぃ……」
「うん…うん…」

どのくらい名前を呼び続けたかわからなくなったとき、ふいに口をついて出た単語。
意味はわからないけど、ただ言えたこと、それだけでほっとして、
私はそのまま、意識を手放すように眠ってしまった―――――…


…―――――彼女が何かをつぶやいたと思ったら、その場にヘタり込んだ時には、
情けないことに、僕は何が起きたのか理解ができていなかった。

呆然と、ただ彼女の顔から血の気が引いてゆくさまを見ていて、
事態の重大さに気がついた時には、既に彼女の小さな体から力が抜けた後だった。
脈はある、気を失っているだけか…と思ったら、呼吸をしていない。

何某かの要因で意識を失うまで呼吸を抑制し、その状態が現在も維持され続けている。
ようやくそこまで理解が追いつく。

明らかに心因性のものだろう。ただ、今は原因を取り除く時間がない。
非常時とはいえ、僕との人工呼吸を知られたくはないだろうと、上空へ飛んだ。
彼女に人工呼吸を試みるも、気道そのものが固く閉塞されており肺に空気が入らない。

原因は分かりきっている。僕しかいない。
罪悪感に押しつぶされそうになる心を叱咤して、彼女を失うことの恐怖から逃れるために、
出来うる限りの全てを試す。

人間は呼吸困難で意識を消失してからの十数分が命運を分ける。
背中を叩く、呼びかける、とにかく思いつく限りのことをしたが、彼女の呼吸は戻らない。
どうしようもなくなって、抱きしめて叫んだとき、彼女が咳をした。

ほんの2回ほどの弱々しいものだったけど、確かに肺とのラインはつながった。

そこからも何度も止まりかける呼吸に必死で叫び続けた。
狭く閉塞している気道が徐々に開いてきたと思っても、彼女の意思のせいでか、
何度も止まっていた呼吸が、ようやく彼女の意思で再開されたと感じた時は、心底安堵し、
この僕が、神に感謝してもいいとすら思ったほどだ。

彼女の意識は半覚醒のまま、時折、呼吸と違う口の動きを見せる。
注意深く観察し僕の名を呼ぼうとしていると、わかるが、
呼吸が安定していないせいで、その行為は彼女を苦しめている。
何度も咳き込み、苦しそうなのに一向にやめようとしない。

僕も、その行為を何度も止めようとしたが、言葉にならなかった。
今、何かを彼女に言うような勇気が、どうしても出ない。
僕の言葉で、彼女の呼吸が止まるかも知れないと思うだけで恐怖に苛まれる。

彼女がするように、僕もただひたすら彼女の名前を呼び続けた。
やがて彼女が覚束無いながらも声を出せるようになっても、僕の名を連呼し続けていた。

違う言葉が出たのは1度だけ。
おそらく、彼女が意識を手放す前につぶやいたのだろう、たった2文字の言葉。
それを言えなかったがために彼女はあんなことに?

…――――自分の心の痛みだけは、我慢しようとする悪い癖があるの――――…

彼女のバイオリンの先生の言葉を思い出し、僕は何も言えなくなる。
彼女と、わざわざアドバイスを下さった彼女の恩師に、心の中で深く謝罪する。

彼女を失うような恐怖に比べれば、対等でありたいなんていう、
僕のささやかな自尊心など捨てておけばよかったと、いくら後悔しても足りないくらいだ。
君が嫌なら他の血なんか要らないから、頼むから笑っていてくれ…

彼女はそのまま意識を手放したけれど、呼吸は規則正しく繰り返されている。
その微かな寝息とも呼べない音が安定した鼓動が、今は何物にも代え難い宝物だけど、
ここで独り占めしていては、この季節だと風邪をひかせてしまうかもしれない。

店に入る前に言い訳を考えてみるが、すぐにどうでもよくなってそのまま抱き抱えて入る。
どうせ、彼女が寝ている限り、彼らもむやみに騒がないだろうしね。

それよりも今は、香澄ちゃんのご機嫌を取るための言葉選びで、僕は忙しいんだ。









 
 

 
後書き
以前にもあとがきで書きましたが、宣言どおり、飛白がひどい目にあいました。

本体と同じように思ってる事を言ってたら、こうはならなかったような気がしますw
さすがに、中学生相手にああいうことは言わないだろう‥‥なんて思ってたらこのザマだw
可哀想な目に合わせてすまないね、2人とも‥‥謝罪はするが、反省はしないw

一応予定ではここが折り返し地点です。うそみたいだろ?まだ半本あるとか‥‥ orz 
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