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BloodTeaHOUSE

作者:
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十五夜

「こんばんわー」「おっす、香澄」「嬢ちゃんまいど!」

「待っていたよ。さあ、僕と甘い時間をすごそう」
「お前はいつもいつも!いい加減ヤメロ!!」
「断る」

いつもどおりのやりとりに苦笑しながら、バイオリンのお稽古。
甘い時間っていうのは、バイオリンのことなんだから、そんなに怒らなくてもいいのに、
飛白の言い方が気に入らないのか、裏子はいつも怒る。

「今日は何の日か嬢ちゃんわかるか?」
「?」

何の日だろう? 学校では特に何もなかった、よね。
何かあれば…節分とかの節句だと先生が言うし、虫歯予防の日には歯磨き練習するんだし、
大抵わかるんだけど、今日は分かんない。 う~ん…と頭をひねってると、

「今日は中秋の名月、つまり「十五夜」だよ」

イラストでしか見たことがない白木の四角いお皿に白い紙を敷いて
お団子が3段に飾られてる、本物の月見団子がカウンターに乗せられた。

「これは三方っていう名前だよ。お団子は十五夜にちなんで、15個が決まりらしいね」
「じゃあ、丸いお団子は、満月ってこと?」
「そう見立てることになるね」

数えてみると1段目に9個、2段目に4個3段目は2個で15個だ。
本当のお月見団子に感動してると、

「ちゃーんとススキもあるぞー!」

なんて裏子が運んできた陶器の細い花瓶にはススキが3本飾られてる。
すごいよ、本格的!

「すごい!本物のお月見なんて初めてっ」

うれしくって飛び跳ねながらそういうと

「可愛いうさぎちゃんが月から来たようだね」

なんて笑われた。
お店の外に出て夜空を見上げると、ちょうどいい高さに月が昇ってる。

「寝る前の緑茶は良くないから、ほうじ茶をどうぞ」

あったかい湯のみをそれぞれ持ってお店の前に並んで座って月を見る。
こんなにじっくり月を見たのは初めてかもしれない。
裏子とんごーは早々と団子に手を伸ばしてるけど、そんな気にはなれなくて、

「うーさぎうさぎ、なにみてはーねる 
 じゅうーごーやおーつきさーん みてはーねーるー」

思わず口からこぼれたのは歌だった。

「十五夜の歌かぁ、嬢ちゃん風流やなぁ」
「誰かさんと違って音も外さないしね」
「ウルサイヨ!」

そんなやりとりに、ふふっと笑ってお団子を取る。
パクリと食べると中にあんこが入ってる。お団子もあんこもとってもおいしい。

「月にかかった雲に見立てて、あんこを付ける風習もあるようだけど、
 初めてだから正統派にしてみたよ」
「飛白は物知りだね~」

「ネットで調べればすぐにわかるぐらいのことだよ」
「そういえば、そっか。十五夜って旧暦の15日だったよね?」
「そう8月15日だよ。2017年と2020年は10月だけどね」

「9月じゃない年もあるんだ!」
「旧暦には閏月っていうのがあるから、30日くらいはズレがあるんだよ」
「あ、それ知ってるよ。昔の日本って月の満ち欠けで一ヶ月を決めてたから、
 1年にすると余りの日が多くて、計算がすごくややこしいんだよね」
「そうだね」

「どうしてそんなことにしちゃったのかな?お誕生日がずれちゃうよね」
「だから昔はお正月が誕生日だったようだね。お年玉や数え年はその名残らしいからさ」
「お誕生日がみんないっしょはつまんないから、今のほうがいいな」

うん、その人だけの特別な日ってやっぱりステキだもん。
誕生日はなくなったら悲しいよね。

「でも3月と4月の間に閏月が来たら春休みが一ヶ月長くなるよ?」
「むぅ~。それは魅力的かも」

一ヶ月もお休みが増えたらわくわくしちゃうかも。
なんとか両方ってわけにはいかないのかなぁ~‥‥

「今年もそうだけど、閏月のせいで十三夜月から立待月、十七夜くらい幅があるそうだよ」
「満月じゃなくてもいいからお月見は綺麗な月の日にしたいな」
「なら来年からはそうしようか」
「うん、約束ね」

なんて指切りをする。ふふっ、来年の約束をするなんて楽しいな。

せっかくいい夜だからと、バイオリンを持ってきて”月光”を弾いてみる。
こんな綺麗な月夜に作られた曲なのだろうね。
私の音も月の光のようにキレイに歌っているだろうか。虫の音を伴奏に音を紡いでいく。

「しかしお月さんにウサギがいてるようには、ワイには見えんなぁ」

んごーはそう言うけど、うさぎの餅つきだと思って見てると、割とそんな風に見えてくる。
人間の目って不思議だなぁ~なんて考える。

「アタシにも見えないぞ。どこをどうみるんだ?」

う~ん。裏子も見えないのか。ちゃんと杵も臼もウサギもいるのにな。

「素直な心を持った人にしか見えないのさ。ね?香澄ちゃん」
「そうなの?」

心が重要なものなの?なーんて思ってると、

「素直になって、裏子ちゃんも僕に身を任せてみようよ」
「結局お前はソレか!!」

なんていつものドタバタが始まってしまった。

I love you.を 月が綺麗ですね と訳したのは誰だっけ? お月見は綺麗な月の日にしたいね




 
 

 
後書き
話の順番を調節してなんとか9月中にお月見をアップ出来ました!
もうね、最初の予定では真冬にお月見か?ってくらいズレにずれまくって、
ホント悩みました。

今ではすっかり廃れてしまったお月見の風習ですが、
実は団子泥棒は縁起のいいことなんですって!
もしも飾ってるのを見つけたら、ぜひ泥棒してあげましょうw 
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