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BloodTeaHOUSE

作者:
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食事と闘争

お店に入ると、お客様がいた。なんとも形容しがたい姿のピンク色のお客様。

「こんばんわ裏子、お客さんがいるね」
「そりゃたまにはお前以外にも客が来ることだってあるよ」

何を今更言っているんだという感じだけど、んごー以外の人外を見るのは。
やっぱりちょっとドキドキするよ。
背中にあるテーブル席を気にしつつカウンター席についた。

「いらっしゃいませ、花澄ちゃん」
「こんばんは飛白、お客さんがいてびっくりしちゃった」

聞こえないように小さな声で話す。

「お待たせしましたー本日のおすすめゲテモノのサソリのはちみつ煮込みですー♪」

裏子が給仕してる……需要あったんだ。なんだか思い出を振り返ってしまう。
いろいろひどい目にあった思い出ばかりだけど。

「どうぞ、アップルティーだよ」
「ぅわあ、いい香り~」

紅茶から立ち上る香りは、りんごのいい香りが混ざってとても素敵だ。
ふと見ると、飛白が小さなシンクで何かを煮詰めてるようす。

「そっちはなぁに?」
「これかい?これはりんごのコンポート。皮は紅茶に使ったからね」
「すごい!じゃあ、全然無駄がないね!」

大きく目を見開いて、感心して言う。だって皮も実も全部役に立つなんて、
りんごだって嬉しいよね、きっと。

「これはまだ作りかけだから、今日はこっちね」
「むぅ、わたしそんなに腹ペコさんじゃないよぉ?」

私がコンポートを眺めてたのを、どうやら食べたいと思ってると飛白は勘違いしたらしい。
そりゃちょっとくらいは気になるけど、おなかはそんなにすいてないもん。

「じゃ、いらない?」
「いる!チーズケーキ大好きだもん♪」

飛白のセレクトはいつも素敵なマッチングをしてくれる。
アップルティにチーズケーキ。今回も素敵なとり合わせだよね。
これがコンポートだったら、きっと味や香りがぼやけちゃうんじゃないかな?

「う~~っおいし~♪」フルフル~

濃厚なチーズケーキとアップルティの香りがたまんない!
このケーキをも飛白が焼いたのかな?すごく私好みの味で、しあわせっ!

「君に喜んでもらえて何よりだよ」

さらりとそういうことが言えるあたりがなんとなくプロっぽいなぁーなんて感心する。
でも、後ろからは食事時に発するとは思えない音が聞こえてきて、振り返るのが怖い。

「なんか戦ってるような音がするんだけど食事だよね?食事で間違ってないよねッ?」
「うにゅうモドキの食事は”闘争”と書いてしょくじと読むそうだからね」

少年漫画で出てきそうな音が響く中、ビクビクしてるとポンと裏子に肩を叩かれる。

「心配すんなって花澄、食事は激しいけど、うにゅうモドキ自体は大人しい奴だからなっ」
「そ、そうなの?ほんとに?」

そろっと振り返ると「サソリのはちみつ煮込み」とは、一体なんぞや?!
という謎の戦いが繰り広げられているけど、戦場はどうやらテーブルの上だけらしい。

「あのさっ、裏子」

前から思ってたことを言おうと、裏子に声をかける。

「ん、どした?」
「えと、あの、な、夏休みのお昼ご飯分‥‥し、支払おうと思って」

飛白にはだいたい週一くらいで支払ってるけど、多分そんなんじゃ追いつかないと思う。
だって、夏休みの間、おひるご飯におやつやお茶なんかいろいろしてもらってたし……
でも今なら、痕もついてないし、裏子にもちゃんとお礼しなきゃって思ってたんだよね。

「いいのか!ついにお前の血が飲めるんだな!」
「嬢ちゃんがいいんやったらしゃあないか」
「……君がそう言うんなら、仕方ないね」

思ってたよりずっと喜んでくれて、ちょっとびっくり。

「えと、どこ、にする?」
「首でいいか?」
「う、うん」

飛白に血をあげるのはずいぶん慣れたけど、裏子は初めてだからやっぱり緊張するなー。
髪の毛を払って、首元を晒し、裏子が近づくのを待つ。

「んっ…………」

私より少しだけ体温の低い口が私の首を咥え、牙を立てる。痛み、は、あまりない。
ただ、頭がぼぅっとする。 ふわふわとした頭では、思考がおぼつかなくて、
ただされるがままになる。飛白の時ははっきり痛みも感じるし、なぜか体が熱くなって
しょうがなくなるのに、同じ吸血鬼でも違うんだな……なんてぼんやりと考える。

「はぁっ……あま、い………こんなに、甘い、血……初め、てだ……」

裏子が口を離し、傷からあふれる血を舐めとっていく。ひんやりと感じた口は
発熱でもしているかのように熱い。ぴちゃぴちゃと濡れた音をぼうっと聞いている。

「もっと……もっと………お前の、血、が……欲し、い……なぁ…いいだろ………
 もう、少しだ、け……アタシに………」
「裏子ちゃん!」「裏子!」

飛白とんごーの大きな声に2人を見やると、なんだかちょっと怖い顔をしている。
ぼんやりと首をかしげる。どうしたんだろう……2人とも?

「ゴメン、あんまりにも血がおいしくてさ……大丈夫か?」
「平気、だよ?だいじょーぶ、だから。気にしないで」

大丈夫だとパタパタ手を振るけど、少しだるい、かも。

「そうは言っても香澄ちゃん、顔が真っ青だよ」
「せやで、嬢ちゃんの顔から血の気失せていくから、ワイら焦ったんやで?」
「そうなの?ぼうっとしちゃってて、よくわかんなかった……」
「そっちのソファで休んだほうがええんとちゃうか?」
「君が急に立つのは危ないよ。僕が運ぶからね」

ソファに寝かされて、なんだか随分楽になった。飛白も、シュンとした裏子も、
側についていてくれる。それだけでなんだか安心してしまう。
横目で見るうにゅうモドキの食事風景もこうして見てるだけなら、なかなか楽しい。

「えへへ、具合悪くなったとき、そばに人が居てくれるのって安心するんだね」
「当たり前だよ、具合が悪い時は誰かがそばにいるもんだろ?」
「そっかぁ‥‥」

そういう当たり前って、ずっと前になくなってた気がする。
いつごろだったかな?たぶん、親戚の誰かが、毎年私の誕生日が、お葬式になることに
気がついたくらいのころだから、ずいぶん前になるな。

「香澄ちゃんは、家で具合悪くしても誰もそばにいてくれないのかい?」
「もう、そんなことで、心配されるような、年じゃない、よ~…」

へらりと笑おうとして失敗する。飛白のこういう鋭いところはちょっと困る。
ここでは現実のことなんかあんまり考えたくなかったのにな‥‥‥
腕で覆った顔からは、水が溢れ出してしまう。やだなぁ、みっともないよね、

「香澄ちゃん、君が話して楽になれるなら、話してごらん?」
「でも‥‥きっと気持ち悪いって思う、から」
「なーに言ってんだよ!アタシたちを見てみろよ!少々のことじゃ驚かないって!」
「そやで、聞くだけくらいしか出来んかもしれんけど、嫌ったりせんから、な?」

みんなの言葉に背中を押されて、ようやくぽつり、ぽつり、と話しだした。
毎年誕生日に行われるお葬式のこと、妹のこと、父のこと、母のこと。親戚たちのこと。
そして、今年の誕生日がすごくすごく特別で幸せな日だったこと。

「ふふっ、ウソみたいな話でしょ?」

すんっと鼻を鳴らして笑う。私だって、自分の話じゃなかったら信じられないもん。
親戚から死神だと言われるのは、別にそんなに気にならなかったけど、
両親に腫れ物扱いされるのは、やっぱり悲しかったな。

「ほな嬢ちゃん、今家に1人で暮らしとるんか?」
「うん。死んでいったのがね、私から血筋の遠い人たちからだったから‥‥
 それに、母の遺言で”施設には入れるな”っていうのもあったし」

「家に1人じゃ寂しくないのか?」
「1年以上も経っちゃったからね。ずいぶん慣れたよ。ハウスキーパさんもいるし。
 それに、今年は誕生日に登校も出来たし、素敵な出会いもあったもん」

うんっと伸びをする。話してるうちに具合がよくなってきちゃった。
起き上がって笑いかける。生きてるのか死んでるのか、あやふやな人たちだからこそ、
私にふさわしい出会いだったんじゃないかなって思うんだ。

「さみしい時は僕の家に泊まりにおいで。嫌なこと全て忘れさせてあげるよ」
「そんなわけにいくか!寂しかったらここに泊まればいいだろ!この変態っ!」

ワーワーギャーギャーと言い合いが始まったのを見ながらくすくすと笑う。
裏子たちが騒がしくなった代わりに、うにゅうモドキの闘争”食事”は終わったみたい。

「すまんな、落ち着きのない店で」
「そこが魅力的なんじゃない?」

店員さんがお化けでも魔物でも、賑やかなこのお店で過ごす方が家よりずっと楽しいもの。






 
 

 
後書き
ごぞんじ伺かの代名詞ともいえる”うにゅう”のモドキに今回は登場していただきました。
え?さくらは?ってそこはなんっていうか、ホラ、あの人妖怪じゃないからw 
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