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BloodTeaHOUSE

作者:
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お手入れ

お店に入ると、長かった裏子の髪の毛がさっぱり短くなっていた。
それはもう勢いよくショートヘアになっていたのだ!!

「ど、どうしたの?裏子!夜道で髪切り魔にでも出会ったのっ!?」

真っ先に失恋が出てこないあたり、ちょっと失礼かもと思ったんだけど、
裏子と失恋は、どうも=で結ばれないんだよねぇ。裏子≠失恋≠髪を切るって感じ。

「あははっ!アタシがそんなのに会う訳無いだろ?」
「じゃあ、どして切っちゃったの?あんなに長かったのに」
「ストリートファイトしてたら髪の毛掴んで引っ張ってくるヤツがいてさ、
 そん時に長いのって邪魔だなーって思ったからだよ」

そんな理由!?びっくりするやら呆れるやらでもう何言っていいかわかんなくて、
まじまじと裏子を見つめてしまった。よく見ると、裏子の髪の毛はところどころ不揃いだ。

「その…、髪の毛はちゃんと美容院で切ってもらったの?」
「美容院って高いじゃん。ここの風呂場で自分で適当に切ったよ」
「だめだよ!髪の毛は変なハサミの入れ方したら傷ついて枝毛になるんだよ!」
「そ、そうなのか?でも、この長さじゃ目立たないと思うけどなー」

なんて、自分の髪の毛をちょいっといじってる裏子‥‥ダメだ、こりゃ。
裏子は可愛くてスタイルもいいのに、どうしてこうも女の子としての自覚みたいなのが
足りないんだろう……。がっくりと、うなだれてる私に、

「髪の毛で言えば香澄の方がぜんぜん綺麗じゃん」
「え、あ、そそう? 一応気は使ってるけど、私の場合、元が丈夫なんだよね」

照れくさくって、つい言い訳してしまったけど、元が丈夫というのはホント。
多い上に太いから、美容師さんに「ハサミが痛みそう」なんて言われたくらいだからね!

「シャンプーとか何使ってるんだ?」
「んー、あんまりこだわってないかも。なるべくよく泡が立つのを使ってるよ?」

髪の毛のお手入れは洗う前と洗い方、そして洗ったあとが大切なんだもん。
シャンプーは泡がちゃんとたてばいい。付加価値をあまり求めすぎちゃダメだと思う。

「じゃあ、どんな手入れしてるんだ?」
「えっとね。お風呂に入る前に…」

「ストップ!風呂に入る前から始まるのか!?」
「うん。ブラッシングしてホコリなんかを落としやすくしておくのは基本だよ?」
「なんか面倒だなー」
「ちょっとでいいんだってば!一通りブラシを入れたらお風呂に入るんだから!」

嫌そうな裏子にそんなに面倒なことじゃないといろいろ説明する。
朝みたいに丁寧にしなくてもいいとか、目の粗いものでも構わないとか。

「で、お風呂に入るでしょ?私は髪が長いから、しっかり濡らすようにしてるよ」
「湯船に浸けたりとかするよな」
「そうそう、毛先なんかは湯船で濡らしちゃったほうが早いもんね。
 でもなるべく髪には触らないようにするかな」

「なんでだ?手櫛とかしたくなるだろ?」
「髪の毛って、濡れると傷つきやすくなるの。だからあんまり触らないようにしてる」
「アタシは結構いじくりまわしてたなぁ」
「結局洗うんだから、あんまり変わんないかもしれないけどね」

こういう話に興味を持つところはちゃんと女の子してるのになぁ。なんて思ってしまう。

「なんだい?髪の毛の手入れの仕方かい?」
「そなの。飛白は髪の毛柔らかいから大変そうだよね?寝癖とか」
「あはははっ!寝癖のついた飛白かぁ、見てみたいな!」
「なら今晩、僕に家に来るかい?」
「誰が行くか!ボケ!寝癖のまま店に来いよ!」

うんうん。こういう時に顔が赤くなる裏子は女の子だよね。
純情で照れ屋さんなところはすごく女の子っぽい。手に包丁さえ持ってなければ、ね。
飛白も裏子をからかってばかりいるけど、ほんと、小学生のじゃれあいみたいだよね。

「はい、今日はジャスミンティだよ」
「わ!お花が入ってる!」
「しばらくしたら開いてくるから見ててごらん」
「ほんと?わぁ楽しみ~」

花が徐々に開くごとに香りが濃くなっていくのがまたうれしい。
赤い花が開いていくのがおもしろくって、じぃっと見つめてたら、

「そろそろ飲みごろだから、飲んでみて」

そう言われたのでそうっと茶器を持ち上げる。花は八部咲きくらいかな?
口に含むと、ふわぁっとジャスミンの香りでいっぱいになる。

「初めて飲んだけど、すごくいい香りで美味しいね♪それにすごく可愛い!」
「喜んでもらえて何よりだよ。花にジャスミンの香りが付けてあるんだ」
「この花がジャスミンじゃないの?」
「ジャスミンの花は小さいからね、こういうふうに咲かせるのは無理かな」
「そうなんだ~。でもこれ、飾っておきたいくらい綺麗だね」

なんて笑って、またお茶の中の花を眺める。
ゆらゆらとお茶の中で揺れる花は幻想的で漂う香りと相まってしあわせな気分になる。

「ええ匂いやな、ジャスミン茶か」
「そうなの、とっても美味しいよ」
「懐かしい匂いだなー」
「そっか、裏子は中国出身だもんね。こういうのよく飲んだ?」
「まあね、花は入ってなかったけど、よく飲んだよ。美容と健康にいいんだってさ」
「へー、そういう効能があるんだ」

お肌が綺麗になったりするのかな?
それともこのいい香りで、心が安らいで健康的になるってことかな?

「で、美容で思い出したけどさ、髪の手入れ、最後まで教えてもらってないぞ」
「そこまで短くしたのに必要あるの~?」
「また伸ばすかも知れないだろ?参考に教えろよー」

腰に手を当ててそういう裏子に気圧される。う~ん‥‥お茶を飲みながら考える。
髪の毛を伸ばし始めて長いから、ロングヘアの人の手入れしかわかんないんだけどなー

「まいいけど。シャンプーは手でよく泡立ててから頭皮をしっかり洗うの」
「このあたりは基本だよなー」
「でも毛先はあんまり洗わなくてもいいかな」
「えっ!洗わないのか!?汚いだろ!!」
「裏子くらいの長さなら勝手に泡にまみれるでしょ?わたしだって髪の毛流す時に
 シャンプーが軽い汚れくらいなら洗い流してくれるんだよ」

そう、毛先までしっかり洗っちゃうと、かえって髪の毛を痛めちゃうのだ。
髪の毛は爪と一緒で傷がついても治ることはないから、まず傷つけないことが重要!
だから泡立てたシャンプーで洗うのは頭皮が中心なの。

「そのためにシャンプーはしっかり泡立てるんだから大丈夫だよ」
「香澄が言うならそうなのかもな。う~ん、それからは?」

「シャンプーもリンスもコンディショナーもトリートメントも、しっかり流すこと!
 洗剤ってね、整髪料なんかより、髪にはずっと良くないものなんだから」
「リンスとかコンディショナーとかトリートメントもなのか!?」
「成分表を見たらわかるんだけど、シャンプーとリンスって、そう変わんない物なのよね」

そう、たいていの洗髪料の類は、油と水と界面活性剤と香料で出来てる。つまり、
石鹸と成分は変わらないの。しっとりしたなんて騙されちゃダメ!それは石鹸なんだもん。
そんなものを髪の毛に残しておくわけにはいかないよね。すっきりさっぱり洗い流そう!

どうしてもそれで髪の調子が悪くなるんだったら、お出かけ前に椿油とか使ったほうが
絶対に髪の毛の健康にはいいんだよね。

「じゃあ洗い流すのはこれから頑張るよ。それで、洗い終わったからこれで終わりか?」
「まだまだ!これからが本番だよ!」

ぐっと手を握る私に、裏子は「ええっ!」とばかりに仰け反る。
でもここで手を抜いちゃったら意味がないんだよねー‥‥是非とも頑張ってもらわなきゃ!
ちょっと休憩にお茶を飲んでから、またお手入れ講座を始める。

「まず入浴剤とか石鹸に、洗った髪の毛が触れないようにまとめなきゃダメだよね」
「それくらいならアタシもしてるぞっ」
「その時にいいのはタオルだよ。濡れてても乾いててもいいからタオルを使うの」
「ヘアゴムじゃダメなのか?」
「う~ん、タオルで髪の毛をまとめたほうが、何かと便利でいいんだよね~」

「美容院とかでやるやつだよな。あれは気持ちいいよなー」
「そうなの。それにタオルだと髪の毛についた余分な水分を吸ってくれるからね」
「そう思うと髪の毛まとめるのはタオルでやりたくなってくるなぁ」

ふふっと笑い合う。まさか裏子とこんな女の子っぽい話ができるなんて思ってなかったな。
パジャマパーティとかしたら楽しそうだよね。

「髪をまとめるのは簡単だけどそれだけでいいのか?」
「お風呂上がりからが本番なのよ、裏子」
「あー‥‥長いと髪を拭くのって大変だもんなぁ」
「そこはほら、タオルが活躍してくれたおかげで、ずいぶん楽だよ」
「なるほど!いいなタオル!お役立ちじゃん!」
「でしょ?だ・か・ら、残った水分を頭皮から順番にしっかり拭き取っていくの」
「やっぱ大変じゃん‥‥」

ぐったりする裏子をなだめすかせて、なんとかタオルドライの大切さを聞いてもらう。
だって、濡れたままベッドになんか入ったら、翌朝寝癖はずごいことになるし、
髪だっておふとんで擦れて痛んじゃうんだもん!最大の山場なんだから!

「最後に髪が乾いたら、ちゃんとしたブラシでブラッシングして終わりだよ」
「ちゃんとしたってなんだ?普通のブラシだろ」
「わたしはつげの櫛を使ってる。朝に髪がまとまらない時には椿油を使ってもいいんだよ。
 動物の毛を使ったブラシもいいんだけど、お手入れが大変なの」
「天然物の素材で出来たやつでってことか?」
「うん。プラスチックとかだと安いけど、劣化は早いし、髪に使う油もなじまないしね」

今使ってるのはおばあちゃんが元気だった時にくれたものだから、
もう何十年も使ってることになるけど、全然現役だし、細工も可愛いんだよね。

「女の子はいろいろ大変やなぁ」
「それ以前に、オーナーには毛がないよね」
「うっさいわ!」
「ま、ハゲには関係ないことだよな」
「ハゲやない!ハゲちゃうねんで!ぶぇ~~~~~ん!」

泣いてるんごーを放っておいて、裏子と「今度パジャマパーティしようよ」なんて
女の子2人で楽しい相談をするのだった。







 
 

 
後書き
たまには裏子と女子トークがさせてみたくて書いてみたけど、
なんだかお手入れの解説みたいですね。
修行がまだまだ足りないなー
 
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