| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SWEET DREAM

作者:
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 次ページ > 目次
 

 

 
前書き
銀魂BL 銀時×土方 馴れ初め 原作設定 いろんな意味で糖度高め
3万6千文字以上と長いのは書き上げたあと3年くらい放置してからです。 

 
「おやぁ?お花ちゃん、何してんの?」
「あら銀さん、この間は助かったわ。個人的にお礼したいと思ってたところなのよ。」
空よりもネオンがまぶしくなる時間帯に巡察していると 時々、こういう光景に出くわす。
「何なに?個人的にお礼?うれしいねぇ。銀さんちょうど甘いものが切れててさぁ。もう禁断症状?みたいな。」
「やーね、もうっ。すぐにケーキやパフェなんだからぁ。じゃぁ・・・」
一人として相手は同じ女ではなかったが、たいてい流れは同じだ。ヒソヒソと耳打ちする女の話を聞いてる万事屋の顔が微妙に緩む。
「へえー、マジ?最近はそんなとこあんの?」
「どう?気に入った?」
「食べ放題なの?そこ」
「もちろんよぉ。”あ・た・し”もね」
「よーし銀さん、はりきっちゃおっかなぁー。そっちもそういえばご無沙汰だったしねー」
にかっと笑うと腕に纏わりついた女と人ごみに消えていった。

「あっ!副長ーっ。ひどいですよぉー置いていくなんてぇー」
我に返り、くわえたままつける事を忘れていたタバコに火をつけ振り返った。
「おめェが遅いのが悪ィ」
 おかげで胸クソ悪ィモン見ちまったじゃねえか。ひとりごちて とりあえず山崎を殴っておく。
「?」
(――――胸クソ悪い?なんで?何が?)
ふっと浮かんだ疑問が携帯の音にまぎれる。「ハイ土方―・・・」
「ザキィ!すぐそこで喧嘩だ、行くぞっ」
「は、ハイィ!」
酔っ払いの喧嘩だったが、抜刀しながらとのことだったので、見物人を割りながら近づいてみると、

「目玉焼きには醤油だろーがぁぁああ!!」
「ウルセェ!味覚音痴がァ!!塩コショウで決まってんだよォ!!ウルァ!」

めまいがしそうなくだらない喧嘩の内容にさっさと抜刀するやいなや、回し蹴りで蹴り倒し二人とも仕留めて抜身の切っ先を突きつけながら、

「オイ。目玉焼きだろーが出し巻きだろーがマヨネーズが決まりだァ!それででいいな?オラァ!」

ゴゴゴゴゴッとでも音のしそうな暗黒オーラを纏いながら一応喧嘩の仲裁を片付けた。遅れて到着した隊員に後を任せ
「山崎、巡察にもどるぞ」
元のルートに戻ろうとしたとたん、再び携帯が鳴り、結局あっちこっちに振り回されている間に気がつけば定時をとっくに過ぎてしまっていた。
「山崎、お前もう上がっていいぞ」
「えっ、副長はどうするんですか?」
「俺ァもう一回りしたら帰る」
「そんなこといって厄介ごとに巻き込まれないでくださいね」
「うるセェ、いいからとっとと帰れ」
監察の山崎を連れまわして肝心なときに使えないようでは困るのだ。副長の自分にもそれが当てはまるとの自覚は微塵もなかったが。



◇            ◇           ◇           ◇



「ふぁっ―・・・あんっ あっ、あぁ、ぁん」
銀時とて男であるからして放っておいても溜まるものは溜まるのだ。いつも厠で処理をしていては虚しくもなるというもの。
後腐れない相手と肌を合わせるのは嫌いではない。背負い込むのが面倒なだけに一人に絞ることは避けている。
なんせいつのまにか万事屋はメンバーも増えたし、そもそも自分には何かを守ることなどできはしない、向いてないのだ。
ぺろりと首筋に舌を這わせながら、跡が残らないように吸い付いた。やわらかい身体が縋りついてくると、ふっと笑みをこぼし人肌を堪能する。快楽はお互いが溺れるものでイーブンだ。それだけでいい。

「銀さん、堂々と朝帰りですか?」
すでに来ていた新八がひそかに眉根を寄せる。
「いやぁ~、この前、ストーカー浪士に付きまとわれてたお花ちゃんがさぁー、銀さんにどーっしても個人的にお礼がしたいっていうからね?最近糖分不足だって言ったら、奢ってくれたのよ~。ケーキバイキングで食べ放題!久しぶりに堪能したなぁ」
「銀ちゃん、なんでワタシに声かけなかったアルカ!おなかいっぱい食べられるチャンスなんてそうないネ!」
ふくれっ面しながら押入れから出てきた神楽に
「だぁ~かぁ~らぁ~、個人的なお礼に呼べるわけないでしょ?対象は銀さんだけなのっ!」
ツバ飛ばしながら言い切る。
「なんで銀ちゃんだけアルカ?それ、3人でした仕事だったはずネ」
全然納得できないと、神楽はふくれっ面である。
「そりゃお前、お花ちゃんのストーカー撃退の話だけだろ?銀さんはねぇ、お花ちゃんの彼氏のフォローまでちゃあんとして仕上げたわけよ。商人にゃ切った張ったは無理だろ?だけど無理でも何でも彼女を守ろうとした心意気はあったわけでね?それをお花ちゃんに伝えて人の仲を取り持ったの!そういう細やかなサービスのお礼な。つーことでお前と新八ははずされたわけ!」
嘘は言っていない。もちろん言ってないことはあるけど、子供とも呼べる年齢の二人には話さないほうがいいこともある、それだけだ。
「あんまり爛れた生活してるといつか後悔しても知りませんからね」
聡い新八はそれでも何か気づいてはいるようだが、聞こえないふりでジャンプを読むことにした。

昼過ぎに定春の散歩がてら3人でぶらついていると、見知った顔を遠くに見かけた。黒のそれは昼間見るには少し周りから浮いて見える。
(……そういやあんとき あいつが近くにいたんだっけ)
もちろん気がついていたが、あの時はいつもの隙のない顔つきとどこか違った。その証拠に場所を離れるまで、咥えていたものに火が灯ることがなかったのだから。
「あっ沖田さーん、土方さーん。お仕事ですか?」
目の悪い新八が気がついて手を振る。続いて神楽が朝のやり取りの不満をぶつけに走った。


◇            ◇           ◇           ◇


「ちょっと聞くヨロシ マヨラー!銀ちゃん昨日一人で甘いものたらふく喰ったネ!」
「ちょっと神楽ちゃん!まだそのこと根にもってんの?!」
まだ幼さの残る二人に、いったい何爛れたこと吹き込んでやがんだ? そう思いながら聞いてみると、どうやらそうではないらしい。仕事熱心なタダの美談である。 が、昨日の様子を知っている土方にはとうていそうは思えない。

「ふーん、旦那もたまにはまともに仕事してるんですねィ。」
「たまにはって何?!銀さんはいつもいつもまじめに仕事してるよっ!」
取ってつけたような沖田の言い様にムキになって答える。
「そうですよ。受けた仕事はなんだかんだいって結構まともにしてますよね、銀さんは」
「ソウネ。仕事が少ないからウチは貧乏アルヨ」
フォローになってない援護をガキどもから受け微妙な気分だ。
「仕事とってくんのも仕事のうちだろうがよ・・・。ったく」
タバコに火をつけながら経営方針の根本をつつく。
「しかしここいらに24時間営業の甘味所があるたぁ知らなかったが、どこなんだ?それ」
ニィーと笑いながら聞いてみる。まぁ、教える野郎じゃねえだろうとは思いつつ・・・。
「何?副長さん興味あんの?めずらしーねー。なんでもかんでもマヨまみれにするくせに。言っとくけど聖なる食べ物をマヨネーズまみれにするなら教えないよ、銀さんは」
思ったとおり気ダルげにハナクソほじりながらそう言う。適当に答えて煙に巻くつもりだ。
「ほぉー、じゃ何か?マヨネーズかけないっつったら教えんのか?あぁ?」
(どーだ教えられねーだろ?)
「ん~~・・・。どうしようかなぁ?だって副長さんいっつもマヨ携帯してるじゃん?いざ実食っ!て時にだいなしにされたら、銀さん泣いちゃうかもしんないし?」
(コノヤロウ・・・のらりくらりとごまかしやがって!)
「じゃあ万事屋。俺の奢りで携帯しているマヨは全部ここで置いていくっつったらどうだ?」
もうここまできたら意地だ。あふれんばかりの甘味にゃまったく興味がわかねぇ。が、のらりくらりとかわされていること自体に腹が立ってきた。
(ぜってぇチャイナとメガネを連れてそこへ行ってやる!!)
「あー・・・・・・。」
(ケッ。困ってやがる。そーだよなぁ?どーせガキ連れて入れるところじゃねぇんだろ?)
 なんかちょっとまずいことになった顔をして頭をガシガシ掻いてる万事屋に溜飲を下げる。爛れた生活してっからこういうことんなんだよ。バァーカ。
「しゃーねぇなぁ。教えるよ」
(は?)
「ただし、予約がいるしペア限定だが 副長さんがそこまでいうんならそれでいいよな?」
「銀ちゃんズルイネ!!また一人でおなかいっぱいアルカ?!」
「はいはい、神楽ちゃんー。今度は山ほど持ち帰ってやっから安心しな」
「本当か?本当アルネ?キャッホーーーイッ!」
(な、な、な、な、なんでそうなるっ!)
「銀さん、持ち帰れるんなら僕も姉上のために少しお願いします。ああみえて、仕事は結構ハードみたいですし、甘いものでも食べてほっとしてもらいたいんですよ」
「おーよ。新八、まかせとけ!」
あれよあれよと話が予想を裏切る形で進んでゆく中
「良かったですねィ、副長ー。これで少しは味覚が蘇りゃバンバンザイでさァ」
隣の総吾が悪魔の顔でニヤリと嘲う。・・・コノヤロウ、今すぐ掻っ捌いてやりてぇ。
「あー。もしもしぃー?予約したいんですけどー」
いつの間に抜き取ったのか、俺の携帯で万事屋はその場所に予約入れてやがる。くるりと振り向きニヤニヤしながら携帯を手渡しながら
「今日は8時からなら大丈夫だってよ。予約入れたから時間前にウチに来てね」
そう言うと
「楽しみだなぁー・・・ぷぷぷっ」
耳元に心底面白がった声でささやかれた。チクショウッ!!ハメられたッ!!


◇            ◇           ◇           ◇


総吾の前で予約まで入れられてしまった以上、無視はできない。が、さっきから嫌な予感が止まらない。嬉しそうに腕にまとわりついてた女の姿が、気を抜くと自分にすり替わっていて、慌てて背筋に走る寒気とともに打ち消すことの繰り返しを続けている。時間はそこまで迫ってきているが、普段の仕事の半分も終えていない。
「しかたねぇっ」
さすがに隊服で出歩くのは目に付くだろうと私服の着流しに着替え、いつも袖に忍ばせているマヨたちを文机の上に並べると、潔く障子を開けた。

やはりというか、そこには見慣れたアイマスクがいた。
「早くしねぇと遅刻ですぜィ」
「・・・・・・・・まだ7時半だろが」
「万事屋から移動すんならその時間も計算に入れないといけないんじゃねぇですかィ?」
「っ!――いいんだよ。どうせ俺持ちの飯だ」
「飯ねぇ・・・。まぁせいぜい楽しんできて下せィ。山崎のほうは俺から言っときやすんで」

足取り重く階段を上がると、計ったように銀時が出てきた。
「・・・・テメーは野生動物かよ」
「いやいやいやいや、ここ安普請だし?誰か来るとある程度わかんのっ。来客の予定は副長さんだけだったから出て来ただけだよ?」
なんか背中にバカでかい風呂敷包み背負ってやがるが・・・無視だ、無視。
「まぁいいや。んで、どこなんだその24時間営業の甘味所とやらは」
「その前にチェックね」
「アァ?チェックだぁ?」
「そ、マヨ持ってきてないか、のチェック」
袂を探られ、着流しの合わせを探られ、後ろに手が回ったとたん体がはねた。どう見ても抱きしめられているようにしか見えない。頭を万事屋の腕に纏わりつく自分が掠める。ぺたぺたと背中を探る手になぜか息ができない。最後に股間に手をぐっと押し付けられ思わず手が出てしまった。
「テメー!!アホかぁーっ!!!!」
「???何なに?なんなの???」
「何さり気にセクハラしてやがるっ!!」
「はあぁ?こっちはマヨがないかチェックしてただけですけど?なんでセクハラよ??」
確かに、ふんどしなら仕込めるサイズがあるのは知っていたが、普段の消費量が量だけにお世話になったことがなかったから、すっかり頭からすっぽ抜けていた。というか背中のチェックの時点で半分パニクッていたが、よく考えればそもそもここは万事屋の玄関先だ。ガキ二人もまだ中に居るようだし、ナニかがあるはずがないのだ。
あるとしたら―――・・・・・・・・・・・・・・・・考えるのはやめよう。
「あいにくだが、股間に隠れる量なんか一瞬でなくなっちまうだろうが。たったそれだけの量でテメーにあとあとまでのネタを提供するつもりはねぇ。もういいだろーが!さっさと行かねえと予約が台無しだ」
「あいよ。そんじゃ神楽、新八、土産期待してろー」
「行ってらっしゃい銀さん」
「明日楽しみにしてるアルヨー」

(明日ッつったか今?つうことは今晩この野郎と二人で過ごせってか?ありえねぇ。なんでこんなことになったんだ?チクショウ!)
うきうきと足取りも軽く街を歩く銀時の隣で、真っ黒なオーラを垂れ流しつつ歩幅にまかせて何とか歩いてゆくのであった。20分も歩いただろうか、すでに精神エネルギーの大半を使い切って、マヨネーズ王国にでも逃げようかと考え出していた土方は、あからさまなネオンの前に到着した。



◇            ◇           ◇           ◇





”SWEET DREAM”

そう掲げた看板どおり、ピンクのお菓子の家がそびえ立っている。ネズミの国に出てきそうな外観を、さらにデコレーションして し過ぎました、ゴメンナサイ。とでもいうような、ある種の異様な毒々しさをはなつ趣であるが、とりあえずここがゴールらしい。
入り口の横にあるベルの紐を引っ張ると、蝶ネクタイをした執事風の人間が出てきて名前を告げるとにこやかに案内された。ついてゆくとチョコレート細工のような螺旋階段がありグルグルひたすら登って到着したのはドアの前だった。クッキーに見えそうなそれは明らかにドアで、銀時はまるで子供のようなはしゃぎようだ。
いそいそと中に入ったヤツに続いて嫌々ドアをくぐると、甘ったるい匂いとともにめまいを覚える内装が迎えた。

思わず渾身の力で殴ってしまったのは仕方がないだろう。銀時は風呂敷包みを放り投げてうずくまりっている。

「・・・ってぇなーオイ!なにすんだよ!」

デコラティブルなテーブルもビスケットのようなキルトのソファもこの際いい。クッキーに間違えそうな壁もウェハースみたいな天井も気にしないでおく。が、なんで当たり前のようにキングサイズのベッドが鎮座してんだ!!!

「ただのラブホテルじゃねぇかぁぁあああ!!!!」

マヨネーズを取り上げてられてまで連れてこられたのが、キングサイズベッドの鎮座する部屋。
(何の嫌がらせだ、こりゃあ。いったいここで俺に何をさせる気だ!アァ?)
怒り怒髪天をつく勢いの土方を相手に、何を言ってるか分からないといった風に銀時は答えた。
「何言ってんのお前?ここはれっきとしたホテルだよ?」
「あぁん!!?」
「だーかーらぁー、ラブホテルじゃなくてホ・テ・ル。わかる? 男と女の爛れた欲望のためだけに存在するんじゃなくてぇ、ちゃんとした宿泊施設なの!お前はどうだか知んないけどね、子供の頃に全部お菓子でできた家に住んでみたいなーとか 思ったやつってのが結構な数いるわけよ。そういう夢を天人の文明が入ってきたおかげで叶えるチャンスができた、それがココ、SWEET DREAM!もちろん?金のある夫婦が子供の夢叶えるために泊まったりもしてる。いたって健全な宿なわけ!!  神楽は確かにそりゃあよく食べるけどね? 味にはまぁーなんつーか、こだわらない子だし? 新八はそもそも甘いもんをそんなに喰えるわけじゃないからねぇ。 だから万事屋全員で押しかけて、家族用の部屋使って喰い散らかすよりも俺ら2人のほうが宿に迷惑がかかんないし料金も安いから2人用の部屋にしたわけ。ツインの部屋もあるっちゃあるが、数が少ないうえに予約で今回は埋まってたんだわ。で、ここの目玉に、食べられるお菓子の家代わりの、24時間ケーキ食べ放題のバイキングがあるわけ!!わかった?」
長々とした説明にようやく頭に上った血が引いてくれたのはいいが、
「・・・・オイ、甘いもの意外はねぇのか?」
「ん?あるよ。別料金だけどね。聞かなきゃわかんねぇが大概の物は揃ってんじゃないの?もうちっと時間が早けりゃ、レストラン的なモンも営業してんだけど、利用客は少ないね。なんせ自分の夢の世界を満喫するためにあるようなもんだし、ここって」
くらくらするが、確かに銀時に礼をするなら”うってつけ”の場所であるだろう事は理解できた。落ち着いて見回してみると、そこかしこに菓子をモチーフにした飾りがちりばめられている。カーテンをとめているのがキャンディだったり、電話の横にあるペンはスティック状の焼き菓子に似ているし、ベッド横のライトはイチゴとチョコのパフェがひとつづつ。・・・見ているだけで胸焼けしてきそうだ。
それでも下卑た感じはなく、むしろ上品かつ落ち着けるような、それでいて別世界の雰囲気を漂わせているのは、夢を買いにここを訪れる人々のためであろう。
「さーてそんじゃまずはー・・・」
おもむろに受話器を取ると早速バイキングを申し込んでいる。
「そう、二人分ね」
「オイィ!なに勝手に二人分頼んでんだよ!」
「何?副長さんはここにきたかったんだよね?ここの目玉を試すために来たんじゃなかったの? それともほかに何か目的でもあった?」
「ぐっ・・・」
ニヤニヤしながら聞いてくる銀時に、読まれてたことに今更気がついた。 悔しいが、認めるくらいなら甘いもんに窒息させられたほうがマシだ。



◇            ◇           ◇           ◇



コンコン

控えめなノックの音に、待ってましたとばかりの銀時は、ドアを開いて従業員たちを招き入れる。ワゴンの数4台が、それぞれ三段重ねで所狭しと甘味を並べている。保冷のためか、ドライアイスの煙が凝った作りのワゴンから夢の世界のように絶え間なくゆらいで落ちている。
「本日の新作をメインにしております。皿が空きましたらご要望のテイストでご用意いたしますので。 それとこちらはルームサービスのメニューとなっております。」
そういって差し出された、落ち着いた雰囲気の薄いノートらしきものをうけとると、一同がすっと一礼して音もなく速やかに去っていった。
「ほい」
と渡されたグラスに銀色の液体が注がれる。
「なんだ?これ」
「ウェルカムドリンクだよ。天人製らしいが甘くなりすぎた口を適度に洗ってくれる。おかげでいくら食べようがきちんとどれも美味しくいただけるって代物だ。  んじゃ乾杯」
「乾杯って何にだ?」
「んー、土方くんのスウィーツ王国入国に?」
「・・・・いつの間に入国したんだ」
ぶちぶちと文句を言いつつも、一口飲んでみてなるほどと思った。さっぱりとした炭酸に口の中が洗われるようだ。
さて、と覚悟を決めて3段重ねのワゴンを見る。と、手際よく3種類盛り付けられた皿がスッと渡された。
「甘いもの初心者は、まずはあっさりしていて生果の多いのと食べやすくて定番の焼き菓子から」
それなら多少はいけそうだと、まずはイチゴのタルトを口に運んでみる。マヨの味のまったくしないものを口にすること自体が久しぶりだった。
「へえ」
美味い。確かにそれを売りにしてるだけあってなかなかのものだ。
「どう?」
「悪かねぇ」
素直にほめるのは癪に障ったのでそう言いながら食べた。
「そうか」
ふっと銀時が顔を緩めた。
「んだよ」
「いやね?初めて俺が好きなもん副長さんが口にしてるのみてると嬉しくなっちゃってさぁ。悪かねぇって事はアレでしょ?不味くないわけで・・・なんかホッとしたわ」
へラリと笑ってる万事屋を見ているのがむず痒くなってつい目をそらしながら
「・・・さすがにこれ全部は無理だぞ」
「おー、まかしとけってんだ!後2、3回は頼むしな」
「はァ?食べ放題だからってテメーどんだけ喰うつもりだ!しかも昨日も喰ったんだろ?!」
「いやいやいやいや!!こっちは土産がメインなの!神楽は銀さんの3倍以上は食べるし?新八の姉ちゃんは量より質だろうから、この辺りの新作に手が出せない。新作も まぁ、ちょこっとつまむだろうけどそんくらいよ?
ってか、昨日見てたのって、やっぱ俺のことだったのねー」
しまったと思っても、口から出た言葉は戻ってこない。言い訳しようにも言葉は出てこず、背中を向けてこんどは酒の香りのするケーキに手を出す。ナッツ類が入っているせいか少し香ばしく、酒の香りと混ざり複雑だがどこか素朴な味がした。結局、チョコレートケーキもそのままの流れで食べてしまい、皿は空になった。口直しのドリンクを飲んでると、
「もうちょい食べる?」
すいっと背中越しに皿を差し出されたので見てみると、2種類に減らしてある上に、どうやら馴染み深そうな味のものらしい。少し躊躇したがもう少しいけそうだったので、素直に受け取りスプーンを持つ。緑色のムースを掬って口に入れると、ほろ苦い抹茶の味がする。ふわりと溶け、風味と苦味と甘さがちょうどいい。最後のは白と黒のコントラストがきれいなモザイクゼリー。器から行儀悪くザラット口に滑らせると、コントラストどおりにコーヒーとミルクの味が混ざりながら消えていく。
「っそーさん」
そろそろ塩気が恋しくなってきたころあいだったので、ルームサービスメニューを眺める。
後ろでは一定のよどみない間隔で、咀嚼音と皿のカチャカチャ鳴る音。見ると4台ともほとんど残っていない。残っているのは土産用なのだろう。余ったドライアイスがそこに集められている。つまみの盛り合わせと酒を頼んだら、万事屋からバイキング2人分追加も頼まれた。テイストは”王道”だそうな。


◇            ◇           ◇           ◇


さほど届くまで時間がかからないようだが、今日は私服に着替えただけで風呂に入っていない。ついでだから入ってしまおうかと風呂場を覗くも、この部屋に入った時と同レベルの驚愕に慌てて銀時を呼んだ。
全面ジェリービーンズのタイルに、ドーナツを重ねた椅子。どう見ても蜂蜜の瓶にしか見えないものが4つ。シャワーはあるが、石鹸、手ぬぐいの類はない。掃除用にしてはかわいらし過ぎるペロペロキャンディ型のブラシが一本。勝手が違いすぎて何をどうするのか想像すらできない。
「ああそれな、体用、頭用1、頭用2、風呂用、の液体だよ」
「風呂用ってなぁなんだ?」
「温泉の素みたいなもん?体にいいとか疲れが取れるとかいうねぇ」
「でこっちのブラシは体を洗うときに使うもの。柔らかいタワシに柄をつけたようなかんじね。背中とかだと普通のタワシじゃ届きにくいやつもいるからね」
「なんか、見るからに使いにくそうだな」
「実用性はこの際あんまり気にしないの」
「あぁ、そうそう。ほい」
ぱしっ。飛んできたものをつかむと蜂蜜瓶の小さいヤツだった。
「それが顔用ね。体用で顔洗うとひでぇめに会うらしいからそっちおいときな」
「はァ?顔専用?んなもん石鹸ひとつで両方いけんのになんでそんなもんが・・・?」
「ハイハイー、ここはそういうこと気にしちゃ負けな場所なのー。石鹸はないんだからあきらめなさい」
一通り教わり終えた頃ちょうどノックの音が聞こえた。

さすがに二度目ともなると、驚きもさほどではないと思っていたが、4台のワゴンは予想を裏切ってくれた。ワゴン自体が、先ほどとはまったく違う装飾を施されているのだ。しかも、
「・・・オイ。上に乗ってるモン。・・・もしかして全部さっきと違うやつか?」
「ん?うん。ちがうねぇ、全部」
「マジか?!いったい何種類常備してんだこの宿!」
「さぁー?でもこれが売りだから。気合入ってて当たり前じゃないの?」
こともなげに言う銀時に、もう何も言う気が失せ届いたつまみを掴んだ。
「ゥあちっ!揚げたてじゃねえのコレ!?どっから運んできやがんだよ一体」
確かに揚げ物からは挙げたてのパチパチという音がまだかすかに聞こえる。
「なんだかサービスに執念とか感じるちゃうねー。いやーすごいわほんと」
せっかくだから熱いうちにと土方はつまみを口へ放り込む。
「さて、さくさくやりましょうかね」
言うが早いか、銀時は持参してきた風呂敷を広げた。中から転がりでたのは空の密閉容器。そこへ先ほど到着したばかりの菓子を手際よく詰めていく。
「オイ。えらく手慣れてんな、しょっちゅう、こういうことやってんじゃねェだろうな」
「んなわけないでしょー。ここに神楽連れてきて宿がつぶれたら困るからやってんの。 普段は喰い放題ならたいてい一緒ですぅー。喰えりゃいいってヤツなんか連れてきても意味ない場所だし? とっておきの場所だからそうそう誰にでも教えられないわけよ」
そう言いながらも手は休めない。残す分に早くありつきたいのだ。
「だからあんなに教えるの渋ってたのか?」
万事屋のとっておきの場所・・・。
「まぁそれもあるけど?昨日見られてたしねー」
まぁ、女をじゃれ付かせながらきた場所でもあるわけだし、そう特別なわけ、ない。・・・だろうけど。
4分の3ほど詰め終えてから、おもむろに受話器を取り上げるとなにやら注文し、満足そうな顔で戻ってきた。ワゴンに残っているのは、保存に失敗すると腐りそうなものと、時間が経つと溶けてどうにもならなくなるものだけだ。
「さぁそれではいただきますかっ!」
パンっと手を合わせ、真っ先に手が伸びたのは、やはり好物らしくパフェだった。
「テメーはやっぱそれか」
向かいのソファに半分体を預けながら、見慣れた光景にふと口元が緩む。揚げ物をつまみながらぼんやりと味わってみる。美味くねぇわけじゃないが、やはりマヨネーズがないと一味足りない気がする。
「どした~?」
酒を注ぎながら銀時が聞いてきたが、今さらマヨネーズがほしいとも言えないわけで、
「何でもねぇよ」
と注がれた酒をクイッと飲み干す。
「ふーん・・・」
しばらくは一人で飲んでいたはずだが、銀時が2個目のパフェに取り掛かりだした辺りだろうか。カチャカチャとパフェをつつく合間に、手酌でヤツが酒を飲みだしたのでさすがにムッとした。
「おい、俺はマヨ取り上げられてるってぇのになんでテメーだけ好物と一緒に酒飲んでんだ?あぁ?」
胸倉につかみかかりかけたその時―――


◇            ◇           ◇           ◇



コンコン

「はいはいはーい」
すっ飛んでいった銀時に、またバイキングか?と、イラッとしながら目をやると
「じゃーん!」
にかっと笑う手には、土方のつまみのちょうど半分くらいに、小さく盛り合わせられたつまみと、徳用マヨネーズ。
「はいよ」
と手渡され思わず見上げる。
「ま、どっちにしろ副長さんの金なんだけど? 甘いモンにかけるんじゃないなら、銀さんとしては許せるわけだし? 嗜好は片寄ってっけど、まともな味覚もあるみたいだから安心しました。というわけで心置きなく堪能してくださぁ~い。 で、こっちのは銀さん用ってことでマヨはぶっ掛けないでね?」

っぶちゅうううぅぅ

銀時がそう言うなり盛り合わせ(大)は薄黄色の海となった。

クイッと猪口をあおり少し斜めの視界で訊ねる。
「・・・なんで解禁にしたんだ?」
マヨまみれですでに何かわからなくなったものをパクリと咥えながら聞く。
「んー?土方くん甘いもの食べてるときちゃんと味わってる顔してたし?」
土方スペシャルのマヨの海からちょいっとかすめとって自分のつまみのアクセントにしながら答える。
「別に、銀さんもマヨネーズ自体が嫌いなわけじゃないし?土方くんがぁ、つまみ喰いながらぁ、ちょーっと物足りなさそうにしてんのとか見てたらぁ、銀さんだけ幸せってのはどうかなーっ、て思っただけですーー」
クイッと猪口を空けひっくり返して置く。立ち上がり銀時は風呂場へ向かった。

「そろそろ湯張っていーい?」
「おぅ」
風呂場へ向かうと土方がついてきた。
「温泉の素入れるとこが見てぇ」
勢いよく注がれる湯に適当な量の入浴剤を流し込むと蜂蜜色だったそれは白く変わり広がっていく。
「へぇ。にごり湯か。効きそうだな」
そうい言って部屋に戻ると、ふらりと元のソファになだれるように体を預けた。今日は銀時の方が、お土産準備のために明らかに酒量が少ない。

あんな状態で風呂に入れてもいいものかと、逡巡するくらいはまともである。そうこうしているうちに湯は溜まったし、声をかけて寝ているようなら自分だけ入ろうと決めて
「ひーじーかったくん、お風呂入ったけどどーするーー?」
「入るに決まってんだろ」
ムクリと体を起こし、ふらふらと風呂場に向かう。なんかすっごいあぶなそうなんですけど、どうしましょうか・・・迷いつつ無事風呂につかるまでせめてと見守っていると、

ヨロッ

「っとぉ・・・」
はっしとつかんだ手を引き戻す。引き戻されついでに、ぽすんと銀時の肩に頭を預ける。
「ぅあ?ゆれたぁ~」
さらりと首筋を土方の髪がくすぐる。だいぶ朦朧としているとはいえ、自分が入るなと言えば、意地でも風呂に入ろうとするだろう。両肩を支えながら、さてどーしたもんかね と、ひとりごちた。


◇            ◇           ◇           ◇


「しゃーねーなあー、オイ」
ため息をつきながら、さすがに濡れるのはごめんなので、まず自分の服から脱いでしまうことにした。脱いでる間にもよろける土方を、時々捕まえながらなのでまさに脱ぎ散らかしだ。土方の着物は自分と違い単純だから、脱がせるのは簡単だ。さっさと脱がしてしまう。
「後はコケないように連れていって入れてしまうだけだ」
なるべく気付かれないよう、そおっとフォローする。気付かれて暴れられちゃ厄介だかんな。
「おーい、湯に浸かれー」
声をかけてやっと足が持ち上がるが、無事着陸するまでは油断できない。結局、自分もバランスのために足を湯につけることになる。備えあれば憂いなしってのは本当かもねー・・・などとつぶやきながら結局同じ湯船に浸かることになってしまった。
赤い顔を湯船の縁にもたれかからせて、目を閉じている所為か酔いの所為か、普段の切っ先のような雰囲気が随分と和らいで見える。
「あー気持ちいー熔けそー」
などとつぶやいているのを眺めるのは、なんだか面白いとでもいう表現がしっくり来るのだが、長湯しすぎてのぼせられても困る。
「はいーそろそろ上がるから顔上げてしゃんとしろよー?」
「うーもうちょっとー・・・」
「だめだめー、ゆだっちゃうから、ゆだっちゃうからね?おーきーてー」
「う゛ー・・・・・・」
まるで聞き分けのない子供のように駄々をこねる。鬼と普段呼ばれているとは到底思えない無防備さだ。
何とか立たせたものの、本人に湯船から出る気がなさそうだったので、しかたがないから、そのまま縁に座らせ頭を洗うことにした。頭を洗えば多少はシャキッとするはずだ。と、シャワーをかけまんべんなく濡らし、頭用1シャンプーでわしゃわしゃと洗ってみる。自分のままならない髪の毛に比べ、シャンプーですらスルスルと指どおりが良い。痛みなどまったくないに違いない。洗う方としても気持ちいい髪だ。
途中「うー?うん・・・」などの呟きから察するに、向こうもどうやら気持ちいいらしいのだが、少しは目が覚めてくれただろうか? 頭用2コンディショナーを使用するが、果たしてこの髪に必要なのか・・・はなはだ疑問に思いつつもコンディショナーを濯いで終了し、再び声をかけてみる。
「おーい、体はさすがにそのままじゃ無理だから出てきてくんない?」
「うん、うー・・・」
返事とともに、のそのそと動き出す。ぜんぜんシャキッとしてなーい! 体まで俺が洗うんですかー?
湯船から出たはいいが、そのままゆらりと上体が傾いだ。
「おっとぉ~」
とっさに体で受け止めると、火照った頬を摺りつけるようにして、今度はそのまま体を預けてしまう。 無防備に預けられた身体は、たしかに自分と同じ男のものだ。柔らかさなどどこにもないはずなのに、心臓の音がやけに大きくうるさい。無意識に腕をまわしそうになっていることに気がつき、慌てて引き戻す。
身体を支え、何とかドーナツの椅子に座らせることに成功した。体用ボディソープをブラシにつけて、わしわしと適当にこすりだす。腕を持ち上げわしわしこする。背中から項へわしわしこする。上背は変わらないが、自分と比べればやや細身に見える体格は、それでもきれいに筋肉がついていて、傷痕も少ない。天人の技術を取り入れた成果の一つだ。ほんの数年前には死につながった傷が、今や痕を残すことさえ減っている。
カクンと前のめりになっているのを引っぱり、肩口へ頭を預けさせる。極力肌が触れないように、胸と腹をわしわしと洗うことだけに専念しようとする。が、位置が位置なだけに酔いのせいで熱い頬や息が首筋にかかり、その度に何かを必死でこらえるハメに。
( あれー?なんかおかしくないですかー?銀さんー?ちょっと変じゃないですかー?銀さんーっ!)
自分の理性に必死で呼びかけている間に、ようやく腹まで洗い終えた。
再びゆっくり前のめりの体制に戻し、わしわしとブラシを動かしながら、足のほうへと移動して、思わず目を見張った。本当にあのゴリラの仲間かと思うほど、つるつるの足なのである。頭のどこかで激しく警報が鳴り響き続ける中、わしわしと足をこすっていたら、
「んぁ?」
ピクッと肩が揺れた。どうやら、やっと目が覚めてくれたようだ。
「よ、起きた?ちょうど良かったわ。あとは自分で洗ってくれ」
手にポンとブラシを渡すと、何事もなかったようにさっさと湯船にもぐった。

 すっかり冷めてしまった湯船に湯を足しながら、ひたすら土方を視界の外へ追い出す。
 早く頭を洗おう。洗って洗って妙な雑念を追い払うんだ。ひたすら自分の頭をどう洗うかを考え続けた。
 土方が湯船に向かう気配を感じたとたん立ち上がり、シャワーの勢いを最大にして湯をかぶった。


◇            ◇           ◇           ◇


風呂に入るつもりだったのはたしかだ。風呂場に向かい、そこでふつっと記憶が途切れ、気がついたら体中泡まみれで万事屋にブラシをポイッと渡された。
だが、見れば洗ってないのは、顔と残りは一箇所だけだ。 酔って風呂に入るとでも、意地を張ったのか?その上もしかしたら、万事屋に頭も体も洗わせたのか? もしそうだとしても、いつもの野郎なら文句の100くらいは言ってるはずなんだが・・・。  何がどうなってるのかさっぱりわからねぇな・・・。
事情を聞こうにも、肝心の万事屋はあさっての方向を向いている。ついでに何か考え事でもしているようで、聞き取れはしないがぶつぶつと口を動かし続けている。
流し終わったら差し向かいで聞いてみるか?イヤ、からかわれるのがオチだな。
体を洗いきり、顔専用で顔も洗ってしまってから、シャワーをかぶる。グルグルと混乱する頭で泡が流れきるまで考えたが、わからねぇもんはわからねぇ、ということがわかったくらいだ。

立ち上がり湯船に向かいかけると、万事屋も立ち上がりシャワーのコックを全開にしてガッシガッシと頭を洗い始めた。
銀時が湯を足しておいてくれたおかげで、ちょうどいい湯加減だな、などとのんきにしてる場合ではないが、一心不乱という状態で頭を洗っている万事屋に声をかけるわけにもいかない。そうしているうちに、いい加減ゆだってのぼせそうになってきたから、仕方なく風呂場を出て・・・驚いた。

まさに脱ぎ散らかしの見本版のような有様だった。・・・おそらく俺のせいだろう。
しかたなしに、身体を拭き備え付けの寝巻きに着替えたあと、二人分の服をきちんと畳んでソファの上に片付け、下着はクリーニングに出した。朝には洗い上がるらしい。
向かいのソファに座って一息つく。風呂上りの一腹もなかなかのもんだ。記憶は飛んだが、風呂のおかげでほとんど酔いが冷めてしまったようで、今度は飲み過ぎないように、チビリチビリと猪口の酒を飲む。
前回の酒でもそうだったが、ヤツといるとどうしてもペースが上がってしまうのだ。今回は・・・まぁ、万事屋の珍しい顔を、何やかやでたくさん見た気がする。チャイナやメガネの中じゃ普通の顔かもしんねぇけど、あそこで引き下がっていたら、絶対俺には向けてこないような顔見たよな。知らず口元が緩み、パクリとつまみをくわえる。ゆっくりゆっくりと酒を飲む。野郎が風呂から上がってくるまで・・・

 思うさま頭を洗い、ようやく自分を取り戻した銀時はシャワーのコックをひねりシャンプーを流す。
 コンディショナーで洗いすぎた髪に癒しを与えてやってるうちに先ほどまでの動揺がゆっくり引いてゆくのを感じた。
 後は体洗って気合入れたら飲みなおしだっ!


◇            ◇           ◇           ◇



ザッと体を流すと湯船にはつからず栓を抜いて風呂から上がった。

腰タオル一枚で部屋へ戻ってみると 脱ぎ散らかした二人分の着物はきれいに片付けられ、
「そこのカゴに寝巻きがあるぜ」
ソファの向こうから立ち上る紫煙と一緒に声をかけられた。 普段着ているじんべではなかったが、浴衣を着ると辺りを見回した。 下着がない。 キョロキョロしていると、
「下着ならクリーニングに出した。朝には間に合う」
どうやら向こうも酔いは覚めたらしく、猪口を片手にチビリチビリと飲みなおしているらしい。 ホッとしながら横に座り酌をしてもらう。

「なんか風呂入る辺りから記憶が飛んじまっててな、悪りぃ。迷惑かけたんだろ?」
「あー、気にすんな。っつーか、気ぃつけろ。 屯所住まいじゃ、寝込み襲われるより、酔ってる時襲われる方が、確率高いんだから」
土方は屯所で寝起きしているから、寝込みを襲われることはまずないだろう。 巡察も二人以上が基本だ。
「だな。普段飲まねぇからつい忘れんだわ」
近藤がそういう作業に向いてない分、非番の日でもたいてい書類に目を通して、一日が終わることが珍しくない。だから酒はめったに飲まないのだ。
「何?真撰組ってそんな忙しいわけ?」
決して暇ではないことは、ニュースを見ればわかるが、それでも平穏な日がないわけではない。
「いや、忙しさはまちまちだな。 ついてる役職にもよるけど総吾みてぇに万年サボりのヤツもいるし。俺の場合は性分みてぇなもんだ。 やれることやっとかねぇと落ちつかねぇんだわ」
ふぅーっと紫煙を吐き出す。
「たまにゃあ息抜かねぇとそのうちポッキリ折れちまうぜ?人間ガス抜きも大切よ?」
ふいっと土方を見て銀時はズサッ!と後ずさった。 合わせの乱れた浴衣からは肌はさらし放題な上、足先をひざに乗せているもんだから、裾も開きまくっている。 ほんのり上気した頬は酒のせいか風呂のせいかとにかく、無防備すぎる。
「おい?」
挙動不審な万事屋におもわず身を乗り出しさらに肌が露になる。

先ほど風呂場で触れた感覚が一気に蘇り次々と溢れ出す。
ヤバイ ヤバイ ヤバイ ヤバイ ヤバイ ヤバイ ヤバイ ヤバイ・・・・・・
頭の中いっぱいに激しく警報が鳴り響くが もう遅かった――――




◇            ◇           ◇           ◇



Side:土方

気がついたら口に咥えていたそれを取り上げられ、代わりに唇を落とされていた。
とっさに万事屋を押し戻そうとして―――止まった。
今ここで拒んだら、苦笑して冗談だとヤツは言うだろう。
だが、今日見せた顔は、もう俺に向くことはなくなっちまうんじゃねぇか?ヤツらにとってみれば、例えその顔が普通だったとしても。俺には―――
逡巡しているうちに、顎を掴まれ触れるだけだったそれは、幾度も角度を変え少しづつ深くなっていく。
「ハッ・・・んんっ」
息継ぎに開いた隙間へ舌を滑り込ませる。絡めとり捏ね回し吸い付き突き入れられ、身動きが取れなくなる。まるで蜘蛛の糸にかかったようだ。
伝う唾液を構いもせず、ひたすら与え続けられる愛撫。思考に霧がかり、押し戻そうとしていた手は、いつしか胸の薄い布を掴んでいた。
繰り返されるキスに無意識に応えはじめる舌。それに気を良くしたようにさらに深く合わさる。顎を掴んだ手を頭の後ろにまわされ、抱き合うようにキスを繰り返す。

ようやく離れた唇はひどく優しげな笑みを浮かべながら
「――な、ガス抜きなら俺としねぇ?」
甘く残酷な言葉を紡ぐ。

息、抜、き―――――?
昨日纏わりついてた女の姿が蘇り、万事屋をぎっと睨みつけ、とっさに体を退こうと手をついてみるが、生憎10cmも退かないうちに、ソファの肘掛に背が当たる。
ズイっとそこへ銀時は詰め寄ると面白そうに見つめながら言う。
「あー、だめだめー。そんな潤んだ目で睨んでも煽ってる様にしか見えないよ?こっちは散々風呂で煽られたってのに?無防備すぎる副長さんが悪いんだからね?」
「風呂ってなん―――っ!」
言い終える前に口を塞がれ、後ろにまわっってくる手は、まるで逃がさないとでもいうように力を込められる。
つい先程熔かされた思考は、一瞬の理性を繋ぎ止めるには脆すぎて、すぐに白濁しそうになる。縋るように手に力を入れるが、やがては霧散してしまい、いつの間にか手放してしまった。



◇            ◇           ◇           ◇


Side:銀時

気がついたら口に咥えられていたそれを取り上げ、代わりに唇を落としていた。
土方の手が一瞬押し戻すかのようなそぶりを見せるが、それ以上力を入れてくることはなかった。
(やべぇ、止まんねぇよ)
突き放せない土方につけこんで、触れるだけのそれを少しずつ深くしていく。
「ハッ・・・んんっ」
息継ぎに開いた隙間へ舌を滑り込ませる。絡めとり捏ね回し吸い付き突き入れ口内を犯す。そうとは感じないはずなのに、それはひどく甘く。離れられない。
伝う唾液を構いもせず、ひたすら口中を犯し続ける。押し戻そうとしていたはすの手が、いつしかすがるように浴衣を掴んでいる。
応えはじめる土方の舌にさらに愛撫を施す。囚われているのはいったいどちらなのか。顎を掴んだ手を頭の後ろにまわし、抱き合うようにキスを繰り返す。

ようやく離した唇に笑みを浮かべながら
「――な、ガス抜きなら俺としねぇ?」
つい、いつも女を口説くように口説いていた。

瞬間―――――。
土方の纏っていた空気が変わり、自分を睨みつける。拒むように手をついて退こうと試みるが、生憎10cmも退かないうちに行き止まりらしい。ズイっと銀時は詰め寄ると逃がさないとばかりにからかう。
「あー、だめだめー。そんな潤んだ目で睨んでも煽ってる様にしか見えないよ?こっちは散々風呂で煽られたってのに?無防備すぎる副長さんが悪いんだからね?」
「風呂ってなん―――っ!」
土方の覚えてないことに責任に押し付け、最後まで言わせずに口を塞ぐ、しっかりと抱きしめ、決して逃がさないと力を込める。
しばらく身を硬くして、拒絶の反応を見せていたが、程なく身体は弛緩し銀時のキスに応えはじめ、いつの間にか自分を押しのけようとしていた手からは、力が抜けていた。


◇            ◇           ◇           ◇



キスだけで立てなくなった土方を抱えベッドまで連れて行く。
優しく降ろすと銀時は再び笑んで唇を落とす。ちゅっと音を立てて離れることを繰り返す唇は、目蓋におでこに頬に。音を立て離れる刹那、まわされた腕に力がこもる度に肌が粟立ってゾクリとする。
そしてもう一度唇に落とされたそれは、先程ソファでされたソレをやり直す様に深くなってゆく。キスをしながら腰の紐を解き、素肌の脇をゆっくり撫で上げる。土方の身体は素直な反応を示した。

「キモチイイ?」
「っ!」
ただ耳元で囁かれただけなのに身体がゾクリと震える。

両手を顔の横につかれ、互いの間に生まれるわずかな隙間に
「?」
見上げると愛しげな瞳の色に、思わず錯覚に陥りそうになる。どこかで期待している可能性を、思わず言葉にしそうになって我に返る。わけのわからないものに囚われているのは俺だけだ。野郎にとっちゃぁこれは”ただの息抜き”だ。考えるな、余計なことは考えんじゃねェ。
振り切るように腕を伸ばし自らキスをした。

「見てココ 元気だねー。溜まってたの?」
触れられてすらいないのに、すでに立ち上がりきったソコを隠すものは何もなく、恥辱に見ることを拒んで顔を逸らすと、スルリと撫で上げられ爆ぜそうになる。思わず唇を噛んで堪えるが、見透かしたようにキチと根元を掴まれ逃がしようのない熱に後悔する。
「っ・・・・っ・・・・・っ!」
掴んだ腕に爪を立て、首を振って熱の逃げ道を必死で探すが・・・見つからない。
「ん?」
優しく愛しげに見つめながら、銀時は首をかしげる。まるで言葉にしないとわからないといった風である。欲求が恥辱を上回り、自らねだるのを待っているのだ。クリリと先端を弄られ、裏を下から上まで撫で上げ、くるくると先端で指先を回され
「もっ、ィカせッ!」
思わずといった風に口走ると、ぐっと深く口付けながらゆるっと戒めが緩む。
「――――――!」
快楽に滲む声を全て吸い上げられながら吐き出した。


◇            ◇           ◇           ◇


腹の上に散った白濁を指に絡めながら囁く。
「今度は一緒に、ね?」
「ふ・・・・・はっ」
達したばかりで朦朧とする土方の頭が、言葉を理解する前に銀時は行動を開始した。後ろを手が割ると同時に落ちてくる唇。クチっと音が聞こえる。柔らかいキスが何度も降りてくる。いつの間にか指が増えて、柔らかいキスが何度も降りてくる。

ビクンッ!

急に身体に電流が走ったようになる。何が起こったかわけがわからない。
「ぁ・・・・?」
「見ぃーつけたぁー」
悪戯が成功した子供のような声で銀時が呟く。

過ぎる快感を与えるポイントを、執拗になぶる銀時。勝手に踊る躰に、これ以上わけがわからなくなるのが怖くて、縋りつくと柔らかく降りてくる唇。
散々弄られ酸欠の頭がクラリとしてきた頃、必死で縋りついていると指がズルリと抜かれ、銀時がついっと離れた。
腕に力を込め、引き戻そうと見つめると、返ってきた瞳にははっきりと熱が灯っている。それだけでゾクリと躰が熱くなる。
腰の帯を解き浴衣を脱ぐと、銀時のモノもすっかり立ち上がりきっている。
「そろそろいいかな?」

グ・・・

抱え込むように抱きしめられ、口付けられ、受け入れさせられたソレは、圧迫感が酷くて吐きそうになる。
全部納めたのに一向に慣れる気配のない俺をおいて銀時は動き出した。
ず・・・と少し引いては ず・・・と少し進む。
圧迫感と吐き気で蒼白の顔色になっている俺に気づいて動きを止めると、
「おい、息を吐いてみろ。力抜いてゆっくりだぞ?」
「ん・・・ぁはぁっ・・・・」
ゆっくり息を吐く。
「次は吸ってみな?」
「ふ、ふぅっ、ふぅっ!」
「焦らなくていいからゆっくり吸え、落ち着くまで待つから、とにかく焦んな。」
サラリと髪を梳きながらあやすような言葉
「ん・・・」
何とか呼吸を整えようとしながら言葉を紡ぐ。
「か、みっ・・・」
「ん?」
「すっ、いて、くっ・・・」
「わかった」
伝わったようでサラサラと髪を梳いてくれる。髪を触られていることが安心につながったのか、程なくして呼吸は整い始め吐き気は治まった。
「も、だい、じょぶ、みて・・・」
「ん」
口の端にキスを落として銀時はゆっくり動きを再開した。


◇            ◇           ◇           ◇



―――さっきから目が泳いで仕方がない。
吐き気は治まったから楽になったのはいいが、どんな顔をしていいのか分からないのだ。 つい見上げると銀時と目が合って、さらにどうしていいか分からなくなり目を逸らしてしまう。 それの繰り返しだ。
なぜなら万事屋はどうやらイイらしい・・・そんな顔をしているのだが、こっちは素面なのである。サラサラと梳かれる髪に呼吸を邪魔しないように時折落とされる口端へのキス。少しずつ大きくなる動きに、身体の奥に小さな熱が灯りだすのはわかるが、まだそれだけで、これならいっそわけがわからなくなっていた先程までに戻ったほうが、気恥ずかしさで痒くなりそうな今よりましな気がしてきた。頬に手を添え見上げるとやはり目が合う。
どんだけこっちばっか見てんだと思いながら、手から伝わってくる熱を感じる。
降りてきた唇を口端でなく正面から捕らえ、歯列を割る。
「ん・・・・・」
目を閉じ角度を幾度か変え合わせていると、小さかった熱が急に膨らんだ。
「んっはぁっ・・・」
思わずこぼれた吐息にニヤッと笑い問いかけてくる。
「何?急にヨクなったみたい?」
「んんっ・・・」
眉根を寄せ、引かれた腰に知らず腕の力がこもる。
「絡み付いてきてるよ?」
「・・・るっ、せぇっ」
からかうように言われ思わず中の形を意識してしまい、余計に熱が上がる。
「じゃあ次にいってもよさそう?」
「つ、ぎってなんっ・・・」
「本格的にいくってことっ」

言って今までの穏やかさが嘘のように激しく揺さぶり始めた。
「っ・・・っ・・・!」
あげそうになる声を唇を噛んで殺す。”ただの息抜き”に翻弄されるのはプライドが許さない。
「そんな噛み締めてっと切れちゃうから、ね?」
キスで唇を割られるが、離れるとまた噛み締める。意地でも声をあげる気はないようだ。
( しゃーねぇなぁー)
一旦引き抜くと、身体を裏返し浴衣を取り払う。
「・・・?」
こちらを見る目に
「声あげるのが嫌なら枕でも噛んでなさい。そのほうが安全だから」
そう答えて突き入れる。言われたとおり枕に顔を埋める。
土方のイイ顔が見られないのは残念だが、傷はつけたくないから仕方ない。今日は綺麗な背中で我慢しておこう。と、下から首筋に向かって舐め上げる。
ビクビクと背が揺れ素直な反応が返ってくる。
「十四郎」
普段は呼ばない名前を囁くと、肩が揺れ、枕を掴む手に力がこもるのを満足げに眺める。背中にキスを落としながら一箇所だけ肩甲骨の少し外側に印をつける。突き上げるたび、力の入る手に跳ねる身体に征服欲が満たされていく。前へと手をまわし中心を握り込むと、すでにそこは芯を持ちはじめている。ゆっくり掻き上げながら、突き上げるピッチを上げる。すぐに立ち上がりきったモノを、撫で上げ弄りながら腰を動かす。ビクビクと跳ねる背中が汗を浮かべる。

ニヤリと笑みを浮かべ、銀時はズッとモノを抜きクルリと身体の向きを変え正面から抱く。
「ぁあっ!!!」
噛んでいた枕が外れ、思わず声が上がる。一度上げてしまうと止まらなくなり、
「あっはぁ、はぁ、あぁっ、あ・あ・あっ!くっ!」
声を止めようと、銀時を無理やり抱き寄せ首筋に噛み付く。そのせいで繋がりがさらに深くなり、腹で自分にモノも擦れさらに噛む力が入る。ジワリと鉄の味が口内に広がっていっそう煽られるが、もう口を開くことはできない。

”今度は一緒に”

言葉どおり、相手のペースを見ながら追い上げ自分も昇りつめる。ガクガクッと痙攣が始まると同時に、中へ思い切り放った。



◇            ◇           ◇           ◇



外に出したほうが後始末も簡単だし、身体への負担も少ないのだが、我慢しなかった。
「ぃてーなー、ぉい」
噛み痕から滲んだ血に顔をしかめながら、荒い息で銀時がのしかかっていると
「どけ」
一言そう言うと、土方はベッドから降りた。ふらつく足で風呂場へ向かう。
気だるげに見送ると、白濁で汚れてしまったキルトのベッドカバーを、取り払い丸めて部屋の隅へ投げる。さすがにこのまま寝るのは嫌だ。

男は初めてだったが、悪くないどころか最高だった。
今度があれば、ぜひお相手してもらいたいと思う。
ま、あの副長さんじゃ無理かもしんないけどねー。

ずいぶん時間をかけてのシャワーから、出てきた土方と入れ違いで風呂場へ入る。おそらく自分で銀時の放ったものを処理したために、時間がかかったのだろう。手伝えばよかったか?と頭を掠めたが、どうせ断られていただろう、ということに落ち着いた。

ざっと汗を流すと上がり身体を拭きながら見ると、一気に飲んだのであろう。酒瓶を握り、ソファの上へ倒れこむように土方が寝ていた。そっと抱き上げ、ベッドの中へ寝かしつけると、自分も横へもぐりこんだ。



◇            ◇           ◇           ◇



朝早く、3度目のバイキングにファミリーテイストを頼み、残りの密閉容器を埋めてしまうと、使われていたドライアイス全てを妙用の容器に入れ、風呂敷で包むと2人でチェックアウトした。

「じゃあな、ごっそーさん」
「おう」

結局、2人がそれから交わした会話はそれだけだった。


「うーす。神楽ー新八ー、ただいまー」
「お帰りなさい、銀さん」
「銀ちゃんおかえりっお土産は?」
待ちかねたといわんばかりに神楽は聞いてきた。
「はいはいあるよー。ほい、新八。これ姉ちゃんの分な。冷蔵庫で冷やしとけー。残りは神楽の分!好きなだけ喰えー」
「キャホーーーイッ!これ全部食べていいアルカ?やっぱり銀ちゃんはやるときはやるネ!」
大喜びで早速食べ始める神楽。
見ていると、本当に味わっているのかどうか、やはり疑問に思ってしまう。 いや、味わってないだろうことは多分間違いない。
あいつにとっては、ご飯ですよのほうが価値があるのだろう。 しかし、喜んでることには変わりない。それで十分だ。
「ありがとうございます。銀さん。姉上もきっと喜んでくれると思います。銀さんは楽しかったですか?」
新八も、いつも心配ばかりかけている姉へのお土産にうれしそうだ。
「ああ?まぁーな。ヤツにも意外とまともな味覚があるみたいで驚いた、くらいかな」
「そうなんですか、良かったですね」
「んー・・・・・」
ごろりとソファに横になると、ジャンプを読み始める。
特においしい仕事が転がりこんでくるでもなく、厄介ごとに巻き込まれることもない。 一日中ジャンプを読んで自堕落に過ごす。そんないつもと変わらない万事屋の風景であった。
銀時の心情を除いて、は。


姉への土産を持ってうれしそうに帰る新八を見送ると、天井を見上げた。
うちに帰ってからずっと頭の中は土方だらけだ。潤んだ瞳、染まった頬、赤い唇から覗く舌、汗の浮いた肌の感触、首筋に噛み付いてきた時の痛み、そんなものがエンドレスで脳内再生され続けている。
おかしなことに、それが今まで抱いてきたどの女よりもよほどゾクリとさせられる。・・・イカレちまったのかねぇ、俺ァ。胸の辺りがザワザワする。
(・・・飲み込んじまおう。こんなわけわかんねぇ気分は飲み込んじまうにかぎる。今までだって色んなこたぁ あったが飲み込んできたんだ。大丈夫だ、わけねぇことだ)

「ぅおしっ!」

勢いよく起き上がり風呂に向かう。
「神楽ー、今日は銀さんが先に風呂行くからねー」
「えぇー。銀ちゃんの後のお風呂はなんかお湯が濁ってて嫌アルヨー」
「うっさい!土産持って帰ってきてやっただろうがっ。 オメーは銀さんのエキスたっぷりの湯に浸かっとけってんだ!」
「銀ちゃんのエキスっ?!いっつもそんなもん出してたのかオマエ コノヤローっ!! マダオになったらどうするアルカっ!責任とれヤ コノヤロー!」
「アァ?銀さんのエキス舐めんな? お肌とかツルツルのピチピチで体なんかボイーンでキュッでバイーンだよ?」
「うそアルネ!それがホントならワタシとっくの昔に目もくらむような美女ネ! うそつきっ銀ちゃんのうそつきー!」
「あぁあーっ もぅ!うるさいっ うっせーよお前!もういいよ!先入って!・・・ったく。さっさと出ろよ」
「わかればいいアル」
「やれやれだよ」
こうして表面上の普通の夜は過ぎていくのだった。



◇            ◇           ◇           ◇



屯所に帰って部屋へ戻ろうとしていると、またあのアイマスクがいた。
「お帰りなせェ、土方さん。昨日はどうでした?」
「・・・久しぶりにマヨネーズの味がしねぇもんを喰った。そんだけだ」
「それはそれは。アンタの舌じゃァちっとばかり辛かったんじゃねぇですかィ?」
「別に。ちっとばかし甘いもん喰っただけだ。たいしたことじゃねぇよ。」
途中からマヨネーズが解禁になったことは黙っておく。話すと碌なことがねェからだ。
「そりゃ残念。俺りゃぁてっきりマヨネーズ切れで暴れだしたりして、店のモンに襲いかかってると思ってましたゼ」
店・・・そうか、総吾は店だと思ってるんだった。何を言われるかわかったもんじゃねぇから余計なことは言わないでおこう。
「んなわけあるか アホッ!テメーと話してるとアホが感染る。さっさと仕事しろ」
そう言い置いて背を向ける。今日は久しぶりの非番だ。しかし、溜まっている書類を片付けている間にたぶん一日は終わってしまうだろう。昨日は調子が狂って、書類の片付きが遅れたがちょうどよかった、さっさと片付けてしまおう。

部屋に戻り文机に向かうが、手は昨日よりもさらに進まない。やはり昨日の負担が少し尾を引いているようだ、腰がだるい。いったん切り上げ床を延べ横になろう。続きになっている寝室に向かい、布団を敷いて横になった。やはり体に負担がかかっていたのがわかる。目を閉じ、眠ろうとするが、普段起きている時間に寝るのはかえって寝付けないものだ。
閉じた目に浮かび上がってくるのは、昨夜のことばかり。熱を持ったあの目や腕が、幾度も浮かび上がっては消える。寝返りを何度もうちなおし、ようやくとろとろと浅い眠りに入り 目が覚めると昼もすっかり過ぎてしまった時間だった。

慌てて飛び起き書類に向かう。体はすっかりいつもどおりの調子を取り戻したが、犠牲にした時間はかなり惜しいことをしてしまった。無駄にした時間の分も集中して、黙々と書類を片付けていると山崎が呼びに来た。
「副長、いいですか?」
「何だ、山崎」
「はい、もう晩飯の時間です。今日は副長、朝も昼も抜いてらっしゃるので呼びにきたんです」
「そうか、もうそんな時間か」
そう言われて見上げると、とっぷりと日が暮れて月が昇っている。明かりも灯さず書類に向かっていたのだ。暗くなったことにすら気がつかなかったのかと、少々自分に呆れながら立ち上がる。
「副長、体調でも悪いんですか?」
「ん?」
「昼間めずらしく寝ていらっしゃったみたいだから・・・」
「いや、ただの気分転換だ」
「そうだったんですかぁ。副長も非番の日くらいは気を抜いて休まれたほうがいいですもんね。でも、飯はちゃんと食べてくださいね?体を壊します」
「あぁ、気ぃつけるよ」

食事を済ませた後も、明かりを灯し書類を片付ける。暗くなったことにすら気づかずに集中したせいか、ようやく遅れを取り戻せた。予定どおり今日中に片付きそうだ。
ほっと肩の力を抜き月を眺めると、ケーキを喰った時のうれしそうな万事屋の顔を思い出してしまった。とたんツキリと胸が痛む。ふるりと顔を振って頭からヤツの顔を追い出し、再び書類に向かった。
ようやく溜まった書類を片付け終わったころには、すっかり夜も更けていた。明日からまた仕事ださっさと寝よう。

昼間敷いたままにしていた布団へごろりと横になる。やはりヤツの顔が浮かんでくる。昨日見た様々な表情が浮かんでは消えていく。
(―なあ、ガス抜きなら俺としねぇ?)
その言葉を思い出し胸がまたツキリと痛む。グッと掌を握り締め、痛みに耐えるようにきつくまぶたを閉じた。



◇            ◇           ◇           ◇



しばらく2人は顔を合わせることがなかった。攘夷浪士のテロがいくつかあったこともあるが、意図的に土方のほうが、歌舞伎町の巡察を避け別の地区をまわっていたせいでもある。顔を見なければ胸も疼かないようになるはず、そう思っての選択だ。
一方万事屋はいつもどおりいたって平穏で、時折ニュースで見かける土方は、相変わらず瞳孔が開き気味で、やはり胸の辺りがざわつく銀時であったが、それ以外は変わりない日々を過ごしていた。

ツいてないときはツいてないもので、メンバーがどうしても足りないからと、1人で足を向けた歌舞伎町でバッタリ銀時に出くわしてしまった。
町を巡察していても会わないことのほうが多いのに、何で今回に限って・・・天に向かって文句を垂れてしまいそうだ。だが、会ってしまったものは仕方がない。なるべく、いつもどおりに相手をするよう心がけるだけだ。勝手に騒ぎ立てる胸は・・・無視すればいい。
「・・・よお、無職」
「なぁに言ってんだ、副長さんよー。銀さんは無職じゃねーよ。 そりゃね、公務員のお前さんらに比べりゃちっとばかし稼ぎは少ないけどね。 ちゃんとまっとうに働いてるんだからね?」
「そのまっとうに働いてるヤツが、こんな真昼間から何してんだ?」
「んー・・・パチンコ行ってスッちまった。パフェ奢ってくんねぇ?」
パフェ、と聞いてあの時真っ先に手を伸ばしたことを思い出し、一瞬言葉に詰まる。そしてそんな自分に苛立つ。
「っ、アホか!何で俺がテメーに奢ってやらにゃならねぇんだ!やっぱ無職と変わんねぇじゃねぇかっ!死ね!いっぺん死んでその糖分でできた脳ミソ取り替えてもらえ!」
「あーダメダメ。俺ぁ魂で生きてるから。脳ミソ取り替えても変わんねえよ。いいじゃないかー。パフェくらいー。高給取りなんだからさぁー」
「・・・ルセェ。・・・ちょうどいい。世のため人のために俺が今すぐその息の根止めてやらぁ」
地の底を這うような声で言い、殺気を漲らせ柄に手をやり力を入れようとした時、スッと思わぬ身のこなしで柄頭を抑えられる。
「なぁにカリカリしてんの?こんな往来で抜刀したら危ないでしょうがー」
技量では銀時のほうが勝るのだ。本人はいたってのんきな声でそう言うと、
「こんなとこで立ち話もなんだからちょっと付き合ってよ」
言うなり、土方の腕をつかむと歩き出してしまった。
「オイッ!俺ァ仕事中だぞっ!」
「いいからいいから」
土方の言うことなどまったく聞いてない様子で、てくてくと歩いてゆく。途中、腕をつかまれて連行される真撰組隊士に、往来を行く人の好奇の目が痛かったが、それ以上に自分の心臓がうるさい。大体なんで律儀にコイツに引っ張られてるんだ?そうは思うが、手を振りはらうことはためらわれて。胸の騒ぎのほうを何とかしようと必死になっていたせいで、気がつくとひと気のない路地裏に連れ込まれていた。
「おい・・・。なんのつもりだ万事――」
土方が文句を言おうとしたら突然抱きしめられた。

「・・・こうしたかったから」

耳元で答えられたその言葉は意外なものだった。



◇            ◇           ◇           ◇



とたんさっきからうるさかった心臓がさらに暴れだす。 銀時に聞こえるんじゃないだろうかというほどだ。
(ヤメロ!ツキトバセ!ハネノケロ―――!!)
頭の中でこだまする警告にもかかわらず、土方はピクリとも動けない。早鐘のように打つ心音と、自分のものでない温もりに、身体がいうことをきかない。肩に乗せられていた銀時の頭が動き、熱を持った瞳がこちらへ向く。それがゆっくりと近づいてきて・・・。唇を奪われても、抵抗できないどころか自ら受け入れてしまう。舌を絡め合い息が上がる。その刺激が腰へくると狙ったように銀時が自分のモノを押し付けてきた。布越しのヤツが主張する、熱い存在と与えられる刺激に反応して、自身も硬くなっていくのがありありと分かる。
「元気だねぇー、副長さん」
壁際の物陰で隊服越しにグッと握られ息が詰まる。が、やられっぱなしは性分じゃない。
「ッカヤ、ロ・・・こんなんっ!ただのっ・・・生理、反応だっ」
精一杯の強がりを口にする。男という生き物は刺激されれば反応するのだと必死で言い訳をする。
「生理反応ねぇー。じゃ、責任とって収めないとね」
「ッ! ヤメッ!!」
あっという間に前を寛げられ取り出され、銀時の屹立と合わせて握りこまれる。 抵抗をしなければならないはずの手は動いてくれず、ただ小刻みに震えるばかりだ。
胸元のスカーフを取り払われ開かれたシャツの首筋を舐め上げられ、ゾクリと身体が戦慄く。 その間も絶え間なく巧みに擦られ、息は荒くなる。
「もしかしてまた溜めてた?先走り多いよ?」
揶揄するように銀時は耳元で囁くが、その吐息さえも刺激になる。
「ッルセ・・・ッ!オリャ、っそがしんだよ・・・っ!」
ガクガクと震えるひざを支えるように、銀時の腕が腰に回り抱き寄せる。より近くなったせいでさらに刺激が強まる。
「よ、万事っ・・・ヤメッ、出・・・っ!」
兆しを感じ、腰を引こうとするが力の抜けた手では銀時の腕は解けない。二の腕を掴み堪える為に思わず爪を立てる。するとピタリと動きが止まった。身体もソコもビクビクと抗議の声を上げる。
「名前」
「え・・・?」
「呼んでくれよ、十四郎・・・・・」
まただ。またこの熱を持った目に覗き込まれ、理性を削ぎ落とされる。あの時もそうだった。でなければ、男を受け入れることなどなかったはずなのに。
「ぎ、銀・・・時っ」
目を逸らし、消えそうな声で呟く。動きが再開されきつく抱きしめられながら耳元で
「もっと・・・呼んでくれ、もっとっ・・・」
囁かれ、次第に声が大きくなる。
「ぎ、銀、時・・・銀時っ・・・ぎん、とっ・・・!!」
同時に達した2人分の白濁を白い布が包む。丁寧に拭われ見ると、それは隊服のスカーフだった。
「ッ・・・テメッ、人の、モンに・・・何、しやがるんだ!」
荒い息で不服を告げると、まだ熱の引かない目で見つめ返される。
「・・・撒き散らしたら大惨事でしょーが、お互い。スカーフ一枚ですんでよかったと思ってくんね?」
確かにそのとおりなのだが、これでは巡察に戻れない。
達したばかりの動かない頭で逡巡していると、中心を握っていた手が背中に回りぎゅっと抱きしめられる。
そこでようやく、銀時の二の腕に爪を立てていた事に気づき手を緩める。
はだけたシャツの鎖骨から首筋、頬、唇と辿る様にキスをされ、ちゅっと音がして離れてゆくそれを呆然と聞いていると、銀時がばつの悪そうな顔をした。
「暫くこっから動かねぇほうがいい」
「・・・?」
「自分じゃわかんねぇかも知んねぇけどすっげぇ顔してっから。
んじゃ、肩の傷と腕の傷の慰謝料はまた改めていただきに行くから、ヨロシクね~」
そういうと銀時はひらひらと手を振りながら踵を返し、路地裏から出て行った。




◇            ◇           ◇           ◇



土方は壁にもたれかかり銀時を見送ると、ずるずると座り込み、タバコを取り出し、気持ちが落ち着くまでの間ひたすら吸い続けた。
(――こうしたかったから)
銀時の思わぬ言葉に、あの熱い目にいつまでたっても動揺が収まらない。思わず頭を抱え蹲る。
「なんだってんだよ、チクショウ・・・」
そうつぶやいても答えは返ってこない。

――惚れたほうが負けなのだ。

いやおうなくそのことを思い知らされる。相手は物陰で事を済ませて満足なのだ、俺1人の想いなんだと、ようやく自分の気持ちを自覚し、項垂れる、まったくどうしようもねぇ。
すぐ脇に、先ほどの残滓が2人分くるまれたスカーフが転がっている。何事もなかったように立ち去った背中を思い出して溜息が出る。拾い上げては見たが、結局見るヤツが見たら真撰組の物と分かってしまうし、洗って使う気にもなれなかったので、焼いて抹殺する。
もうヤツにゃ関わりたくねぇ・・・。燃えていくスカーフを見ながら、こんなふうに気持ちも焼いて捨てられれば楽になるだろうかとぼんやり思う。
隊服を乱したまま巡察を続けるわけにもいかず、屯所へ戻ると、運の悪い山崎が居合わせ、
「副長、何かあったんですか?いつも服装はきっちりしてるのにスカーフどうしたんで?」
などと言うもんだから、とりあえず殴っておく。
隊服を整えたが今から巡察に出直す気にもならず、とりあえず書類の山と向き合うことにする。決して銀時に「すっげぇ顔してる」と言われたせいではない。ぜってぇ違うと自分に言い聞かせながら、仕事に没頭する。



◇            ◇           ◇           ◇



ザッザッと歩きながら銀時は動揺を押さえる。
いつものプラプラした歩き方でないことからも、彼を知るものが見れば、普通でないことが分かるほど動揺しているのだ。
(・・・あの顔は反則だろ、おいー。・・・ヤバかった。かなりヤバかった。よく我慢した、俺!)
思わずその場で事をおっぱじめそうになるところを、ギリギリで踏み止まったのだ。

いつものようにパチンコで負けてふらふらしてるところに、たまたま土方に出くわしたまではよかった。
首筋の噛み痕も消えて、普通に接するつもりだったのだ。事を終えた後の態度からしてそれが一番いいと思ったからだが・・・。
途中から妙に殺気立ってきやがるし
――いや、いつも俺を見るとすぐ抜刀するけど?そんなじゃれあいじゃぁなかった。
――コイツ銀さんのこと意識してる?――
とか思ったらそれ以上不毛な言い合いをしてるのがもったいなくなって・・・気がついたら手近な路地裏で抱きしめていたのだ。
(確かに抱きしめたいと思ったけどさぁ・・・。)
土方はまったく抵抗のそぶりを見せず、唇を奪うと、あろう事か自ら受け入れたのだ。あの警戒心の塊のような男が、だ。
事が終わり改めて顔を見てぎょっとした、目元は染まっているし瞳は潤んでるしで、とてもじゃないが他人の目に晒す気になれなかったが、これ以上そこにいると、自分のほうが何をしでかすかわからない状態だったので、逃げるように去ってきたのだ。

団子屋まで戻ってくると、いつものようにツケで団子を頼み空を見上げる。ようやく落ち着いてきた気持ちででっかい溜息をつく。
確かによく見ると整った小綺麗な顔をしているが、間違えようのない男だ。身長も自分と変わらない。
沖田なら女顔の美少年だしまだ理解できるが・・・
(いやいやいやいや、男だしS同士だし有り得ないんだけど!)
よりによって鬼とか呼ばれてるヤツだ。
(あぁぁぁあああ!余計有り得ねぇだろーが・・・!)
「なんでこうなるのかねぇー・・・」
「どうしたんで?旦那」
銀時のつぶやきに、団子を運んできた気のいい店主が訊ねる。
「いや、なんでもねぇよ。貧乏神とどうお付き合いするか悩んでただけだから」
半分嘘で半分本当だ。相手は自分の気持ちだけど、どうお付き合いしていいのか皆目見当がつかなくて、頭を抱えているのは本当だ。まさかこういう形で誰かに執着するなんて今まで考えもしなかったのだ。団子を片手についぼんやりしてしまう。

「相当深刻そうですねえ、旦那が団子片手にボケッとするところなんてはじめて見ましたよ」
「いやいやいやいや、そんな悩んでないからっ!」
ぱくりと団子をほおばるが、腕を組んだ店主が言い募る。
「何を悩んでるのか知りやせんが、当たって砕けろですよ旦那」
「いやいやいやいや、砕けたら困るでしょうが!うちには大喰らいの酢コンブ娘もいるしー?」

砕けるどころか、抵抗すらなかった。男は自分が初めてなのは、最初に抱いたときに気づいた。だからそういう趣味でないことは分かっている。けど、それじゃ何で抵抗しねぇんだ?いやいや、抵抗してくれなくて大いに万歳だけどっ!あーもうっ!わけわかんねぇよっ!!

なんのかんのとくっちゃべっていると少しは気が晴れて店主に礼をいい店を後にした。今日は団子をサービスにしてくれた。曰く
「元気のない旦那に食べられちゃあ団子がかわいそうだからねぇ」
だそうな。



◇            ◇           ◇           ◇



自分の気持ちに振り回された憂さを晴らすために、飲みに出た。うっかり土方と鉢合わせないよう、わざわざ馴染みの店を避けて少し離れた店に入る。
が、入り口でしゃがみこみそうになる。またこのパターンだ。
いっつもいっつもいっつもいっつもっ!行く先々になんでコイツぁいるんだっ!!無視だ無視っ! そう決め込んで離れてカウンターに腰を落ち着ける。
酒と一緒につまみを頼むと、数人が店に入ってきた。
「お客さ~ん、すいやせんがちょっくら詰めてもられませんか~?」
店主にそう言われては断るわけにもいかず、結局黒の着流しと隣同士で飲むことになってしまった。
「ハイヨ!お銚子とおはぎね!」
「・・・言っとくけど、狙ったわけでもなんでもないからね。わざとじゃないからね?」
「・・・わざわざ言わなくてもそれくらい分ぁってるよ」
「ならいいけどさ・・・」
相変わらずの何かのマヨまみれをつまみに黙々と飲んでいるので、銀時もつられて黙々と飲む。
(( なんでこうなるんだ・・・っ!))
互いにそうは思っているのだが、口を開くと余計なことが起こりそうな気がして、迂闊に口もきけない。
そうなると自然、つまみを突つくか飲むかしかなくなるわけで、2人して黙々とつまみ黙々と飲む。
周りはわいわいと楽しげであるが、2人だけ揃ってお通夜のように飲み続ける。
いい加減気が滅入ってきて席を立とうとすると、また申し合わせたように腰を浮かせることになる。 顔を見合わせ互いに溜息をつき座りなおすと、
「だんまり決め込んで酒かっくらってても美味くねぇし普通に飲まねぇ?」
「だな」
銀時が銚子を傾け、
「ほらよ」
「おう。テメーも飲め」
互いに注ぎ合いようやく落ち着いた雰囲気になる。と、外でパラパラと音がしだし突然雨が降ってきた。 暫くすると、店の外からの音はザーザーと変わり、本降りになったようだ。当分止みそうにないかも。傘持ってきてねぇよ。そう思いつつ隣を見ると、席の横にはきちんと傘が立ててある。
「なに?副長さん雨降るって知ってたの?」
「ん?あぁ、これか。山崎が振りそうだって言うもんだからよ」
「ちょうどいいや。善良な市民を家まで送って♪」
「善良な市民ってなぁどこのどいつの事だ?」
「ここ、ここっ!目の前にいるでしょうがっ。なんですかー?その顔についてる目玉は飾りですかぁーっ?」
「公務執行妨害を公然とやるヤツは善良な市民とはいわねぇよ」
そう言われてグッと詰まる。確かに昼間したことは仕事の邪魔だった。
「しゃーねぇーなー。当分止みそうにねぇから濡れて帰るしかねぇーかぁー」
「・・・別に、入れねぇとは言ってねぇぞ、無職」
「えっ!入れてくれんの?!ラッキー!!」
ぱっと土方の方を見やると、酔いのせいかまたは別の何かのせいか、頬を染めて目を逸らすように前を見ている。
(ヤベー、超他人に見せたくないんですけど・・・。)
酒のせいか普段の険が取れて、柔らかく見える表情も、染まった頬も、全て独り占めにしておきたくなる。 さて、どうしようか。しばらく舐めるように酒を飲みながら考えて、いいことを思いつく。
「そろそろ出ねぇ?雨はやみそうにないしさ」
「ん?帰るのか?」
「帰るっつーか・・・もちっとゆっくり飲めるところ行かねぇ?」
「まぁ・・・いいが。遠くになると濡れるぞ?」
(・・・濡れても気になんねぇ所に行くんだけどねー。ハハッ)
勘定を済ませ、揃って店を出る。
「オイッ!くっつくなって!」
「だってー、くっつかないと濡れちゃうじゃんよぉー」
「だからってくっつき過ぎだろ!」
酔いに任せてじゃれあうように腰に手を回す。
「テメッ!何してやがんだっ!」
「気にすんなってぇ~」
「動きづれぇだろーが!離しやがれっ!」
ぎゃあぎゃあ言い合っていたが、

ラブホテルの前で立ち止まると、
「・・・こないだの噛み痕と引っかき傷の借り、返してくれる?」
グッと腰を引き寄せ、耳元で囁いた。
「っ!」
ビクッと肩を揺らし土方は固まった。ニヤリと笑い見つめると、腰から辿るように手を上げ肩を抱く。言葉もないが抵抗もない。うつむいて黙る土方をそのまま連れ込んだ。



◇            ◇           ◇           ◇



エレベーターの中でキスをする。自分でも驚くほど素直に銀時を受け入れる。 銀時の唇に身体が喜びに震える。
「・・・んっ」
縋るように着物に手を沿え、銀時を見つめる。
「その顔、反則。今日は一回で帰せなさそうだけど、覚悟しといて?」
そう言った目はすでに熱を持っていて、身体が熱くなる。

部屋へ入ったとたん抱きしめられ、再び口付けをもらう。
――コイツにとっちゃぁ、ただの遊びでも息抜きでも・・・俺ぁ。
とどまるところを知らない身体の熱の高ぶりに身を任せる。
「おいおいー。どったの?今日はなんか変だよ?副長さん」
「ゥルセェ・・・。溜まってんだよ」
偽りを口にし、熱くなった身体を擦り付ける。
「昼間シたのに?」
「ッ!」
顔に血が上るのが分かるが、身体が熱いのは紛れもない事実で
「・・・悪りぃかよ」
「いんや?んじゃ、がんばっちゃおうかな~」
合わせから手を入れ、胸の尖りをつままれる。
「んぅ」
思わず声が漏れる。こんなところが感じるなんて思いもしなかった。
「ベッド・・・連れてってくれ」
「おぅ」
言うなり、横抱きに抱き上げられる。お姫様抱っこってやつだ。初めてのときもそうだったが、あの時はキスで頭の芯がぼんやりしてたから意識してなかったが、意識してみるとかなり恥ずかしい。
驚くほど優しくベッドへ降ろされ、また唇が降ってくる。
きっと見かけてきた女達にもそうしてるんだろうと思うと、胸が痛んだがすぐに熱さにどうでもよくなる。頬に、首筋に、肌蹴られた鎖骨に、ゆっくりと下りてゆく唇いちいち反応してしまう身体。それが胸の頂点に辿り着く。
「ぅあ・・・っ」
弓なりに反った身体は、まるでもっととせがむように胸を突き出す。反対側を手で弄りながら、舌先で転がし吸い上げ甘く噛む。
「ふっ・・・ぁあっ、はぁっ・・・」
堪えるつもりのない声はとめどなく溢れる。
「ほんと、どうしちゃったの?今日は」
「はっ・・・ルセェッ・・・あぁっ!」
肌蹴たせいで自由にならない手でシーツを掴む。銀時は赤くなった胸の尖りから口を離し、土方の上半身を起こす。
キスをしながら後ろに手を回し帯を解き、手馴れた手つきで着物を脱がすと自分も脱いだ。



◇            ◇           ◇           ◇



自由になった手で銀時に触れる。昼間残した二の腕の傷にそっと。 そして肩に手を回すと、引き寄せる。
「銀時・・・」
初めて自分から名前を呼び、口付ける。唇を割り歯列をなぞり舌を絡ませる。
「んっ・・・ふっ・・・」
熱い。まるで身体が熔けてしまいそうだ。 口には出せない想いを流し込むようにキスを繰り返す。
その間中ずっと銀時は土方の身体を撫で回す。 ゾクリゾクリと走る快感に勝手に揺れる身体。 乳首を捏ねられ思わず身体が仰け反る。
「っあぁっ・・・!」
「ほんと、どうしちゃったの?えらく積極的だしさぁー」
後ろで支えた手を引き寄せ、赤く色づいた実を口に含みながら銀時は話す。 硬くしこった実を転がしながら器用に。
「前みたいに声も殺さないしねぇー」
「ひぁっ・・・ふっ・・・ぁあっ!あっ!」
銀時の声すらも刺激になって、聞かれていることに答えることができないが、そのほうが都合がよかった。ばかみてぇに惚れてしまったことを言わないですむ。引っ張らないように髪の毛を掴み、口からは意味不明の音を零す。いつの間にか舌はあばらへと移動し、さらにへそへと降りてくる。
「ちょい、腰浮かして」
言われるがままに髪を掴んでいた手を離しベッドに手を突き腰を浮かせると、下着を脱がされた。 あっと思ったときにはもう、銀時は中心に舌をやっていてぬるりと生暖かい感触に息が詰まる。
「バッ・・・ヤ、ヤメッ!」
すっかり立ち上がったソコを咥えられ困惑と快感と戸惑いが綯い交ぜになる。きつく銀色の髪を掴んだものの、どうしていいか分からず焦って見下ろした。別に咥えられた経験がないわけじゃないが、まさか銀時にされるとは思ってもいなかったのだ。 相手は自分とそう変わらない体格の男で、身体に柔らかさのかけらもない。だが、惚れた相手が自分のモノを咥えているという視覚的刺激はそれだけで十分ゾクリとする。
やわやわと直接与えられる快感に昼間出したばかりだというのに、あっという間に達してしまいそうになる。
「ひぁ・・・あ・あっ!」
ガクガクと膝頭が震え、快感の波を何とかやり過ごそうとするが、同じ男だけあって、イイところを巧みに刺激される。 裏を舐め上げられ。鈴口を割られ、快感に身体が震える。我慢もすぐ目の前に限界がみえる。チラリとこちらを見た銀時はグイっと奥まで飲み勢いよく扱かれ限界が来る。
「やめっ・・・も、もう、出っ!」
甘い声を上げると、ちゅうと吸い上げられ引き離せないまま放ってしまった。ビクビクと震え放ったモノを銀時が喉を鳴らして飲んだ。
「バ、バカッ!飲んでんじゃねえよ!」
ようやく離れた銀時はベロリと口を舐めその仕草にまた身体がゾクリと粟立つ。
「へへっ、飲んじった」
ニヤリと笑う銀時になんともいえない表情を返し弛緩した身体をどさりとベッドに沈ませ息をつく。



◇            ◇           ◇           ◇



その隙に銀時にグイッと足を持ち上げられる。
「オ、オイッ!」
土方は焦った声を上げるが、銀時は気にせず、尻を割り窄まりに舌を運ぶ。熱い舌で筋の一本一本を解され、銀時の舌の熱さが伝染する。
「ふっ・・・はぁっ!!」
解れた窄まりがヒクリヒクリと動き出す。孔へと差し込まれた舌に唾液を乗せ流し込む。
「んぅっ・・・」
( あ、熱い・・・体の奥が熱い・・・)
たっぷりと濡らされたソコへ指が侵入すると、待っていたように絡みつく。
「ぁあっ!」
「うわっ、ナカ熱ちぃー。もしかして待ってた?」
「っ・・・ル、セェッ・・・あ・ぁっ!」
すぐに2本に増やされた指を、易々と咥えながらさらに奥へと誘うように蠢く。頼りなげに投げ出された身体は、支えを求めシーツをきつく握り締める。
前回見つけられたイイところを掠めるように指が動くと、それだけで再び前は立ち上がり始め身体は勝手に跳ねる。
「ぅあっ・・・はぁっ・・・ぁあっ・あっ!」
胸の尖りを転がされ、グチグチと指を掻き回され嬌声が止まらない。我慢できず手をシーツから離し銀時に腕を回す。
「も、いい、からっ・・・早く、来・・・いっ!」
早く、早く。 銀時が欲しかった。
「だーめ。こんな顔、突っ込んでたら冷静に見られないだろ?」
なのにそれは叶えられない。銀時も余裕のある顔をしているわけではない、が。
「なっ・・・ぁあっ! あ ぁ・あっ!」
言葉を紡ごうにも、快感で頭が働かない。
「ほーら。 こんな顔、やっぱ素面で拝まねぇともったいないっしょ?」
銀時はニヤリと笑って土方の額にキスをする。
「んぅっ・・・! っはぁっ! あ あぁっ!」
眉根を寄せ、ふるふると首を振るが熱は身体から出ていってはくれない。
「すっげ、色っぽい・・・。どーしてくれんの? あーもー、滅茶苦茶にしてやりてぇー」
ベロリと喉から顎に舐め上げる。
「あ・・・っ・・・し、てく、れ・・・っ! も、もうっ!ぅあっ!」
ぼやけた視界で、縋る様に銀時を見つめる。
「ん~? もう?何?」
意地の悪い顔で聞きながら、銀時の指はナカの一番イイところグリッとを刺激する。一際大きな快感の波に飲まれ
「あぁぁあっ!!」
触れられてもいないのに、2度目の絶頂を迎えた。



◇            ◇           ◇           ◇



飛び散らした白濁を銀時が綺麗に舐め取る。
舌の感触だけで、身体が反応する。が、立て続けに2度イッた身体は弛緩している。いや、今日は3度目だ。
ぐったりとした身体の奥には熾火のように熱が籠もっている。
(足りない・・・まだ足りない・・・)
身体は限界だろうはずなのに、渇望するものに息は熱く肌が粟立つ。 重い手を浮かし、銀時を捕らえる。確かめるように脇を撫で上げ、胸の尖りを弄る。
細かく反応する身体にヤツも感じていることに、満足する。腰に手を回し、足を絡める。
「煽り過ぎだよ。も、我慢も限界」
「我慢しろなんて、言ってねぇよっ」
「そこまで言うんなら覚悟しなね?」
「ゴチャゴチャるせぇよ。早く、来い」
絡めた手と足に力を入れると、一気に最奥まで貫かれた。
「あ・あ・あ・あぁ!」
圧迫感を上回る充足感に心が戦慄く。反り返った身体に手を回され、さらに奥へととでもいうようにグッと抱きしめられ、限界のはずの中心に芯が通る。
「ひぁっ・あぁ・あ・あっ!」
前回のように吐き気は全く無く、激しく揺さぶられる度に歓喜の声が溢れる。腰に回していた手を背に回し、銀時を引き寄せると頬を挟みキスをする。 まるで、自分の熱さを伝えるように舌を絡めて離す。真近で感じた吐息はどちらも熱く
「ぷはっ・・ぁあっあっ」
「ふっ・・・くっ!」
知らず、締め上げ絡みついてしまう。
「ヤベー、サイコー。我、慢、できねぇ、かもっ」
ぽたぽたと落ちてくる汗を見上げると、少し眉根を寄せた雄の顔をした銀時がいる。
「何、 っはぁ・・・テ、メー、あっ・・・溜まっ、てんの・・・?ふぁっ!」
「ったりめぇ、だ、ろ。おめー、に、会うの、久、しぶり、なんだからよっ!」
「ひぁっ!あ・あ・あ・あっ!」
勢いよく突き上げられ、すっかり立ち上がった中心から先走りが零れる。
「ぁっ・・・我、慢っす、んな、よっ! はぁっ あ あっ!」
「・・・っ、悪りぃっ。げ、んかいっ!」
グッと深く挿し入れられ、中で銀時のモノが跳ねる。熱いモノが腹の中で広がり、頭が白くなる。



◇            ◇           ◇           ◇



繋がったまま荒い息で土方を抱きしめる。さすがに土方はイかなかったようだ。が、中心は十分熱をはらんでいる。
こちらも達したとは思えないほど、硬度を保ったままだ。
(このままもう一度・・・)
土方を抱き起こし繋がったままで胡坐の上に抱きかかえる。
「なっ・・・」
土方は焦った顔をするが、構わず動きを再開する。体勢のせいで自分の放ったものが溢れ、滑りが良くなる。
ちょうどそこにある赤い実を舌で転がし吸い上げると、土方の腕がまわってきた。
「テメッ・・・イった、んじゃ、ねぇ、の、かよっ!・・・ぅんっ!」
「まあね~。溢れてきてるよ、俺の」
「なんでそのまま続行なんっ、だよっ!はぁっ・・・!」
「一回じゃ終わんないって言ったでしょーが」
「は、早過ぎだろっ、おいっ・・ぁ・ぅんっ!」
「細かいこと気にすんなって~」
「ヤッ、細かくなんかっ・・・ぁはぁっ! あ・あ・あ・あっ 」
先程と違い少し余裕のある銀時はじっくりと中の感触を楽しむ。熱く絡みつき奥へと吸い付くような動きをする中に
(マジ、ヤベーんですけど・・・俺。・・・これからコイツでしか屹たねぇかも。)
土方の頭に手を回しキスをする。
「すっげ、やらしー顔」
嬉しそうに言う銀時に、カァッと頬を染め目を逸らす土方。グッグッと突き上げ、熱い吐息混じりの嬌声を漏らす土方の顔を見上げる。きつく閉じた瞳は睫毛が濡れ、染まった目元に、赤い唇から漏れる熱い吐息、ちろりと覗く舌。その全てが銀時を煽る。
動きを止めつぶさに眺めようとすれば、濡れた先端を銀時の腹に擦りつける様に土方の腰が揺れる。
「んっ・・・はぁっ・・・ぁ・・・」
密やかなそれは無意識のものなのだろう。優しく抱きしめ、それに身を任せる。
「はぁ・・・ぁ・・・ん・・・は・・・ぁ・・・ぅ・・・ん・・・」
密やかだったそれはだんだんとはっきりした動きになってゆく。
「ふぁ・・・あ・・・ぁんっ・・・んんっ・・・んっ・・・ぁっ・・・」
「腰、動いてるよ。気持ちイイ?」
「っ!!」
とたんにピタリと動きを止め真っ赤な顔で焦ったように
「ばっ!テメッ!フ、フザケッ・・・!んんっ!」
言い募る口を塞ぐ。歯列を割り舌を絡め幾度も深く唇を合わせていくうちに、再び土方の腰が揺れ始める。
「んっ・・・はぁっ・・・あっ・・・ふぁっ・・・あぁっ・・・」
今度は揶揄せず、腰が揺れるのを任せる。グチュグチュと音を立てるまで、腰を動かしだした土方にもう一度囁く。
「気持ちイイ?」
「言う、なっ・・・! 止、まん、ねぇ、んだよっ・・・! あぁっ! あ・あっ!」
グイッと突き刺し、身体を縫い止め、もう一度訊ねる。
「十四郎、気持ちイイ?」
「ひぁっ!ヤ、ヤメッ・・・! ヒッ! ぁあっ!」
土方は首を振ってポロポロ涙をこぼし出し、それを隠そうと顔の前で腕を交差させる。なんでこんな仕草が可愛いとか思えてくるのかね。俺も末期だね。
「なぁ、き・も・ち・い・い?」
甘さの滲む答えるまではこのままだと含んだ声でゆっくり囁く。
「っ ・・・・・・・ぃぃ。」
「ん?聞こえねぇなー?」
「ぅ・・・き、持ち、ぃ、いっ!」
「そ?んじゃ、もっと気持ち良くしてやんよ。」
とたん勢いよく土方を突き上げ始める。快感に溺れ、銀時を強く抱きしめる。
「ああぁぁぁあ・あっ!あ・あ・ひっ あ・ぁ!」
「くっ・・・ヤベッ・・・イきそっ!」
「あ・あ・あ ぎ、銀時・・・っ!」
銀色の髪を掴み上向かせ、唇を合わせる。
「「―――!!」」
土方は銀時の腹に銀時は土方の中に2人同時に放った。



◇            ◇           ◇           ◇



2人してベッドへ横たわり、荒い息で顔を合わせる。
「よぉ、大丈夫?」
「ひっ・・・ぅ・・・ふっ・・・く」
ちゅっちゅっとこぼれた涙を拭いながら土方を抱きしめる。 宥めるように髪を梳きながら、やっぱコイツの髪気持ちいいわ~とか背中気持ちいいな~とか、自分と体格の変わらないごつい男相手に思うにはありえないことを考えてしまう。もうダメだな、俺。
土方も背中に手を回し、ギュッと抱きついている。まるで離れたくないのだと言わんばかりだ。しばらくそうやって抱きしめていた銀時が、ふと土方の目を見る。
「・・・責任とってくれる?」
いきなりの話に面食らう。一体何の責任だよ。
「? 何のだ?」
わけが分からないといった顔で銀時を見上げる。
「どうやら俺、お前に惚れたみてぇだから、これから面倒見てくれ」
「な・・・っ!!テメッ!!」
ガバッと起き上がろうとして、腰に痛みが走る。
「~~~~~~~~~~~~っ!!」
伏せながら、今言われたことを反芻する。
(惚れた?俺に?今確かにそう言ったよな。何なんだ?ただの息抜きじゃねぇのか?ええぇぇえ?!)
頭を枕に埋めグルグルしていると、
「嘘でも冗談でもねぇから。覚悟しろよ?俺ぁ、しつこいぞ」
「~~~っ、はぁ~そうかよ、勝手にしろや」
”俺も惚れてるよ”とは言えなかった。 いつか・・・言える時が来るのだろうか。

まぁ、それまではせいぜい口説かれておこう。くすりと笑い、ちゅっと土方は銀時にキスをした。


                                       fin  
 

 
後書き
勢いで書いてしまいました反省はしているが後悔はしていない。
大好きなサイト様「協恋郷」の管理人、燈色さんに捧げます 
< 前ページ 次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧