BloodTeaHOUSE
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捧げます
「こんばんわ、ジェイク」
「おやお客人、ちょうど良いところにいらっしゃいました」
「いいところ?」
「何はともあれ、さ、中へどうぞ」
お店に入ると、いい香りがほわんと漂っている。
「わ、いいにおい~」
「お、香澄ー」
「おばんやで、嬢ちゃん」
「いらっしゃい、香澄ちゃん、ちょうどいいタイミングだね」
いいタイミング、っていうのはこの匂いのことかな、ってワクワクした目を飛白に向けて。
「この甘い匂いがそれ?」
「そうだよ。今日は気が向いたから、木苺のパイを焼いてみたんだ」
「わぁ~、ほんとにナイスタイミングだぁっ」
焼きたてでほかほかと甘酸っぱい木苺の香りを漂わせるパイに頬が自然と緩む。
本日は木苺のパイとロイヤルミルクティー。
「おいし~v サクサクしてて、甘酸っぱ~い♪」
「嬢ちゃんはホンマに幸せそうな顔すんなぁ~」
「えへへ~、だってホントに美味しいんだもんっ」
ホントに美味しい。パイって作るの難しいんだよね。飛白は器用だなぁ。
たしか、バターで生地に層を作らないといけないから、手で触りすぎると
バターが溶けちゃって生地がサクッとならないとか、お菓子の本に書いてあった。
「そんな幸せそうな顔をしてもらえるなら、作りがいもあるよ」
私がおいしいって言うと、飛白はいつもの誰かをからかうような顔じゃなくて、
ほんの少しだけど嬉しそうな優しい顔になるのが嬉しい。
「裏子は味音痴やしワイはツマミばっかりやしなー」
「なにおー!アタシだってちゃんと味は見てるんだからなっ!」
やっぱり裏子は味音痴なのか………で、でも、じゅ、需要はあるんだよ、たぶん‥‥
だってほら、百目木も食べてたし……どうやって食べたのかは謎だけど……
「わ♪紅茶もいい香り~vv」
「ほんとに花澄ちゃんは可愛いな。どうだい?僕と―――」
「またお前はそれか!!いい加減にしろっ!」
裏子がいつものようにどこからともなくナイフを取り出す。
ほんと、ナイフとか包丁とかどこに仕舞ってるんだろう?
そういえば、裏子のナイフも不思議だけど、もっと身近な知らないことに気がついた。
「ねえ、んごー」
「なんや嬢ちゃん」
この青い謎の物体んごーは絶対普通の吸血鬼じゃないような気がするんだよね。
「んごーも”吸血鬼”なの?」
「あー、その話か。わいは吸血鬼とちゃうで」
「で、でもっ。ジェイクはみんな吸血鬼って言ってたような気が、する、んだけど…?」
「ワイはオーガ。鬼でな、食人鬼つまり人間を食べるんや」
「えっ」
その言葉に身の危険を感じてさっと身を引く。
「あー、そないに警戒せんでもええで。人間食べんようになってからもうだいぶ長いし」
「? じゃあ栄養はどうなるの?」
頑丈な体にも限界があるんじゃないかと、さらに不思議になる。
「普通の食べもんで、栄養は十分にまかなえるんや」
「人間のごはんとかおかずとかってこと?」
鬼が人間と同じ物を食べるっていうのは、かなり変な気がする。
「そうや。ワイが人間食べるんやめるっちゅうのは、人間で言うならタバコやめるのとおんなじ感覚ちゃうかな?
もう人間なんか食べんでも、全然気にならんちゅうわけや」
「どのくらい人間食べてないの?」
「どのくらいになるかなぁ。まあ、少なくとも日本に来てからは誰も食べてないで」
前に百年くらい前に日本に来たって言ってたから、少なくとも百年は食べてないんだ。
「じゃあ、血はいらないの?」
「嬢ちゃんかって、牛とか豚は食べるけど、血は飲まへんやろ。」
「そう言われてみればそうだね」
なんだか変な話たけど、納得してしまった。
「じゃあさ、飛白や裏子は、輸血用の血液パックじゃダメなの?」
今のところ、2人にとって一人だけの身近な人間としては、とても気になるところだ。
「それは愚問だよ、香澄ちゃん」
飛白の態度は、愚問、つまり愚かな問いだと言わんばかりの態度だ。
「僕たち吸血鬼に必要なのは、ヴァンピリズム。
つまり人間の生き血にしか含まれないものなんだ」
「だから、輸血用の血液パックを飲んでも意味ないんだ、香澄」
裏子も一緒に説明してくれる。
「んー…つまり、直接人間から取らないとダメってこと?」
「まあ、そうなるね」
「それってすごーく不便じゃない?」
いきなり血をくださいってお願いしたって、普通は断られるはずなんだもん。
平和的に食事ができないってのは、なんか不便そうだ。
「ストリートファイトで戦ってアタシに負けたやつから吸ってるよ!」
それはまた、普段の言動とぴったり一致だね。
「この僕の魅力があれば、断られることはまずないさ。お礼に天国も見せてあげてるしね」
飛白はナンパして血を得てるのか……らしいといえばらしいけど。
とりあえず、わたしが提供しなくてもエネルギー的には大丈夫だと分かって安心した。
特に裏子はまだ注文したことないしね。
結構このお店は気に入ってるから、突然誰かが活動停止しちゃったらさみしいもんね。
「で?そんな話題を出すってことはそろそろ僕に血をくれる気になってくれたってこと?」
蠱惑的な微笑みを浮かべて、わたしの目を覗き込んでくる。
あぁ、なんか飛白のナンパが成功する理由が私にもわかる気がしてきた……
「きょ、今日までの分なら、別に、い、いよ……」
カウントされてるかは分からないけどバイオリンも教えてくれてるし、
いつも美味しいもの出してくれるから、うん、飛白になら……いい。
「ぁの、 なるべく……痕が、目立たない、場所に、して……ね?」
いくら傷の治りが人より早いといっても、目立つところはなんというか……恥ずかしいかも。
やだ、なんでこんなに緊張して……
「なんだよー飛白になんかやるなよー」
「嬢ちゃんがええんやったらしゃーないなー」
裏子とんごーが何か言ってるけど、緊張しすぎてよくわかんない。
うつむきそうになるのを我慢してじっとしてると、髪を払われて肩に手を置かれる。
首、だよね ぎこちなく首を傾ける。
飛白の顔が近づいてきて、首に息がかかるとゾクッと肌が粟立つ。
首筋の濡れた感触に心臓が早鐘を打つ。
「っ…………」
「ふぁ………」
突き立てられた犬歯が熱くて変な吐息が漏れて、慌てて口を閉じる。
痛い…のに、嫌じゃ、ない………。膝の上に置いてる手にぎゅっと力を入れる。
力を入れないと飛白にしがみついてしまいそうだから。
「っっ………………」
「んっ…………」
飛白の喉が鳴るたびに、甘ったるい息が鼻から抜ける。肩に置かれた手が熱い。
首にかかる息も熱い。それがゾクゾクする。
どのくらい飲まれたのか分からないけど、ゆっくり口が離れ、
まだ塞がってない傷口を舌で舐め上げられて思わず変な声が出てしまう。
「んぁ……あ…」
飛白の熱い息を感じるごとに、私の息も熱くなる。
「素晴らしい血だ………君の血が…僕を支配する………」
首に舌を這わせながら囁く声が耳朶を打って甘い毒のように思考を乱す。
「香澄…君を僕の……そう、僕のものにしたい……君こそが…僕の…快感だ」
血を一滴たりとも無駄にしたくないとばかりにいくつも首にキスをされ、
熱に浮かされたような甘い言葉。この人が求めてるのは「血」だけなんだから。
「君を…僕が支配し……僕が君を…支配する…」
正面から見つめられて、目が逸らせない。そっと手が伸びてきて頬を撫でる。
あ、やだ、ほっぺ触っちゃだめぇ…っ
「………………ゃ」
精一杯がんばって小っちゃい声をあげる
「「飛白!?」」
裏子とんごーの声に、飛白はハッとして、
「すまない。君の血に酔ってとんだうわごとを……
ああ別に全てが虚言だというわけじゃないんだ。君を求める気持ちは……」
え? 今、私を?聞きまちがい?早口で話すから聞き逃してしまった。
「ああ、いや………なんでもない。
君は…まったく、恐ろしい子だよ。吸血鬼の僕を誘惑できるなんて、ね」
ちょっとバツが悪そうに飛白はそう言った。
私の血に誘惑されて口走っただけなのかな?そんなに私の血は特別な血なのかな?
あぁ、血が減ったせいかな、頭がうまく働かない。
吐く息も熱くて心臓もうるさい。やだなぁ。すごく恥ずかしい。
でも、もしも、もしもだけど、血だけじゃなくて私のことも……なんてあるわけないよね。
「…帰んなきゃ………」
「オマエ、今血を抜かれたばっかりなんだから、急に立つな」
と、裏子の怒られた。
「だ、大丈夫だよぉ~」
ぱたぱたと手を振って元気だと主張する。
顔とか赤いだろうし恥ずかしいから、ここからとにかく一旦離れたい。
「5分だけでもいいから休んでいったほうがいいよ。それとも一晩中僕が介抱しようか?」
「オマエはその変態発言をヤメロ!」
「じゃ、5分だけ……」
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