BloodTeaHOUSE
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ぬいぬいと提督
いつもどおりバイオリンのお稽古をしていると、お店のドアが開いた。
入ってきたのは明るい髪の毛を小さなポニーテールにした少女と、軍服を着た青年。
「不知火になにか落ち度でも?」
「確かにあそこでこっちに行ったら、早く帰れそうだって言ったのは、僕だけど‥‥」
「まさか、こんなところで電探を使うはめになるとは、思いもしませんでしたっ!」
どうやら道に迷ってここに来てしまった人たち(?)らしい。
どうして(?)なのかっていうと、少女の手には
明らかに物騒な雰囲気の武器らしきものが、ぶら下がっているのだ。
拳銃‥‥ではないし、なんかもっとこう、すごく破壊力がありそうな、兵器‥‥
年はそんなに私と変わらなさそうなのに、少し不機嫌に、
それを手にしているのは全く自然であるといった風情で、青年と話しているのだ。
「大本営への出頭の度にこうでは、困ります」
「ほら、元々そんなに直接呼ばれることってないからさ!」
「そうは言いいますが、前回の勲章授与の時も、帰りは寄り道して遅く‥‥」
「いらっしゃいませ!ようこそBlood Tea HOUSE へ!」
新規のお客様に気をよくしたのか、裏子がニコニコと挨拶をしている。
2人も、店員の前での言い争いは良くないと思ったのか、軽く頭を下げている。
あぁ、私が初めてこのお店に来た時も、こんな感じだったような気がする‥‥
蘇るあの日の毒紅茶に、2人のことが心配になり、飛白を見てしまう。
できれば、犠牲者は少ないほうがいい、と思うんだよね。
上目遣いの私の視線の意図を察したのか、笑顔で飛白はカウンターから出て行って
「お客様、お夕食でしたら、日替わりメニューはいかがですか?」
なんて2人に向かって、テキトーなことを言ってる。
日替わりメニュー‥‥聞こえはいいけど、
飛白が気まぐれで作りたいものを作るだけで、いつもと変わらないってことだ。
それでも、裏子のロシアンルーレット料理より、ずっとずっと美味しいけど。
「なんだよ!夕食にするなら裏子スペシャルだろっ!」
「まぁまぁ、どうやら彼の方は人間のようだからさ」
窓際のテーブル席に腰を落ち着けた2人の前で、
さっそく裏子は、いつものように飛白に喧嘩腰でキーキー怒り始める。
飛白はそれをいなしながらも、お客様への笑顔は崩さない。
「なら、こっちの子は裏子スペシャルだな!」
「‥‥不知火に決定権はないのですか」
「いいじゃないか、たまにはこういうハプニングも楽しいだろう?」
「なら提督は、日替わりメニューですね」
「僕のメニューの決定権、ぬいぬいにあるんだね」
「と、当然です。秘書艦の業務には、提督の健康管理も含まれていますからっ」
ふいっと目をそらす、その恥ずかしげな仕草は、硬い口調とは裏腹に、
年相応に見えるかわいらしいさがあった。
テーブルに肘をついて、両手を組み、それを楽しそうに見ている”提督”。
飛白が言うには、彼は人間らしいけど、このお店や店員に、動揺した様子は一切伺えない。
温和そうだけど、軍人さんだけあって、肝が据わっているのかも。
「では日替わりメニューと裏子スペシャル、お一つずつですね」
今日の裏子スペシャルは、どうかハズレでありませんようにと
心の中でお祈りするも虚しく、
厨房からは、飛白の「それは食べ物じゃないだろう!?」という声が聞こえてくる。
「んごー、大丈夫かな?あの女の子」
「どーやろなぁ、裏子えらい張り切っとるし。あーなったら止められんからな」
「オーナーとして、それはどうなのよ‥‥」
「いやいや、あの子、ああ見えてえらい丈夫そうやし、なんとかなるて」
ちらりと後ろを振り返る。
青年は”提督”って呼ばれてたし、上級士官の軍人さんっぽいよね。
”大本営”とか言ってたけど、旧日本軍本部のことかな?
年端もいかない少女が、秘書官を勤めてるってのも、だいぶ変だけど、
手にぶら下がってるものからすると、護衛も兼ねているのかな?
「そもそも、不知火の食事なら”間宮”さんで十分ではないですか」
「たまには違うものを食べてみるというのも、ぬいぬいの良い経験になる、と僕は思うよ」
「だとしても、なにもこんな山奥てなくても‥‥」
「電探が反応したんだから、ここが当たりのお店なのは間違いないだろう?」
「そ、それはそうですが、時間の浪費をしすぎですっ」
う~ん‥‥なんだか、上司と部下って感じには見えないな。
どっちかっていうと兄妹?恋人?家族? そういった親密さを感じる‥‥ような気がする。
「お待たせしましたーっ!裏子スペシャルと日替わりメニューですっ」
満面の笑顔で、裏子は両手にトレイを乗せているけど、
なぜ食べ物が金属の色をしてるのかなっ!?
いつもどおり、どろっとしてて、ぐっちょりなのだけど、
その表面はまるで水銀のようなメタルカラー。
湯気なんか、表面からの光の反射を受けてレインボーだよっ!?
ほんとに食べられるのっ!?それっ!?
飛白の料理に注意が向かないほどの、圧倒的な視覚的破壊力に、
私はオロオロと、んごーや飛白を見てしまう。
苦笑している飛白に、どこか悟りを開いたような顔のんごー‥‥
「ほら、言ったとおり当たりだったろう?」
耳を疑うようなセリフに、テーブルを振り返ると、
楽しそうに笑う提督さんと、じっと料理を見つめる不知火ちゃん。
「じゃあ冷めないうちに、いただきます」
「い、いただきます」
はむっと、不知火ちゃんが料理を口にしたとたん、彼女の体がぱあっと光りだした。
え、えぇえ~~~っ!?何これっ!?
な、何が起こっているのか、私にはさっぱりわかんないっ!!
人体の発光なんて、ありえない現象を目の当たりにして、硬直している私と違い、
「思たとおりやったなー」
「僕もこの目で見るまでは、半信半疑だったんだけどね」
「ふっふーん!裏子サマの料理には不可能はないのだっ!」
3人はいたって平静だ。
「か、すり‥‥今の‥‥」
混乱で半泣きの私は、助けを求めようと飛白を見上げる。
「彼女はね、最近一部地域で活躍している、”艦娘”の1人だよ」
「あの子らの活躍は洋上やからなぁ。陸でウロウロしてんのは、まぁ珍しいわな」
「この裏子サマの手にかかれば、近代化改修のMAX突破なんてたやすいもんだよ!」
それぞれが口々に説明してくれてるんだけど、ぜんぜん意味が分かんない‥‥
「‥‥新種のあやかし?」
「新種の妖怪みたいな、”深海凄艦”に対抗するための存在らしいぞ!」
「あの嬢ちゃんは提督の嫁艦みたいやしな」
「よ、嫁っ!?」
それどころか、説明されるたびに混乱が増していく一方だ。
「すごいぞ、ぬいぬいの耐久が軽巡並になったよ。それに運も+15だ」
「この不知火は既にすべての改修を終えていたはずですが?」
「まぁ見てごらんよ」
タッチパネル式の携帯PCを提督は不知火に手渡す。
目を見開いている所をみると、裏子スペシャルの効果は確かだったようだ。
「よく‥‥わかんないけど、裏子はいいことしたんだよね‥‥?」
「まあね。それで彼女が、大本営にマークされなきゃいいんだけど」
「まぁでも個体差の範囲内とちゃうか?」
いつもいつも、毒だの麻痺だのと、バッドステータスしか私につけてこない裏子の料理を
この日は少しだけ見直したのだった。
後書き
作者様の嫁を艦コレから急遽引っ張ってきました。
裏子スペシャルもたまにはいいことだってするのです(たぶん‥‥
能力上昇は150LvのMAX改修済み(まるゆ込み)から、
耐久39 火力73 装甲52 雷装90 回避120 対空55 対潜72 索敵50 運64
とまぁ、なんとなく改二+αにした感じのステにしてみました。
参考は夕立改二とВерныйですが、耐久だけ天龍の少し下で夕張の上w
嫁艦の損傷はなにかとストレスになるので回避、運、装甲を高めに設定です。
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