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黒魔術師松本沙耶香  銀怪篇

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4部分:第四章


第四章

「それでも羨ましいですよ」
「それでこの娘達だけれど」
「ええ」
 バーテンに今持っているアイドル達の写真を見せる。
「悪い評判はないみたいね」
「そこの事務所は社長さんがしっかりしてるからね」
「そうね」 
 それは直接会ったので知っていた。
「だからいい娘ばかりだよ」
「そうなの」
「性格もいいんですよ、皆」
「よく知ってるわね」
 そこまで聞くと何か妙に思えてくる。
「何でそこまで知ってるのかしら」
「だって私はこの事務所のアイドルは皆贔屓ですから」
「そうだったの」
 これで納得がいった。沙耶香は頷いた。
「女房にはいい歳して、って言われますがそれでもファンなのは事実ですから」
「アイドルは幾つになっても、ってやつね」
「その通りです。ただね」
「ただ?」
「何か最近やけに皆奇麗になったんですよね」
「いいことじゃないかしら」
「いや、それがね」
 バーテンは語る。
「何か女の子から女の艶が出て来たっていうか」
「艶が」
 沙耶香はその言葉に眉を微かに動かした。
「はい、そんな感じですね。何かあったんですかね」
「成長したってことじゃないかしら」
 バーテンにはそう応えた。
「女の子は成長したら脱皮するものだから」
「さなぎから大人の蝶にですか」
「そういうこと。私みたいにね」
 カクテルをここで口にした。
「大人の蝶になるのよ」
「お姉さんはさしずめカラスアゲハってところですかね」
 バーテンは沙耶香を見てこう評した。
「いつも黒づくめですから」
「有り難う」
 その言葉にはすっと笑って応える。
「それじゃあ次はね」
「はい」
 アイドルの話かと思ったがそれは違っていた。
「フローズンをお願いするわ」
「そちらですか」
「ええ、ファースト=ラブ=ジュレップはもう飲んだから」
「早いですね」
 見ればその通りであった。さっき手にしたばかりのカクテルはもうなくなってしまっていた。
「相変わらずお強いことで」
「お酒はね。幾らでもいけるのよ」
 沙耶香は白い顔のまま応えた。その顔に酔いは見られなかった。
「女の子もね」
「凄いことで。じゃあフローズンですね」
「ええ」
 オーダーに応える。
「お願いするわね」
「わかりました。それじゃあ」
 バーテンはカクテルを作りはじめた。沙耶香はそれを見ている。そしてまた酒を口にするのであった。その夜はそのまま酒えを友とした。
 捜査は翌日から早速はじめた。まずはその変わったと言われるアイドルの一人堀江瞳からであった。
 小柄で今風の女の子だ。茶色に脱色した髪をショートボブにしている。愛くるしい顔と小柄な身体、そしてその外見通りの明るくて元気なキャラクターが人気である。ダンスも歌もまずまずだ。
「確かに最近の写真は何かが違うわね」
 沙耶香はタクシーの中で堀江瞳の写真を見て呟いていた。
「奇麗になったというか」
 それとは別のものを感じていた。
「女になっているわね、やっぱり」
 それを見抜いていた。隆美からの話を頭の中で反芻しているうちに何となく答えがわかってきた。
「それを考えると」
「あの」
 前からタクシーの運転手が声をかけてきた。

 
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