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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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成り行きであたしは、感動の再会の手伝いをする

 
前書き
おこんにちは。クソ作者です。
前回はあれやこれやで大変でしたが今回はタイトルの通り、とある人物の感動の再会を手伝うことになります。
それではどうぞ。 

 
岡田以蔵襲撃事件から早一週間…。
あたしと香子は今船の上にいた。

別にどこか遠くへ行こうってわけじゃない。
この世界には色んな理由を持ったマスターとサーヴァントがいる。
そんな彼らの生き様を書き記し、あたし自身の本を出すのが夢であるのだが、今こうして船にいるのはその為だ。

このバーソロミューの所持する船は、荷物やお届け物を運ぶ運搬船の他に人も運ぶ役割も請け負っている。

すると当然、そこには色んな人が利用しに来る。
そこであたしと香子はそこを使うことにした。

まぁ目論見通り、色々なマスターやサーヴァントが理由を持ってやって来る。

ただ宛もない旅。
誰かの所へ行く為。
あまり公には言えない事。

様々な理由を差し支えない程度に聞いてきた。

その中で少し面白かったのが


「おっきー?いや雑魚だぞアイツ。」

この自称探偵だ。

「雑魚…?」
「会った時もまぁまぁ大変で、戦えないとか嘘つきやがってワイバーンから逃げる羽目になったし。」
「嘘…?」
「まぁその後魔力は家守るのに回してくれたから別にいいんだけど。」

彼の名前は一 誠(にのまえ まこと)
17歳で世界崩壊前はまだ学生だった彼が今しているのは前述した探偵。

「その後は自堕落に過ごしたよ。でもライフライン止まって、このままじゃ行けないって思って重い腰を上げていざ旅に出たわけ。」
「それで、探偵に?」
「まぁそんな感じっすね。世界がこんなにふざけた事になってんのなら、昔やりたかった夢目指すってふざけた事しても誰も文句言わねーでしょって。」
「なるほど…。」

言ってしまえば、彼は面倒臭がり。
あまり人当たりの良くない顔付きはいい印象を与えないものの、質問にはキッチリ答えてくれる人だった。

でだ、

「あぁ、おっきーね。使えねーし大して強くもねーし、燃費も悪いと来た。戦闘に関しては他のサーヴァントと比べんのが失礼なくらいだな。」
【そうは言っているものの、彼は刑部姫には友達以上の特別な感情を抱いている。戦闘は確かにダメなものの刑部姫には他の利点がある。そういった面も自分はきちんと理解しているし、他のサーヴァントなんぞと比べられてたまるかと思っている。】

「お腹すいたぁーまーちゃんご飯作ってぇーって、めんどくせーしたまには自分で作ってみろって言いてぇくらいだけど。」
【嘘である。全然面倒くさがってないし三食ちゃんと考えて作っている。そんな料理を彼女に美味しいと言ってもらえるのが何より嬉しい。そんなんだから明日も頑張るかーと献立を一生懸命考えるのだ。】

「いちいちうるせーし。隙あらば魔力供給しよーだなんて…あーいや、ごめん。こういうのはやめとく。」

(あー…はいはい。)


表面上は刑部姫を面倒に思い、嫌そうに感じる。
しかし、泰山解説祭によって明らかにされた彼の心の内は全くの逆だ。

お人好し&自分のサーヴァントをほっとけない滅茶苦茶良い人だった。
本当に元高校生?ってくらい人間が出来上がってる。

で、それから数分後。

「そっちはそっちでなんか収穫あった?」

彼らの目的地である東京が近くなり、別件で別れていた香子が戻ってくる。
彼女は彼女で探偵さんのサーヴァント、刑部姫とあれこれ話をしていた。

「…いえ。ただ…」
「〝ただ〟?」
「ただ、こすぷれして行為に及ぶと彼はすごく喜んでくれるのだと聞かされました…。」
「……。」
「あと、甘やかすのも好きだそうです。彼のつらさを分かってあげられるのは刑部姫様だけなのだそうで、思い切り甘やかしてあげる…とか。それと授乳プレイ願望があったりと……」
「……。」

それは果たしてバラされていいものなのだろうか?





それから、個人的に興味が湧いたあたし達は彼ともう少し行動を共にすることにした。

彼らが東京に来た目的はイルカショーだとか。
何でも前の依頼主にチケットを報酬としてもらい、せっかくだから行くことにしたのだとか。
マスター本人はこれは慰安旅行だと道中何度も言ってはいたが、心の内ではデートと言っていた。
まぁでも、ここは彼の意思を汲み取ってあげて慰安旅行ということにしといてあげよう。


さらにそこで運命のいたずらとでも言うのか、いや、あとから考えたらこれはもう偶然ではなく必然だったのかもしれない。

あたし達はそこで、一人のサーヴァントに出会うことになる。

「葛飾北斎…?」
「いかにも。んまぁ今はとと様がいないんで、正確にいうと違うけどナ」


葛飾北斎。
あの極悪組織、葛城財団に追われていた所を目撃し、助けたのだ。
というよりもあいつら…人混みを強引に押しのけてでもサーヴァントを捕まえようとしてた。
なんか慈善事業を謳ってるらしいけど怪我なんかさせたらどうするんだ。

で、その葛飾北斎なのだが、
サーヴァントとしてはひとつ変わっている点があった。
マスターがいない。

立ち話もなんだからと言い、近場の喫茶店に寄って彼女から事の経緯を聞く。
するとどうだろうか。

「人を探してる…?」
「ああ、おれの自慢のますたあでナ。"マイ"っていう大層な美人なんだが、知らないかい?」

なんとマスターとはぐれてしまっているという。
さらにそれは数日前のことでもない。
それに、

「でも、どれだけ離れてても魔力パスでつながってんだし、場所くらいは分かんじゃねーの?」
「いや、繋がってねぇのサ。」
「えっ?」

サーヴァントとマスターは魔力で繋がり、互いの存在は認知できる。
しかし北斎にはそれが無かった。
だから、マスターの居場所が分からない。こうして財団に追われながら手当たり次第に探すしか無かった。

「多分〝こっち〟に来る際にりせっと?したんだっけか。すぐ再契約しろってあびいにも言われたしヨ。」
「〝こっち〟…?」
「ああいや、個人的な話サ。お前さん方には関係ねぇ。」

ともかく不思議な話ではある。
そこであたしは、またも興味が湧いた。

北斎はそれから自身のマスターである〝マイ〟の特徴を述べていく。
背は高い。美人。片目を前髪で隠しており、絵は自分と同じくらい上手。
喧嘩はあまり強くないから、どこかで危険な目に合ってなければいいがと北斎は心配そうな面持ちだ。

すると、ここで思わぬ情報がもたらされる。

「それって…マキさんじゃね?」

北斎が上げたその特徴。
それは探偵さんの行きつけのBARにいる看板娘に当てはまるのだという。

「…その"マキ"ってのは、誰なんだい?」
「BARにいるんですけどいつも着物を着てて、花魁っぽく着崩してるちょっと変わった人なんですよ。」
「花魁…?」


花魁。
そのワードを聞いた瞬間、北斎の眉がぴくりと動いた


「一応その人、情報屋やってるんでもしかしたらそのマイって人のこと知ってるかもしんないっすね。」

情報屋。
なら何かしら〝マイ〟に関する情報は持っているかもしれない。
そうなると北斎は早かった

「そうかい。なんだかその"マキ"ってやつに興味が湧いた。会ってみたい。」

そうやって席を立ち、どこへ行けばいいか尋ねる。
尋ねられた少し待ってくださいと言い、探偵さんは紙に何かを書き、それを手渡した。

「こいつを港にいる、いけすかねぇ雰囲気の海賊に渡してください。そうればマキさんのいる町まで行ってくれると思います。」

手紙を受け取る北斎。
そうして礼を言って彼女は去ろうとする。

「紫式部。」
「はい?」
「あたし達も行こうよ。」
「えっ、」

当然、あたし達もついて行くことにした。
興味が湧いたのもあるけど、何よりあの北斎は財団に追われていた。
ワケは知らないけど、あそこまで執拗に追われているのなら1度きりでは諦めないはず。
というわけで心配にもなり同行することにした。

「アンタと式部殿も探してくれんのかい?いやあ、感謝してもしきれねぇくらいサ!」

助けてもらいさらには同行もしてくれる。
そう言って北斎はニッと笑ってあたしに握手し、香子にも握手をして感謝の意を示した。
そして、思い詰めた表情になり、

「早くマイを見つけたいんだ。きっとアイツ…寂しくて泣いてるに違いねぇ…!」

マスターの事がどれだけ心配なのか胸の内を語る。
それだけならまだ良かった。

【そして会ったら今までの分たっぷり可愛がってあげたいと思っている。昔みたいに首輪〝だけ〟付けて散歩させて、それから前立】
「はっ!?いけません!!これ以上はいけません!!」

なんか見えた。
香子が慌ててかき消したけど、なんか見えた。
首輪〝だけ〟付けて散歩させるまでは見えた。

「行くんすか。」
「さっきみたいな追っ手が来るかもしれないし。それにおふたりさんはデートの最中でしょ。いつまでも部外者がいられたら、困るんじゃないかなって。じゃあまたどこかで!」

そう行って、2人きりの時間を邪魔しないようあたし達は北斎を追うようにして去っていった。

後ろからデートじゃないって聞こえたけど、泰山解説祭ではデートと言っていたんだ。
やっぱりここだけは言わせてもらおう

デートじゃん。と。




それから探偵さんに貰った手紙を見せると、バーソロミューはすぐに船に乗せてくれた。
この後探偵さんの住む街、姫路町へと向かう。
そこには〝マキさん〟なる人物がいて情報通なのだという。
北斎の探す〝マイ〟ではないものの、やっと手がかりになりそうなものに出会えるのだ。
同行している北斎はどことなくソワソワしていた。


「ちなみになんですけど、北斎さんのマスター、〝マイ〟さんってどんな人なんですか?」
「おれのますたあかい?うん。時間つぶしにちょいと話してやろうかね。」

落ち着きなく歩き回っていた北斎はどこか懐かしむような表情で海を眺め、あたしに自分のマスターの話を始めた。

「マイはな、そりゃあもう大層な美人だ。」
「それはさっき聞きましたよ。」
「まぁそう言うな。語り尽くしても語りきれねぇ絶世の美人なのサ。」

と、北斎は念を押して自分のマスターは美人なのだと力説する。

「髪もツヤツヤのサラッサラだ。しなやかな身体に陶器みてぇに滑らかな肌。女なら嫉妬してもおかしくはねェ!神は二物を与えず、なんて言うがマイに至っては二物はおろか五物くらいは与えられてる。」
「へー。」

そこまで言われると、あたしでも興味が湧いてくる。
美人美人とそこまで言うんだ。それはもう誰もが羨む絶世の美女なのだろう。

「でもちょいと控えめというか…引っ込み思案でナ。こんな荒んだ世界に1人放り出されて、やって行けるか分からねぇくらいだ。」
「…。」

確かに、こうなった世界では優しい者は利用され、死んでいく。
正直者はバカを見て、優しさを見せればとことん搾取され使い捨てられる。
でも、

「でもどことなく分かる。マイは死んじゃいねぇ。マイは優しそうに見えるが、結構強情で、ワガママで、思ったより諦めが悪い。」
「…そうですか。」

どう言った経緯で離れ離れになったのかは知らない。
でも、この北斎さんは死ぬほどマイさんに会いたがっている。
女性のマスターと女性のサーヴァント。
そんな共通点を見つけ、あたしも是非力になってやりたいと思った。

その時だ。

「それでマイは……なんだいありゃ?」
「クルーザー?にしてはなんか…。」

穏やかな海の静けさを掻き消すように、けたたましいモーター音が聞こえてくる。
音の正体は数隻の小型艇。
それらはこの船の近くまでやって来ると、船を包囲するような形で止まった。

普通のクルーザー?違う。
上に備え付けられているのは巨大な機関銃。いわゆる銃座がそれを証明している。
さらに船の側面に隠すことなく堂々と書かれた文字。

『葛城財団』

「!!」

その瞬間、船めがけワイヤーが射出される。
それは船縁に引っかかると、キュルキュルと言う音と共に高速で巻かれ、白い迷彩服を身にまとった男達がそれを伝って飛び乗ってきた。


「なんだ君たちは!?」
「葛城財団だ。見れば分かるだろ?」

奴らは次々と乗り移ると乗客や乗組員問わず銃を向ける。
そしてあたしのいる場所…近くの北斎さんを見ると隊長らしき男はニヤリと笑った。

「この船は我々葛城財団実働部隊、通称『谷岡部隊』が占拠した。」

谷岡。
そう名乗った男は周囲を見渡してから一旦銃を下ろす。

「この船にマスターのいない葛飾北斎が乗り込んだと聞いた。お前だな?」

そうして彼は、あたしの隣にいる北斎さんに話しかけてきた。

「だったらどうだってんだい?」
「マスターの名前を言ってみろ。それとも当ててやろうか?お前のマスター、それは『葛城 舞』だろ?」
「……。」
「ははーん。その顔、図星ってカンジだな?」

谷岡はニヤけた面のまま、何も言わず仏頂面の北斎を見、そして乗客たちの方へ振り返る。

「さて、ここで取引だ。葛飾北斎。大人しく俺達とともに本部へ来てもらう。もし嫌だと言うのならば…俺はあまり人殺しは好まんのだが仕方なくこの船の乗客全員を…。」

と、乗客達の不安を煽る。
やつの言いたいことはこうだ。
今乗客全員はある意味人質。
抵抗することなく同行すれば、彼らの命は救われる。
さらに、

「本来ならサーヴァントを捕まえるのが俺たちの仕事。だが北斎さえ捕まればここにいるサーヴァントは見逃してやるよ。どうだ?」

乗客にもマスターはいる。
葛城財団は女性のサーヴァントは見つけ次第捕獲してくる連中だが今回だけは特別。
北斎さえ手に入れば、あとはどうでも良い。

北斎さえ捕まれば、
北斎さえ差し出せば。
その破格の条件を出され、周囲の人間の心は大いに煽られる。

「断る。」

はずだった。

「おいそこの。なんて言った?」
「船長として、ここにいる乗客全員の気持ちを代弁させてもらおう。『断る』。」

乗客も、乗組員も、そしてこの船の船長であるバーソロミューもその条件に首を縦に振らなかった。

「おいおい?命知らずか?俺達は財団の中でも古参の山本部隊、新進気鋭の置鮎部隊に続き捕獲率第三位の実力を誇るあの谷岡部隊だぞ?聞いたことないのか?まさかここにいる全員は頭が悪いのか?」

命知らず?頭が悪い?
違う。

「たとえ自分のじゃなくったって、サーヴァントを葛城財団に差し出すのは後味が悪いよ。」
「そこの北斎はマスターを探してるって聞いたぜ。邪魔させちゃ悪いだろ。」
「単に財団が気に入らない。」

乗客達は皆口々に言い出す。
だって財団に従ったって、なんもいいことないからだ。

「アンタの事も、その山本も置鮎ってやつも聞いたことない。紫式部はなんか知ってる?」
「いえ、存じ上げません。」

そう答えてやると谷岡の‪眉がピクリと動き、あたし達に銃を向ける。

「おお、誰かと思えばお前はこの前以蔵を返り討ちにしたとかいう女だな?ということは北斎を捕らえ、貴様と貴様の紫式部も捕らえれば一石三鳥。私は山本や置鮎を超えナンバーワンの部隊にげぼぉ」

何を考えてるのかその気に入らないニヤケ面に、あたしはキックをくらわせた。

「ごほぉ!?」

鼻血をまき散らし、勢いよく回転しながら倒れる谷岡。
その時隊員達が一斉にあたしへ銃口を向ける。

「貴様ァ!よくも谷岡隊長をォ!!」
「やるぞ!!あいつも捕らえれば俺達大出世だ!!」

引き金を引こうとする1人の隊員。
しかし彼の背後には既に

「おれァマイを探すのに忙しいんだ。ドンパチやんなら他所でやっとくれ。」

北斎がいた。
大筆で引っぱたかれ、彼は海へと強制的にダイブさせられる。
そうしてそれを皮切りに、財団への反撃が始まる。

「くそが!!調子に乗りやがって!!」
「洗脳弾は!?」
「船の中だ!!北斎は必ず手に入るからいらないって命令されて置いてきたんだろ!!」
「誰の命令だよ!!」
「谷岡隊長だよ!!」

慌てふためく葛城財団実働部隊ご一行様。
乗組員も乗客も、みな全員が財団を排除しにかかる。

「時としてミセス…あーいや、ミス北斎。」
「なんでい。余計なのはいらねぇヨ。」

船長、バーソロミューがやたらと真面目な顔をして北斎に尋ねる。
おそらく聞かれるのは何故ここまで財団に執拗に狙われているかだろう。

「あの同志の手紙には君は人を探していると書いてあった。」
「ああそうサ。おれは自分のますたあのマイを探してる。」
「なるほど……マイという人物か…。」

襲ってくる敵を剣やピストルで軽く蹴散らしながらバーソロミューは少し考え、真剣な面持ちで言った。

「そのマイという人物は、メカクレなのかい?」
「……?」

ずっこけそうになった。

「めかくれぇ?なんだそりゃ。」
「その…こう…前髪で目が隠れているのかということだ。両目でも、片目でもいい。とにかく目が隠れていることを『メカクレ』と言うんだ。」
「ホー。」

メカクレの意味を知り、頷く北斎。

「なら当てはまるナ。マイはアンタの言う『めかくれ』サ。」
「…そうか。そうか。」

と、確かめるように何度も呟くと、バーソロミューは

「なら!北斎を貴様達に渡す道理はない!!」

駆けた。

「なんだこいつ!?急に速く…」
「交渉決裂だ!葛城財団!!私は北斎側につく!!」

サーヴァントだから強いのは当然だ。
だがしかし、明らかに動きがおかしい。
さっきまで充分強かった。でも今の方がもっと強い。
何が彼をここまで強くさせるのか。
答えは

「撃てー!!撃ちまくれ!!」
「だめだ!!当たんねぇ!!なんだあの動き!!」
「約束して欲しいミス北斎!!出会えた暁には是非ともその『マイさん』に会わせて欲しい!!」
「おう。構わねぇヨ。」

彼女、北斎の探し人がメカクレだったから。

乱れ飛ぶ弾丸。
しかしそれはバーソロミューを掠めることなく向こうへ飛んでいく。
腹部を切り裂かれ、額を撃ち抜かれ、1人、また1人と数を減らしていく実働部隊。
最初は乗客も戦ってはいたものの、バーソロミューの気持ち悪いくらいの活躍ぶりを見て、手を止めた。

言ってしまえば『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな』状態だ。

そうして数分後。

「折角だから退路も断ってしまおう。」

トドメに周囲に停泊している財団の船を大砲で撃沈させ、逃げ道を無くす。
海へ投げ出された者達はそのままサメのおやつになってもらうとして、バーソロミューは隊長である谷岡を簀巻きにし、床に転がした。

「く、くそ…!何をするつもりだ!!」
「海賊の船に喧嘩を売ったんだ。それなりの覚悟は出来ていただろう?」
「俺を…いたぶって殺すのか…!?」

恐る恐る尋ねる谷岡。
しかしそれに対してバーソロミューは首を横に振り、笑顔で答えた。

「あまり気乗りはしないけどね。今日から君は『商品』になってもらう。身体も丈夫そうだし肉体労働にはもってこいだろう。それに、君のような男が好みだというモノ好きな人もいる。」
「え…え…えっ?」

商品。
そう言われ谷岡の顔は青ざめる。
言ってしまえばそう。奴隷だ。

「君ら葛城財団はサーヴァントを商品として扱っているようなものだろう?なら目には目を、歯には歯をだ。あぁそうだ。身体じゃなく内蔵(ぶひん)単位で欲しい業者もいるね。果たして五体満足でいられるだろうか?」
「やだ…やだ…やめてくれ!!反省してるから!!」

英霊、バーソロミュー・ロバーツは規律を重んじ、紳士的な人物であったらしいがやはり根は海賊だ。
無論、そんな野蛮極まりない海の猛者に喧嘩を売ればどうなるかは明らかだ。
奴らは北斎に目がくらみ、彼女が乗る船が誰のものなのか危険視していなかった。

この後谷岡という男はどうなったかはあたしは知らない。
まぁわかる事としては、どの道ラクには死ねていないということくらいだ。







「ついたナ。」
「ここが、姫路町…。」

そうして、無事に姫路町へと到着。
世界崩壊後、ラブホテルを中心にして出来上がった街であり、数ヶ月前までここはホテル以外何も無い荒地だったとは到底信じられない栄えっぷりだった。

「蜘蛛の糸…だっけ?」
「はい、そこにマキさんはいると仰っておりました。」

行ってみたいところはたくさんある。だがまずは先に『マキさん』の所だ。
情報通の彼女なら知っているかもしれない。
そんな藁にもすがる思いで北斎さんはやってきた。
マイに関する手がかりは何にもない、なんてことはないと願いたい。
北斎さんはここに来るまで相当の苦労をしてきたからだ。

「ようやく尻尾が掴めるかもしれねぇんだ…!」

だから、報われて欲しい。
しかし、この後彼女はお釣りが来るほど報われることになる。

「閉まってるナ。」

まぁ案の定というか当たり前というか、『蜘蛛の糸』というBARはさすがにお昼時は閉めていた。
しかし、

「邪魔するヨ。」
「えっ、あっ、北斎さん!?」

扉にかかっている『close』の札を無視し、開ける。
カランカランという心地よいベルの音、直後に「え、なんだねキミ。まだ準備中なのだが…あ!こら!!待ちたまえ!!待ちなさい!!」という当たり前の言葉が聞こえてきた。

「ちょ、ちょっと止めよう。」

いくら探し人がいるとしてもいくらなんでも非常識だ。
そう思いあたしと香子も続けて中へと入る。

すると、

「……。」
「……。」

その場に立ちつくす北斎、
そして彼女の前にいるのは、このBARに不似合いな着物を肩を出して着こなす美人。
間違いない。探偵さんの言った特徴と一致する。
この人がマキさんだ。

で、そのマキさんもまた、北斎を見つめたまま立ち尽くしている。
手に持っていた大きめのカバンをどさりと落とし、彼女はわなわなと震える唇で小さく、しかし確かにこう言った。

「お栄ちゃん……?」

と、北斎の名を、いや、葛飾北斎というサーヴァントの本体、葛飾応為の名前を呼んだのだ。
そして、

「マイ…?」

マキさんを見て、北斎もまた、絞り出すようにか細い声でそう呟いた。

「そうだよ…僕だよ…っ!舞だよ!!」

その途端、マキさんの目から溢れるのは大量の涙。
2人は走り出し、そのままぶつかり合うようにして抱きしめあった。

「お栄ちゃん!!お栄ちゃんなんだよね!?僕の…お栄ちゃんなんだよね!?」
「ああそうだ。他の何者でもねぇ。マイのお栄ちゃんだ…!」

マキさんはわんわん泣いており、北斎はこちらからだと後ろ姿しか見えないため表情が伺えないが、涙ぐんだ声をしているので泣いているのは確かだ。

「葵様…これは…?」
「まぁ気付こうと思えば気付けたよね。特徴が一致する時点でさ。」

とまぁ、なんとマキさんの正体こそ葛飾北斎が探していた自分のマスター、葛城舞だったのだ。
まぁでも探偵さんが特徴がほぼ一致するとか言っていた時点で気付くべきだったんだろう。

知らず知らずのうち、成り行きで感動の再会の手伝いをしてしまったあたし達。

「え…えっ?えっ?」

なにがなんだかわからない、おそらくこのお店の店主であろうモリアーティはそんな二人を見てずっと戸惑っている。
まぁいくら天才の彼でも無理もない。
いきなり押し入って来た不審者がこのお店の看板娘と謎の感動の再会を果たしているのだから。


「紫式部。」
「…ええ、そうですね。」

ともかく、ここだとあたしは部外者だ。
2人が再会を分かち合い、落ち着くまではBARの外で待つことにする。
目配せをするだけでどうしたいか分かってくれた香子と共に、あたし達は何も言わずこっそりと外へ出た。


「まぁ、良かったね。」
「そうですね。」

なんの手がかりもなく、日本全国を探し回ろうとしていた北斎。
財団の追っ手から逃れながらも彼女は諦めず、こうしてここまで辿り着けた。
あの仲の良さだ。マイさんだってそうだろう。
彼女もきっと、自分の葛飾北斎を探し続けていたハズ。

「日本全国。なんのヒントもなしにお互いを探し続けた嘘みたいでホントの話。」
「何か書けそうですね。」
「かもね。とびきり長いの、書けそうかも。」

そんなことを話し合いながら、あたしは2人が落ち着くまで待ち続けた。



 
 

 
後書き
かいせつ

⚫谷岡部隊
葛城財団にてサーヴァントを捕まえる事を担当する実働部隊の中の一つ。
実働部隊の中でサーヴァント捕獲率ナンバーワンを誇る『山本部隊』
捕獲率では劣るものの邪魔者の排除においては右に出るもののいない『置鮎部隊』
用意周到で確実に敵を追い詰め捕獲するNo.3の『谷岡部隊』
その下にもあらゆる部隊が存在するが、大体はこの三つの部隊が多数を占めていた。
谷岡は用意周到で用心深い男なのだが、今回捕獲対象がいるのは船という逃げられない空間であり、その北斎を引き渡せば乗客や乗組員に手は出さないと取引に使えば船側は大人しく引き渡してくれるものだと思い込んでしまい失敗した。
油断しまくりこの頃完成したばかりの『洗脳弾』の試作品すら持ち込むのを忘れている。
もしもちゃんと持ってきていたら未来は変わっていたかもしれない…。
ちなみに元セールスマン。
なので取り引きなどのそういった話し合いにはまぁまぁ自信があったもよう。
ちなみに32歳。既婚者。
世界崩壊の際モンスターに襲われ妻と子を亡くしている。

余談だが前述したNo.1とNo.2の部隊両方にめちゃくちゃ狙われてるマスターとサーヴァントがいるらしい。
誰だろうね(すっとぼけ)

 
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