ヤザン・リガミリティア
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ハイランドと野獣
閲覧履歴 利用規約 FAQ 取扱説明書
ホーム
推薦一覧
マイページ
小説検索
ランキング
捜索掲示板
ログイン中
目次 小説情報 縦書き しおりを挟む お気に入り済み 評価 感想 ここすき 誤字 ゆかり 閲覧設定 固定
ヤザンがリガ・ミリティアにいる 作:さらさらへそヘアー
<< 前の話
目 次
次の話 >>
18 / 38
シャッコーREは控えめに言って最高でした。特に足首、ビームローター…素晴らしい。このままザンスカールMSプラモどんどんふえろ~。ゲンガオゾREおいでませ~(祈祷)
ハイランドと野獣
カイラスギリー攻略を間近に控え、
実働するパイロットの主要メンバーを交えてリガ・ミリティアの幹部らが話し合っていた。
カイラスギリー艦隊ことタシロ艦隊は精強でもって知られ、
ザンスカールにおいては無敵のズガン艦隊に次ぐ精鋭部隊だ。
半個艦隊とはいえバグレ隊にとっては格上の相手なのは確かであったが、
曲り形まがりなりにもこれまでバグレ隊がタシロ艦隊とやりあえていたのは
バグレ隊が一撃離脱を旨とした建設妨害の〝嫌がらせ〟に終始していたからだろう。
タシロ艦隊がビッグキャノン組み立てを優先していたのもあるだろうが、
これはバグレ隊の状況判断と艦隊運動が見事だったと言っていい。
だが、それは裏を返せば正攻法ではタシロ艦隊撃滅は困難だということだ。
ゴメスが無精髭を擦りながら唸りつつ言った。
「真正面からやり合えば堕とせないこともない…だがこちらもダメージが大きい、と」
バグレのMS隊隊長ユカ・マイラスが頷く。
「はい。カミオン隊の皆さんが合流してくれたのでやろうと思えばやれるでしょう。
ですがその場合、主力が消耗し過ぎるのではと懸念があります。
カイラスギリーを堕としても
ズガン艦隊がサイド2にいてはザンスカールは強気を崩さないでしょうし…」
そう言うユカへ、オイ・ニュングが静止衛星宙域の航路図とにらめっこをしつつ口を開く。
「カイラスギリーは破壊ではなく奪おう。
そうすればこちらで使用することもできるだろうからズガン艦隊も撃滅できる。
サイド2への恫喝に使ってもいい」
伯爵の〝元マハは伊達に非ず〟な相変わらずの冷酷な提案に、
ヤザンは呆れたように鼻で笑いつつも頷いた。
「そうだな。伯爵らしい合理的な判断だ。
大量破壊兵器など気に食わんが、リガ・ミリティアの現状を考えればそれが妥当だろう。
万全のズガン艦隊とまともにカチ合えばこちらの負けだ」
偽ジャハナムがヤザンの発言に声を荒げて反応する。
「何を弱気な!それでもジェヴォーダンの獣か?ヤザン!
こちらは負け無しのリガ・ミリティアなのだぞ!
ジブラルタルで精鋭と言われていたベスパ地上軍を殲滅したではないか!
ズガン艦隊も我々の敵ではない!」
そうだろう伯爵!と元気よくオイ・ニュングへ同意を求める偽ジャハナムだが、
それはそっけない伯爵に簡単に否定されてしまう。
「そんなわけはありませんよ、ジャハナム閣下。
はっきり言ってしまえばベスパ地上軍はタシロ艦隊の分隊に過ぎんのです。
いわばタシロ艦隊はベスパ地上軍の本隊だ。
そいつらに真正面から挑めばほぼ引き分けると言っているのに、
本国を守るあのズガン艦隊はさらに強いのですよ?
それに…同等の被害を出せば民兵組織のリガ・ミリティアは回復力に劣る…。
ザンスカールが先にダメージから立ち直ってたちまち我らは追い詰められるでしょう」
つらつらと正論を述べる伯爵に偽ジャハナムは口をへの字にして悔しそうに唸る。
が、それで引っ込むのがこの男の良い所でもある。
喧しく口を挟んできはするものの、意外と聞き分けは良い男なのだ。
言い包められたタヌキ親父を笑いつつヤザンが「ならばどうする」と皆を見れば、
オーティス老が控えめに手を挙げていた。
伯爵が促す。
「太陽電池衛星が近くにあるだろう」
「これか」
ヤザンが宙域図の一点…衛星ハイランドを指差した。
「そう、それだ。ハイランドのマイクロウェーブをカイラスギリー艦隊に照射するのはどうだ?
周波数を変えれば人体に悪影響を与えられる。
頭痛と腹痛だらけにしてやれば戦争どころじゃないだろう」
さすがオーティスはメカニック上がりだけあって
すぐにそういう発想が浮かぶのは見事だった。
さらりと悪辣な策を提案するのもいかにもリガ・ミリティアの人材らしい。
タヌキ親父は「そうだよ!それだよ、見事だな君ィ!」と喜び同意しているのは
彼の根の単純さと陽気さが見えていっそ微笑ましい。
ヤザンとオイ・ニュングが互いに頷けば会議は決した。
そうとなればゲリラ組織であるすぐにリガ・ミリティアは動き出す。
この腰の軽さ…これがこの組織の恐ろしい所でもあった。
――
―
そういう経緯があって今リーンホースは単艦で太陽電池衛星ハイランドへ接近中であった。
太陽電池衛星は、本来ならばジブラルタルのマスドライバーと同じで不可侵の中立地帯だ。
ザンスカールが犯した過ちを、今度はリガ・ミリティアが犯そうというのだが、それは戦争だ。
それはそれ、これはこれ…なのであった。
だが運はリガ・ミリティアにあるらしい。
「レーダーに反応!下方10時です!」
レーダー員をやっていたネスが元気な声で告げた。
「拡大できるか?」とゴメスが言えば即座にネスから回答が来る。
「シノーペです。
ザンスカールの哨戒艇が…航路から予想するに恐らくハイランドから来た模様!」
それを聞いて艦長席で喚く男がいた。
「なにぃ!?先にザンスカールが来ていたということか!」
偽ジャハナムのタヌキ親父である。
ゴメスの席を奪い取ってその席にどっしりと座っていた。
艦橋スタッフ一同が「何故ここにいるんだ」という目でじとりと見るがタヌキ親父はどこ吹く風。
(どうせこの艦の方が無事に生き延びられる率が高いし、
カミオン隊の手柄が自分の指揮のお陰とも自慢できるとでも踏んだのだ)
そう推測するオイ・ニュングだが実際正しい。
ヤザンも喧しい彼を見るたびに舌打ちしつつ忌々しげに眺めている。
「…シノーペがハイランドに何をしに行ったのか確かめんとなァ?
伯爵、ヤザン隊を出すぞ!」
ヤザンはそう言うとオイ・ニュングの返事も待たずに艦橋を飛び出してしまった。
誰がどう見てもさっさと偽ジャハナムから離れたかったに違いない。
――
―
「各機、そういうわけだ!
シノーペは生きたまま捕獲する!」
ヤザンのアビゴルが見るからに元気良く宇宙の暗黒空間を掻き分けて進む。
高速のMA形態となったアビゴルの背・び・れ・には、
振り落とされまいと掴まる2機のMSがいた。
白いガンダムタイプと、イエロー・オレンジのベスパ機…ヴィクトリーとシャッコーだ。
アビゴルのMA形態をSFSサブフライトシステム代わりにし、
シノーペが逃げ切れぬ加速で急接近しようという試みである。
「ゾロアットはやっていいのでしょう?」
シャッコーのカテジナがヤル気まんまんに聞いてくるが、
「カテジナさん、あまり無理しちゃダメですよ?
実戦になったら訓練通りにいくってこと、あまり無いですから」
落ち着いた様子のヴィクトリーのパイロット、ウッソにやんわり窘められる。
カテジナの眉間に少しだけ皺が寄った。
「ウッソ…あなたっていつもいつも私にだけ妙に説教臭いのよ」
「ええ!?そ、そういうつもりじゃないんですよ。
僕は…カテジナさんが心配で」
「心配してくれるのは嬉しいけど、あなたは年下で、
過分なお説教はこちらのプライドが傷つくって分からない?
私だってやれるっていうのは今証明してあげる」
「す、すいません……やれるというのは分かっています。
だってヤザンさんといっぱい練習したんでしょう?
でも宇宙では地上以上にチーム戦なんだってオリファーさんも言っていたし…
そうなんですよね、ヤザンさん?」
カテジナの圧の籠もった口調にウッソはややたじろいで、ついヤザンに助け舟を求める。
だが、
「あと十秒もすれば射程圏内だ。
じゃれ合いは終わりにしろ!」
助け舟ではなく会話そのものを終わりにされてしまったが、
ヤザンにそう言われればウッソもカテジナもぴたりと黙る。
二人の若者の意識は途端に切り替わって、
鼓動が早くなり緊張感が高まるのに気分は妙に落ち着いていた。
緊張はすれど恐怖が心に無いのは、
それは一回り以上年上の ――実年齢は一回り以上どころではないが―― 頼れる上官が側にいるからなのかもしれない。
「シノーペのゾロアットが動く!先手を取る…ヤザン隊、行くぞ!」
「はい!」
「ええ!」
ヤザンが号令を掛けたのとほぼ同時に、
シノーペに係留されていた2機のゾロアットが一瞬、ふわりと宇宙に浮く。
ゾロアットが起動し、急接近してくる一群に即座にビームライフルを連射してくるものの、
その時にはもう一群は散開してバラバラになっていた。
ゾロアットのパイロットが驚愕する。
「1機の大型機じゃない!3機だ!」
「おい、どういうことだ!あれはベスパのMSじゃないのか!?」
急速に濃くなったミノフスキー粒子に叫びは掻き消されていき、
ゾロアット達は分けもわからないままに友軍機に襲撃されていた。
「通信周波数が違う!友軍ではないぞ!」
「あ、あれは…シャッコーだ!!ジブラルタルの悪魔が宇宙に!!」
シャッコーを見た途端ゾロアットの動きが恐怖に鈍る。
そのお陰もあって新兵のカテジナ相手には良い訓練相手となってしまっているが、
当然、ウッソのサポートが素晴らしいものがあったからだ。
「そこ!」
カテジナのシャッコーがビームの光をゾロアットの腕に叩き込み、
右肩がもげた所にウッソがサーベルで足を取る。
四肢をもがれたゾロアットは一瞬で戦力を喪失した。
「もう1機は!?」
カテジナが振り返った時、既にアビゴルは
ゾロアットを羽交い締めにしてビームカタールをコクピットに突きつけている所だ。
新型の練習相手にもならなかったらしいのは一目瞭然である。
シャッコーがアビゴルへ寄り、触れ合ってカテジナが尋ねた。
「そいつをどうするの?」
「今聞いたが、そのシノーペには、ハイランドに居住しているスタッフの家族が乗っている」
「人質というわけね…汚い奴ら」
「フッ…それを今からこちらもやろうと言うんだがな。
カテジナ。ウッソと一緒にシノーペを拿捕しろ。
パイロットは…そうだな。既に人喰い虎もいるし…あまりリーンホースに人質を増やしてもな。
抵抗しないようなら放っていい。俺はしばらくこいつを人質にしている」
呆れたような溜息をこれ見よがしにしてみせてから、カテジナはアビゴルから離れる。
指示通りにウッソと共にシノーペを囲み、そしてライフルをちらつかせて外に出るよう促すが
「わ、私達を解放せねばハイランドの子供達の身も安全ではないぞ!
脅しではない!今直ぐゾロアットを解放しろ!」
シノーペの艦長はもっともな事を言う。
頭の回転も悪くないし妥当な判断ができる男のようだが、
ヤザンはにやりと笑ってアビゴルの指のワイヤーをシノーペへ接続させた。
「何か勘違いをしていやがるな。
可能ならばハイランドのガキ共を回収したいだけで、
別に俺たちはそいつらが死んだって構わないんだぜ?
ザンスカール共が道連れに自爆した。ゾロアットが誤射した。言い訳はいくらでもある」
「ぐ…」
シノーペ艦長が言葉に詰まる。
「まァ、無理強いはせんよ。…そのまま殺してやるさ。
ハイランドの奴らには適当に言って、ザンスカールへの敵対心を煽っておくとしよう。
…カテジナ」
「ええ」
アビゴルに促され、シャッコーがわざわざ艦橋の前に出て大仰にライフルを構えた。
ヤザンの意図をある程度察したようだが、
見ているウッソは(この二人なら、いざとなったら本当に撃ちかねないぞ…)とハラハラだ。
「待ってくれ!!」
そこでシノーペ艦長は折れ、ウッソもホッとする。カテジナもだ。
通信の背後からは子供の泣き声が漏れ聞こえていた。
「わ、わかった…!撃つな!今直ぐにシノーペを廃棄する!」
艦長はガラス越しに両手を上げて、急いでハッチから顔を出す。
まともな判断が出来る、良心が死にきっていないベスパ軍人だったのは幸いだ。
でなければ、今頃は本当に最後のやけっぱちを起こして、
ヤザンとカテジナの手によって宇宙の塵になっていた所だろう。
2機のゾロアットからも、パイロット達が脅迫に屈して投降しMSを放棄すると、
ザンスカールの艦長、パイロットらへ、
手足のもげたゾロアットだけを供出してやって放り出してしまった。
手足が無いとはいえバックパックの推進剤も酸素も充分の筈で、
余程方向音痴でもなければ酸素が尽きる前に友軍エリアに辿り着けるだろう。
最低限の人道的配慮はこれでクリアした。後は彼らの運だ。
そう割り切るヤザンは、無傷のゾロアットを回収し(貧乏性のゲリラ根性が染み付いたらしい)
それをウッソに任せて一足先に母艦リーンホースへ帰らせる。
艦内には人質の子供達がいる事から、ウッソ辺りが接触には最適かとも思ったが、
ウッソの操縦技術ならば、不慣れな宇宙での単独行動もある程度平気だ…という考えだ。
ヤザンはアビゴルを小型艦に取り付けると、
そのまま艦外から操作しMSのコクピットと艦ハッチをボーディングブリッジで接続する。
コクピットから飛び出しハッチを開けると…
「…」
子供達が艦内の隅に寄り集まって震えていた。
「あー…リガ・ミリティアのヤザン・ゲーブルだ。お前達をハイランド衛星まで送り届けてやる」
明らかに怯えられている。
怯える子供の相手は、ヤザンのもっとも苦手とする事の一つ。
無能な上官と怯える子供は、野獣とは相性が良くない。
勝ち気で無礼で向こう見ずぐらいの生意気なシャングリラ・チルドレンのようなガキのほうが、彼としては接しやすい。
御しやすいかどうかは別として。
「あ、ありがとう、ございます…」
怯えた声で、この場で一番年長であろう少女が頷く。
「あ、あの…」
続けて少女が言う。
「なんだ」
「わ、私達を…殺すんですか」
「殺すつもりなら、最初からこんな回りくどいやり方はせん。方便だ。わかるだろう?」
「分かりますけど…」
分かっても、先の戦闘時のような事を言われては子供達は生きた心地はしないだろう。
しかも子供達は、ヤザンが、今しがたシノーペに取り付けた不気味な大型MSを駆って
圧倒的な強さでゾロアットを羽交い締めしたのをシノーペ内から見てしまっていた。
子供達の、まるで悪魔を見るかのような視線に
内心で毒づくヤザンはカテジナへ通信を入れる。
「カテジナ」
「なに?」
「代われ。シャッコーをシノーペにドッキングさせてガキ共の御守をしな」
「なんで私が子供の相手なんて!」
「アビゴルのパワーならシノーペごと引っ張れる。その方が速くハイランドに着くだろうが」
「それ、言い訳でしょう!」
「……任せたぞ」
「あっ、ちょ――」
通信を切る。
ヤザンは子供らに一瞥もくれること無くシノーペを飛び出して、さっさとアビゴルへ戻る。
一連の動きは無駄なく素早かった。
数分後、シノーペ内には
仏頂面で子供らの面倒を見るカテジナの姿があったのは言うまでもない。
カテジナは子供が好きではない。
無知を顔に貼り付けて歩いている癖に、妙に小賢しく大人に意見する。
図々しく、他人の領域に入ってくる。
赤ん坊などは、独りで何もできない癖に泣けば全て許される。
泣くのが仕事だと言う者すらいる。 ――赤ん坊なのだから当たり前だとは彼女も理性で分かってはいるが――
だが、カテジナ・ルースという女はまだ少女と呼ばれる年齢で17歳。
彼女自身、子供と大人の狭間を漂う難しい年頃なのだ。
カレル・マサリクの兄で…
この場にはいないが、ハイランド衛星の少年トマーシュ・マサリクと同い年。
まだ子供と言ってもおかしくはない。
そう考えると、カテジナの子供嫌いは
〝自分の中の子供的なものが嫌い〟という同属嫌悪に近い感性なのかもしれない。
「…お姉さん、地球人なの?」
「え?」
難しい顔でシノーペのパイロット席に座っていたカテジナに、背後から少女が話しかけてくる。
話しかけて来たのは、人質の子らの中で一番の年長と思われる少女。
青みがかった髪を短いサイドテールにした娘で、美少女と呼んで差し支えない容姿だ。
カテジナは愛想笑いを浮かべて応えた。
「そうよ。地球生まれの地球育ち」
「へぇ~、今どき珍しいのね」
「…そうかもね」
カテジナの一瞬の間には色々な感情がある。
今どき地球育ちというのは、つまり連邦の高官と繋がりを持てるエリート層だ。
だが、〝スペースノイドに羨まれるエリート〟というのはもはや数十年前も昔の感覚。
今では殆どのスペースノイドが地球育ちを羨まない。
時代に取り残されたエリート。
それが現代の地球生まれなのだ。
カテジナは、まるで自分がエリートお嬢様ぶっているようで地球生まれの肩書きを名乗りたく無かった。
しかし彼女の心の中には、自分はエリートなのだ…という優越感も少なからずあるのは確かだ。
自分の力じゃ何もできないお嬢様に思われたくはない。
だが、掃き溜めで彷徨く生まれ卑しい者達とも違う。
カテジナの心にはいつも複雑な感情が渦巻いているのだ。
ヤザンに対する感情もそうだ。
「ねぇねぇ」
「…何よ。今はシノーペの操艦中なの。余り喋り掛けないで。
あなたも宇宙で遭難したくないでしょう?」
「大丈夫よ。シノーペの操縦なんて私でも出来るんだから。
それに、外からあの…おっかない人がMSで引っ張ってるんでしょ?」
「…ふふっ、おっかない…そうね。それは当っているわ」
笑ったカテジナのその柔らかな表情を見て、
話しかけていた少女…マルチナ・クランスキーも少し微笑んだ。
姉のエリシャ・クランスキー(15歳)と年が近そうに見えて、積極的にカテジナと接している。
「お姉さん、美人なのにあんな怖い人を恋人にするの止めた方がいいわよ」
「っ」
カテジナは思わず操縦桿を明後日の方向に倒しそうだった。
「こ、恋人じゃないわ」
「そうなの?でも、すごく仲良さそうだったけれど」
「なんで私があんな奴」
「…」
利発な美少女は、やや吃りながら否定した金髪の美女の様子を見てニヤッと笑った。
「お姉さん、あんなおじさんの事が好きなんだぁ~」
「なっ!」
「きゃっ!?」
シノーペがやや傾いた。
マルチナが驚き、背後の客席では少年二人が「うわぁ」と叫ぶ。
そして、当然のように上方からシノーペを抱えて宇宙を泳いでいたアビゴルから叱責が来た。
「カテジナァ!なにをやっている!貴様はブースターだけ管理すれば良いと言っただろう!」
「わ、分かってます!」
「分かっているなら何故操縦桿を倒した!」
「…すみません」
「しっかりせぃ!!」
カテジナは頭を抱える。
(そうよ…今は触れ合い通信で、こちらの会話は丸聞こえじゃない…!)
つまり年少の少女に指摘され、動揺した先程の事も筒抜けなのだ。
野獣が、悪辣な笑顔を浮かべてこちらを見ている気がした。
カテジナは、己の頬が熱を持つのを自覚していた。
ページ上へ戻る