ヤザン・リガミリティア
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女獣達
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ヤザンがリガ・ミリティアにいる 作:さらさらへそヘアー
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女獣達
ラビアンローズは戦艦の大規模な改修や補給まで出来る拠点ともなれる。
となればその巨大さはかなりのもので、
また改修中の乗組員を寝泊まりさせる為にも快適且つ充分な居住性を誇っていた。
また、アナハイム社が社員の福利厚生の為に充実させている各種娯楽設備も備えている。
リーンホースの改修中、そのクルーはラビアンローズの居住ブロックに部屋をあてがわれ、
それらの娯楽施設も快適な居住性も味わう事が許されていた。
既に、クルー達の心は月面都市での半舷上陸に向けられウキウキと心踊っているが、
その大イベントの前の前哨戦としては充分過ぎる骨休めだ。
リガ・ミリティアの戦力の要と言っても過言ではないMS隊統括のヤザン・ゲーブルには、
高級士官に使用される部屋が割り振られている。
防音もしっかりしていてプライバシーも守られ、そしてベッドも広く柔らかで、
つまりカテジナ・ルースという生娘が女に生まれ変わるに充分な部屋だということだ。
シャワー上がりでウェットな長い金髪が高級なシーツの上に広がり、
男が女に被さって口内を蹂躙し合っている。
一頻り女の舌と歯茎を味わい唾液を交換しあった後、男は挑発的な笑みを浮かべて言う。
「今頃、ガキどもはお前が俺に抱かれて女になるとでも想像してるだろうな」
「っ!」
紅潮していたカテジナの美貌がさらに赤くなって、
言葉に詰まりつつ潤みながらも鋭い目で男を睨んだ。
「俺の部屋に入る所を見られたんだ。言い訳がきかんよなァ?
あいつらの前で〝今からこの男と初めてのセックスをします〟と宣言したようなものさ」
くっくっ、と笑いながら言葉で攻める。
見るからにサディズムに才がありそうなカテジナだが、
こうして攻められ始めると存外脆く、また肉体は疼き喜ぶ。
それをヤザンに見抜かれていた。
この女はサドとマゾの両刀というよりは、
よりマゾヒスティックな面で悦びを得る…そういう風に野獣に躾けられてしまっていた。
「く…っ、あ、あなたは黙って私を抱いていればいいのよ…!
どうせ人を殺すか、女を抱くことぐらいしか才能がないのでしょう!?」
ヤザンはニヤッと口角を釣り上げる。
「そうかい。なら、そうさせてもらおう」
「っ!ケ、ケダモノ…!ん…!あ…あっ、あぁ…っ!」
粗暴な男に見えて、雌を壊さぬように丹念に解すのを忘れない。
先の戦闘での半・命令違反のペナルティで乱暴に抱くと言いはしたが、
やはり初めての女にはある程度気遣いはしてやった方が良い…という事らしい。
令嬢とはいえ自分で慰めてたり、幾度かは目の前の男に胸を揉まれたりもしたが、
こうまで本格的に愛されるのはカテジナにとって当然産まれて初めてだった。
ひたすらに翻弄される。
「ん…んぁ…っ…ふぅ、っ、あっ…」
この男の掌に転がされてると、この男ヤザンに悟られたくなくて声を抑える。
それを悟られれば、どうせこの男はまた勝ち誇って不敵に笑うに違いないと少女は思う。
いい気にさせたくなくて、漏れそうになる声も、
勝手に動きそうになる腰も足先も、動き出さぬよう筋肉を強ばらせた。
「あっ!」
しかし少女は簡単に女の声を上げさせられる。
未経験の少女にどうこうできるような体験ではなかった。
敏感な所を舌で嬲られ、思わず高い声が漏れてしまうのを止めようがない。
快楽の沼に墜ちつつある若い肉体は、カテジナの意思を裏切り始めている。
カテジナは目の前の景色が揺らぐのを感じる。
耳に届く色々な音、声も遠くになって不確かなのに、水音だけはやけにハッキリと届く。
ぴちゃぴちゃという音は、キスか、或いはもっと別の場所からか。
カテジナの背がしなり、女の曲線が艶かしく脈動した。
「やめっ、て…そこ…」
無遠慮に少女の秘密の場所を暴き立てる男の頭を、白い腕で抑える。
「っ!…ぅ、あっ!ああ!」
力を入れても無駄だった。
嫁入り前の令嬢が決して晒してはいけない奥まで見られてしまうし、
それどころか滑る何かがそこを這う。
圧倒的な雄が雌の股座に顔をうめて、雌がよがらされている。
「ばか!ばかばか!や、やめなさい!やめて!
っ!あ!あぁ…おねが、い、だから…あ…あ、ん…こんなの…ダメ…」
今までの人生経験では有り得ぬ羞恥にカテジナの理性は壊乱した。
いい気にさせたくない。
主導権を渡したくない。
確かにそう思っているはずだが、この男に翻弄され、支配されるのが酷く心地良い。
度を越えた恥がカテジナの肉体の奥底に熱を焚べる。
癖になりそうだ、とカテジナは一瞬思ってしまったのに更なる羞恥心と興奮を覚えた。
彼女の理性は男ヤザンを打ち据え従えたいと考えているのに、
彼女の精神と体はこの男に隷属し、所有されたがっているのが彼女自身分かる。
己の恥ずべき心に負けまいと必死に男を睨みつけるが、
眼まなこの芯まで性愛に犯され頬は紅く染まっていれば迫力などある筈も無かった。
それどころか今のカテジナが男を睨みつけても、
それは男の情欲を刺激する手助けでしかない。
(だめ…やっぱり、こいつに…勝てない。私はこいつに…モノにされてしまう)
少女はとうとう認めてしまう。
そして認めた瞬間、カテジナの心は様々な束縛から解き放たれていくのだった。
ウーイッグで現状に不満を持ちながらも甘んじていた無力な自分。
両親を愚かと見下しながらも、その庇護下で苦労知らずに育った自分。
子供を戦わせようとする恐ろしい老人達の巣窟たるリガ・ミリティアと、
そこに保護を求めるしか出来なかった自分。
見下したその全てに受け入れられなかった、世間知らずの無知蒙昧な自分。
そして、そんな中で自分を一人の女として見、戦士としての活路を見出してくれた男。
この男はどこまでも一人のカテジナ・ルースを求めた。
それがどうしようもなく嬉しく、心満たされる。
一度認めてしまえばもうカテジナの肉体と心は蕩けていき、
もはや棘の鎧で心を武装する事も出来ない。
カテジナの魂は、既に野獣の爪と牙で丸裸にひん剥かれていた。
「ああっ!」
ケダモノへ屈服するかのような屈辱的な姿を晒されて、
白い太ももを割り開かれて男が侵入してくる。
痛みを思う間も無い。
カテジナは必死に男にしがみつき、逞しい背に爪痕を残す。
ラビアンローズの爛れた夜のさなか、カテジナは男を受け入れ女になった。
その夜から、丸一日、カテジナとヤザンの姿を見たものはいない。
今までの自分を消し去りたいと言わんばかりに、カテジナは貪欲に男に愛される事を望み、
そしてようやくカテジナにこびり付いていた憑き物が落ちたのだった。
彼女らの姿をオイ・ニュングとゴメスが再発見したのは、2日後の食堂である。
「ん?彼女、あんな落ち着いた雰囲気があったかな?」
「…さぁ?女は目を離した隙に蛹から蝶になりますからな」
剣呑なものを大なり小なり常に孕んでいたカテジナ。
それが、霧散した…とまでは言わないが、和らぎ、そしておおらかになったように感じる。
カテジナの持っていた攻撃的なオーラとでも言うものが、
圧力はそのままに余裕と懐の深さを身に着けつつあるようだと、
人を見る目のあるニュング伯爵は感じたのだ。
「ヤザン隊長はあんなお嬢ちゃんまでうまく乗りこなしたらしいですな。
全く大した人ですよ。同じ男として尊敬しちまいますね。ハッハッハ!」
ゴメスの豪快な笑いに、彼の言いたいことを何となく察した伯爵は曖昧に頷くのだった。
その日、ヤザンの部屋担当の清掃員の悲鳴が
ラビアンローズに秘かに木霊していたのを誰も知らない。
――
―
改造艦リーンホースJrの処女航海は実に快適だった。
アナハイムの腕前は流石の一言で、
ラビアンローズスタッフによる清掃と改造はほぼ完璧だったと言える。
僅か3日という突貫工事ながらも、これといった不備や欠陥も見当たらず、
戦力は勿論居住性すら旧リーンホースを圧倒的に上回る結果となった。
さすがは船体の8割がザンスカールの新鋭艦だと、敵国の技術力を褒めずにはいられない。
MSも艦船も、帝国の基礎設計の素晴らしさは認めざるを得ないだろう。
それほどに良い艦として生まれ変わっていた。
出航にあたってバグレ艦隊のユカ・マイラスMS戦隊長が、
見事な敬礼をMSにさせ隊総出で見送ってくれたのは壮観だった。
今の時代では早々見られるものではない。
さすがはヤル気のあった連邦正規軍出身者は違う。
道中、これといって敵とも遭遇せずに済み、
月面都市に付くまで、リガ・ミリティアの者達にとても安穏とした時間を与えてくれる。
まさにリーンホースJrの基本性能を確かめるのに絶好の航海日和と言えた。
また、パイロット達にとってもこの平穏は良かった。
シュラク隊などは、たとえばここで敵に襲われでもしたら
怪我をおして出撃してしまうような連中だから、
敵影無しの報告には総隊長のヤザンも胸を撫で下ろす。
「なんか…カテジナの嬢ちゃんも落ち着いてきたね。
最初のつっけんどんのハリネズミ具合がかなりマシになってきてる」
そう評したのはヘレン。
元気一杯のシュラク隊の無傷三人娘は、現在食堂で昼飯を突っついていた。
ペギー、マヘリア、コニーは今もベッドに括り付けられて静養中だ。
コニーはそこまで重傷ではなかったし、
ペギーとマヘリアも既に命が危ない段階はとっくに越えているが
休める内に休ませておく…という上ヤザンの判断だった。
「…あれ、きっとヤザン隊長と寝たんだ。
態度にも余裕あるし自信もある…何より歩き方がちょっと不自然だったし」
ケイトがそう返したのは、自分にも覚えがあるからだ。
良い女を抱く。良い男に抱かれる。
良い…とは唯単に容姿に優れている者、という事ではない。
自分の心をガッチリと埋め尽くし満たしてくれる者という事だ。
そういう者と一夜だけでも経験し過ごすと、人はガラリと変わる事がある。
ジュンコも複雑な微笑みを浮かべて首を縦に振った。
「ラビアンローズで私達を相手してくれなかったあの日だね…きっと。
隊長もまぁ節操なく…あんな女に手を出して。私達みたいな良い女を囲っておいてさ」
それでも口調には陰険なものが無いのはシュラク隊員の性根の良さ故だろう。
「…今晩、私仕掛けるから」
ケイトが意を決した顔で宣言すると、ヘレンが「おっ」という顔で食いついた。
「まさか、当たり日?」
「入院中のペギー達には悪いけど、だってカテジナに先越されたくないしね。
ちょうど今日あたりドンピシャだから」
そう言うケイトをジュンコが羨ましがった。
「…はぁ…とうとうケイトも覚悟決めちゃったか」
「あんたも決めちゃいなよ」
ヘレンが気軽に言うものだからジュンコの片眉が曲がる。
「ヘレン、あんたねぇ…妊娠するしないをそんなアルバイトの面接みたいに言わないで。
タイミングがまずければ戦争中にお腹大きくなって…
いざとなって戦えないって事になるのよ?」
「だーいじょうぶだって!だって結構私達押してるじゃん。
コロニー連合艦隊もムバラク艦隊も動いてるんでしょ?
しかも今回、私達はカイラスギリーだって奪った。この艦もね」
ウィンクしつつ「イケるって」と敢えて気軽さを強調するかのようなヘレン。
ジュンコは苦笑してしまう。
まだまだリガ・ミリティアとザンスカール帝国との戦力の差は大きい。
一見、有利に傾いて見えるのは連邦軍のお陰で、
既に形骸とはいえ、やはり隠然たる勢力は大きい。
「私達みんな、隊長にお腹大きくして貰って仲良く除隊?笑えない」
実際、正規軍では女兵士の任務期間中での妊娠に、男させた方も女した方にも罰則が規定されている事もある。
所属隊の上官判断や時代にもよるが、多くの場合、女兵士の妊娠は望まれない。
金と時間をかけて訓練した者が戦線離脱を余儀なくされるのだから当然だろう。
その点、リガ・ミリティアは融通がきくが、やはりマズいものはマズいのだ。
「背水の陣ってやつよ。そうなる前にザンスカール倒しちゃおうよっ」
グッと握り拳を作り笑うヘレン。
まだまだ予断を許さない状況なのを分かっていて、
敢えて茶化すようにしているようだった。豪胆な女といえる。
シュラク隊の特攻隊長でありムードメーカーでもあるヘレンは、
やはり百舌鳥の名にもっとも相応しい傑物だとジュンコは思う。
そんなヘレンを見ながらジュンコは優しく微笑み、そしてつくづく言った。
「あんた、長生きするよ」
「そりゃあね!隊長のお陰で生き残るコツ掴んだし。
ねぇーそんなことよりさ~。一緒に隊長の子生もうよ~親友だろー?」
気軽に、まるで同じバッグを買おう、とでも言う雰囲気で女の一大事を語る親友に苦笑する。
「あー、もう。そんなとこで友情を主張しないでよ…ケイトも何とか言ってやって」
「私は無理強いしないよ?ライバルは少ない方がいいからね」
いっそ清々しい微笑みを見せてそう言ったケイトの瞳は、涼しげでありながら力強い。
「あきれた…皆、この先の戦いの事ももうちょい考えてよ…」
(この調子だと…本当に急いで決着つけないとベビーラッシュが先に来ちゃうかもだね)
そうは言っても、先日、マーベットとの雑談の中で、
パートナーオリファーとの子作りを真剣に考えていると言っていたマーベットの件もある。
ザンスカールを打倒できれば、その戦いの中で死んだっていい。
当初はそう考えていたジュンコ・ジェンコだが、いつの間にか自分も戦後の事を…
平穏な田舎にでも引っ込んで赤ん坊に乳をあげる光景を夢想してしまっていた。
「…それも一つのモチベーション…かな?隊長に相談してみようかしら」
「しようしよう」
「止めはしないけどさ」
ニコニコと頷くヘレンと難しい顔のケイトの2人を眺めながら、
この昼飯時だけでもう何度目か分からない溜息をついてジュンコは鷹揚に笑っていた。
その時からセント・ジョセフまでの航海中のヤザンの非勤務時間帯オフ時間において、
シュラク隊の面々は
まるでカテジナのヤザンへの接近を妨害するように
カテジナを訓練に誘ったり食事に誘ったりしつつ、
代わる代わるにヤザンの元に押しかけて例の事をせがむ有様だった。
さすがのヤザンも呆れ顔だったというが、
結果、嫌な顔をしつつもカテジナとシュラク隊の交流は深まったのだから、
物事というのは何が幸いするか分からない。
◇
「わぁ」
子供達の感嘆が重なって響く。
窓に張り付き、迫りつつある月面都市の眩さを目に焼き付けようとしていた。
あの無数の光点の一つ一つが活力漲る脈動する命の輝きだ。
戦場で見かける恐ろしいまでの鮮烈な光とは、根本から質が違うと思える子供達の感性はさすがだった。
セント・ジョセフは、現在の連邦の首都でもあり有名な月面大都市フォン・ブラウンと比べると構造も規模も違う。
フォン・ブラウンは大クレーターの中をすっかりそのまま都市にしてしまっているが、
セント・ジョセフは超巨大な天然洞穴を利用するような形で造られた都市である。
都市の全容は月の大地に埋もれて大半が伺えないが、
出入り口の採光システムを兼ねる巨大なガラス防壁から見える都市の一部は圧巻だ。
壮観な光のレリーフにも例えられて、観光の名所として一部の人には知られている。
「綺麗…」
「すごい…あの光が全部都市の明かりって事なんだ…あそこに、母さんが」
「宝石たくさんの宝箱みたい…あっ、見て見てクロノクルくん!
ガラスの向こう、でっかい建物!」
「ほんとだなぁ!あんな高いビルどうやって作るんだろ」
ウッソにぴたりと擦り寄りながらシャクティが呟き、
2人の横ではいつもの凸凹コンビが騒いでいた。
ハロもフランダースも、クロノクルにおぶられるカルルも気の所為か楽しげだ。
狭い窓に所狭しとクロノクルとスージィが頬を窓に貼り付けて熱視線を外に送っている様は笑いを誘うが、もはやその姿にウッソもシャクティも慣れてしまって安心感さえある。
「…あんな大きな街にリガ・ミリティアの秘密基地があるのね」
初めて見る月面都市の遠景に目を奪われながらも、
シャクティが声を上げればウッソが明朗に答えてくれる。
「いや、本当はセント・ジョセフの隣にある…
あっちの少し小さなクレーターに秘密基地はあるんだって。
ザンスカールに見つからないようにセント・ジョセフの港に入港して、
それから秘密のパイプラインを通ってホラズムの工場に入るんだ。
どこにザンスカールの目が光ってるか分からないからね」
「ふぅん…最近はザンスカールも下火だって伯爵も言っていたけど…
やっぱり月もまだ危ないの?」
「セント・ジョセフでもフォン・ブラウンでも、
以前は堂々とベスパの秘密警察が歩いてたらしいけど…今はさすがに減ったってさ」
「フォン・ブラウンって連邦の首都よね?そんなとこでもザンスカールが強いんだ…」
「そうだね。ザンスカールって…マリア主義ってやっぱり強くて怖いよ。
宗教は人の心を簡単に支配してしまうから、
連邦の政治家や軍人の中にも隠れ信者とかスパイがまだいるって事じゃないかな。
その人達が帝国の連敗で表立てなくなっただけで、まだまだ油断できないと思う」
年不相応なウッソの冷静な見通しっぷりは、さすがハンゲルグとミゲルの教育の賜物だ。
シャクティはこんなウッソと幼い頃から接しているけれど、
こういう話をしている時のウッソはあまり好きではない。
そういうのが大事な話だと理解はしていても、
世の中で一番大事なのは、大切な人の隣で過ごし、
木々と土と風の匂いの中で愛する人々と地に足をつけた営みをする事だとシャクティは信じているから、余計に政治や軍事だのといった話に興味が持てない。
シャクティの興味はいつだってウッソへ最大限向けられているのだ。
「…あそこに、ミューラおばさんがいるのね。…ひょっとしたら、ハンゲルグおじさんも」
ウッソの顔を見れば、節々から嬉しさが溢れているのが分かる。
シャクティの鋭い洞察力は人の心を筒抜けにしてしまう程だ。
それはシャクティがウッソ以上のニュータイプだからに他ならない。
「どうかな。母さんはともかく、父さんはきっといないよ。
今まで会った人達も皆、
口を揃えたように〝ジン・ジャハナムという御人は忙しい〟の一点張りだったから。
分かりやすい都市にはいないで動き回っているんだと思う」
ウッソは努めて平静にそう返した。
それは、今もカサレリアの森に母が帰ってきてくれると信じているシャクティや、
戦争の中で家族を失ったオデロ達、同世代の仲間の心情を思っての事だ。
「いいのよ、ウッソ。喜んで。折角会えて喜ばないなんて、それは間違ってる」
シャクティが優しく、たおやかに微笑んでウッソの手を握れば、ウッソもギュッと握り返す。
「うん」
シャクティの温もりを掌を通して感じる。
地球のカサレリアに2人で隠れ住んでいた時、
その手を握っても安心感はあれど胸が高鳴る事はなかった。
しかし、ヤザンと出会ってから…悪影響か好影響か、
今では妹分の少女と触れ合うと秘かに胸が高鳴ってしまう。
気を抜けば今も顔が赤くなりそうだ。
だからウッソは慌てて心の中で違うことを考える。
(…母さんだけじゃない。ホラズムの工場に行けば、新しいMSも手に入るかもしれない。
戦力が増強できれば、シュラク隊のおねえさん達も…マーベットさんも…
ヤザンさんだって、あんな危ない目に合わずに敵を倒せるんだ)
そうすれば――
少年は思った。
「皆で生きて…こんな馬鹿な戦争、終わらせなきゃ」
黙ったまま、ウッソはシャクティの小さな手を強く握った。
少女は締め付けられる己の手の感触を喜んで受け入れ、
さりげなくウッソに半歩近づいて頬を彼の肩に触れさせる。
ウッソとシャクティの隣では、今も凸凹コンビとハロ達が騒いでいた。
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