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崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?

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ほんへ
始まりの章-世界は終わった、しかし物語はここから始まる-
  約・束・完・遂

 
前書き
続きです。
どうぞ。 

 
「おねえちゃん…?」

緊迫した空気の中、突然聞こえたのは間の抜けた声

「しょ、将!?」

自動ドアを抜けてやって来たのは弟の将だ。
寝かしつけていたが、どうやら起きてしまったみたいだ。

「なにしてるの…?」
「い、今はダメ!中に戻って!!」

起きたら鈴鹿御前がいない。
そりゃ心配にはなるだろう。
外から声が聞こえたのだからそこに向かうのはごく当たり前のこと。
しかし、タイミングがクソ悪い。

「ふっ!!」

橋本が寝ぼけ眼をこすりながらやってきた将に気づくと、薄汚い笑みを浮かべ走り出した。
止めようとする鈴鹿御前、しかし突き飛ばされてしまう。
俺も何とかするべく走り出すが、遅かった。

「近付くな!!止まれ!!なにか怪しい真似したらこのガキの首掻っ切るぞ!!」

奴は将を捕え、片手で抱え上げるとその細い首にナイフを突き付けた。

「この…卑怯者!!」
「卑怯だ?私だけに言うことじゃないな。こんな世の中、卑怯なことして生きてるやつはごまんといる。いや、政界には昔からいたな…。」

俺と鈴鹿御前から目を離さず、奴はそう言いながらそのままじりじりと下がっていく。
まずい、このまま逃がしてはいけない。
そんな事しよう物ならまたこいつらのような犠牲者が生まれ、食い物にされる。

「おいそこのお前。」
「なんだよ。」
「その手の甲はあれだな?サーヴァントを持っているな?妙なことを起こすなよ?」

なんだこいつ。サーヴァントとマスターに関しては理解してるんだな。
この状況をおっきーに何とかしてもらおうと思ったが、こりゃダメだ。

「サーヴァントに伝えろ。私の部下にここを出る準備をさせろとな。あと車の手配もだ。なるべく大型で悪路も走行できそうなものだ。それと食料も寄越せ。いいな?」
「おいおい……そんなに頼み事したら俺のサーヴァント過労死しちゃうぜ?」

少し冗談をかましてなにか名案が浮かぶ時間稼ぎをしようとするが、

「バカも休み休み言えよ。ガキの命が惜しくないのか?え?」

どうやらダメらしい。
鈴鹿御前も動けない。マスターを人質に取られてしまえばサーヴァントでもどうしようも無い。
何も出来ず、ただ歯噛みして奴を憎しみを込めた目で睨みつけている。

そりゃそんな悔しい顔はするだろう。
だって殺したい相手が目の前にいるのに、お預けくらってんだから。

「さてお前はと…ああ、思い出した。あの時のサーヴァントだったか?」
「!」

そんな鈴鹿御前の顔を見て、奴は納得したように何度も頷いた。

「妙な気を起こすなよ?あのバカ兄貴を失い、更には弟まで失いたくはないだろう?」
「それは……!」

兄を失った。
その言葉に、弟は顔を上げた。

「おじさん…おにいちゃんはいきてるよ。いきてるってすずかおねえちゃんが……」
「将!ダメ!!」

鈴鹿御前が慌てて止めに入るも、橋本は全て理解し、にんまりと笑うと弟に向けてゆっくりと口を開き、真実を語り出した。

「何?生きてる?あぁ、そうかそうか……そこのお姉さんは嘘をついていたんだな?可哀想に…」
「うそ…?」
「そう、嘘だよ。お前はずっと騙されてたんだ。お前のお兄さんはね、崖から落ちて死んだんだよ。」

語られた真実。
隠し通していた事がバレた。もうここまで来ては、鈴鹿御前はどうすることも出来ない。

「あいつは私と崖から落ちて無理心中をはかったのさ。ところがどっこい、お前のバカ兄貴は運悪く…いや、私の運が良かったというべきか。地面に激突する際ちょうど私の下になり、そいつがクッション代わりになって私は辛うじて命拾いしたのさ。」
「…!!」

驚愕する鈴鹿御前。
マスターが死に、なぜこんなやつが生き残っているのか、
それは偶然というのかやつの悪運が強いとでも言うのか、
ともかく、それはまだ幼い将にとっては残酷過ぎる真実だ。

「これが結末だよ。ガキだからと甘やかさず、正直にそう言えばよかったじゃないか?」
「……。」

嘘をつく、ってのは悪いことだろう。
しかし、その人を思っての『優しい嘘』は果たして悪だろうか?

「私は……」
「私を一方的に悪者だと決めつけるよりもまず、こんな未来の希望に嘘をつき続けた貴様が一番の悪者なのではないかね!?なぁおい、お前もそう思うだろう?」

俺に振られても知らねーよ。
その未来の希望とやらを人質にとってるお前に言われたくないっての。

「さぁて、交渉といこうか?」
「交渉…?」

アドバンテージを得て得意気になり、にんまりと下品な笑みを浮かべる橋本。
調子に乗った奴は部下の呼び出しと車の譲渡だけに飽き足らず、さらなる要求を追加した。

「お前、私のサーヴァントになれ。そうすればこのガキの命だけは保証してやるよ。」
「……!!」

たじろぐ鈴鹿御前。
マスターの仇。殺したいほど憎い相手。
そんなヤツのサーヴァントになるなんて真っ平御免だ。
しかし、大切な人の弟を天秤にかけられれば、断るわけにもいかなかった。

「……。」
「ほう?随分と物分りがいいじゃないか。」

こうするしかない。
鈴鹿御前はそう思ったのだろう。
1歩、また1歩と奴に歩み寄っていく。

「そこのお前もだ。今すぐ自分のサーヴァントを出せ。」
「働かねぇし使えねぇ上に燃費もクソ悪い超絶クソザコだぞ。俺のサーヴァントは。」

さらに調子に乗り俺のサーヴァントまで寄越せと言い出した。
悪い点を上げてお断りさせてもらうが

「はっ、どれだけ穀潰しでも壁とガス抜きくらいにはなるだろ?ほら、早く寄越せ。」

やつは引かない。
ここでとれるものはとっていくつもりなのだろう。

さて、今度は俺達が八方塞がりのこの状況。
この状況を打破するのはとても難しいことだが、ここでこの苦境を打ち破るものが現れる。

「おねえちゃん。」

将だ。

「…ごめんね。嘘ついて。悪いお姉ちゃんでごめんね。」

橋本のすぐ近くまで来た鈴鹿御前。
心配そうに見つめる弟を見つめ返すことも出来ず、ただ俯いて謝ることしかできない。
しかし、

「ううん、ちがう。おねえちゃんがうそつきでわるいひとなら、ぼくも……〝うそつきでわるいひと〟だ。」
「……?」

橋本の腕の中で、ナイフを突きつけられているという状況なのにも関わらず将は話を始めた。

「なんだクソガキ、黙ってろ。」
「ぼく…しってた。おにいちゃんがしんだの…がけからおっこって、ぼくとおねえちゃんまもったのも……!」
「…えっ?」

語られたまさかの真実。
彼は…将はあの日の出来事を知っていたのだ。

「うるさくておきて、こわくてテントのなかからこっそりみてた。そうしたらおにいちゃんがさされてて、そのあと……」
「黙ってろって言うことが聞けないのか!!このクソガキャア!!」
「!!」

構わず話を続ける将に橋本が声を荒らげる。
しかし将は黙らない。大人に怒鳴られれば泣き出す、今までの彼ではない。

「おにいちゃんがやくそくしてたのもみた!ぼくがりっぱなおとなになるまで、みまもっててほしいって!!」
「将…!」
「だからうそついた!もしほんとのことしったら、おねえちゃんがどこかにいっちゃうかもしれないから!ぼく、うそついた!!ひとりになるのはいやだから、しらないふりしてうそついたんだ!!」

真実を知る。受け入れる。
そうしてしまえば自分は精神的に強くなったと言えてしまう。
だから彼は嘘をついた。
鈴鹿御前と一緒にいたいから。この世界で一人ぼっちは、死ぬほど寂しいから。


「でもぼく、つよくなるよ!!」

そう言うと将は大口を開け、

「いってぇ!!」

橋本の腕に全力でかぶりついた。
あまりの痛みに奴は将をふりほどき、強引に解放する。

よし!ナイスだ!

「待てクソガキ!!」
「させるかボケ。」

ナイフを持って将を再び人質に取ろうと追う橋本。
しかし、こうなりゃお前なんざ脅威じゃねぇ。

「そらよ!」

俺は咄嗟にあるものを投げる。
それは回転しながら綺麗なカーブを描き、やつの手の甲に突き刺さった。

「ぐああっ!」

痛みのあまりナイフを落としてしまう。
何事かとやつは手の甲に刺さったそれを引き抜き、その正体に驚愕する。

「これは……折り紙!?」
「おっきー作の『必中折り紙手裏剣』だ。威力は本物と同等。オマケに狙ったとこに必ず命中するスグレモノだぜ?」

と、驚くそいつに解説してやる。
武器を持ってない俺に護身用にとおっきーが作ってくれたのさ。

「将!!」
「おねえちゃん!」

さて、うってかわってこちらは感動の瞬間ってやつだ。
人質から開放された将はまっすぐ鈴鹿御前の元へ駆け寄り、両手を広げて迎えている彼女の胸に飛び込んだ。


「ごめんなさい…うそついて…いままでうそついててごめんなさい…!」
「ううん、謝らなきゃいけないのはお姉ちゃんだよ。私だってこうやって、今まで将に嘘ついてきたんだから…。」

涙を流し、真実を吐露し合う二人。
こうして絆を深めあっている訳だが、

「手短に済ますか。」

ここを邪魔するワケにはいかない。
そろそろクソオヤジにはここで退場願おうか

「じゃあ作戦通りに頼むぜ、相棒(おっきー)。」

俺がそう呟いたその直後、

「うぅ、ぐすっ、うえぇ…」

「どこかはともなく、子供のすすり泣く声が。」

その泣く声に橋本はキョロキョロと辺りを見渡す。
するとここから視認できる距離に、なんとしゃがみ込む女の子の姿が。

(いける…!運命はまだ私に味方してくれている…!)

そんなすすり泣く子を見て、橋本はナイフを拾い直して走り出す。
幸い鈴鹿御前は将と抱き合っており、反応が遅れてしまった。
さらに俺ともかなり距離があり、捕まえるのは難しい。
あー大変だなー困ったなー(棒)
あの女の子が人質にとらえられたらどーしよっかなー(棒)


「そうら!死にたくなかったら静かにしろガキ!!」

と、案の定橋本は女の子を人質にとる。
ナイフを突き付け、下卑た笑みをこちらに向けながら。

「おい!何ニヤニヤ笑ってやがる!!このガキの命が惜しくないのか!?」

あ、いっけね。
俺も笑ってたわ。

「あぁ、悪い悪い。何せここまで思い通りにハマってくれるとついついニヤけちまうんだよ。」
「思い…通り?」
「そ、思い通り。」

気づいた時には時すでに遅し、

「欲しいんだろ?やるよ、俺のサーヴァント。」
「え…?」

直後、女の子がブルブルと震え出す。
ボコボコ醜くと膨れ上がる身体。

「かなしい、かなしいよぅ」

そう呟きながら女の子はどんどん大きくなり、やがては橋本の身長も超えて6メートルはあろうとんでもねぇ大きさへと変貌。
その顔も醜く歪み、口からは牙が生え、さながら般若だ。

「おまえが、ころした。もののかなしみ。」
「ひぃいい!?」
「にげられるとおもうな、みんな、おまえをみている。」

振り向けばそこにはあのBARと同じく幽霊が。
しかしさっきの比ではないほどのおびただしい数。
皆一人一人が恨みの籠った目でこちらを見ており、両手を伸ばし、こちらにゆっくりと近付いてくる。

「やだ…いやだ…いやだぁ!!来るなァ!!」

手当たり次第にナイフを振り回すも、それは空を切るばかり。
さらによく見るとこの男、恐怖のあまり失禁している。
半狂乱になりながら叫び、男はついに、

「うわああああああああああ!!!!殺さないでくれええええええええ!!!!!」


あまりの恐怖に街から逃げ出した。

「逃げちゃったね。」
「気にすんな。あんだけの事すりゃもう悪いこともできねーだろ。」

逃げていく橋本を尻目に、俺は見た目とは裏腹にかわいい声をした激怖クソデカ妖怪にそう話す。
さて、ここで種明かしだ。
将と鈴鹿御前も抱き合ったまま固まってるので変化を解除させておこう。

「もういいぞ。」
「はーい、よいしょ。」
「えっ?」

妖怪の正体に思わず間の抜けた声が出る鈴鹿御前。
幽霊はあのBARの時と同じトリック。折り紙蝙蝠だ。
そして妖怪が変化を解き、正体をあらわにしたのはおっきー。
そう、
CV福圓美里のあの妖怪はおっきーが変化したものなのだ。


「さすがだぜ。変化のスキルだけは高いランクを保持してることはあるってもんよ。」
「〝だけ〟って何?姫もっとすごいの持ってるんですけど!」
「あーはいはい。すごいすごい。」
「何そのテキトーな受け答え!それとさっき割と酷いこと言ってなかった!?『働かねぇ上に使えねぇ燃費のクソ雑魚サーヴァント』って言ってたよね!?」
「あれは上手いこと敵を騙すための方便的なやつだよ。」
「もうちょっと言い方ってものがあるでしょおおおお!?」


キレるおっきー。
だから作戦だっつってんだろ。と言おうとしたが、

「……。」
「まーちゃん?」
「アレ、見ろ。」

キレ散らかすおっきーをよそに、俺は今回の依頼主を指差す。

「アレって…。」
「ああそうだよ。」

抱き合っていた二人。
しかし、互いの本音を語り合えたところでこれはもう決まっていた。

「おねえちゃん、ひかってる…。」
「あ、そっか…そうだもんね…そう約束したんだった…。」

鈴鹿御前の、座への返還が始まっていた。
足元から光の粒子となり、ゆっくりと鈴鹿御前は消えていく。
マスターに命令された最後の令呪。
『弟が強くなるまで、見守っていて欲しい。』
その弟、将は兄が死んだという事実を受け入れていた。
鈴鹿御前や兄が心配するよりも、彼はずっと強かった。
この世界で唯一の肉親を失っても彼は泣きもせずこうして今までやってきたんだ。
そうして真実を話し合い、嘘を告白し、彼の強さは実証された。
つまり、鈴鹿御前の役目は果たされたことになる。

しかし、

「ひとりはいやだ。そう言ってたもんね、将は。」
「…うん。」

彼女はまだ、己の役目を果たしきっていないような顔をしている。
まだこんなに小さい子をこの世界でひとり放っておけない。そんな気持ちがあるんだろう。

「だから、まだいっしょがいい。」
「お姉ちゃんもそうだよ。だからね、将……」

そう思い鈴鹿御前は、懐からあるものを取り出す。
それはスマホ。
将にとっても、鈴鹿御前にとっても大事な、兄のスマホであった。
それを弟に手渡すと、こう言った。

「私と契約しよっか。」

主従関係の更新。
マスターを兄から、弟へ移すことだった。

「将が私の新しいマスターになるの。そうすればまだ一緒にいられる。また2人で、仲良く暮らせる。」

弟の手に自分の手を重ね、優しく問いかける
しかしその問いに対しての答えは当たり前のものだった

「うん、まだじゃない、ずっといっしょがいい。ぼくはおねえちゃんに、ずっといっしょにいてほしい。」


その瞬間、光が止んで座への返還が止まった。
主従関係は成立。鈴鹿御前は新たなマスター、将のサーヴァントへとなったのだ。
それと同時に、彼の手の甲にも俺と同じマスターの証が刻まれる。

「おにいちゃんと、おんなじだ…。」

兄と同じものが刻まれた。
それだけで将はなんだか嬉しくなり、よく分からないけど涙が溢れ、鈴鹿御前に抱き着いた。

「これからも、よろしくね。2人で頑張って、征の分まで生きようね…!」
「うん、いきる。おにいちゃんのぶんまでいきて、おにいちゃんがみれなかったものもみにいくよ」



「…さて、俺達は邪魔かな。」

そんな感動のシーンをボーッと見ていた訳だが、いい加減ここで俺達が突っ立ってるのも邪魔だろう。

「ほら、行こーぜ。」

おっきーの手を引っ張り、ホテルへと戻ることにした。

「あの二人、これからいいことあるといいね。」
「あるに決まってんだろ。まぁ新たな門出ということで祝い代わりに今日の宿泊費くらいは俺が出しといてやるか。」
「わ、珍し。明日隕石でも直撃しそう。」

そういっていつものように話し合い、夕日に照らされた2人を邪魔せぬよう俺達はクールにその場を去った。





同時刻。

「はっ、はっ、はっ、ひぃ……っ!!」

大勢の幽霊、そして鬼(に変化したおっきー)に完全にビビってしまった橋本はそのまま街を走り抜け、こうして我が身一つで郊外へと出てしまっていた。

そうして苦しくなっても走り続けた橋本はボロボロの小屋……廃屋のある場所で止まり、壁によりかかるようにして倒れ込んだ。

「はぁ…はぁ…なんだ、なんだあの街は…!!」

幽霊は存在する。
それは、ここに来るまでに〝ゴースト〟のエネミーを見ていたから知っている。
しかし〝アレ〟は間違いなく自分が殺していった若者達の霊だった。
よく見かける骸骨面の奴らじゃない。
もう二度とあそこには行くものかと誓い、生きが落ち着くと橋本はここからどうやり直すかプランを考えていく。

「携帯は…クソ!どこかに落としたか……。」

部下をここに呼び込もうにもどうやらどこかで携帯を落としてしまったらしい。
ならあの街に戻って直接呼び戻しに行くか?いや、無理だ。
あそこには幽霊が住み着いている。
戻ってこようものなら呪い殺される。
そう思い、ならばどうするかとまた別の案を考える。

以前のように、偶然ここら辺を通りかかったサーヴァントとマスターを頼り、東京まで世話になるか。
それがいい、そうしよう。
幸い商人から買った薬はまだまだある。
それをサーヴァントに飲ませ、マスターを殺害し、自分が新たな主となればいい。
そう思ってニヤケながら懐にしまった薬瓶を取り出そうとするも、

「…?…??」

ない。
薬瓶がない。
高い金を払って買った、あのサーヴァントを奪うことが出来る薬がどこにもない。
まさか携帯と同じように落としてしまったのか?
そして地を這うように辺りを探し回るも、やはりない。

まさかそれもあの街…?
と、そう思った時だった。

「忘れ物ですよ。」
「!!」

人気のないはずの廃屋から声。
どこだと辺りを見回すと、声の主は上にいた。

「!!お前は!!」

スタっと身軽に着地し、彼の前に現れたのはあのBAR『蜘蛛の糸』の看板娘、マキさんだった。

「大事そうなものだったんで、持ってきてあげました。」

ぷらぷらと振ってそれを見せつける。
無論それはあの薬だ。
橋本は慌ててそれを取りに行こうとするが

「それを!それを寄越せぇ!!わたしのも」
「動かない。」

起き上がろうとする橋本。
しかしその直後に二発の発砲音。
そうすると起き上がろうとした彼はがくんと膝をつき、足が言うことをきかなくなる。
自分の前には、いつの間にか硝煙の立ちのぼる銃をかまえたマキさん。
次第に感じる熱い痛み。
恐る恐る目を下にやると、右腿と左膝からは血が流れていた。
つまりは、撃たれた。

「ひ、ひゃああああああああっ!!!」

情けない悲鳴を上げ、痛みのあまり蹲る橋本。

「いたい…いだいいだいいだいいぃぃぃっ!!」
「今からする質問に答えてください。いいですね?」
「あしが…あああああしがぁぁぁぁ…!!」
「…。」

みたび発砲音。
今度は直接撃たず、橋本の顔を掠めるように撃って無理やり黙らせた。

「僕の質問に答えてください。素直に答えてくれれば命だけは保証しますから。」
「わ、わわわかった…答える。なんでも答えるよ…!」

橋本がそう言うと、マキさんは太腿のホルスターに銃を納める。
そうして彼女は、橋本をゴミを見るような目で見下しながら質問を始めた。

「これは、どこで手に入れたものですか?」

カプセルの入った薬瓶を指さし、そう尋ねる。
嘘をつけば撃たれる。
存分に脅した橋本は素直に答えてくれた。

「か、買ったんだ…横須賀辺りで。」
「誰から、買いました?」
「商人だよ!サーヴァントを奪える薬があるぞと言われて、大枚はたいて買ったものだ!!」
「その商人は、どこから来ました?」
「そ、そんなの誰かなんて私は知ら」

知らない。
そう言おうとしたが4度目の発砲音に遮られる。
そしてこれは威嚇では無い。
四発目の弾丸は、橋本の左足の甲を貫いた。

「い、いだあぁぁぁいいいいい!!!!」
「嘘ですよね?あと大の大人が泣きながら漏らさないでください。みっともないんで。」
「わ、わがった!!ごだえる!!ごだえますがらもう撃だないでぇええええ!!!」

顔をぐしゃぐしゃにし、子供のように泣きじゃくりながら橋本は必死に答えようとする。
痛みのあまり今度は脱糞してしまい悪臭が漂うが、そんな状況でもマキさんは眉一つ動かさず質問をした

「かっ、〝葛城財団〟だ!世界崩壊以降急激に業績を伸ばしている噂の製薬会社だ!俺たち議員や企業のお偉いさんの間では有名な会社だ!」
「へぇ…やっぱり…。」

望んだ答えが出た。
そう言いたげに少しにんまりするマキさん。

「奴は俺達のような金持ちに薬を売ってる。次はどこで売るかは知らん!欲しけりゃ自分で探せ!!」
「いえ、僕には必要ないんで。」

そう言うとマキさんは腕を振り上げ、

「!!」

そのサーヴァントを奪うカプセルの入った薬瓶を地面に思い切り叩き付けた。

「あ、ああ…あああ!!!」

かわいた声を出し、割れた瓶から零れたカプセルを掬い集めようとする橋本。
しかしマキさんはその後すぐに、踏み抜いてそのカプセルを粉々にした。

「な、なにを…!!何をしているのか分かってるのか!?高かったんだぞ!!」
「こんな薬…世の中には必要ないんで。」

冷たくそう言い放ち、マキさんはその場で踵を返して街まで戻っていく。

「ま、待て!おい!!どこに行く!!」
「どこって、お仕事です。そろそろ戻らないと怒られちゃうんで。」
「私はどうなる!!薬の詳細を教えれば助けてくれるんじゃなかったのか!!おい!!おい!!!!」

叫ぶ橋本。
そこでマキさんは一度足を止め、振り向くと立てない彼に向かって抑揚の無いさも興味のなさそうな感じで返答した。

「命は保証するとは言いました。でも助けるなんて、僕は一言も言ってませんよ。」
「……!!」

なんて冷酷な人間なのだろう。
人から搾るだけ搾り取って、必要無くなれば後は捨てる。
いや、そもそも彼女には最初から殺すつもりで来たのかもしれない。

「そろそろ日が暮れます。まだここら一帯もモンスターが出ますし、危ないので僕は帰ります。あとは自分でなんとかしてくださいね。」
「で、出来るわけないだろおおおおおお!!!!」

最後にそう言い残し、マキさんは歩いていった。
後ろの方からはまだ何か叫び続けているが、もう知ったことでは無い。
それに、そんな馬鹿みたいに叫んでいればいずれ来るモンスターに居場所を教えているようなものだ。

「得たのは商人から買ったっていう噂だけ…大した情報じゃなかった。」

自分の掌を見、そして返して手の甲を見つめてマキさんはそう呟く。

「でも僕は決めたんだ。お栄ちゃんがいなくたって…僕は必ずあいつに辿り着いて、殺してみせるって。」


誰も見た事のない張り詰めた表情の彼女は、街に入るといつものマキさんへ戻り、そしていつもの仕事場へと向かうのだった。






 
 

 
後書き
かいせつ

⚫マキさん、何者?
葛城財団に強い恨みを抱いている人物。
現段階ではそれしか言えないっす。

⚫葛城財団って?
すごい製薬会社。
私の崩壊世界シリーズを通して敵として立ちはだかる超極悪企業だよ。
具体的に何をしているかは、もう少ししてかは判明するよ

もうちょっとまっててね。


 
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