『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
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お礼にあたしは、専属契約を結ばれる
前書き
こんにちは、クソ作者だよ。
このお話は北斎が葵ちゃんの専属絵師になるお話だよ。
BAR、『蜘蛛の糸』
「いらっしゃいませ。」
こうしてまた開店時に訪れ、まず出迎えてくれたのは情報屋のマキさんこと北斎のマスター、葛城 舞。
こういったシックでオシャレなBARには不似合いな着物を着こなしながらも、このお店の看板娘だ。
「お栄ちゃんを連れてきてくれてありがとう…あの、えーとと…。」
「葵。源 葵って言うの。」
「そっか、ありがとうね、葵さん。」
結局彼女らが落ち着いたのは夕方頃。
あの後お店で暫く感動の再会を分かち合い、そのまま家へ直行。
サーヴァントとマスターが家で2人きり、何も起きないはずがなくということで久し振りに魔力供給としゃれこんだらしい。
ちなみになのだが、彼女は今日限りでこのBARを辞め、どこか遠くへ行くつもりだったらしい。
ともかくあたしらが来たのはギリギリセーフだったというわけでほんの少しでも遅ければ、まだ会えずにいたんだろう。
「ここがマイの働いてる『ばあ』ってやつかい?」
「お栄ちゃんもいらっしゃい。」
それからあたしに続いて香子、そして北斎が入ってくる。
物珍しそうに辺りを見渡し、マスターのお洒落した姿に見惚れる北斎。
「見ない間に随分と色っぽくなったじゃないか。」
彼女へと近付き、髪へと手を伸ばす。
「髪も伸びた。つやつやのさらさらだ。」
「えへへ…。」
「まさに男子三日会わざれば刮目せよ、ってやつだナ!ははっ!!」
と、北斎はとにかく舞さんを褒めちぎる。
…うん?男子三日会わざればって言った?
まぁいいや。確かにこの人はあたしから見てもかなりの美人だ。いや美人過ぎる。
何をどうすればこんな美貌を手に入れられるのか。
胸はほぼないが色気がある。健康的な鎖骨や滑らかな肌もそうだが魅惑的なのは下半身だ。
くびれのある腰から着物の上からでも分かる魅力的なお尻。
そこから伸びるのは適度にお肉の乗っかった見る者を扇情させる魅惑の御御足。
着物からチラチラ見えるのはいくらなんでも目に悪すぎる。
でも、何か変だ、
どこか欠点があるって訳じゃない。むしろ完璧だ。彼女の肉体には非の打ち所がない。
だけど、なんか言葉では言い表し用のない違和感みたいなものが拭い切れない。
「おぅい、葵殿。」
「えっ、あっ!?何!?」
と、北斎に声をかけられる。
「マイに魅了されたかい?ジーッと見てたじゃないか。」
「えっ、いやいや、そんなことないし!」
「葵様、見てましたよ。ずーっと。」
どうやら彼女のことをガン見していたらしい。
舞さん本人は照れ臭そうに苦笑いし、それからあたし達をカウンターへと招く。
「お栄ちゃんが来るって言うから、いいものを用意したんだ。葵さんも飲んでいってね。」
「ああうん。ありがと。」
あたし達は舞さんや北斎にとっては恩人なのだと言う。
ということでこの『蜘蛛の糸』へ招かれた。
「つっても、二人を会わせるキッカケ作ったのはあの探偵さんだけどね。」
「探偵さん?探偵さんってあの…」
「そ。この街の探偵さん。東京でデートしてるところでたまたま会ってさ。」
探偵さんが刑部姫とデートなんかしていなければ、あたし達は船で会うことは無かったしあそこで北斎さんを助けることも出来なかった。
で、彼は頑なに『慰安旅行』と言っていたけどあれはデートだ。デートに決まってる。ここではそう言わせてもらう。
「そうなんだ…。」
「まぁどっちにしろ感謝してもしきれねぇナ。葵殿にも探偵殿にも。」
「だね。」
用意されたおちょこに舞さんがまぁそれは高そうな一升瓶に入ったお酒を注いでくれる。
それをくいっと頂く北斎。
「かーっ!美味い!天にも登れそうサ!」
「1番いい日本酒なんだ。モリアーティさんに無理言って下ろしてもらったんだよ。」
「いや、こうしてとびきり美人になったマイを肴に飲むのは格別って話だ。どんな安酒だろうが美酒になっちまうヨ。」
「褒めてもなんにも出ないよー。」
「ははっ、そうかい。でも今まで褒めてやれなかった分、今日はたぁっぷり褒めてやるからナァ…。」
あーイチャイチャしてる。
あたしらこれいていいの?
「それはそうだ。葵殿。」
って思って香子と顔を合わせていたら北斎が話題を振ってきた。
「え、なに?」
「お前さん方には礼を考えててナ。」
「え、お礼?」
そう言うと北斎は懐から筆を取りだし、あたし達をそれで指す。
「挿絵を描いてやろう。専属契約を結んで、おれとマイはお二人さんだけの絵師になってやろうって話サ!」
「……えっ?」
かたまる。
また香子と顔を合わせる。
「紫式部…。契約って?」
「挿絵を描いてくださる…と。私と、葵様の為だけに。」
「え…えぇっ!?」
頭で理解するのにやや時間がかかった。
あの葛飾北斎が、あたし達の小説で挿絵を描いてくれる?
日本人なら誰でも知ってるあの超有名絵師が?
「心配すんナ。現代風の絵だってなんだって描けるヨ。それにマイもとと様が認めるほどの腕前を持ってる。どうだい?悪い話じゃないだろ?」
と、かなりスムーズに話が進んでいく。
当然あたしは慌てるわけだし、何より一番の問題が…
「って言ってもあたし…お金とかそんなに無いし…。」
「金だァ?いらねぇいらねぇ。恩人様から金取ろうだなんて失礼だ。」
訂正。
一番の問題が今解決された。
「おれは描きてぇから絵を描いてる。マイもそうだろ?」
そう言うと舞さんもニコニコしながら頷いた。
「つまり…一銭もいらないと?」
「さっきそう言ったじゃないか。」
「え、えーと…。」
契約…するべきではあろう。
ここで彼女からのお礼を無下にするのも失礼だ。
それに、
「結びましょう!専属契約!」
「えっ。」
香子が推してくる。
「世の中、人によっては絵で小説を選ぶと言われています。」
「それってラノベとかでしょ?」
「逆に言ってしまえばそれはどれだけ素晴らしい文章だとしても、挿絵がない、もしくは挿絵に魅力が無ければ読まれる機会を失うもの。宝が埋もれてしまうようなものなのです。あまりにも勿体無い。皆様もそう思いませんか?」
そう熱弁する彼女。
ちなみにあたしの夢は、自分の小説を出すこと。
彼女もそれを応援してくれている。
「北斎様!」
「おう。」
「是非、結んでいただけませんか?あなた様に葵様の小説の絵を、書いていただきたいのです。」
とはいえ待って欲しい。
あたしはまだ小説なんてものを出していない。
取材したマスターやサーヴァントの生き方をまとめて紀伝体のようなものを図書館で貸出のみしている。
言えば、あたし自身の小説はまだ出していない。
「葵様のでびゅー作を、飾ってくださいませんか?」
「いやあのさ、あたしまだ何も」
「香子は存じております。ぱそこんにぷろっと…下書きなるものがありますよね?」
「……は?」
ない。と言えば嘘になる。
実際、ほったらかしの物語がパソコンのフォルダに入っている。
香子は機会は苦手だし、パソコンなんて触らないだろうし、別に隠す必要もないなと思っていたが…。
いや、触ってた。
この前の検索履歴がふたなり一色だった時点で気づくべきだったんだ。
そこで彼女は、読んだんだ。
「ちょっと待って何勝手に見てんの!?」
カウンターテーブルを叩きあたしは思わず立ち上がる。
「いえ…ただあれを埋もれさせるのは勿体ないと…」
「そういう問題じゃない!!あたしにもプライバシーってもんがあるでしょ!?」
見られた。読まれた。
秘密の物語を。
「あぱあとに住む貧乏な女子大生と、偶然出会ったせれぶの奥様との身分違いかつ禁断の不倫と…」
「令呪を以て命ずる!!!!!!『これ以上喋…」
「ダメだってば葵さん!!」
令呪の使用に踏み込んだが舞さんに止められる。
「おれも読んでいいかい?紫式部殿がそこまでいう作品がどんなもんか読んでみたくなってきた」
「未完成ですが図書館のパソコンに…」
「やめろ!!!!!!!やめてください!!!!!」
香子が余計なことを言い出した挙句、そんな時に北斎先生が読みたいとか言い出した。
「ヨシ決めた!それ読んでから専属契約を結ぶか!」
「はぁ!?!?」
ほんとになんてことを言ってくれたんだ。
「マイ。」
「うん?」
「明日出かけるぞ。葵殿の図書館だ。」
「うん。わかった。」
サーヴァントの急な無茶ぶりにマスターの舞さんは呆気なく承諾。
「待って急過ぎない!?図書館って横浜にあるんだよ!?」
「横浜…か。横浜ねェ…。」
そう言って悩ま始める北斎先生。
じゃあやめようかなぁと言ってくれるのにほんの淡い期待を寄せてはみるけど
「そういや探偵殿は東京だったナ。」
「まぁ…うん。」
そう言うと北斎先生は
「じゃあ東京に行ってから横浜に行こう。」
とか言い出した。
「え…?」
「東京のいるかしょうだったか?ともかくそこにいるんだろ?。ならまずは探偵殿に会って礼を言いに行くのがスジってモンだ。」
いやまぁ、確かにそうだけれど…。
「よし決まりだ。明日の朝出発サ。」
「そ、それも急過ぎないですか?」
「マイもそれでいいかい?」
「うん、いいよ。」
あまりにも急な遠出。
明日の朝出発だと言う北斎に舞さんは嫌な顔1つすることなく二つ返事で了承した。
●
で、
「来たヨ。」
本当に来た。
あれからあたし達は北斎先生や舞さんと少し話してから図書館へと帰った。
後で聞いたけどここに来る途中、まぁまぁ大変なことがあったらしく割とドタバタしていたらしい。
偽装船?ハインド商会の子会社だと偽った葛城財団の罠に探偵さんが嵌ってしまい大変だったんだとか。
あのハインド商会を名乗って悪事を働くなんて命知らずにも程がある。
なんというか…葛城財団は海賊に喧嘩を売るのが好きなんだなぁと思った。
「んじゃあ早速見せとくれ。」
「あ待って!!」
図書館に上がるなり小説を見せろと勝手にパソコンに触ろうとする北斎先生。
「どうしてだい?いずれは人に見せるモンだろう?」
「それは人に見せる物じゃないんです!奥底にそっとしまっておくものっていうか…とにかく人目に触れちゃいけないものなんで!!」
「でもそれじゃ専属契約は結べねぇヨ?」
「はぁ!?」
いつの間にか無償の専属契約が小説を見せるという条件に変わっていたことに気付くあたし。
確かに、あの葛飾北斎が挿絵を描くというのは非常に光栄なことだし二度とないチャンスだ。
見せるか、見せないべきか…
いや待て。
そもそもこんな風になるきっかけを作ったのは…
「…。」
「なんでしょうか…そのような目で…。」
香子は今夜ブチ犯してやると心に決め、北斎先生を止める。
がしかし
「ホー、こいつかい?」
「えっ!?」
香子を睨みつけていたほんの一瞬の隙。
北斎先生はするりと抜けてパソコンの前にいた。
ていうかなんだ、操作上手じゃない?
すごくスムーズにやってる。
「だから待っ」
「マイ、止めろ。」
止めにかかると後ろから舞さんに羽交い締めにされてしまう。
しかし華奢な体型の通り力はあまり強くない。
さっさと振りほどいてしまおうとしたその時
「離せー!!止めさせろー!!」
「お手伝いします…!!」
「はぁ!?」
プラス前から香子。
もう決めた。今夜は泣いても止めないし許してやんない。
「なになに…『濡れた紫陽花』雨の降りしきる梅雨の時期…私は」
「音読しないでもらえませんか!!!!」
数十分後
「ふふん、まぁ思ったよりはずっと良かったじゃないか。」
「はい…ありがとうございます…。」
結論から言うと、最後までちゃんと読まれた。
最後とはいっても、未完の作品なのだけれど。
さらに読んでいる途中「ここの登場人物はどういう心境なんだい?」とか「どう思いながら書いたんだい?」とか地獄みたいな質問をされた。
「んで、続きは書かねぇのかい?」
「あぁいや…行き詰まったというか書く気が無くなったというか…」
「なんでい。展開的にこれからおっぱじめるところだろう?」
と、北斎は残念そうな顔をして席から立ち上がった。
「折角いい絵が浮かびそうなんだ。書きあげとくれヨ。」
「えっ、」
今なんて?
「なんだい?専属絵師が描きてぇとこ描いちゃいけねぇってのかい?」
「あぁいや、そうじゃなくて…。」
専属絵師の契約はこれにて完了した。
しかし何に挿絵を書くと言った?
あの葛飾北斎が、
あの人に見せられない趣味の掃き溜めみたいな小説に、
是非挿絵を描かせてくれと。
「ほ、本気で言ってます?」
「おう。本気も本気サ。」
「…。」
振り返ると香子。
親指を立てて「やりましたね!」と言わんばかりの表情をしている。
「だから早く完成させとくれ、ナ。」
そう言ってポンと肩を叩かれた。
「じゃあ名作が完成するまでおれたちは待つとするかい。」
「あ、あぁ…部屋ならいくつかあるんで、好きに使ってかまいません。」
ありがとヨ、といい北斎さんはマスターを連れて去っていく。
「よかったですね。葵様。」
「……。」
「え、なんですかその目は…?」
専属絵師になってくれたのは良かった。
ベタ褒めされたのも嬉しかった。
じゃあ終わり良ければ全て良しか?
いや違う。あたしはそうは思わない。
「顔が怖いです。なんですか?」
そもそも香子があんなことを言わなければ、あたしは恥ずかしい思いもせず、事はもっとスムーズに進んだはずだ。
「香子、部屋、行こっか。」
親指で後方を指し、なるべく笑顔でそう伝えた。
後書き
かいせつ
●『濡れた紫陽花』
葵ちゃんが密かに書いていた官能小説
元は一流エリート企業に勤めていた夫が汚職でリストラさせられ、ボロアパートに引っ越すことになったとある夫妻。
定職につかず、バイトをしてはすぐにやめ、少ない給料も全て酒に使ってしまうまるでダメ人間な夫に嫌気がさしつつある人妻が隣に住んでる女子大学生に自然と惹かれていき、禁断の不倫&同性愛に目覚めていくお話
実はほかにも書いている途中のものがあったりする。
しかしそのいずれもが未亡人が同性愛にハマったものとか結婚したばかりの新妻がレズ堕ちNTRされたりするものだったりとやかくまぁ一貫して人妻とか未亡人とかそういった人を同性愛に引き込むものばかりである。
なんなんだこいつは。
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