IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第368話】
スッキリした表情の俺が鏡に写っている。
が、その顔には青アザがあり、明日の学校をこのままいけば騒ぎが大きくなるだろう。
そろそろ美冬の来る時間だと思い、手鏡を机に置くと再度氷で冷やし始めた――と、控え目なノックの音が鳴り響く。
「鍵なら開いてるぞー」
それだけを言うと、ドアノブが回り、ドアの開閉音と共に第一声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん? 何で化粧道具が必要――」
部屋に入った美冬はそう言いながらやって来るのだが、俺の顔を見た次の瞬間には血の気が引いたような青い顔をして――。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!? その青アザ、どうしたの!? だ、誰に――――……って、織斑君しかいないね。 篠ノ之さんだとまず刀で斬りにかかってくるもん。 ……事情は後で訊くけど、何で化粧道具が必要なのかはわかったよ。 ちょっと待ってね?」
一旦机に化粧道具を置くと、必要な化粧品を取り出して早速青アザを隠す様に化粧をしていく。
その間、俺も美冬も何も語らなかったが俺は昔の事を少し思い出していた……。
喧嘩して、美冬や未来に心配かけた時の事だ。
――未来の親父さんやおばさんには多大な迷惑をかけたからな……、嫌われてるかもしれない……未来の両親には。
そう思うと、少し悲しい気持ちになったのだがそれを無理矢理記憶の奥底に眠らせる。
――と、化粧を終えた美冬が机の上の手鏡を手に取ると。
「はい。 これなら青アザ消えてるでしょ?」
そう言って手鏡を覗き込むと、さっきまで目立っていた青アザが消えてなくなっていた。
「流石だな美冬。 悪いな、これで余計な事を訊かれずに済むよ」
「……うん。 お兄ちゃん、織斑君と喧嘩したの? ……でもさっき擦れ違った時、織斑君顔を腫らした様子も無かったし、楽しそうに篠ノ之さんと談笑してたけど……」
美冬の言葉に、一瞬耳を疑う――あいつ、殴った事すら忘れたとかだとマジで脳みそどうなってるのか気になる。
「まあ、理由があるんだよ。 実はな――」
今日あった模擬戦での一悶着を美冬に説明した。
黙って訊いていた美冬だが、話を終えると怒った表情で――。
「何よそれ、完全に織斑君の逆ギレじゃん! お兄ちゃん! ちゃんと先生に言おうッ! 幾らなんでも織斑先生の弟だからってこれは許せないし、問題にしてくれるよ!」
美冬は怒った様にそう言うが、事を大きくするのはあまり好ましくないという俺の考えもある。
本当はこういった事を言わないといけないのだが、正直クラスの空気を変えたくない気持ちもあるし、それに何より事の内容が下手をすると【俺が一夏を怪我させた】という事になりかねない……学園上層部の判断として、一夏を光にするなら俺を影、悪い方にするのは六月のラウラ暴走事件(ラウラが暴走したわけではなく、機体が暴走)でわかってるんだし。
……まああれは、俺自身も織斑先生の名前に傷つくのを良しとしなかったし……ある程度納得した上での出来事だからな。
話は少し戻るが、一応アリーナに、これまでの模擬戦の様子を録画した物もあるにはあるのだが……基本的にそれは、学園上層部の人間が閲覧してから、生徒への貸し出しという形になる。
まあ早い話、生徒に見せられないレベルの低い戦いや、何か不都合な物は改竄や修正、削除を行ったりする。
……だから多分、今日の模擬戦の試合ROMを貸してくださいと言っても、それ『だけ』無くなってる事もあるらしい。
――というか、実際にある、四年前の模擬戦の試合ROMの一部が抜けてる所が……説明では紛失だが、多分何か悪い内容か見せても大したことの無い内容かのどちらかだろう。
――と、まあ今考えても仕方ないので、怒った表情のままの美冬に視線を戻すと、口を開く。
「美冬、そんなに怒った表情するなよ。 可愛い顔が台無しだぞ?」
「ぁぅ……ちゃ、茶化さないでよ、お兄ちゃんッ! ……もぅ……」
可愛いという言葉に気が削がれたのか、怒りが静まる美冬。
組んだ腕に乗っかる乳房に、少し目が行くがそのまま視線を再度美冬の顔へと移す。
「問題にしてくれるかもしれないが、下手すると学園上層部――いや、政府が揉み消すか、はたまた俺が悪いみたいな風潮にされかねないからな」
「……そんなの理不尽だよ。 お兄ちゃんが初めての男性IS操縦者になって学園に来たときはテレビの報道で政府関係者が『彼は日本の宝だ、これからの活躍に期待する』みたいな事、言ってたのにさ。 二人目の織斑君が見つかったら手のひら返したように織斑君ばかり褒めて、挙げ句は『有坂ヒルトは才能の欠片も無い。 彼じゃなく織斑千冬の弟、織斑一夏君こそ真の日本の宝だ』みたいな事言ってたもん……」
そういや、うちのクラスもセシリアとの模擬戦後は俺に手のひら返しで凄いみたいな事を言ってたが次、一夏が転入してきたらあっという間に一夏にクラス代表替われだもんな……。
今ではそんな声も少なくなってきているが、あくまで耳にしない範囲での事だからな……。
実際、学園祭でのコア奪還も生徒の間では一夏が奪還したみたいな感じに広まってるし、楯無さんがその説明をちゃんとやってはいるのだが、どうしてもランクEの俺が活躍したというよりもランクBの一夏が活躍したという方が信憑性があるらしい。
……まあ評価自体は気にしないのだが、美冬や未来、他の代表候補生にとってはちゃんとヒルトも全うな評価をしてくれと言ってるらしい……。
――だが、日本という国はどうしても活躍した有名人の弟となるとそちらを応援したくなる上、メディアでも好意的に取り上げてくれる。
反面無名の俺は対抗馬として取り上げても一夏との対比が精一杯だ――まあ、まだメディアへの情報統制がかかってる以上は無理だろう。
一応今度のキャノンボール・ファストではメディア関連の人も多数入るからそこで活躍すればもしかすると評価も変わるかもしれない。
前年度のコース内容を調べたら、専用アリーナのオーバルコースを三周回る、単調な内容だが――今年は専用機持ちが俺を含めて一年が十人、もし完成が間に合えば更識さん含めて十一人。
かなり混雑するが、多分単調なだけではなく二周目からは何か仕込む可能性も少なくないだろう。
――とはいえ、キャノンボール・ファストの訓練は来週からだし、今は過去のキャノンボールレースの録画等で確認してイメージトレーニングが先行だろう。
――というか、実はキャノンボール・ファストで使用出来る武器が近接戦闘の武器のみで、妨害とかあまり出来ないんだよな……今さら武装変更もする気無いし、俺は俺で頑張るしかない。
「まあいいじゃん。 政府が一夏推しでも俺は俺、注目されないなら気軽にやれるしさ」
「……そうだけど……でも、前に政府関係の人が話してたけど、織斑君を仮の代表候補生に推薦するみたいな事、言ってたし……お兄ちゃん、頑張ってるのに全然評価されないもん……」
「だから気にするなって、別に代表候補生になれなくても評価されなくても俺は俺さ。 モンド・グロッソに興味はあるが日本は代表候補生が多数いるし、激戦区だからな」
実際、日本はかなりの激戦区で美冬に未来、更識さんと専用機を持っていて、持っていない子でも代表候補生は上級生に居たりする。
それに加えて今の話が本当なら一夏も加わり(今のままなら驚異になるのは零落白夜だけだが)、更に篠ノ之に至っては代表候補生ですら無いのに専用機持ちだからIS加盟国からすれば喉から手が出るほど欲しい存在だし……まあ、実際は機体が欲しいだけかもだが。
――てか、よくよく考えると俺も代表候補生じゃないのに専用機持ちだな、まあこれは世界初の男子操縦者だからだろうが。
「何にしても、俺は俺さ。 な?」
「……そうだね。 でも、せめて私や美春、お母さん、お父さんはお兄ちゃんの味方だからね? 後、みぃちゃんも」
ニコッと微笑む美冬に、軽く頬をかくと。
「とりあえず、これなら出歩いても青アザバレないよな?」
「あ、うん。 腫れ具合の感じだと多分土曜日までには治ると思うよ。 それまでは朝、私が化粧しに来るね?」
「おぅ。 手間かけて悪いな、美冬」
「ううん。 ……でも、本当にお兄ちゃん、織斑君の事言わなくていいの?」
「……あぁ、織斑先生に言えば個人的な制裁はあるかもしれないが、そこから上層部に伝わって日本政府の耳に入れば捏造されて俺が悪く言われるかもしれないからな」
「……わかった。 じゃあ私も黙ってるね? いつか、日本政府を見返そうね、お兄ちゃん♪」
そう言って首に腕を回し、軽く額に口付けを落とす美冬。
――妹とキスしてから、何度も思うが美冬のスキンシップが過激になった――あくまで二人っきりの時だけだが。
口付けを落とした美冬は、そのまま離れると――。
「お兄ちゃん、青アザの事はわかったけど……こんな目にあって、お兄ちゃんが織斑君に誕生日プレゼントをあげる義理ってあるのかな? 美冬は……お兄ちゃん、参加しなくてもいいと思うけど」
美冬の言ってる事はごもっともだ。
確かに殴られて、なに食わぬ顔でプレゼント渡せるような感じでもないが――。
「一応行くって約束したしな……。 約束は破るためではなく、守るために存在するだろ? 約束守れなきゃ、駄目だし……」
言いながら俺はセシリアと約束して先伸ばしになっているデートを思い出す。
……セシリアが代表候補生というのもあって、中々機会に巡り合わないとはいえそろそろちゃんと約束果たしたいとは思う。
――美冬とも、デートに行こうって言って先伸ばし状態だし……ふむ。
「……お兄ちゃんがそう言うならいいけど……。 美冬は、やっぱり行かなくてもいいと思うよ?」
「……かもな。 でもまあ週末にシャルと鈴音と三人で街に見に行く約束してるし」
「……初耳なんだけど、お兄ちゃん?」
週末の予定を口に出すと、美冬のこめかみが僅かに動き、ニコッと微笑む。
「言ってなかったからな。 ……何なら美冬も行くか? シャルや鈴音には俺から連絡入れるし」
「……行きたいのは山々なんだけど、週末の日曜日って美春ちゃんが政府の人と会うらしいから美冬が付き添いなの。 お母さんはその日、確か何かのレセプションに呼ばれてたって言ってたし」
「そうか……。 てか母さん、何のレセプションに行くんだ?」
「わかんない。 帰るのは夜になるって夜の七時ぐらいって言ってたけど……」
――何のレセプションかはわからないが、一度俺は母さんにお金の催促をしなければいけない。
当たり前だが、国からの支援金の額が一夏より少ないため、殆どが備品購入や食事代に消えて手元に殆ど残らない。
アルバイトも、IS学園に所属してるとそんな時間はない。
女子の代表候補生はモデルとかの仕事や代表候補生としての給料が入るから良いものの、俺はそんなのすら無いため基本母さんに援助を頼むしかない。
一夏や篠ノ之が訊いたら未だに親から貰ってるのかよって言われそうだが、貰わなければ何も出来ない現状の状態だと仕方ないとしか言えない。
「……まあレセプションって言っても、そんなに仰々しい内容のレセプションではないだろ」
「そうだよね。 ……あ、そろそろお風呂の時間だ! じゃあお兄ちゃん、明日の朝、化粧しに来るからね? 部屋の鍵は開けててね♪」
そう言って慌てて化粧道具を片付けると、パタパタ足音をたてて部屋から出ていった。
時間を見ると、確かに大体の女子が風呂に入る時間帯だ――美冬としても、風呂で色んな子と喋りたいのだろう。
そんな風に考えながら、全く目立たなくなった青アザのある箇所を手鏡で見つつ、化粧の腕前の上達度に驚きを隠せなかった。
後書き
次回、お風呂の話
多分超下手な駄文になるかも
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