IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第376話】
土曜日、午後十二時。
土曜日は午前中の授業だけで終わり、午後は基本的には自由時間で、訓練しようが街に出掛けようが何をしても構わない。
一夏だが、あの模擬戦で思うところがあったのか、昨日は一人で特訓していたみたいだが、訓練メニューを一人で組んだことが無かったのか、やってることが瞬時加速や月穿の射撃等、一夏の得意な技能と授業で習った射撃訓練しかしていなかった。
意地を張らずに誰かに教わればまだ成長するはずだが、あれだと暫くはまだ無理かな。
授業が終わったいの一番、一夏は教室を後にして走っていったが……また訓練だろうか?
篠ノ之も後を追いかけていたが……てか廊下走るなよと言いたい。
――そんな考えをしてると、不意に声をかけられる。
「有坂、少し時間はあるか?」
帰り支度をしていると、突如織斑先生に声を掛けられた。
荷物を鞄に入れ、織斑先生の元へと向かうと――。
「はい、午後は特に用事は無いですね。 訓練するにしても今日はIS使わない訓練ですし」
本来ならISを使っての訓練が一番だというのだが、俺は違ったりする。
ホワイトボードに書いた数字、1~20までをランダムに書き(これは誰かに手伝ってもらってやる訓練)、その数字を読みながら指で指し、瞬間視を鍛える特訓を行っている。
これのお陰で俺は速読をマスターしたといっても過言ではない!
――って聞けば、IS関係無いじゃんって突っ込まれるが、瞬間視というのはISでも非常に役に立つのだ。
人間は視界に捉えたものは、認識はしても意識はしていなく、案外記憶に残らない。
――が、瞬間視を鍛えると、普段気にしないような素振りを見せたのが意識に残ったりする。
――と、いうとまた意味ないじゃんになりそうだが、ISはハイパーセンサーのお陰で周囲上下左右と全視界捉える事が出来るため、意識の向かない背後や上空も、何があるのかが意識に残る。
ぶっちゃけ簡単に説明すると、セシリアのオールレンジ攻撃は意識外、又は反応の鈍い位置や角度からの射撃を行うのだがその死角を補う事が出来るという訳だ。
別段人外の能力ではなく、目のいいスポーツ選手何かもこういった瞬間視は結構強化されていて、ISの場合は全周囲を見れるからこそ生きる瞬間視という訳だ。
それはそうと、織斑先生は何用で俺を呼び止めたのだろうか?
そう思っていると、織斑先生が――。
「私はこの後、用事があるので変わりに有坂先生が付き添うのだが。 お前のISランクを再度調査したいと一部の教師から提案があってな。 時間は大丈夫と言っていたし、早速向かうぞ」
有無の返事すら言わせない織斑先生に促され、俺はその後ろを追従していった。
暫く歩くと、到着したのが検査室だ。
その前のドアの前に立つと、織斑先生は開閉パネルにそっと手を触れると、圧縮空気が抜け、ドアが斜めにスライドすると開いた。
「有坂、既にお前の母親がスタンバイしている。 お前は指示通りにしろ、いいな」
「あ、はい。 では……失礼します」
スライドされたドアから内部に入ると、そこには見たことのない機械がそこにはあった。
当初、検査を受けた機械よりも高性能な物だとは思うが――と、背後のスライドドアが閉まる音が聞こえ、振り向くと既にドアは閉まっていた。
出るにはすぐそばの開閉パネルを触れば良いので問題は無いのだが……と、奥の機械の間から母さんが出てきた。
「うふふ。 ヒルト、授業お疲れ様ぁ」
ふわふわとした声でそう告げる母さんに、何故か安堵する俺。
検査室というのに過敏になっているのだろうか……俺は。
「ヒルト、早速で悪いんだけど……そこのスキャンフィールドに立ってくれるかしら? 出来れば微動だにせずに、あ、後ISスーツになってねぇ。 下に着込んでるでしょぉ?」
「あ、うん。 確かにISスーツ着てるが……制服だとダメなのか?」
「えぇ、出来るだけ裸に近い方が良いのよぉ♪ いくら親子でも、ヒルトだって私に全裸は見られたくないでしょぉ?」
首を傾げてそう告げる母さんだが、別段母さんに裸を見られるのは恥ずかしいとは思わない。
……まあ流石に欲望の塊を凝視されては恥ずかしくもなるが。
とはいえ、全裸は流石に色々まずい気がするので母さんの方を向いて頷き、制服を脱ぎ始める。
上半身を脱いだ所で母さんが――。
「あら? またヒルトの身体は引き締まったわねぇ~。 これなら、皆も見惚れちゃうわよぉ♪」
「……そうか? 普通に身体を鍛えてるだけだけど……」
「うふふ」
軽く微笑を溢す母さんを他所に、制服をハンガーに掛けて今度はズボンを脱ぎ、それもハンガーに掛けて直す。
鞄も近くの机に起き、指定されたスキャンフィールドの上に立つと――。
「ちょっと待ってねぇ。 今準備を終えるからぁ~」
そう言ってコンソールパネルが手元に投影され、そこから機械を起動させ、データ・スキャンの準備を進めていく。
間近で母さんの手捌きを見るが、コンソールパネルのタッチの早さが尋常ではなく、更に投影ディスプレイから視線を外すことなくまるで手足の様に準備が進んでいった。
「ん。 準備万端よぉ。 ヒルト、動いちゃダメよぉ? 人体に外の無いレーザーだから気にしないでねぇ~」
そう言ってキーボードが現れ、エンターキーを押すと、足元からリング状のスキャナーが垂直に浮き上がり、足の爪先から膝、腹部、上半身、頭部とスキャンされ、また折り返して頭から爪先まで念入りにスキャニングされていく――と、ここでピーッ!ピーッ!という音と共に正面のモニターには【error】の表示が現れ、また再度足の爪先から頭までスキャニングし、折り返すリング状のスキャナー。
そして改めて画面に表示されたIS適性【E】の文字が浮かび上がった。
……結局ランクEという罠。
改めて突き付けられる俺のランクに、軽く溜め息を吐くとそれは足元へと落ちていく。
「母さん、もう動いていいか?」
「………………」
母さんを見ながらそう言うが、返事はなく、普段見せない様な表情で母さん側に映し出されていたモニターを見ていた。
そのモニターは、機械に備わっているやつで此方からは全く見えない。
改めて正面のモニターを見直すも、そこにはIS適性Eの文字が変わらずそこにあった。
「母さん?」
「あ、ご、ごめんなさぁい。 おかしいわねぇ、今のヒルトならランクはAぐらいはあると思ったんだけどぉ……。 壊れてるのかしらぁ?」
そう言って機械を何度か叩く母さん――一応精密機械だから、あんまりそういう事はしない方がいい気がする。
とはいえ、もう叩いた後だから仕方ないのだが。
「あ、そうだ母さん。 悪いんだけどさ、お金の援助、お願いしてもいいか?」
「えぇ、良いわよぉ? 十万あれば足りるかしらぁ?」
……十万は多すぎる気がするが……。
「に、二万で大丈夫」
そう伝えると、母さんは口を手元で覆い隠しながら。
「あらぁ? 二万で良いのかしらぁ?」
軽く微笑を溢しながらそう伝える母さんに、俺は頭をかきながら――。
「さ、三万で」
「うふふ。 良いから十万持っていきなさいな。 男の子何だし、それぐらい無いとデート出来ないわよぉ」
十万も掛かるデートって何だろう……。
まあ一夏の誕生日プレゼントに少し欲しかっただけだが、残りは大事に使うか。
財布から出された一万円札十枚受け取ると俺は――。
「母さん、ありがとう」
「ううん~。 ヒルトは代表候補生じゃないからねぇ~。 美冬ちゃんや未来ちゃんは毎月支給あるからねぇ……。 お母さんの方でも色々働き掛けているんだけどねぇ……」
頬に手を当て眉根を寄せ、困った様な表情を浮かべる母さんだが俺には逆に一体どんなつてでそんな事が出来るのかがわからない。
だが、考えても答えは出ないのだから仕方ない。
とりあえず財布の中へとお金を入れると、そういえば美冬が母さんは明日のレセプションに出席って言ってた事を思い出し。
「そういや母さん、明日何かのレセプションに参加するとか訊いたが――母さん一人で行くのか?」
「うふふ。 今日あの人が帰国するから大丈夫よぉ。 連絡があってから帰国まで時間が空いたのは、多分財団本部に顔を出してたのかもねぇ~。 うふふ」
何気無く言ってはいるが、母さんの声色に喜色が満ちていて、久しぶりに会えるというのに喜んでいるのがわかる。
「俺も出迎えた方がいいかな、母さん?」
「うふふ。 ヒルトはお父さんに久々に会えるのが嬉しいのかしらぁ?」
母さんの指摘に、ぎょっとし、少し狼狽するが――。
「い、いや、違うし。 てかそんな事言われたら出迎えにいけないから母さんに任せる」
鼻の頭を掻いてそう言うと、母さんは柔らかな笑みを浮かべながら――。
「うふふ。 わかったわぁ。 お父さんを出迎えたらお母さんはそのまま学園に、お父さんは家に戻るから何かあれば連絡するといいわよぉ」
「あ、あぁ。 てか親父、家で一人って何か寂しいな」
「うふふ。 そうねぇ~。 いっそ、あの人もここに来れば良いんだけどねぇ~」
何気無い言葉だが、親父が教師ってのは想像出来ない。
てか流石に親父は教員免許なさそうだし……。
「さて、お母さんはここの戸締まりをするから貴方は先に帰りなさいな。 ランクE表示でも、ヒルトはヒルトよ。 気にすること無いわよ?」
「え? まあ別に気にしないが……こうも変わらないと何かある意味凄いなって。 まあランクの格差で決まるのは待遇ぐらいだし、対して気にしないさ、俺はな」
「うふふ。 じゃあ、お母さんに何か用事があれば職員室かクサナギのある海側倉庫のどちらかに居るからねぇ~」
そう言い、手をひらひらと母さんが振るので制服に着替え、鞄を担ぐと俺は開閉パネルに触れる。
来た時と同様に、圧縮空気が抜け、斜めにスライドしてドアが開くとそのまま検査室を出る。
閉まるドアの奥の母さんを見ると、さっき見せた様な表情を浮かべてデータを見る姿が見えたが、スライドしたドアが閉まった為、その姿は向こう側に消えてしまった。
多少疑問に思うも、俺は一旦部屋に荷物を置くため、その場を後にした。
一方、検査室に残った有坂真理亜は――。
「【測定不能】……ねぇ……。 可能性は無限大って意味なのかしら、それとも……測定させるつもりが無いのかしら……。 ……何れにしても、お母さんとしてはヒルトはヒルトですもの……。 データはEとして提出ねぇ~」
そんな囁く様な呟きが検査室に消えていくと、プリントアウトしたヒルトのフィジカルデータをクリアファイルに挟み、電源を切って有坂真理亜は検査室を退出した。
後書き
THE検査
とりあえずこれで納得祭だな(b^ー゜)(ぇ
瞬間視の話はまあ人によって捉え方違ったりするかもです
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