IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第386話】
次の日の月曜日、今週から本格的なキャノンボール・ファストへ向けての訓練や授業が始まる――のだが、その日の放課後、生徒会室へと呼ばれた俺と一夏は、楯無さんから――。
『今日から君たち二人の貸し出しが始まります。 名付けて、【生徒会執行部・有坂緋琉人及び織斑一夏貸し出しキャンペーン】!』
――と、同時に布仏姉妹のクラッカーが鳴り響いたのだが……まあそれは良いとして、現在、IS学園にあるテニスコートの脇に、俺と一夏は居た。
貸し出しに関しては、今回ビンゴ大会で一位を獲得したテニス部へと出向となり、現在、二面あるコートで激しい激戦が繰り広げられていた。
この理由は、何処から漏れたのかはしらないが、一夏のマッサージがとてつもなく気持ちいいというのを聞いたテニス部一同が『織斑一夏のマッサージ権獲得トーナメント』を企画し、今現在に至る。
因みにルール何かよくわからない俺は、ひたすら回される雑用に手をつけている。
生徒一人一人に配る、薄めたスポーツドリンクの用意やら、タオルのセット、他には必要なのかわからないが『何故か』各々が飲みたいジュースの使いっぱしりで、袋いっぱいに缶ジュースを買い終え、戻ってきた所だ。
因みに一夏はというと、既に予選落ちしたテニス部女子に、俺が用意したスポーツドリンクやタオルなどを手渡していた。
……これって、明らかに差が出てるよな。
一夏はマッサージというのがあるから、テニス部面々は雑用は俺一人に任せればいいみたいな事を言っていたが……一応、楯無さんに報告しないと。
額の汗を、予め用意していた自分のタオルで拭っていると――。
「有坂ー! ジュースまだかー!?」
「……絶対、俺と一夏で差が出てるよな、これ」
とりあえず買ってきたジュースの袋を持ち、俺はそれを部員達に運んで行くと――。
「有坂、遅い! ジュースの購入にいつまでかかってんのさ!」
「……すみません」
頭を下げる俺――だが、部員一人一人の欲しい飲み物が、寮の自販機コーナーや学園側の自販機、駅や公園内とバラバラの中、必死で走り回って買ってきた俺に対してこの仕打ちは酷いぞ……。
……女尊男卑、嫌になる。
とりあえず買ってきたジュースの袋をベンチへと置くと、直ぐ様そこからジュースを取り出す部員――。
「ぅわぁ……温いじゃん! 有坂、ちゃんと冷えたのを買ってきてよ!」
「……すみませんでした」
頭を再度下げて謝るのだが、そう言うのであれば一夏にも買い出しさせろよと言いたい。
だが、正直走り回って体力的にも精神的にもキツく、言い返すのも億劫なので謝るだけに止めた。
一方の一夏はというと――。
「試合、お疲れ様でした」
「うぅ……織斑くんのマッサージ、受けたかったのにぃ……」
「ははっ……。 はい、薄めたスポーツドリンクとタオルです、どうぞ。 皆さんも」
「キャアッ! 織斑くんが用意してくれたの!? ありがとーっ♪」
――という感じで女子部員にモテモテで、俺の用意したタオルやスポーツドリンクを配っていた……不公平だ。
「有坂ー、休憩してる暇があるなら、他にもやることがあるだろー!」
「……了解っす」
重くなった身体を起こすと、額をタオルで拭って俺は別の雑用を始めた。
――部員一人一人のテニスラケットを纏めるだけだが、何度も屈むので腰に負担が掛かってくる。
というか、無造作に自分達が使う道具をその場に置いとくってのはどうかと思うのだが。
テニスラケットを回収していると、決勝戦が始まるらしく、雑用を続けながら俺はそちらに視線を移した。
決勝戦にコマを進めたのはセシリアとテニス部員Aだ。
――というか、名前わからん。
「いきますわよ!」
サーバーがセシリアで、レシーバーが部員Aの様だ。
高々と上げたテニスボールをサーブするセシリア、その威力は凄まじく、レシーバーの子は――。
「……ぐっ! な、何て重い球を!」
そう言って打ち返し、暫くラリーが続いていく。
「ふふっ、その程度の返球では……!」
コートをフルに使い、相手選手を右、左、右と徐々に大きな動きで捌く対戦相手の体力の消耗が大きくなり、そして――。
「ああっ!」
ボールにラケットが届かず、まずはセシリアが先制した。
――てか呑気に見ていたら、また何言われるかわからないしさっさと集めるかな。
あまり腰に負荷がかからないように気を使いながら、部員のテニスラケットを集め、名前順に置き直していく。
そうこうしている間に、セシリアが決勝戦を制して一夏のマッサージ権はセシリアのものとなったのだが――。
「こほん。 わたくしは織斑さんではなく、ヒルトさんにマッサージを所望致しますわ! ですから、織斑さんのマッサージは先輩に差し上げますので」
「へ……? ――やったぁぁぁぁッ! 何だか知らないけど、棚からぼた餅って奴ね♪ セシリア、ありがとー!」
まるで優勝したかの様な喜び方をする準優勝した部員A。
周囲の女子部員が、いいなーという声をあげる中、セシリアは真っ直ぐと俺の元へと向かってきた。
「セシリア、お疲れ様。 ……優勝おめでとう」
「うふふ、ありがとうございます。 少し疲れましたが、何とか優勝する事が出来ました」
ニコッと微笑むセシリアに、タオルを手渡そうとするが、そういや一夏が――と、思ったらワンセット残っていたので、使用されてないかを確認すると、俺はそれを持ってセシリアに。
「先ずは水分補給だな。 薄めてあるけど、流れた汗の分は補給出来るさ、これがな」
キャップを外して手渡すと、セシリアは受け取ってお礼の言葉を俺に言った。
「ありがとうございます、ヒルトさん♪ ……すみません、ヒルトさん。 貴方ばかりに雑用を押し付けて――もぅっ、織斑さんもいらっしゃるのに、ヒルトさんばかり酷使して……!」
目尻を釣り上げ、軽く怒った表情を見せるセシリア。
「……まあ女尊男卑だからな、でも正直楯無さんには俺が酷使される様な不当な事があれば報告をって言われてるんだよな……。 案の定、酷使されたし」
「……すみませんヒルトさん。 テニス部を代表して、わたくしが謝りますわ……」
そう言って頭を下げるセシリアを見て、ギョッとし、目を見開くと俺は――。
「せ、セシリアが謝る事じゃないだろ? ……ほら、頭を上げてくれよ」
「は、はぃ……。 ……ですが、ヒルトさんが此方に派遣されなくなると思うと……とはいえ、部活以外でも会えますわね」
「そ、そうだな。 派遣に関しては俺だけじゃなく、一夏も派遣されなくなるが。 ……まあとりあえず、汗を拭かないと――」
そう言ってタオルを差し出そうとしたその時――。
「コラーッ! オルコットさんを口説く暇があるなら球拾いしてこーいッ!」
そんなテニス部部長の声が響き渡り、俺は立ち上がろうとするのだが――。
「待ってくださいな。 部長、ヒルトさんばかり酷使するのではなく、織斑さんも同様の扱いをしていただきませんと……」
「ちゃんと仕事の区分けはしてるじゃん。 織斑くんはこの後マッサージするから雑用としてスポーツドリンクとタオルの配布。 有坂はその他雑用、公平でしょ?」
――どこがだよ、そもそもスポーツドリンクだって俺が用意してタオルだって使いやすいように用意した上に、学園走り回ってジュース買ってきたのに――一夏はそのスポーツドリンクとタオルを手渡すだけじゃないか。
――と言えばブーイングの嵐なのでぐっと堪える。
「……更識生徒会長が言っていましたわよ? ヒルトさんを不当に扱えば、その部活への派遣は無くなる――と」
「……それって有坂だけの話じゃ――」
「甘いですわ。 そんな甘い考えですと、派遣されなくなった時に、わたくし達全員が後悔する事になりますわよ?」
セシリアのその言葉に、部長の表情が一変して――。
「あ、有坂……くん? き、今日の事は更識生徒会長に報告……しないでくれるかな? お、お姉さん、君を思って敢えて厳しくしていたんだし……ね?」
なんという手のひら返し、一夏まで来なくなると思うとここまで手のひらを返せるとは、正直感心してしまう。
とはいえ、起きた事実は伝えないといけないからな。
「残念ですけど、報告だけは確りと念をおされてますので」
「そ、そこを何とか…………。 ほ、ほら、オルコットさんだって君を待ってるんだし……ね?」
「……わたくしは、ヒルトさんに会おうと思えば連絡方法もありますので……」
ピシャリとそうセシリアが告げると、へなへなてその場で座り込み――。
「そ、そんなぁ……。 あ、有坂くん! 御慈悲を! どうか我がテニス部を助けると思って! せめて報告は少し酷使された程度でお願いします!」
必死でそう告げるテニス部部長が哀れに感じ、俺は――。
「……わかりましたよ。 少しだけ目を瞑ります」
「あ、ありがとー有坂くん!」
それだけを言って、一夏の周囲に集まった部員の元へと戻る部長さんの後ろ姿を眺め――。
「……ヒルトさんは優しすぎますわ」
「……いや、何か彼処まで手のひら返されてああいった応対になると何だか哀れに思えてな。 ……まあ良いじゃん。 てかさ、話変わるけど何で俺のマッサージが良いんだ?」
そう聞くと、タオルで顔を拭いていたセシリアが――。
「生徒会長が自慢してましたわ。 初めてのマッサージなのに、なかなか御上手だと。 ……不公平ですわ、ヒルトさんのファーストキスはラウラさんに奪われ、初マッサージは生徒会長に奪われ、もうヒルトさんに残ってるのは……」
言葉が途中で止まるセシリアに疑問を感じ、顔を覗き込むと白い顔が真っ赤に染まっていた。
「……ヒルトさんッ! ですから、今日は念入りにマッサージしてくださいな! ちゃんとお風呂に入ってから来ますので!」
怒濤の剣幕に、若干たじろぎつつも俺は――。
「わ、わかった。 ……でも九時半までだからな? それ以上長居すると、教師に問題にされるから」
「うふふ、大丈夫ですわ♪ では、八時半に伺いますので、ヒルトさんも八時までには汗を流してゆっくりしていてくださいな♪」
にこりと微笑むと、セシリアは再度スポーツドリンクを一口飲み、喉を潤した。
……マッサージか、下手くそが筋肉触るのは不味いんだが……後、柔肌に触れるのも色々不味い気がする。
とりあえず、部活への派遣はこれで終わり、俺は楯無さんに派遣報告を済ませた。
一応ある程度の不当な扱いは目を瞑って報告をしなかったのだが、それでも暫くはテニス部への派遣はなくなったというのは、また別の話……。
後書き
原作マッサージ編が次辺りに
さて、どうなるか( ´―`)
ヒルトの扱いがーって人も居ますが、こんなものです、女尊男卑なら( ´艸`)
しかもあの世界の女尊男卑はOLとか女子高生が偉そうで、権力者は男という罠( ´艸`)
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