IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第385話】
――寮への帰り道――
街に出掛けてる生徒もまだかなりの数が居るのか、帰り道は特に女子生徒とすれ違う事無く、シャルと共に会話もなく帰路についている。
話すことが無いのではなく、俺としては気恥ずかしさがある故の結果だが――と、シャルが俺の方へと顔を向ける。
「ひ、ヒルト? 少し聞きたいことあるけど大丈夫かな?」
「ん? もちろん構わないぞ、どうした、シャル?」
そう言って一旦足を止めると、シャルは――。
「ひ、ヒルトって、普段音楽とか聴くの?」
「え? たまに聴くぐらいだな、最新曲何か全くわからないから、古い歌ばかりだが。 まあ流行ってるからって直ぐにそれに飛び付いて前のを聴かなくなるとか、勿体無いしな」
「そ、そうなんだ。 ふ、フランスではね、日本のアニソンが結構人気あるんだよ? 日本からも芸能人や漫画家の人が来たりしてるって」
そういや時折そんなニュースを聴いたりするな……日本文化の一つになり始めてるアニメーションと漫画、まあそれも馬鹿な政治家が何かの条例を通そうとして規制しようとしてるのだが……意味がわからん。
「シャルはアニソンとか聴くのか?」
「う、うん。 日本の邦楽も聴くけどね? アニソンはアニソンでいい曲もあれから――あ、き、興味……ないよね?」
「え? 俺もアニソン好きだし、興味あるぞ? 世間一般では、アニソンとかキモいって思う奴等もいるが、最近だと有名なアーティストがタイアップしたりしてるし。 まあアニメに合わないと意味がないけどな」
「そ、そうだね。 ……良かった、ヒルトにドン引きされるんじゃないかなって、少し心配してたんだよ?」
そう言ってニコッと笑顔を見せるシャル。
俺は音楽に対して特に偏見は無いからな……てか、良い曲は良い曲何だし、否定する気は無いからな。
「大体の事に関しては理解できるから大丈夫だぞ? 音楽か……ここに来てからカラオケいってないな……。 まあ、歌いたかったら部屋で歌うけどな?」
「そうだね。 あ、でも静かに歌わないと、隣の人に怒られちゃうからね?」
そう言って釘を刺すシャルは、また歩き始めると俺もその歩幅に合わせて歩き出す。
「そ、そうだ。 話は変わるけどね? 最近本国から送られてきたISの新装備、試してみたんだけど結構良かったんだよね。 撃ってみてわかったんだけど、連射速度とか装填弾数とか、これなら村雲・弐式や天照の第三世代兵装の迎撃も抜けると思うよ!」
そのシャルの言葉に、ちょっと想像するがクアッド・ファランクスから放たれる四門の火砲ですら第三世代兵装の迎撃を抜けなかったのに、新装備はそれほどの自信作なのだろうか?
まあ……どちらにせよ、シャルの射撃能力が強化されたことに違いはない――新装備出すなら、出来るだけ人の役に立つ装備を開発しろよと思っても、今現在人がISに求めてるのはバトルなのだから仕方ないのだろう。
だからといって、シャルとかを否定する訳ではないが。
「そうか。 ならキャノンボールではますますシャルを警戒しないといけないな」
「ふぇ? ――あぅ……て、敵じゃないからね、僕?」
「ハハッ、レースの時はライバルだよ。 俺はシャルを敵だなんて思った事無いんだし」
そう言って頭を撫でると、安心したようにホッと息を吐いたシャル。
「良かった。 ……キャノンボール、お互い悔いの無いように頑張ろうね?」
「勿論だ。 ……てか、それよりもまた襲撃されないかが心配だな」
「あ……そ、そうだね。 でも警備は強化するって言ってたよ、先生達」
「……確か民間の警備会社のだろ? 自衛隊の派遣は無いみたいだし、日本政府も学園上層部も楽観視し過ぎだ。 今年はイレギュラーな事態が多いのだから、警戒して損は無い筈だし」
まあそれでも、観客の避難誘導とかに人を割かなくてすむのはありがたいと考えれば良いのかどうか……。
「確かに、今年はIS関連の事件が多いよね? いつもなら毎年あっても、一件か二件ぐらい何だけど……。 一年生に専用機を持った子が集中してるのは、多分どの国もヒルト、又は一夏が起因してるかも」
「ふむ……。 何か災いして世界大戦にならなければ良いんだけどな」
「……そうだね。 もし、世界を巻き込む戦争になったりしたらどうなるかわからないもん。 ……いつか、僕もラウラ――ううん、戦争が仮に始まったら、皆が自分の手を汚さないといけないのかもしれない……」
両手を見て、ぎゅっと拳を作るシャル――軍事利用禁止なんてものは形骸化してるから、確実にIS操縦者は前線に駆り出されるだろう。
IS一機あれば国防が賄えるとは誰が言ったか忘れたが、生憎とそう上手くいかないのが戦争だ。
都市の制圧には今も歩兵が必要――ISでも補えなくはないが、一機では都市の制圧は不可能だろう。
それに、ISはISでなきゃ倒せないというのも……事実、クアッド・ファランクスで沈む機体も存在する以上、もし街の無数のビルに複数高射角砲なり対空砲が備わっていたら、ISが降下する前にお陀仏で機体は接収、操縦者は兵士の性の捌け口になるだろうし。
――というのは親父の談、まあ何にしてもISが絶対無敵では無いという事だ……戦争になれば、あらゆる兵器との連携によって、絶大な効果を発揮する機体とはいえるかもしれないが。
俺はシャルの頭を撫でると――。
「先伸ばしにするみたいだが、その時に考えよう? パワーバランスは危ういが、早々に戦争を起こそうなんて考える国なんか、中国とかアメリカ、ロシアぐらいしか思い付かないが……多分大丈夫さ」
「……うん。 そうだといいな。 ……僕は、大会で試合をするのは良いけど、君の敵にはなりたくないもん」
「ハハッ、それは皆そう思うさ。 俺も皆の敵にはなりたくないしな。 人を手にかけたいとも思わないさ。 ……てか、こんな話は気が滅入るな、それよりも晩飯の話の方が楽しいし」
俺がそう言うのと同時に、腹の虫が鳴り響いた。
その音を聞き、クスクスと笑みを溢すとシャルは――。
「そういえばお昼のスパゲッティから食べてないもんね? ホットドッグも買えなかったし、他のたこ焼きとかも人がいっぱい並んでたしね」
「そうなんだよな……。 ったく、あのスパゲッティ一皿のお金があれば、ファーストフードでたらふく食べれるのに」
「フフフッ、相変わらず食いしん坊さんだよね? でも……嫌いじゃないからね」
覗き込む様に見上げ、笑顔を見せるシャルは、更に口を開く。
「じゃあ、帰ったら一緒に食事を摂ろう? ラウラやセシリアも誘って、たまにはね?」
「だな。 後は鈴音と美冬に未来に美春と――大人数だな」
「うん。 二人で食べるのも悪くないけど、皆と一緒にっていうのも僕は好きだからね♪」
目映いばかりの笑顔でそう言うシャル――と、向こう側から篠ノ之が歩いて来るのが見えた。
「おっす、篠ノ之。 何してるんだ?」
「む? ……貴様には関係無いだろう。 ……全く、一夏の奴、何処に行ったというのだ……」
ぶつぶつと呟きながら、俺達が来た道へと移動していく篠ノ之。
「……篠ノ之さん、ヒルトを毛嫌いし過ぎだよね。 ヒルトもあまり構わない方が良いんじゃないかな……? ヒルトがストレス溜めちゃいそうだし」
「……だからといって、放っておく訳にはいかないしな。 クラス代表である以上、気にかけないと……俺も正直言えば、関わりたくないが、そう言って見捨てたら、多分誰も彼女を本気で構わなくなるかもだし……」
今の篠ノ之の交遊関係は、専用機のおこぼれを狙う女子と一夏ぐらいしか居ないし……。
「まあ篠ノ之の話はここまでだ。 寮の食堂入り口前で集合でいいかな?」
「うん。 僕はそれでいいよ。 じゃあ、僕はラウラとセシリア誘うから、ヒルトは他の皆をよろしくね?」
「了解した。 ――っと、もう寮目前だし、じゃあ十分後にな?」
「うん!」
力強くそう返事をしたシャル。
絶やさぬ笑顔が、俺にはいつも眩しく見えた――。
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