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ハンドレッド――《紅き髪の異邦人》

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【ハンドレッド――《ヴァリアント覚醒》】
  【第一話】

 この世界での戸籍を手に入れた赤髪の青年――戸籍登録された名前は【カーマイン・ヴァンヘルム】。

 無論偽名なのだがこのカーマインという名前だけは本物だった。


「あぎゃぎゃ、三年は長かったが……まあ仕方ねぇな」


 ニッと白い歯を見せたカーマイン――耳に届くプロペラの音、眼前に見えるのはリトルガーデンと呼ばれる学園都市艦だ。


「そろそろ到着です」

「あぎゃ、分かったぜ」


 パイロットの報告に返事をしたカーマインは座席に深く座り、着陸を待つ。

 今日この日、学生となるカーマイン――年齢は十五で登録――無論見た目からもそれぐらいに見えるぐらい若々しい。

 実際三年前と容貌に変化は見られない――というのも平行世界を行き来する人間は人の理を外れた異邦人だからなのか、老いる事が無くなるとか。

 無論永遠に生きるのは呪いに近い、だが――カーマイン自身は永遠の時を生きるのに抵抗はなかった。

 暫くすると着陸体制をとった輸送機が上空を旋回後にリトルガーデンへと降り立つ。

 輸送機には入学する生徒が何名か乗っていた――だがカーマイン自ら積極的にコミュニケーションを取ろうとは思わなかった。

 着陸後、タラップを降りボストンバックを担いだカーマイン――。


「……海の感じだけは何処も変わらねぇな……」


 そんなカーマインの呟きはカモメの鳴き声に消されていく――変わらぬ洋上の景色を見ても仕方ないと思ったのか、入学式まで時間があることもあってかカーマインは一人、学園都市艦を散策し始めた。

 海上学園都市艦リトルガーデン、総面積が四平方キロメートル以上もある巨大空母。

 その空母の上には人が暮らせる都市が存在している。

 カーマイン自身、この三年でリトルガーデン以外の空母を見たことはあるものの、それら全ては沿岸に接岸されていた。

 だが――こうやって常に航行する空母は存在しない――カーマインが居た世界にもこれ程の規模の物は存在しなかった。

 突き抜けるような青空、降り注ぐ陽光――ミラーガラスがあるようには見えない。


「ふん……。活気はありそうだな」


 道行く人を見るカーマイン――とはいえ、主に見てるのは女ばかりだが。

 話は戻ってこの空母リトルガーデンはリベリア合衆国に本社を持つ。

 戦闘機及び軍用艦の開発、製造会社でもあり、民間軍事会社でもある《ワルスラーン社》によって、対侵略者用の拠点として専用武装兵器《ハンドレッド》の研究開発。

 そしてそれらハンドレッドを用いて戦う武芸者の育成の為に開発、製造、運用されている――統括した巨大空母といえる。

 空母の敷地面積の大半が軍事基地及び武芸者を育成する為の施設に当てられている。

 腕時計で時間を確認したカーマイン――いつまでもボストンバックを担ぐのも面倒だと思い、一路寮へと向かう。

 暫く歩くと視界に白い洋風の建物が見えてきた、周囲に建物はなく、前以て見た寮案内の資料に外観が載っていたので間違いはないだろう。

 迷うことなく敷地内に足を踏み入れ、入り口付近の壁にはリトルガーデン武芸科の校章、そして寮であることを表すプレートが飾り付けられていた。

 入り口の扉を開くと、カーマインの目に映ったのは予想外の出来事だった。

 男が男を『押し倒している』光景――それも華奢な銀髪の男が黒髪の男を押し倒しているという有り得ない光景。

 暫しの沈黙が流れる――。


「ち、違っ! わ、悪いがちょっと退いてくれないか!?」


 語気を強めに、上に乗る銀髪の男にそう告げた黒髪の男。

 状況を理解したのか慌てて銀髪の男が――。


「ああっ、ごめんっ! き、君も勘違いしたらダメだからね!?」

「…………」


 勘違いとは一体――カーマイン自身、男が男とって考えがなく――。


「……別に、お前らが男同士でイチャイチャしてようが俺様には関係ねぇよ」


 カーマインにとってはどうでも良かった――そんな矢先に、笑い混じりの陽気な声が聞こえてきた。


「おいお前ら。いきなりイチャイチャして、仲が良いもんだな。そいつもあんまりの出来事でびっくりしてるじゃないか」


 声の主に視線をやる三人、呆れたような笑みを浮かべた長身の青年が立っていた。

 髪は短い金髪、制服も真新しいから新入生だろう。


「いや、イチャイチャって……そういうのじゃないから。こいつがいきなり抱きついてきて、そんなところにそいつが入ってきて――」


 必死に取り繕おうとする黒髪の男に、現れた金髪の男は――。


「ああ、そいつはお前に会いたい会いたいって言ってたからな」

「あぎゃ……。それは良いがいい加減自己紹介してくれてもいいんじゃねえか?」


 カーマインは呆れたようにそう告げる――男四人集まって自己紹介も無しは変に感じただけなのだが。


「すまない、自己紹介が遅れた。俺はフリッツ・グランツ。この男子寮に一年の中で最初に入ったって事で仮の一年のリーダーをすることになった。これからよろしくな、噂の新入生。そっちの新入生もよろしく」

「噂の新入生?」


 カーマインがそう聞くと、フリッツが――。


「知らないのか? ハンドレッド適性試験で歴代一位の反応数値を叩き出した期待の新入生――それが如月ハヤトさ」

「あぎゃ、悪いが男に興味は無いんでな。……俺様はカーマイン・ヴァンヘルム。好きに呼んでもらって構わねぇぜ」


 カーマインも素っ気なく自己紹介した。

 ――反応数値というのは、適性試験での際にハンドレッドに触れ、測定したものの事である。

 カーマインも適性試験で触れたものの、反応数値は平均より少し上ぐらいだった。

 知識もそれなりにしかないカーマインは新入生の中でも有象無象の一人――この時の評価はフリッツ自身そう思っていた。


「カーマインだね。僕はエミール・クロスフォード。ブリタニア連邦、グーデンブルグ王国出身で、ハヤトと同じ武芸科の新入生だよ」


 何かとハヤトハヤトというこの中性的な男がエミールかとカーマインは思う――だがカーマインは妙な違和感を感じた。

 男で華奢な身体つきは居なくはない、だが制服越しとはいえある程度筋肉がついていて多少ガタイが男らしいのが殆どの中で、はっきりいえば女にしか見えないエミール。

 そして声変わりしてないのか、高めの声と決め細やかな肌――。

 一瞬怪訝な表情を浮かべたカーマインだったが、小さく口角を釣り上げると――。


「あぎゃ、よろしくなエミール『ちゃん』」

「……僕、男の子だよ? エミール君じゃないの?」

「あぎゃぎゃ、すまないな。あんまり華奢な身体だったんで――」

「そ、育ち盛りだからこれから大きくなる予定だよ!」


 カーマインの失礼な応対に頬を膨らませたエミール――だがカーマインはますます疑念を抱いた。


「最後は俺か……。如月ハヤト、よろしくな」


 そう言って手を差し伸べてきたハヤトに、カーマインは――。


「あぎゃ……男と手を握る趣味はねぇが……。よろしくな、如月」

「ハヤトで良いさ」

「あぎゃ、わかったぜハヤト」


 差し出された手を握り、握手を返す。

 言葉遣いは悪いがこういった礼儀に対して筋は通す奴なんだなとフリッツは思う。

 フリッツもハヤト同様に握手を求めて手を差し伸べると――。


「あぎゃ……よろしくな、フリッツ」

「よろしく、カーマイン」


 そんなややり取りの最中、エミールは羨ましそうにハヤトの手を見ると――。


「いいな、皆ハヤトと握手して。僕もハヤトと握手したい」

「いや、今更握手して挨拶なんて必要ないだろ……。出会い頭の強烈な挨拶があったんだしさ」


 そう言ってハヤトはさっきのやり取りを思い出す、中性的な顔立ちゆえにドキドキしてしまったのだと無理矢理納得した。


「っと、そうだ。今からお前たち三人を部屋に案内するから着いてこい。それが新入生リーダーの俺の役目なんだ。まだ部屋に案内していない新入生は、お前たち三人だけだからな」


 そう言って歩き出すフリッツに、ボストンバックを担いでカーマインも後に続く。


「ハヤト。行こう」

「お、おう」


 二人のやり取りを背中で聞いたカーマインは思う――。

(……平和そうだな、後ろの二人は)

 僅かに笑みを見せたカーマイン、だがそれも一瞬の事であり大人しくフリッツの後に続くのだった。 
 

 
後書き
あら嫌だ、カーマイン( ´艸`) 
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