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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第646話】

 自由行動も終わり、疎らながらも旅館に戻る学園生徒達。

 様々な文化遺産巡りをした者、観光街で土産物を買った者、体験イベントに参加した者――後は、観光客に一緒に写真をお願いされた女性専用機持ちも居たり、一夏の様にひっきりなしに求められたりと様々だった。

 一方で昨日の夜から行方を眩ませていた千冬が戻ってきたのも同時刻、夜は京都の自衛隊屯所で原田晶一尉との被害状況の再確認と怪我した者達への慰問。

 朝からは京都府知事へ今回の事件の失態の謝罪などに回っていた。

 大人の自分達が戦わない以上、失態や失敗の責任をとるのが指揮官としての役目――とはいえ流石に表情に疲労の色が見え、食事するまでの合間に休憩しようと部屋に戻るのだった。

 遅れて戻ってきたのはヒルトとソフィー、いぬきちだった。

 完全にいぬきちはヒルトになついていて、着いてきてしまった。


「いぬきち、腹減ったか?」

「わんっ!」

「あははっ、いっぱい歩いたから疲れたのかなー?」

「わわんっ」


 舌を出して嬉しそうな表情を浮かべたいぬきち――とはいえ旅館内に犬を入れて良いのかがわからなかった。


「ヒルト、いぬきちどうする……?」

「ん? 野良っぽいしこのまま京都に残しても保健所に連れていかれるだけだしな。 悪いけどソフィー、織斑先生か山田先生に学園に連れて帰っていいか聞いてくれないか?」

「うん、わかったよ! じゃあ先生探してくるね!?」


 タタッと旅館内に入っていくソフィーとは入れ違いで戻ってきたのは簪だった。


「ヒルト……? ……ワンちゃん?」

「よぉ簪、今戻ってきたのか?」

「うん。 自由行動だったから京都のアニメショップ巡りに……」


 簪が持つ袋からは土産物が見えるも、大半はアニメグッズやらタぺストリーだった。


「そっか、ネットで買わないのか?」

「ネットで注文もするけど……。 実物も見たいから」

「成る程。 因みにどんなのを買ったんだ?」

「え……と。 ……日常、系」


 開いて見せたタぺストリーやグッズには可愛いアニメの女の子が描かれていた。

 ヒーロー系以外も見るんだなと思っていると――。


「わふっ、わんっ」

「ヒルト……このワンちゃんは?」

「ん? 清水寺に向かう途中で出会ったいぬきちだよ」

「わんっ♪」


 キラキラした眼差しで簪を見上げたいぬきち、簪は屈むと優しく頭を撫でた。


「……可愛い」

「人懐っこいしな、野良だけどこのまま放っておいたら保健所に連れてかれるから出来たら学園に番犬的な感じで連れて帰りたい」

「でも、シャイニィも居るから……」

「ん? にゃん次郎は一夏預かりだろ? まあ俺の部屋によく来るけど」

「ヤキモチ妬かないといいけど……」


 まあ可能性はなきにしもあらずといった所だろう――と。


「ヒルトー。 織斑先生連れてきたよー」

「ヒルト、ソフィーから犬を連れて帰りたいと聞いたのだが、どういう事だ?」


 ソフィーが織斑先生を呼んで戻ってきた。

 腕組みしたまま険しい表情の織斑先生。

 確かにいきなり犬を連れて帰りたいと言われれば、そんな表情になっても仕方がないとも言えるのだが――と。


「わふっ♪ ハッハッハッ♪」

「む?」


 織斑先生の声を聞いたいぬきちが嬉しそうに近付いていく――尻尾を振り、期待に満ちた瞳で見つめていた。


「お前は昨日の……」

「わんっわんっ!」

「え? 織斑先生、いぬきち知ってるんですか?」

「あ、いや……。 昨日人懐っこくきたビーグル犬と会ってな。 ……そうか」


 何か思うところがあったのか織斑先生は屈むと優しくいぬきちの頭を撫でた。

 気持ち良さそうに目を細めていると不意にお腹の音が鳴った。


「……くぅん」

「む? お腹空いたのか? ……少し待ってろ、有坂、更識、ヴォルナートの三人はいぬきちの面倒を頼む。 私は近くでペットフードを買ってくる」


 言ってから足早に近くの店舗に向かった織斑先生。

 ちょこんと座り、尻尾を振るいぬきちを三人は眺めながら織斑先生を待つのだった。

 日は黄昏、夕陽が傷付いた京都の街並みを赤く染め上げる中をウィステリア・ミストは歩いていた。

 白銀の髪も夕焼けで赤く染まっている――角度によっては鮮血を浴びたようにも見えるかもしれない。

 無論ウィステリア・ミスト自身の手は血に染まっている――人は何時の時代も、常に愚かな選択をしてきている。

 ウィステリア・ミスト自身もその方法しか取れなかった――そうしなければもっと悲惨な事になっていたのは明白だった。

 だが未来は不確定なもの、一石を投じて生じた波紋は規則正しく拡げるも、何かが起きればその未来はまた変わる――。

 シルバーからの報告にあったエネルギー波長は何れにも当てはまらない物だった。

 ウィステリア自身が投じた一石がもたらした結果なのかはわからない。

 だけど、漆黒の宇宙――太陽系の外から感知したエネルギー波長。

 ウィステリア自身何かが近付いていくる――そんな悪い予感が過る。


『……トゥルース』

『はい、どうしましたか?』

『場合によっては君の機能の開放も視野に入れなければならない。 多大な負荷をかけるかもしれないが――』

『大丈夫ですよマスター。 ……融合した他の子達も力を貸してくれますから。 ……それに、【拡張形態移行(エクステンデット・シフト)】を行わなければ――』

『ん、そうだな。 ……だがそれすらも視野には入れないといけない、忘れないでくれ』

『……わかりました、マスター』


 コアとの対話を果たした一人の男と少女の会話――この世界で未だに未知数なコアの機能の開放がもたらす結果は――ウィステリア・ミストだけが知る事実。

 荒れた道をウィステリアはまたゆっくりと歩き始めた。

 陽は落ち、時間は六時――いぬきちは旅館の外で待機する中、二日目の夕食時。

 二日目最後の夕食メニューは懐石料理だ。

 豪華絢爛、彩りよく見た目でも楽しみ、香りでも楽しめ、吸い物や天ぷら等様々な食べ物が目に映る。


「わはー、ひーくん~、美味しそうだね~」


 当然と謂わんばかりにヒルトの隣に来たのは布仏本音、のほほんさんだった。

 既に浴衣に着替え終えていて、豊満な谷間がチラリと覗かせていた。

 強かだとか計算だとかではなく、ただただ本音自身が胸元が苦しいという結果でこうした事なのだ。

 だが、ヒルトから見ればやはり眼福なのには変わらなかった。


「あー! 本ちゃんずるいー! じゃあエミリアはヒルトくんの反対側に座るもーん」


 素早くヒルトの左隣に着席したエミリア・スカーレット、彼女も浴衣に着替え終えている。

 チラリと覗かせている白い生足――ヒルトの視線を感じたエミリアは小悪魔っぽく笑うと――。


「やん、ヒルトくんの目がえっちぃよ?」

「うげっ!? な、何を言ってるんだかエミリアは!」


 二人のやり取りを見た本音は――。


「えー? ひーくん、見るならこっちの方がいいよ~」


 ギュッとヒルトの腕をとり、谷間に挟むように抱き着く本音。

 柔らかな感触が腕全体に伝わる――。


「あら? 本音よりも私の方が大きいわよ?」


 言ってからヒルトを振り向かせたのはティナ・ハミルトンだった。

 ウインクし、胸を抱き、強調して谷間をヒルトの眼前に見せてきた。


「お、おぉ……!?」

「ちょっとティナ! なにやってんのよあんたは!?」

「あら? ヒルトに谷間を見せてるのよ鈴?」

「ムキー! 皆これ見よがしに谷間作っちゃって! 小さいのが悪いのかー! ヒルト! 女の子のおっぱいは小振りの方が夢が詰まってるんだかね!?」


 こめかみに怒りマークを見せた鈴音、同調するようにラウラは胸を張る。


「その通りだ! 胸など脂肪の塊なのだ! 柔らかさでは私の方が上のはずだぞヒルト!」


 確かにラウラの胸は柔らかかったなと思うヒルト――夕食時に何て話になってるのやらと思っていると織斑先生の一喝が飛ぶ。


「静かにしろバカ者共! 胸の大きさなど個々の体格や育ちで違うものだ! そんな外面だけで勝負せず中身で勝負しろ!」


 ごもっともな内容に頷く一同――一年生生徒が全員集まったところで、山田先生が――。


「皆集まりましたねー。 では、手を合わせて――いただきます」

「「いただきまーす」」


 夕食が始まり、修学旅行最後の晩餐が始まった――。

 その一方、遠く離れたフランスではコスモスの現搭乗者であるシャルリーヌ・デュノアが機体の第三世代兵器の稼働実践を行っていた。

 コスモス周囲に浮かぶタレットから放たれる実弾は全て受け流され、壁や地面に着弾して爆ぜていく。

 有坂真理亜が開発した実弾迎撃システムとは違うエネルギー・シールド型の第三世代兵器《花弁の装い(ル・ブクリエ・デ・ペタラ)》。

 一通りの対弾性能テストを終えたシャルリーヌ・デュノアはコスモスの装着を解除し、着地した。

 ブロンドのロングヘアーに大きなつり目、その瞳は蒼く染まり、白と蒼を基調としたISスーツがその身を包み込んでいた。


「ふぅ……。 コスモスの力なら……姉さんを超えられる……!」


 机に置いてあった飲料水を一口飲む――身体から失われた水分が全身に行き渡り、疲労を回復させた。


「コスモスは僕の物だよ。 ……シャルロット姉さんには、渡さない……!」


 蒼い瞳に闘志の炎が燃え上がる――コスモスはただただ悲しく鎮座している様にも見えた。

 イギリスではダイヴ・トゥ・ブルー搭載予定の武装テストをイギリス代表であるマチルダ・フェネット自身が行っていた。

 ブルー・ティアーズと同時期に試作されたテスト機【レゾナンス・ティアーズ】。

 ダイヴ・トゥ・ブルーに搭載予定のビットを有線式にして目標に対してオールレンジ攻撃を行う。

 着弾と同時に爆ぜる目標、破片が空を舞うと追撃と謂わんばかりに空中魚雷を斉射――激しい爆発に飲まれ、破片は塵となって消えていった。


「武装テストはここまでにしておこうか。 ……しかし、私にも適性があれば有線式等にしなくても良いのだがな」


 けたたましく有線が巻き取られ、アリーナにビットの接続音が鳴り響いた。

 BT適性22――低すぎる数値故にろくに扱えないビットを有線式にした事で擬似的にオールレンジ攻撃を可能にはしている。

 このビットはあくまでもダイヴ・トゥ・ブルー搭載予定の物、本来の物はここまでの出力もない。

 そして、マチルダ・フェネット自身の適性も低いためBT粒子を用いたライフルの搭載は叶わなかった。

 だがそれでも彼女がイギリス――グレート・ブリテン代表として立っているのは努力によるものだ。

 だが――マチルダ自身が感じる世代交代の波、セシリア・オルコットの偏向射撃、適性にISに関する知識はレベルの高いものだ。

 学園では奮わない戦績――だがそれも仕方ない、元々長距離用の機体を狭いアリーナで運用し、戦っているのだから。


「フェネット代表、武装テストが完了次第武装はダイヴ・トゥ・ブルーに搭載したいのですが……」

「了解した。 武装はハンガーでパージする、その後はダイヴ・トゥ・ブルーに搭載を」

「えぇ、わかりました」


 ハンガーに戻るや直ぐ様レゾナンス・ティアーズから有線式ビットと魚雷装備をパージするマチルダ。

 身に纏った装甲は粒子片となって虚空へと消えていき、マチルダは今行った武装テストのレポートを書くためにハンガーを後にした。

 直ぐ様整備員がダイヴ・トゥ・ブルーに装備をインストールしていく中、天井裏から様子を伺う影が――。


「……そろそろ頃合いでしょうか……。 ……エクシア……」 
 

 
後書き
もうそろそろ十一巻入る頃合いかな 
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