IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第645話】
前書き
ちょい長め
所々飛びます
バスで移動し、次にやって来たのは地主神社。
自由行動中の大半の生徒は此処が目的だとかで俺もやって来た。
「地主神社って何があるんだ静寐?」
「え!? え、えっと……その……」
口ごもる静寐を見た俺は小さく首を傾げるといつの間にか左側に居たナギが覗き込む様に見上げてくる。
艶やかな黒髪のロングヘアーが風に靡いていた。
「ヒルトくん、ここには恋占いの石っていうのがあるんだよ」
「恋占いの石?」
聞き返すと今度は前を歩いていたシャルが振り向き答えた――丈の短いスカートが小さく舞う。
眼福なのだが、やはり周りの目がシャルに向かうのは俺としては面白くなかった。
「恋占いの石はね、片方の石から反対側の石までの目を閉じたまま歩くことが出来たら恋の願いが叶うって京都案内に書いてたよ♪」
「ふむ。 ならば我が嫁との仲を磐石にするためにも私は歩かなければならないな!」
シャルの隣のラウラが鼻息荒くそう告げた――成る程、だから学園女子の大半がここ目当てだったのか。
地主神社に入ると既にIS学園生徒の大半が其処に居た。
居ない子を探す方が大変だと思っていると一人、一人とチャレンジしては反対側の石から外れて歩くという結末を何度も見せられる。
俺は思う――そこまでして恋の願いを叶えたい相手がいるのかと。
「ヒルトくんはチャレンジしないの?」
「俺? 恋の願い云々叶えたら何だか刺される気がする……」
さっきもそうだが、俺自身行動が大胆になってきている――命を狙われたあの時、あれがきっかけで性に関するリミッターが外れているのが自分でも分かっていた。
正直学園の子全員とても魅力的だ、これで大半の子が彼氏居ないというのが信じられない。
それを言えば刀奈もそうなんだが――まあ彼女の場合は色んな事が出来すぎるが故に敬遠されてたかもしれない。
そんな事を考えているとラウラの出番がやって来た。
俺の方に振り向くとラウラは――。
「ヒルト! 無事に渡りきれたら私一筋で愛してもらうからな!」
そんなラウラの高らかな宣言に反応する生徒一同。
「そ、そんなのダメだよ! ヒルトくんはボーデヴィッヒさんだけが独り占めして良いわけじゃないんだから!」
「そ、そうだよラウラ。 ……僕だって……独り占めしたいのに……」
「えー!? エミリアだってヒルトくん独り占めしたいーっ! それに、エミリアの彼氏何だからラウラに渡さないもーん!」
「ちょ、ちょっとヒルトくん!? 今のエミリアの発言は本当なの!?」
ラウラの独り占め宣言からエミリアの彼氏宣言で砲口が俺へと向けられた。
前までは彼氏候補だったのに気付いたら彼氏に――。
目尻を吊り上げて迫る女子――これ見よがしに胸を押し付けたり柔肌に触れたりと色々美味しい中、ラウラは雑念を払うように瞼を閉じて真っ直ぐ反対側の石へと向かう。
「あ、ラウラ! ちょい右だよ!」
「違い違う! 左左!」
何と俺への追求を他所にラウラの誘導という名の妨害を始めた一同――。
俺は改めて思う、女の子って怖いなぁ……と。
それからも様々な子がチャレンジするが、妨害もあってか誰一人たどり着かなかった。
「にゃぅ」
「ん? どうしたにゃん次郎?」
俺と行動を共にしていたにゃん次郎が小さく鳴き声を鳴らし、目を閉じて何と反対側の石へと歩き始めた。
猫の感覚は抜群故か、ただ一匹静かに渡りきる。
「わっ、スゴいスゴい! あの猫ちゃん渡りきったよ!」
「やん、にゃん次郎超可愛い」
「おいでおいで! お姉さんが撫でてあげる!」
愛らしさ振り撒くにゃん次郎だが彼女たちをすり抜け、俺に近付くとその場で屈み、腕伝いににゃん次郎は肩に乗った。
「ヒルトくん良いなぁ、猫ちゃんに好かれて」
「おー? ヒルトは動物に好かれるんだなー」
「へぇ、やっぱヒルトって優しいから好かれるのかな?」
夜竹さゆか、玲、理央と反応するのだが俺個人は特に何かをしてるわけではないのだが――。
そんなこんなで午前は過ぎていく一方で京都の一画で一夏はファンに囲まれていた。
昨日の映画出演なうの呟きによって京都に一夏が――というよりもIS学園生徒が京都に居るのは明白だった。
「キャーッ! 一夏くーん!」
「握手してくださーい!」
「サインくださーい!」
「ツーショットおねがーい!」
律儀に応じる一夏はいつものように呟く。
「俺ってそんなに有名なのか」
無論有名である、姉は初代ブリュンヒルデの織斑千冬――その弟が男でIS操縦が可能なのだから。
世界初の男の操縦者は有坂ヒルトだが、ニュースの偏向報道によって一夏は今なおヒルトより人気は高い。
勿論最近ヒルトの評価も上がってきている――学園代表候補生になったのもそうだが、専用機持ち全員に勝利した事実が報道されたのもある。
とはいえ、未だに懐疑的な者も無数に居るため、何かがあればその評価は崩れるのだが……。
場所はまた移り、IS学園生徒会室。
更識楯無はブスッと膨れっ面でペンを回していた。
というのも昨夜、遂にヒルトからメールが無かったからだ。
勿論修学旅行中なのは知っているのだが、それでも少しは彼とメールしたり電話したりという乙女心もある。
「ヒルトくんのバカ……。 ……わ、私から送ってもいいけど……むぅ」
それはそれでイニシアチブを取れないと思うと面白くない。
複雑な乙女心……と。
「……この思い、届ける先は、貴方へと。 ……よし!」
イニシアチブは取れないが、楯無は自分から送ることを決意して早速携帯端末を手に取り、自撮りしてそれをヒルトの携帯に送信するのだった。
昼、昼食を食べてる俺に携帯のメロディが鳴り響く。
誰かと思い、携帯を取り出すと隣で食べていた箒が興味があったのかチラッと俺を見た。
「……誰からの連絡なのだ?」
「ん? 楯無さんからだよ」
「……むぅ」
箒はよくよく気付くとヒルトのメアドも番号も何も知らない――それは仕方無い、最近までヒルトを嫌っていたのは事実なのだから。
紅椿が反応しなくなった時のきっかけからヒルトとは和解し、箒自身ももう少し仲良くなれたらと思わずにはいられない。
だが――これまで行ってきた無礼な態度で嫌われていないかの不安の方が勝っている。
勿論ヒルト自身はもう嫌っているとかの感情はない、無下にされてた頃は流石に色々思うところはあったが全部過去の話である。
再度チラッとヒルトを見る箒――表情を伺うと僅かににやけていた。
内容は何だろう――気にはなるが、それは流石に見るわけにはいかなかった。
因みに内容はというと……。
お疲れ様ヒルトくん。
修学旅行一日目はどうだったかしら?
IS学園の方は平穏無事で、生徒会も滞りなく実務をこなしています。
それと、今朝校舎に行く途中で親猫と子猫三匹が仲良く散歩してるのを見かけたわ。
ヒルトくんが呼んでたにゃん太郎とその子供かしら?
それじゃあまた修学旅行楽しみなさい、連絡は可能な時で構わないから。
あ、後、送った私の自撮り変じゃないかしら……?
添付されていた画像には楯無の自撮り画像が写っていた。
本来なら彼女もこんな自撮りはしないのだが、そこはやはり忘れられてないかという複雑な乙女心による結果だろう。
無論変な所はヒルトから見ても無かったのは言うまでもない。
未だに携帯を見て返信をしているヒルトに、箒は少しは私にも構ってほしい。
そんな視線を投げ掛けるのだが、それがヒルトに届いたのか返信を終えたヒルトと視線が合った。
「ん? どうしたんだ?」
「!? べ、別に何でもないぞ! それよりも早く食べるのだ!」
視線が合った事への照れ隠しなのか箒は直ぐに残った食事を食べ始めた。
また場所は戻って学園生徒会室、書類に判子を押していると携帯から受信メロディが鳴り響く。
ドキッと心臓が高鳴り、慌てて携帯を取り出すと返信相手はヒルトからだった。
ヒルトからの着信やメールなどは個別に設定してあるので聞けばわかるのだが、やっぱりちゃんと確認する方がいい。
直ぐに返事をくれた嬉しさからか、仕事そっちのけで返信された内容を見る――。
お疲れ様です、初日は清水寺が映画撮影で見学出来なかった以外だと二条城で母娘に先日の事件で守ってくれてありがとうと言われたのが嬉しかったです(^-^)
とはいえ不覚にも人前で大泣きしてしまいましたが……(ノ_<。)
にゃん太郎と子猫たちですね、気付いたら学園に居着いてて勝手に名前を着けましたが元気そうでした?
刀奈が自撮りって珍しいというかそんなイメージが無かったけど、変なところは無いですよ?
寧ろ可愛いかと……何て、取り敢えず二日目終われば明日は学園に戻りますので、また連絡します。
――言葉は堅いものの、顔文字が入ってたりと実にヒルトらしい内容だった。
一応生徒会連絡の為、一夏ともメアド交換はしてるのだが内容はどれも業務内容的な物ばかり。
……好きになったのがヒルトで良かったと思いつつ、明日帰ってきたら早速部屋で彼に会いに行こうと決意した楯無だった。
白騎士暴走事件は世界にも勿論報道されている。
主犯である亡国機業――何処からか手に入れた白騎士を投入して京都の街を破壊して回ったのが報道の内容だった。
タイのIS機関の一室――。
深いダークグリーンのショートミディアムヘアーに褐色の肌、身長とは不釣り合いな豊満な乳房――すらりと伸びた褐色肌の美脚。
ISスーツを身に纏う彼女はマットの上でヨガを行っていた。
名前はヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー――他のISスーツより露出の高いスーツを着て心身共に鍛えていた彼女。
その一室に入ってきたのは一人の女性だった。
「ヴィシュヌ、日本で起きた事件は見たかしら?」
「…………」
ヨガを行っていたヴィシュヌはゆっくり瞼を開く、タオルで額の汗を拭うと――。
「……ええ、白騎士暴走事件ですね」
「そうよ。 事件を解決したのはIS学園生徒って報道もあったわ」
「………………」
報道の内容は織斑一夏率いるIS学園生徒が白騎士を鎮圧、仕留めたのは黒い機体とISニュースでは流れていた。
ヴィシュヌは思う、黒い機体が誰なのかを――。
真っ先に思い浮かべたのはドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒだが長距離撮影で見たシルエットでは彼女では無いのが明白、そもそもフルスキンタイプのISだったので彼女は論外だといっても間違いはなかった。
ならば残った黒い機体といえば世界初の男子操縦者である有坂ヒルトとその双子の妹である有坂美冬、義理の妹である有坂美春しかいないのだが――。
情報が少ない中での思案も意味がないと思い、これ以上は考えないようにした。
「それで、用事はそれだけなのかしら……?」
「いえ、勿論それだけではありません。 先日我が国もやっと第三世代型のIS【ドゥルガー・シン】が完成したのは知ってるわね?」
「えぇ」
ヴィシュヌは小さく返事をする――来年にはモンド・グロッソが開催されるのだ、初参加国としてはやはりタイの技術力と操縦者の能力の高さを示したい。
今現在タイに国家代表はいない――新機体であるドゥルガー・シンのパイロットも実力の高いヴィシュヌが運用するように設計されている。
「本年度のIS学園転入は【イレギュラー】がない限りは有り得ないと言われましたが、来年度の転入生枠には貴女が入れる様に申請を出しておいたわ」
「そうですか」
言葉短くそう告げるヴィシュヌ、元々無口な性格だから不必要な事は言わないのだろう。
「ええ、後の要件としてドゥルガー・シンの起動、及び稼働テストが前倒しになって明日行われる事になったから」
「わかりました。 時間は?」
「朝九時からよ。 それまではゆっくりしていて構わないわ」
そう言うと女性は部屋を去った。
ヴィシュヌはまた瞼を閉じ、マットの上でヨガを始める……。
太陽系の外から飛来する巨大隕石――イルミナーティの衛星が僅かに検出したエネルギー波長、その一瞬を捉えたのは偶然か必然か――。
「グルルル……」
星が瞬く漆黒の宇宙を旅する隕石表面から聞こえた異形の鳴き声――人類が未確認生物との接触がもたらす結果は――まだ誰も知らない。
軌道衛星上に浮かぶエクスカリバー――もしこれがこれから先暴走しなければ、未曾有の事態も避けられたかもしれない。
だがそうなるとエクスカリバーに囚われた少女は永遠にコアとして生きなければならなかったかもしれない。
運命とは残酷なものだろう……時は常に刻み続け、歯車は回り始める。
白騎士暴走事件ともう一つニュースになったのは三人目の男子IS操縦者が見つかったことだろう。
笹川成樹――中性的な顔立ちに髪はポニーテールで結ってる為、彼は時折男にナンパされるのが悩みの種だ。
ヒルトほど高くはないが身長もあるため、本気で女装すれば女子に見える。
そんな彼は今、転入の為とISに関する勉強を何とかこなしてはいるのだがやはり分厚すぎる教材が重荷になってるのか捗らない。
「この時期の転入……。 もっと早く触っていたらヒルトと共に僕も肩を並べられたのかな……」
そんな独り言を呟き、教材を置いて各企業が置いたカタログを眺める。
ISの武装やISスーツ等が載ったカタログだ、旧来からのモデルから最新型まで――だがISスーツに関しては女性ものばかり、成樹にとっては見ても仕方ないものだ。
一応各社男性モデルの試作品のカタログもある。
色も形も様々だ――ダイバースーツの様な物から一夏が使っている上下セットのへそ出しスーツ等。
冬だと非常に寒そうなスーツに成樹は小さく身震いしたのだった。
また京都に場所は戻る。
午後からは昨日行けなかった清水寺へと向かうのだが大半の生徒は他の文化遺産巡りするため、ヒルトとは別行動に――。
「あ、ヒルトー。 ヒルトも清水寺に?」
「ん? よぉソフィー。 そうだよ、昨日行けなかったからな」
清水寺に向かう道中、偶然ソフィーと出会った。
「良かったぁ♪ 其処の甘味処で食べてたら皆先に行っちゃってて……。 良かったら一緒に清水寺に行こうっ」
「ああ、構わないぞ」
「えへへ♪」
嬉しそうにはにかみながら俺の隣を歩くソフィー。
「そういやソフィーって何処出身なんだ?」
「あたしはフランスのブルターニュ地方ですよ♪ 其処の田舎から学園に来たんですよぉ♪」
「ふむ、一人で出てきたのか?」
「はい♪」
花開く笑顔を見せる彼女、素直に可愛いと思いながら、住んでいた街の事を聞いてみた。
「住んでた場所ってどんな感じなんだ?」
「そうですね……。 時計屋があって、教会があって、酒場があって、外れにはあたしの大切な人が眠る森がある所かなぁ……」
大切な人が眠る――誰かが亡くなったのだろうか、少しソフィーの表情に陰り見えたので俺は――。
「わ、悪い、聞いたら不味い事を聞いたかな」
「あ、ううん。 ……おばあちゃんが亡くなったのは寂しいけど、幼なじみのモニカやオスカーも居るし、プラフタだって――皆、元気かなぁ」
不意に空を見上げたソフィー――晴れ渡る青空の向こうにいる人達を思い浮かべているのだろう。
そんなソフィーの頭を俺は撫でるときょとんとした表情で見上げてきた。
「寂しい時は連絡すればいいさ。 冬休みに一度帰郷するのもありだしな」
「ヒルト……。 ……うん♪」
寂しそうな表情は何処かへ行ったらしく、晴れやかな笑顔を見せたソフィー――と。
「わんわんっ」
後ろから犬の鳴き声が聞こえ、俺とソフィーは振り向いたらビーグル犬がからかうように舌を出していた。
「あ♪ ワンちゃんだ♪ おいでおいで♪」
「わんっ」
人懐っこい犬なのだろうか、ソフィーが屈むとビーグル犬は嬉しそうに近づいてきた。
笑顔で頭を撫でるソフィー、尻尾を振るビーグル犬。
「うーん……」
「ヒルト……?」
「わん?」
「……いぬきちだな」
「へ?」
「わふ?」
首を傾げるソフィーとビーグル犬、俺は真っ直ぐビーグル犬を見つめると――。
「お前の名前はいぬきちだ」
「え、えぇっ!? い、いぬきちですかぁ!?」
「わんっ♪」
驚くソフィーとは対照的にビーグル犬――否、いぬきちは満足そうに鳴いた。
「んじゃいぬきち、俺たちと一緒に清水寺行こうぜ」
「わんわんっ♪」
名前が決まって嬉しいらしく、俺の周りをくるくる回るいぬきち。
ソフィーもいぬきちという名前に驚いてはいたが、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて満足そうに頷くと――。
「じゃあ行きましょ、ヒルト♪ いぬきち♪」
「ああ」
「わわんっ」
二人と一匹は清水寺へと向かうのだった。
その一方でにゃん次郎、とことことエレンや未来と一緒に川沿いを歩いていた。
「んんっ! やっぱりのんびり出来るのはいいね」
「そうだな。 にゃん次郎は満足してるか?」
「にゃぅにゃぅ。 にゃっ」
川沿いを歩くのが嬉しいらしく、にゃん次郎はピョンっと跳ねた。
川のせせらぎを聞いていると白騎士暴走事件がなかったかのような気持ちになるが、遠方を見れば傷跡残るビルが見える。
世界はどうなるのだろう……以前ワールドパージを受けたときの荒れ果てた街並みは今も未来の脳裏に刻まれている。
夢とは思えないほどのリアル……とはいえ、いきなり日常が崩れる事態はないと思い、未来は静かに青空を眺めるのだった。
後書き
何気に簪不遇ぎみだなと思いつつ、簪のが思いつかないという罠
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