ハンドレッド――《紅き髪の異邦人》
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【ハンドレッド――《ヴァリアント覚醒》】
【第三話】
フリッツに案内されるようにして十分ほど歩くと、武芸科校舎の入り口に辿り着いた。
「へえ、これが武芸科の校舎なんだ」
エミールはそう言い、率直な感想を言い始める。
「学校というより、何だか研究所みたいだね。それとも秘密基地?」
隣のハヤトを覗き込む様に見上げたエミール。
「確かにそんな風にも見えるよな……」
二人の後ろではカーマインが気だるげに欠伸をしていた。
検問所のゲート、その脇には屈強な警備の男が二人。
俺なら一人三秒で仕留められる――物騒な考えのカーマイン、飾り気のない詰所の中に誰か居るのかとも思ったがどうやら警備はあの二人だけのようだ。
「ハヤト、カーマインもだけど、ちゃんとPDAを持ってきてる?」
「PDAって、これのことだろ?」
「あぎゃ……。そういやそんなの貰ってたな。確か……あぁ、胸ポケットに入ってたぜ」
ハヤト、カーマイン共々ポケットから名刺大サイズの携帯型デバイスを取り出した。
カーマイン自身、何気無く受け取っただけの代物であまり詳しい話は聞いてなかったが、身分証になるものらしい。
簡易的なエミールの説明によれば通行証にもなればメールや電話類などの通信機能もあり、財布にもなるのだとか。
こんな薄っぺらいものが電話……簡単に折れ曲がりそうに感じたカーマイン。
「それがゲートの通行証にもなるみたいだよ。ここのセンサーにPDAをタッチすれば良いみたい」
エミールが先にPDAをセンサーにタッチすると、ゲートが開いた。
鉄道改札のシステムと同じものだろう。
「ハヤトも此方においでよ!」
「……だってさ」
茶化すようにフリッツはハヤトに言うと、苦笑するハヤトが同じ様にゲートを、続けてフリッツと続く。
「カーマイン、ボーッとしてたらエミール達に置いてかれるぞー」
「あぎゃぎゃ、慌てなくても行くさ」
PDAを翳してセンサーをタッチするカーマイン、警備の男二人の視線が突き刺さるもカーマインは気にすることはなかった。
新入生の時点で制服を着崩してるのが気に入らないのだろう――エミール、ハヤト、フリッツの三人はちゃんと制服のボタンを留めているが、カーマインは全開で中に着たシャツが見えているのだ。
フリッツ自身、式典が始まればカーマインもちゃんと正すだろうと思い、特に注意はしなかった。
少し歩くと、目的の場所である講堂の前に辿り着いた四人。
この辺りから在校生、新入生達が入り乱れ、教員等大人の人も見受けられる――と。
「漸く来たか、待ちくたびれたぞ!」
周囲が賑わう中、声を掛けてきたのは明るい髪の毛をサイドで結んだボーイッシュな風貌の少女だった。
爪先から頭まで見るカーマイン――。
(小さいな、顔立ちも幼い。容姿は悪くねぇが点数をつけるなら82点って所か)
勝ち気そうな雰囲気を醸し出し、瞳には意志の強さを感じる。
ただカーマインが残念に思ったのはその幼い肢体だろう――今後に期待と思い、保留することにした。
「悪い、コイツらの準備に手間取ってな」
フリッツは現れた少女に慣れ親しんだ様子で答えて、カーマイン達三人に親指を向けた。
「おお、お前達も新入生なのか!」
カーマイン、ハヤト、エミール達三人を見てキラキラと瞳を輝かせながら、少女は自分の胸を軽く叩いて自己紹介を始めた。
「わたしはレイティア・サンテミリオン。フリッツと同じリベリア合衆国の出身で、所謂顔馴染みというやつだ」
「それを言うなら幼馴染みだろ」
呆れたようにそう言ったフリッツは、レイティアの頭に手をおいた。
「そうやって髪に触れるなといつも言っているだろう、バカフリッツ!!」
頭に置かれた手は、レイティアの髪をかき乱す。
無論レイティアは抗議し、歯を剥き出しにして見上げた。
「ちょうどいいところにあるのが悪いんだっての」
「ぐぬぬ……」
フリッツにいなされたレイティアは、悔しそうに顔を歪めた。
そんな二人のやり取りを見ていたエミールは――。
「二人は、随分と仲が良さそうだね」
と、微笑ましそうな様子で口にした。
それを聞いてフリッツは――。
「ちっこい頃から、ずっと一緒だったからな。俺とは違ってこいつはまだちっこくて、子供みたいだがな。乳も、相変わらず育ってないし」
さらりとフリッツがそう言い、当然レイティアは目尻を更につり上げて反発した。
「だーかーらー、子供扱いをするな! 乳の事も言うなっ!」
一通り反論した後に、レイティアはカーマイン達の方へと顔を向けると。
「それより、今度はお前達三人の自己紹介の番だ。わたしはまだ、お前達の名前を聞いていない」
レイティアがそう言うや、ハヤト達が自己紹介するより早くフリッツが紹介し始めた。
「それなら、俺から紹介してやろう。此方の可愛いのがエミール・クロスフォード、んで真ん中の目付き悪いのがカーマイン、ラストが噂の新入生、如月ハヤトだ」
目付き悪いは余計だとカーマインは思ったが、口にはしなかった。
それよりも、レイティアはハヤトの方に食い付く。
「おおっ、お前があのクレア様の記録を破った如月ハヤトなのかっ!」
「あぎゃ……? クレア……?」
カーマインやハヤトが小さく傾げていると――。
「もしかしてお前達、クレア様を知らないのか?」
「あぎゃ、名前からすれば女ってのはわかるが――」
そう答えていると、教員一人が声を掛けてきた。
「おい、お前ら。早く講堂に入れ。それとお前、制服は気崩すな、式にそんな格好で出席されたら品位を問われるぞ」
カーマインの制服を指差した教員、初日から問題を起こしても面倒だと思い、窮屈ながらも制服のボタンを閉めた。
「そろそろ式が始まるみたいだね、周りも皆中に入ったみたい」
エミールの言う通り、講堂の中は騒がしく、慌ただしくなっていた。
「それじゃ、今の話の続きは入学式が終わってからにしようか、行くぞ」
レイティアを先頭に講堂に入る一同、カーマインもめんどくさそうに後に続いた。
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