――――ドクツ第三帝国ベルリン星域、ハンブルク宇宙港――――
「ああ、総統……よくご無事で……嬉しいです」
伏見とデーニッツを乗せた潜水艦フォルケナーゼは幾度かの危機を乗り越え、
ついに大ローマ星域を抜けて、星域ベルリンへと無事に辿り着いた。
総統代理のゲッベルスが亡命の身支度を整えて
レーティア・アドルフ総統をハンブルク宇宙港まで連れてきている。
「うん……そうだな……私も、嬉しいよ」
うなずくアドルフの瞳からは自信の光も消え失せ、
口調もあきからに重く沈んでいる。気のせいかもしれなが若干レイプ目だ。
「通信では何度かお話しましたが……改めて初めまして。
大日本帝国海軍、軍令部総長の伏見空です。
時期は悪いですが、以前からお誘いされていたので参りました」
「あ、ああ。ゲッベルスから話は聞いてる。ありがとう」
「いえ、同盟国として当然のことです。
それにドクツは最後の学生時代を過ごした
第二の故郷だと思ってますから出来る限りのことはしますよ」
「そうか……すまない」
「レーティア、後は私に任せて客船室で休みなさい。
ケッテンクラート少佐、総統閣下を案内してあげて」
赤髪の女性軍人に連れられてアドルフが艦橋から去ると、
ゲッベルスがデーニッツを優しく抱きしめながら話しかける。
「私は伏見と一緒にベルリンに残るわ」
「……はい。聞いております」
「レーティアには残ることは伝えてないの。ごめんなさい。
後で怒るかもしれないけどデーニッツ提督が宥めて頂戴。
連絡役としてケッテンクラート少佐を側に付けるけど、彼女は生真面目だけど意外とドジっ子なの。
レーティアのこと、よろしく頼むわよ」
「ゲッベルス宣伝相……いえ、総統代行。
最後まで必ず総統をお守りすると約束します」
「
ダンケ、お世話の仕方については――」
ドンっと広辞苑並みの分厚さの雑誌サイズのカラー冊子が手渡される。
「この『レーティア・アドルフ非公式パーフェクトガイドブック』に
余すことなく記されているから、全て頭に入れておきなさい。
レーティアをプロデュースする上で最低限度のことがまとめられているわ」
「は、はい。頑張ります」
「ふふ、しっかりと日本では堪能できなかったレーティア分を補給しなさい」
「あ、ありがとうございます!」
「あら? デーニッツ提督の服から
男の娘っぽいの香りが少しするわね。どうしてかしら?」
「そ、そっ、それは、お、恩返しでー―」
「あのゲッベルス宣伝相、Uボートは急いで脱出の準備をした方が?」
見かねた伏見が慌てふためているデーニッツに助け舟を出す。
「そうね。伏見、貴方もドクツまで来てくれてありがとう。直接会うのは初めてね。
ドクツ第三帝国宣伝相ゲッベルスよ。書類上では今でも総統代理となっているわ」
「
グーテン ターク、軍令部総長の伏見空です。このたびは武官としてではなく、
大日本帝国の
欧州星海域特命全権大使としてやってきております」
「ごめんなさいね。私たち第三帝国の後始末までお願いすることになって」
「いえいえ。お気になさらないで下さい。
著名な美人プロデューサーと、華やかな欧州を舞台に
一緒に仕事ができるって楽しみにして来たんですよ?」
「それは光栄ね。そう、私が敏腕Pのグレシアよ。
最初にロンメル元帥から聞いてた人物像とは随分違うけど、
貴方は約束通りレーティアを助けにドクツまでやってきてくれた。信頼しているわ」
「はい。私の出来ることであれば何でも力になります」
「ん? 貴方、今、何でもするって言ったわよね?」
プロデューサーの鬼と化したゲッベルスが伏見の身体を、
獲物を見つけた野獣ような眼光でねっとりと睨みつける。
「えっ……いや外交だけでなく……軍事の面でも、ご協力もできるかと?」
「そう、軍事も人手が足りないのよ。とても、ありがたいわ!
でも一番大事なのはドクツ国民に降伏を納得させるイベントの開催なの?
さっきまでドクツ第三帝国の解散コンサートで流すPVを、
レーティアに協力してもらって撮影してたんだけど、
やっぱり映像だけだと淋しいと思っていたのよッッ!!」
「あ、それでアドルフ総統の目が……(察し)」
「私は前々から伏見は欧州でアイドルとして通用すると思ってたのよ!
さっそく私がプロデュースしてあげるわ! さ、行くわよっ!!」
「えっ……ちょっ、それだけは……そんなの聞いてないよ(ドン引き)」
「伏見、貴方のことは生涯忘れません……頑張って下さい。
Viel Glück.」
「ちょっ、デーニッツ提督! た、たすけてぇぇえええ――」
「女々しいわよ! 貴方が何でもするって言ったんだから諦めなさい!」
「いやぁぁぁああああ」
「私と契約して
魔法少女になるのよ!」
「こうして悪魔は女宣教師の手によって討ち滅ぼされた――そう、ベルリンの地で。
アウフ ヴィーダーセーエン、伏見」
デーニッツは現実から目をそらし、アドルフ総統を連れて日本へと向かう。
敏腕Pグレシアは少女の願い事を一つだけ叶えてくれる魔法の使者だと言われている。
レーティア・アドルフも彼女との契約によってドクツの総統になることができた。
しかし願い事を叶える代償として、契約した者は
魔法少女となる。
ドクツに残った伏見空とゲッベルスは――。
エントロピーの増大による
宇宙の熱的死を回避すべく、
原作ゲームの展開を超えた
“奇跡”を起こそうとしていた。
――――数日後、ベルリン国立歌劇場――――
ゲッベルスの手によって大規模コンサートの開催が全土に宣伝された。
主星ベルリンの住民たちも本国防衛の要である
ベルリン星域の最終防衛ラインがソビエト軍の攻撃を受けており、
戦況が日々悪化していることを知っていた。
それでもアドルフ総統の姿を生でひと目見ようと、
多くのファンが劇場に詰めかけて当然だがチケットは即完売。
VTVN提督の古巣ベルリン・フィルハーモニーの他、
ドクツ全土のコンサートホールでライブビューイングが開催されることになった。
第三帝国の幹部を除き総統のアドルフが亡命したことは知られてはいない。
場合にはよっては暴動が起こる可能性もあるだろう……。
敏腕プロデューサーであるグレシアも舞台裏で手に汗を握りしめる。
「それじゃあ準備は良いかしら?」
数々のイベントを成功させてきた宣伝省選りすぐりの精鋭スタッフ達に声をかける。
全員が頷いたのを確認してから合図を出す。
「一曲目を行くわよっ! READY!!」
宣伝省が配信するアドルフの生番組で前期OP曲として使われていた曲だ。
曲に合わせて映像が流されるレーティアの初ライブから、
選挙に当選し、総統となってドクツが復興していくまでの軌跡が綴られる。
ゲッベルスはMAD制作技術も超一流である。
復興をはじめよう、征服もやればできる、きっと、なんたって、ドクツが世界で一番♪
アイドルの登場で国民が一体となるテーマは“ドクツの団結”だ。
3DマッピングやAR(拡張現実)の技術が盛り込まれた
今までに無い演出の数々にコンサートに集まったファンは、
レーティア本人が登場していないにも関わらず場の熱気に飲まれていく。
「そうよ。いい感じだわ。次々と行くわよ」
会場の空気を肌で感じ、必要に応じて矢継ぎ早に適確な指示を次々と出す。
軍事や政治、経済、外交だけが国家の戦いの舞台ではない。
この
輝きの舞台こそ、宣伝相グレシア・ゲッベルスが本当の才能を発揮できる戦場。
続いての曲目は、CHANGE!!!!
宇宙一の天才レーティアの力によって政治、経済、発明、軍事他が
劇的に発展していく
“変化”の軌跡が、曲に合わせた映像となって流れる。
変わるドクツ、私のドクツ、貴方のドクツ、皆が輝く世界へ――
エイリス、オフランス、ガメリカ、ソビエト、
相手がどんな
ライバルだって、ドクツは負けない♪
新しい未来を追いかける第三帝国。
ドクツの手で世界をチェンジさせよう!!
電撃戦によるドクツ軍の怒涛の欧州侵攻、勝利の映像の数々。
コンサート会場のボルテージがヒートアップして行く――
確かな手ごたえを感じながら、ゲッベルスがスイッチを押す。
舞台を隠していた演出の煙が消えて、閃光と共に舞台に現れたのは――
アドルフ総統ではなく髪を横分けにした釣り目が特徴的なウェーブロング黒髪の美少女。
*上はグレシアPが着せ替え中のイメージ画像です。
「は~い♪ 第三帝国のみなさ~ん、こんばんはっ~!
私は同盟国ニホンからゲッベルス宣伝相に頼まれてやって来た
シャーリー・アキで~す!」
「アドルフちゃんのお友達で
満州映画協会所属のアイドルです♪」
突然のことに驚いたファン達が自己紹介を聞き「なるほど」と納得する。
日本から来たアイドルは初めてだが、同盟国イタリンの巨乳系アイドル、ムッチーニとは
何度か合同コンサートが行われたことがあった。
「今日のコンサート、私も頑張りたいと思います!
私の曲を聴いて、ニホンのことをもっともっと皆さんに知ってもらえると嬉しいです!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!
会場から大きな声援が上がる。
予めゲッベルスが宣伝省のサクラを入れているのだ。
他の観客も周囲に釣られて熱を上げる。
「それじゃあ行くよ~! 洗脳・搾取・虎の巻」
アドルフの持ち歌とは、また違う軽妙なリズムが大音量と共に会場を揺らす。
\ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!/
曲に合わせて、
よく訓練された愚民たちの合いの手が入る。
「ハイルッ! ハイルッ! ハイルッ! ハイルッ! ハイルッ!」
「ハイルッ! ハイルッ! ハイルッ! ハイルッ! ハイルッ!」
釣られて他の観客たちもアドルフ総統の演説の際のノリで会場を温めていく。
響き渡る歓声が文字に変換され映像を埋めつくす弾幕となる。
全てがゲッベルスの巧みな演出だ。
\ハイッ♪ハイッ♪ハイッ♪ハイッ♪ハイッ♪ハイッ♪/
このコンサートは第三帝国の雌雄を決める重要なイベントフェイズだ。
数日間、精神と時の部屋にぶち込まれ過酷な洗脳教育を受けた黒髪の男の娘が、
日本海軍のモルトケと評されるアキ・フシミだと気づく人間は一人もいない。
例え伏見空を知るロンメルやデーニッツがこの場に居たとしても、
事情を知らなければ女装させられた伏見だと気づくのは無理だろう。
それぐらい“シャーリー・アキ”というアイドルは、りゅんりゅん♪と輝いて見えた。
こんな可愛い子が女の子のはずがない(錯乱)
「ジーク・ハイルッ! ハイルッ! アドルフッ! ハイルッ! アドルフッ!」
「ジーク・ハイルッ! ハイルッ! シャーリー! ハイルッ! シャーリー!」
アドルフの賛美と共にシャーリーの名前をファンから叫ばれるようになる。
ドクツ人の中にある極東の後進国日本のイメージを破壊するような洗脳系電波ソングと共に、
世界に誇る
美しい国、日本の案内がライブ映像の狭間に流される。
潜在意識に働きかけるサブリミナル効果によって友好的な感情を抱き、
人生で一度は日本を訪れてみたいと自然と思うようになっている。
「せーのっ! 洗脳・搾取・虎の巻!」
ゲッベルスのコンサートによって鍛えられたファンシズム大国の
ドクツ民らの、
反応速度、統率性、行動力は、いずれも
イタリン民や
他国の愚民の比ではない。
もはや
よく訓練された愚民たちの合いの手など必要はない。
会場は右を向いても左を向いても、愚民、愚民、第三帝国の愚民は世界一チイイイイ!!
「今日は、みんな、ありがと~、
こんな沢山の
愚民にあえて、アキはとっても感激です!」
「
今日のイベントは、みんなの声援でできています!」
「
これからもこの国についてきてね!」
\\洗脳卍搾取卍虎の巻、洗脳☆搾取☆虎の巻、洗脳卍搾取卍虎の巻、洗脳★搾取★虎の巻//
OTL orz OTL orz OTL orz OTL orz OTL orz OTL orz OTL orz OTL orz OTL orz
その場に跪いてしまう者まで現れて会場が強烈な一体感に包まれる。掴みはバッチリだ。
そのままシャーリー・アキは持ち歌である「キラメキラリ」と「ヒミツの珊瑚礁」を披露する。
キラメキラリは同盟国ドクツを応援する大日本帝国の奮闘が曲と映像で紹介される。
ステージで踊るシャーリー・アキの滑らかな白く肌、細長い脚が、
不思議の国のアリスをイメージした青色のドレッシーな装いに映える。
愚民たちの視線はレースリボン付きのカラフルなニーハイソックスに注がれる。
激しく踊っているがドロワチラはあっても、
本当に大事な物はギリギリのラインで視えそうで視えない。
\\わぁい!// \\かわいい!// \\うわぁぁい!// \\いやっほぉうううう!//
\\かわええ!// \\あきちん♡// \\あ~、ノンケになるぅ~// \\ちんちん♡//
フレフレ、ガンバレ、第三帝国♪ 本当の信頼は貿易の関係だけじゃ買えない。
トキメキラリ、ニホンは、ドクツが大好き♪
ヒミツの珊瑚礁ではシャーリー(日本)のアドルフ(ドクツ)に対する秘めた想いが歌われる。
キミの素敵な夢に出会って恋に落ちて結んだ三国同盟。
世界が変わる瞬間をキミと一緒に見たかった。危なくなたら私の手を握って欲しい。
危機的状況にある祖国ドクツを同盟国は最後まで見捨てないから信じて欲しいというメッセージ。
命がけの状況でベルリンまでやってきてくれた
異国のアイドルという存在。
あとちょっといいかな、これから話すこと、驚くかもしれないけど、最後まで聞いて欲しい。
こわくなんてないから、きっと気に入るはず、目をつむって、耳を澄まして聴いて――
これから伝える話は、ボク(大日本帝国)とキミ(第三帝国)だけのヒミツの
珊瑚礁。
ファンシズム超大国ドクツ第三帝国の集大成ともいえるコンサート。
歌劇場、ライビュビューイング会場、映像の流れるお茶の間……
ゲッベルス宣伝相の創り出した幻想的な世界は、
まるで魔法の粉をふりまくかのように全国民を飲み込んでいく。
このコンサートで流れる曲、歌詞、映像には全て意味が込められている。
そして山場であるDazzling World――直訳すれば「輝いている世界」
著名な音楽プロデューサー・作曲家でもあるグレシアPが、
この難局を打開させる切り札として用意した曲。
(伏見、貴方は周囲の空気を敏感に読み過ぎるタイプの人間。
だから空気なんて呼んじゃ駄目よっ! 会場の空気は私が温めるわ。
自分の夢の先にある、レーティアの夢と未来のために自分の意思を貫き通すのよ!!)
これが後に伝説として語らえるドクツ第三帝国“最後の"解散コンサートの幕開けだった。
「シャーリー・アキ、いいえ、伏見空、いいコンサートよ……掛け値なしに」
ゲッベルス→☆☆