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エロゲー世界に神様転生って勝ち組じゃないのか?

作者:笠福京世
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第32話 総統は辞めても、アイドルは、やめられない! Ev14

 
前書き
それでは、皆様よいお年をお迎えください。 

 
――――ラストコンサート当日、ベルリン国立歌劇場――――

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

会場の熱気は最高潮だ。けれど、これからが本番だ。今までは前座に過ぎない。

シャーリー・アキの歌う、Dazzling Worldで表演するのは――

ドクツ総統のアドルフでもなく、アイドルのアドルフでもない。
一人の女の子としての“レーティア・アドルフ”という存在。

時の流れと共に忘れかけていたキラキラ光る気持ち、
それぞれの国民がアドルフと初めて出会った瞬間を思い出す。

自分たちは彼女が大天才だから総統に選んだのか。違う。
彼女が政治で経済で軍事で成果を出し続けるから支持してきたのか。違う。
第三帝国は前に進めずにいる。だったら彼女を捨てるのか。ありえない。

鮮やかに輝くアイドルがいてくれるだけで十分なのだと思い出した。
心の中で総統のアドルフではなくレーティアという少女の名前を呼ぶ。

いつか第三帝国も星になる(終焉を迎える)
でもレーティアと過ごした日々は永遠に残る。
レーティアも現在・過去・未来と国民(ファン)を忘れずに愛し続ける。

もしもアドルフが総統を辞めても、一人の女の子(レーティア)がいるなら――
再びファン同士(ファンシスト)は手をつないで歩いて行けるだろう。素晴らしい世界(Dazzling World)

シャーリー・アキが歌い終え舞台を去ると休憩のアナウンスが流れる。
コンサート前半の冷めやらぬ興奮を同士達が語り合っていると、
映像と共に荘厳なバラード曲「眠り姫」が流れる。

アドルフ総統のアシカ作戦(エイリス本星進攻作戦)での初めての挫折。
誰の助けも借りず、ありえない量の仕事を一人で処理する総統の姿が映像で流れる。

今まで一度も公開されたことがないゲッベルスが隠し撮りし続けきた
プライベートフィルムを編集し制作されたMAD動画。

一時期アドルフが過労で倒れて休養していたことは全ての国民が知ることだが、
アドルフが一人で抱えていた仕事の全容を知る者は殆どいない。
茨の道を歩み、一人傷つき、眠りにつく眠り姫(レーティア・アドルフ)

それでも目覚めて起き上がり、何とか希望を掴もうと足掻こう姿に、
国民たちは瞳に涙をためて、ハンカチで涙を拭う。

コンサートの前に宣伝相ゲッベルスがアイドルプロデュース(プロパガンダ)の秘訣語る。

思想宣伝(プロパガンダ)には秘訣があるの。
 何より宣伝の対象人物(ドクツ国民)に、それが宣伝だと(レーティアが亡命していると)気づかせてはならない。
 同様に、宣伝の意図(第三帝国の無条件降伏)も巧妙に隠しておく必要がある。
 相手の知らぬ間に、たっぷり思想(アイドルの魅力)をしみこませるのよ」

情報の発信元がはっきりしており、
事実に基づく情報で構成されたプロパガンダをホワイトプロパガンダという。
このコンサートは全て事実に基づいて構成されている。
シャーリー・アキという存在でさえ、満州映画協会(100005プロ)の猫平社長が公式サイトを用意している。

事実というのは、与える側の情報の選び方(カードスタッキング)(制限や虚偽にならない範囲での改変)や
与える順番(バンドワゴン)魅せ方(演出)(証言利用と平凡化)によって、
受け取る側の印象や判断結果に大きな影響を与える。
コマーシャルなどのメディアのみならず様々な活動(アイドル活動)で今や当たり前に行われている手法。

休憩時間中に流れるソビエト軍の情報、戦時国際法を無視した焦土作戦。
シベリアへ連れ去られていく捕虜となった兵士、私物を没収される占領惑星の住民。
ネーム・コーリング(レッテル貼り)によって対象をネガティブなイメージと結びつける。
共有主義に対する恐怖、不安、疑念、ネガティブな(そして漠然とした)情報を広めていく。

ゲッベルス宣伝相はコンサートでドクツ民ら(ファンシスト)
自然な意志でレーティアの亡命と無条件降伏を受け入れることを祈っている。
これは洗脳や思想誘導や大衆の統率などではない(強弁)
マーケティングやプランディングの分野で当たり前に使われている技術なのだ(白目)

プロパガンダ(思考誘導)を許せないと拒否するのは容易い(手法を学んでいない人も多い)
そういう人間こそプロパガンダ(新興宗教や偽科学や怪しい健康食品)に騙されやすい。
必要なのはプロパガンダをちゃんと知ることで自己防衛の手段(義務教育で教えた方がいいくらい)として活用することだ。

頃合いを見てゲッペルス宣伝相が姿を現す。

「第三帝国のみなさん、国防軍のみなさん、総統代理のゲッペルスです。
 私は総統レーティア・アドルフに同盟国へと亡命するよう進言しました」

ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…

ゲッペルスの亡命の進言を拒否するアドルフの姿が映像に流れる。
亡命を拒否し最後まで祖国ドクツの国民ために尽くすと言う総統の姿に畏敬の念を感じ、
もう逆転する手段がないんだと嘆く総統の姿に深い悲しみを覚える。

「アドルフ総統は、私ゲッベルスを総統代理として選びました。
 この重大なる運命の時に責任の重さを自覚しつつ、私は総統の意志を尊重しつつも皆さんに問いたい」

「私たちに必要なのは、第三帝国のアドルフ総統なのか、
 それともアイドルであるレーティアなのか」

「このまま惑星ベルリンがソビエト軍に蹂躙されれば彼女は死ぬことになる。
 本当にそれでいいのでしょうか?
 たしかに第三帝国が滅び同盟国に亡命すれば総統という立場ではいられなくなるでしょう。
 けどファンがいる限りアドルフ総統は、いえレーティアは、
 世界中の何処でも最高のアイドルとして存在し続けることができるのです!」

ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…

「国民の皆さん、ドクツは国家の土台を破壊され、いばらの道を歩まねばなりません。
 私は、この困難な道のりに背を向ける気はありません。
 もし、国民が私を必要とするならば、私は職務にとどまり、全力を尽くす覚悟です。
 だが、去れと命じるならば、それに従うのも、祖国への奉仕と信じます」

「総統代理としてレーティアの亡命とエイリスへの無条件降伏を提言します。
 賛成の方は声を、レーティアに届く、大きな声を、お願いします!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

ベルリン星域の全土が悲鳴のような絶叫、大きな歓声に包まれる。
第三帝国の国民はゲッベルスの提案を承認したのだ。
ゲッベルスは何処かの新世界の神のように「計画通り」と心の中で呟く。

「ありがとうございます! 今夜がドクツ第三帝国、最後コンサートです!!
 けどレーティア・アドルフの解散コンサートではありません!!
 アドルフは、総統を辞めて普通の女の子に戻りますが、皆さんのアイドルのままです!」

「ジーク・ハイル! ハイル・アドルフ! ジーク・ハイル! ハイル・アドルフ!」

「ジーク・ハイル! ハイル・レーティア! ジーク・ハイル! ハイル・レーティア!」

「ありがとうございます。コンサートの途中ですがレーティアは亡命させます。
 これからは今夜のために事前に準備していた
 今まで公開されたことのない数々のプライベート映像を用意しています。
 曲に合わせて皆さんは最後までお愉しみ下さい♪」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

ゲッベルスが舞台裏に下がると入れ替わりにシャーリー・アキが現れる。

「少し湿っぽくなっちゃけど、まだまだ楽しい時間は続くよっ♪
 レーティアちゃんの代表曲『恋の電撃戦~ブリッツクリーク~』歌わせてもらいます!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

消費者(ファンシスト)ゆっくりと思考する時間(賢者タイム)を与えてはいけない。
次々と商品(公式グッズ)イベント(ソーシャルゲーム)を繰り出して情報の洪水に溺れさせるのだ。

コンサートが終わってもアンコールは鳴りやまない。

最後にはシャーリー・アキに舞台に引っ張り上げられたグレシア・ゲッペルスも加わり、
レーティア・アドルフの映像と声に合わせて会場のドクツ国民と共に、
「私たちはずっと…でしょう?」「いっしょ」「さよならをありがとう」を歌う。

アンコールの歌と共にドクツ第三帝国のこれまでの軌跡が流れる。再生・躍進・挫折・崩壊。
それでも、いつまでも、どこまでも、いっしょに、希望を捨てずに進んでいこう。
さあ一緒に歌おう、一緒の時間を、一緒の夢を、共有する幸せを感じながら――。

この広い世界でレーティア・アドルフ(最高のアイドル)と巡り会えた幸せを歌おう♪

様々なコンサートを演出してきた宣伝相のスタッフ達も舞台裏で感動の涙を流している。

はじまりは、いつか終わりになる、けど、それは新たな始まり。
ドクツ民は諦めない。新たな夢の始まりに、抱いた希望と憧れを忘れずに――。

「ありがとう! これからもレーティアをよろしくお願いします!」

総合プロデューサーのグレシア・ゲッペルスも会場の熱気に応える。

アイドルが居る風景(アドルフ総統の第三帝国)が今まで不変だと思っていた。

けど、違った。

ドクツ民は自分も頑張ろう、総統に頼ってばかりじゃ駄目だと気づかされる。

また会う時は、笑顔になっていて欲しいから、亡命を笑顔で手を振り見送ろう。

一人ひとりの気持ちがハーモニーとなって繋がっていく――。


ゲッペルスが精神と時の部屋(固有結界)で撮影したレーティア・アドルフの歌う「約束」のPVが流れる。

誰しもが黙ってレーティアの想いを静かに受け取る。

その声は、その願いは、その祈りは、会場を、惑星を、星域を超えて、欧州の星海域に響き渡る。


伝説と呼ばれたドクツ第三帝国の解散コンサートの視聴率は、
ベルリン星域のみならずヨーロッパ星海域の全土で100%を超えた――。


約束しよう。涙を拭いて前を向いて歩いて行くことを、私は歌うこと(アイドル)をやめない。




コンサートの後、信任を受けたゲッベルス総統代理は矢継ぎ早に各所に命令を出す。
シュテティン提督にエイリス帝国との交渉が終わるまで最終防衛ラインを死守するように指示。

国防軍には万が一にソビエト軍が惑星ベルリンを占領した場合には、
住民の保護を第一に戦時国際法が守られるか確認してから降伏するように伝えた。

外務相には大日本帝国の杉原うめ外務次官と協力しビザ発給するよう指示。

親衛隊には惑星中の船舶をかき集めてベルリンから避難を希望する者を
オフランスの惑星パリまで護衛するよう要請。SSも総統代理に従った。

オットー中佐が無事に“アドルフの遺産”の移送を終えて、
超弩級戦艦ビスマルクでアウシュビッチに向かうのを確認してから――

魂の抜け殻となった伏見空の身体を引き摺って船室に押し込み。
ヴィルベルヴィント中佐が指揮する高速巡洋艦で惑星ロンドンを目指す。

ドクツ第三帝国の解散コンサートによって無条件降伏の意図を知った
エイリス帝国側もゲッベルス総統代理の要請を受諾し交渉のテーブルを用意。

女王セーラ・ブリテンの守護騎士“ジョン・ロレンス”を全権大使の本国までの護衛として派遣。
最強の騎士提督の一人と名高い“クルード・モンゴメリー”をベルリン星域に派遣すること議決した。

統一宇宙歴942年末、
第二次世界大戦の情勢は欧州星海域を中心に新たな局面を迎えようとしていた。

第三帝国が降伏した今、残る枢軸国は大日本帝国のみ。
連合国であるエイリス帝国、ガメリカ共和国、人類統合組織ソビエトの三つの超大国に囲まれる。

この危機的状況の中で特命全権大使“伏見空”の欧州外交を舞台にした戦いが始まる――。



第二部、完。 
 

 
後書き
第一部、完。の時と同じよう書ききった印象があります。
本編の山場として用意していたドクツ編(レーティア救出編)は如何だったでしょうか?
エイリス帝国でのライブは流石にやりませんが、外交ネタも色々と考えてます。

『ラストコンサートの後半セットリスト』
Dazzling World → 眠り姫 → 恋の電撃戦~ブリッツクリーク~ →
私たちはずっと…でしょう? → いっしょ → さよならをありがとう → 約束

アイデアを下さった「のぶほし様」に感謝を。えろかみ大帝国スピンオフも楽しみにしてます。

参考文献:
『プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く』
『戦争プロパガンダ10の法則』

私は宣伝広告業界とかの人間ではないのですが、
電〇に就職した大学の先輩からエドワード・バーネイズの『プロパガンダ』だけは、
学生時代に読んどけと言われて読みました。
大人になってから学生時代に出会っといて良かったと思う本の一冊です。
調べたら2010年に新版が出版されてるみたいです。オススメ。 
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